2003年02月24日「なぜ売れないのか」「言葉の嵐」「私を脱がせて」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「なぜ売れないのか」
 稲垣佳伸著 日本経済新聞社 1600円

 著者はドゥ・ハウスというマーケティング・リサーチ会社の社長です。
 この会社の創業者はわたしの知人でした。でも、社長在任中に腎不全で突然、亡くなってしまったんですね。もう、12〜3年前のことです。

 この会社は、たとえば、家電メーカーからリサーチの依頼を受ける。すると、そのテーマにしたがって組織化した主婦たちにヒアリングさせたりして、マーケットの調査を行うわけです。

 というと、よくある、定量リサーチ考えますが、どうやらちと違うみたいです。
 「定量情報」というのは、数値で表現できる情報のことですね。たとえば、販売数量、金額、シェア、アンケート集計結果などがそうです。
 それに対して、「定性情報」というものがあります。
 文字、絵、文章など、数値で表現できない情報がそうですね。たとえば、「とてもきれいなデザインだ」「目の覚めるような赤だ」というのは、定量情報ではなくて定性情報です。

 この定性分析というのは、難しいんです。

 具体的に説明しましょう。

 買い物をするために、スーパーに入る。この瞬間で、今日の献立がすでに決まっている主婦が何人いるでしょうか?
 これは定量分析で答えが出せます。
 正解はたったの12パーセントですね。ほとんどの主婦は、店に入ってから献立を決めているんです。
 この事実は30年前から変わっていません。

 では、次の質問に定量分析では答えが出せません。
 なぜ、その商品を買ったのか?
 ほんとうは違う商品を買いに来たのではなかったか?
 偶然なのか? それとも、いつもそうなのか?
 購入目的ははっきりしていたのか?
 その代わりに、買わなくなってしまった商品は何か?

 これはヒアリング、インタビューなどを通史じて定性分析しませんと、出てきません。
 ただし、聞かれた主婦にしても、はたして正解がわかているかどうか。アンケートというのは、嘘や錯覚、思い込みがものすごく多いですからね。
 だからこそ、プロの目で判断した仮説が必要になるわけです。

 ところで、仮説とたんなる思いつきは違います。
 豊かな仮説とは、事実を観察することによってのみ獲得できる。事実を黙々と集めていると、おのずと仮説が浮かんでくるものです。

 さて根本的なことですが、なぜ、仮説が必要なんでしょうか。
 
 それはマーケットにあふれかえる商品。超過密状態で、何かを発信したところで、だれも聞いてはくれません。
 だから、ものが売れない。デフレではなく、超過密商品だから売れないわけです。

 となると、どうしたら売れるようになるか、その仮説をどう打ち立てるか。これが重要になってきますね。
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2 「言葉の嵐」
 春風亭小朝著 筑摩書房 1429円

 ご存じ、横町の若旦那、若手落語家の筆頭ともいうべき小朝さんの本です。
 先週、「6人の会」の発足を記者会見で発表してましたね。この6人というのが、小朝さんを代表に、鶴瓶、こぶ平、花緑、昇太、志の輔という面々。
 なぜ、落語のできない鶴瓶がいるのか不思議でしたがね。

 いま、日本武道館を満員にできる落語家というのは少ないですよ。この前、小朝さんが出る時だけ、末広亭が正月でもないのに満員でしたもの。
 さすがの動員力ですね。

 さて、本書は彼があちこちで、人に聞いたり、本で読んだりした中で、これは素晴らしいという言葉を集めたものです。

 たとえば、志ん生と志ん朝親子の会話を前座で聞いていると、「一生のうち、3年間でいいから、落語だけに打ち込む時間を作れ」と聞いたとかね。
 「難しい問題を簡単に解決しようとすると、ノイローゼになる」
 これは心理学の本から。
 橘家圓蔵(むかしの円鏡)です。アドリブの天才と言われた頃、「アドリブっていうのはなも、前もって作っておくもんなんだ」と聞いたりね。
 市井の何気ない会話からもあります。
 家の中で倒れて救急車で運ばれたおばあさん。しばらく入院してから、退院となります。それを後で、恥ずかしがって、近所の人に言うんです。
 「この年だから、救急車で運ばれたら、そのまま死ななきゃみっともないよ」

 ロバート・デ・ニーロは「わたしの人生最大の楽しみは、自分自身を驚かすこと」
 ただね、幻冬舎の社長である見城徹の言葉として、「これほどの努力を人は運という」というのがありましたけど、これは違います。
 これは、川上哲治さんの言葉なんですね。
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3 「私を脱がせて」
 カルーセル麻紀著 ぶんか社 1905円

 カルーセルなんですね。ずっとカルセールと思ってました。
 15歳の時に家出して、ブルーボーイ(ゲイボーイ)の道にまっしぐら。モロッコで性転換手術を受けたことで、一躍、名を馳せた人物の自伝です。
 還暦を迎えたんで、いままでの男遍歴を赤裸々に吐露してます。

 面白かったですなぁ。

 なんてったって、性転換第1号でしょ。ある意味で、この世界での先駆けですもんね。

 この人、オンナになりたくて、タマタマとサオを取ってしまったのですが、どうやら、これは2番目の理由で、「踊るときに邪魔!」というのが主原因のようです。
 ほら、ストリップを踊るにしても、バタフライをつけるでしょ。ところが、これが男だと、どんなにちっちゃくても、やっぱりポコッと出るわけですよ。
 これがかっこわるい。
 それを防ぐために前バリするんだけど、その事後処理が痛いのなんの。かぶれるわ、毛が抜けるわでたいへん。だから、取っちゃったみたいですね。

 でもね、この手術は、大変だったようですね。生きるか死ぬかという状態だっようです。

 ゲイバーでガンガン働いていた時、カルーセルさんがどうしてもかなわない「オンナらしいオンナ」が1人いました。
 「京子」というゲイボーイで、いまだに、その人に勝る美しい人に出会ったことが無い、と言うほど、完璧だったんです。
 どうやっても、あの色気が出ない。
 それで、ママに相談したんですね。
 「そんな簡単よ。女性ホルモン、打ったらいいじゃないの」

 当時、女性ホルモンは薬屋で1アンプル100円くらいで売ってたんですね。
 で、やってみた。すると、これが効き目があるわけ。シナっとなるんですね。オンナらしい体つきにはなるんです。胸も膨らむ、顎髭が生えなくなるしね。
 ゲイボーイには便利だったんです。
 もちろん、このおかげで男にはもてるようになる。それで、だいぶ、稼げました。

 けど、これって、副作用もあるわけですよ。
 偏頭痛というよりも、金剛の輪で頭を締め付けられる孫悟空みたいに、ガンガンするわけ。
 だから、しょっちゅう、頭痛薬を飲む。
 乳ガンにかかる確率もずさっと高くなる。
 異常にお腹が空く。ガンガン食べる。で、ぶくぶく太る。
 だから、カルーセルさんはダイエットと腹筋運動を欠かしたことがない、って。
 でも、それ以上に大変なのは、精神的バランスまで崩れてくることです。去勢したり、ホルモン打ち続けたニューーハーフの中には自殺する人が少なくありませんものね。
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