2003年02月17日「思考スピードの経営」「水の恋」「新宿末広亭 春夏秋冬 定点観測」
1 「思考スピードの経営」
ビル・ゲイツ著 日経ビジネス人文庫 952円
文庫本で、この値段。なんと、660ページもありました。でも、読んでしまえば、あっという間です。
著者は、マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ。日経新聞にインターネットで連載された原稿が元になってますね。
「日本初の電気炊飯器をつくりながらパッとしなかったメーカーが、家電や業務用電子機器、音楽・映画産業の世界的な大手、ソニーになった。当初は行き当たりばったりに溶接機、ボウリング場のセンサー、フィットネス・マシンなどをつくっていた会社が、オシロスコープやコンピューターに進出して、今日のヒューレット・パッカードになった。
これらの企業は市場の変化についていくことで目覚しい成功をおさめたが、ほとんどの企業はそうはいかない」
企業にとって、いかにイノベーションが困難なことか、しかも、それを成功の方向に導
く難しさを吐露してます。
マイクロソフトも第一の創業には成功しました。けど、企業は「ゴーイング・コンサーン」ですから、彼は第二の創業に向けて、イノベーションの重要性を訴えたのでしょう。これは本音だと思いますね。
「スローン(アルフレッド)が経営にあったゼネラル・モーターズ(GM)は、1923年から1956年までの在任中に、アメリカで最初の真に複合的な企業のひとつに成長した。
GMの売上数字は一貫性がなく、時期遅れで、しかも不完全だった。ディーラーの利益が落ちていても、その原因が新車にあるのか、中古車にあるのか、サービスにあるのか部品にあるのか、それともなにかほかに原因があるのか、われわれには知るすべがなかった。こうした事実を把握しないかぎり、適切な販売政策を実施するのは不可能だった」
問題がどこにあるか。
実は、問題解決にはその解決方法うんぬんよりも、発見することが意味を持つのです。
「紙の書式の代わりにイントラネットを使うという方針は、素晴らしい成果をあげている。わが社の紙の書式は1千種類以上から会社全体で60種類に減っている。最も多くの書式を使っていたグループを見ると、調達部は114種類から1種類に、業務部は6種類に、人事部は39種類に減らしている。まだ残っている60種類のうち、10種類は法律で義務づけられているもの、40種類はいまだに紙ベースのシステムを使っている外部の組織のために必要なものだ」
この電子書式のおかげで節約されたコストは、97年から12カ月間だけで少なくとも合計4千万ドルにのぼった、といいます。
企業内のナレッジマネジメント(知識資産活用経営)の実例です。
数年前のこと、ウィンドウズNTの大々的な発売が、出荷予定の当日になって危うくストップしそうになったことがありました。大きなバグが見つかったわけではなく、商品開発上の問題がほかにあったわけでもありません。
理由はある段ボール箱の紛失だったんですね。
包装に使われる図版が段ボール箱に入って届けられたんですが、その箱がちょうどその日に休暇に出かけた人のデスクに置かれてしまったんです。
図版は放置され、箱は未完成だから製造部門に予定通りの日に届かなかった。
これが出荷期限のわずか2日前。箱の製造には普通10日必要なんです。
「工場で作業員が24時間働き通しでようやく予定に合わせ、必要な数の箱ができたときはまさにインクもまだ乾ききっていないくらいだった」
この事件の後、販売用資材担当のマネジャーは関係者全員を集め、何がどう間違ったのかの分析に当たります。
集まった関係者は社内の2つの部門から12、3人と社外のベンダー2人。
マネジャーが発した質問はマイクロソフトで毎度、ゲイツが発する質問と同じ。
「なぜこんなに多くの人がこの部屋にきたのか?」
どんな会合でも、出席してほしいのは決定に絶対必要な人だけ。ほかは別の問題の解決に当たっているべきだ、と考えます。それで、ラインの次の人間が確かに受け取った、というまではハンドオフは完了しないという原則を立てた。
そして、ハンドオフの回数を5から3に減らします。この回数を減らすことは大したことないかもしれないが、減ればミスの回数がそれだけ減るわけで、品質保証の助けにもなるんですね。
250円高。購入はこちら
2 「水の恋」
池永陽著 角川書店 1600円
著者は以前、本欄で紹介した「コンビニ・ララバイ」と同じです。「走るジイサン」「ひらひら」でも人気のある人ですが、わたしはこの「水の恋」が好きです。
ストーリーは、学生時代の友人同士。主人公、妻、そして友人。
主人公と友人とは、フライフィッシングが趣味。そして、友人の故郷である岐阜の山奥の神馳川で「仙人イワナ」という人面魚に闘志を燃やします。
けど、友人はその川でなぞの死を遂げるんですね。ただ、本当に鉄砲水で死んだのか、それとも・・・。
「あの夜、おまえたち2人は何をしていたんだ?」
この疑問が主人公の頭から消えません。そして、妻と友人を許せない。そんな自分も許せない。過去に疑いを拭いきれず、嫉妬と不信に侵されます。
3人の男と女。それに元暴力団の訳ありのカップル。これが人面魚に運命を狂わされた恨みを持っています。
さらに、妻が勤務する保育所にいる自閉症児の男の子。再婚を急ぐ母親の邪魔となり、自閉症の演技をする・・・この子どもを仲介に、主人公と妻は会話を取り戻しますが・・・最後の最後、どうなるのか?
男と女のドラマ。生きていくということは哀しいことなのだ。その哀しさを糧に生きていくのだ、ということがわかるかもしれません。
300円高。購入はこちら
3 「新宿末広亭 春夏秋冬 定点観測」
長井好弘著 アスペクト 2800円
これはいいよ。
99年5月から00年の5月まで、まるまる1年間。雨の日も風邪(インフルエンザ)の日も、さぼらずに、新宿末広亭に通い詰めた「もの好き」、いえ、いえ、通人がものした1冊です。
いいなぁ、こういう人。好きだなぁ、この感覚。
聞いた噺家。延べ675人。色物芸人405人。笑ったり、怒ったり、眠ったり・・・。定点観測というのがピッタシです。
わたしも末広亭はよく行きます。去年、地元(野毛)に「横浜にぎわい座」という席亭ができまして、そちらにもよく行きます。先週土曜日は歌丸さんの噺を聞きに行きました。
これが圓朝の「双蝶々・雪の子別れ」という1時間ものの名作ですよ。少し歌舞伎仕立てでしたが、さすがにいいでげすなぁ。
どうしようもない不良息子。奉公に出されたものの、そこで行きかがりとはいえ、2人を殺し、100両を盗みます。10両盗めば、首が飛んだ時代です。奥州に逃げ、そして、舞い戻ってくると、夜中、物乞いをしている女がいる。
それが昔、苦労を掛けた父親の後添い。つまり、母親なんですね。
母親に引かれて、長屋に来ると、父親は怒りながらも、虫の息の中、わが子への愛情を注ぎます。
「おまえは堅気にはなれないだろうが、おまえの子分に足を洗いたいという人間がいたら、おまえの力で堅気にしてやっとくれ」
これが父親の最後の願い。
それを聞き届け、嫌がる親に50両を捨て置いて出て行くものの、橋のところまで来ると、十手者に囲まれ、捕らえられます。
これをたっぷり1時間、聞かせてくれました。
歌丸さんは、この末広亭で主任(トリのこと)だったんですけど、代演ということが今年、ありましたね。
ですから、今年、歌丸さんの落語は3回しか聞いてません。
鶴光さんは上方の噺家ですけど、落語芸術協会に所属してまして、東京の席亭でもよく出演してますよ。
「海外旅行の税関で、観光目的を聞かれたおばあちゃん。そん時は、『斉藤寝具店でーす(サイトシーイング・テン・デイズ)』と答えとき。すると、このおばあちゃん、空港で予想通りの質問をされるや、『田中ふとん店でーす』」
「言葉は一字違いでもたいへんなことになります。『人間は顔じゃないよ』というところ、間違って、『人間の顔じゃないよ』と言ってしまった」
ローカル岡という芸人がいます。
「こないだ、茨城の田舎に帰ったら、オレの弟。銀行員なんだけど、息子にパパって呼ばせてる。このヤロ、茨城のくせに、なーにが、パパだぁと思ったら、『とうさん、と呼ばれるとドキッとするから』だって」
昔、笑点に出ていた。円窓師匠。この人、著書も多く、博学でうんちくがものすごい。 「ワープロは便利で、なんでも変換してくれる。この前、北方領土と打ったら、すぐ返還してくれた」
おあとがよろしいようで・・・。
250円高。購入はこちら