2003年02月10日「巨象も踊る」「だれも教えてくれない仕事の思考法」「歩を金にする法」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「巨象も踊る」
 ルイス・V・ガースナー著 日本経済新聞社 2500円

 ご存じ、IBMを復活させた立役者ですね。
 本人曰く、「ビジネス書はあまり読んでいない。十二時間働いた後に自宅に帰って、他の人が自分の仕事について書いた本を読みたいと思うものか」だと。
 こうまで言い切るのだから、ホントはちゃんと読んでいたと思うよ。

 ところで、この人、元々、マッキンゼーにいたんです。
 ここで経営コンサルティングをしてたんですけど、コンサル業務というのは隔靴掻痒という部分がどうしてもあります。
 「どうして、プラン通り、きちんとやってくれないの?」と欲求不満になるんですね。
 でも、経営者にしてみれば、現状とプランとでは乖離がありますから、そのまま活用するわけにはいかない。
 こんな対立があって、自分でマネジメントする側に参りたいという気持ちがどんどん増してくるんです。
 彼もそうでした。

 仕事をする人間が重視すべき順序として、第一に顧客、第二にIBM、第三に自身が所属する部門。これはマッキンゼーの思想です。
 IBMの伝統では、自分自身。
 これを一番に挙げれば、あとの順序は同じ。個人の尊重が基礎になってはじめて、個人や組織や社会の健全性が保たれる、というスタンスです。

 さて・・・。
 「不幸を嘆いていても始まらない。社員が元気づけのスピーチなど求めていないのは確かだと思う。必要なのは指導力と、目指すべき方向が明確で勢いがついているとの感覚だ」
 「必要なら、外部の人材を起用する。しかし、ここにいる各人はまず、自分の能力を示す機会を与えられる。そして私にも、自分の力を示す時間が与えられるよう望んでいる。全員が白紙の状態から出発する。過去の成功も失敗も、私にとって意味はない」
 「私は戦略の策定に全力を尽くす。それを実行するのは経営幹部の仕事だ。非公式な形で情報を伝えて欲しい。悪いニュースを隠さないように。問題が大きくなってから知らされるのは嫌いだ。私に問題の処理を委ねないでほしい。問題を横の連絡によって解決してほしい。問題を上に上にあげていくのはやめてほしい」
 「速く動く。間違えるとしても、動きが遅すぎたためのものより、速すぎたためのものの方がいい」
 次々に繰り出されるガースナー語録は、目からウロコかも。

 経営難に陥った企業の再建をいくつも経験してきた人です。
 彼がその経験の中で最初に学んだことは、「難しいこと、痛みの伴うことをやらねばならないのであれば、それがどんなことであれ、迅速に実行すべきであり、具体的に何をするのか、そしてそれはなぜなのかを全員に周知徹底する」ということだそうです。
 問題を長々と考えたりすることは愚の骨頂。まして、問題を隠したり、部分的な解決策を小出しにしながら、景気が良くなって問題の自然解消を待つことなど、つまり、ぐずぐずと先送りを続けていると必ず深刻化する、とのこと。

 これって、歴代の首相や官僚、かつての金融界のドンに聞かせてやりたいですなぁ。
 みずほのトップって、いったい何を考えているんだか。行員がかわいそうですな。日本ハムにしてもそう。誠実に仕事している現場の従業員がかわいそうです。
 「私なら問題を素早く解決して、新たな目標に向けて前進する」
 「どこに行きたいのかがわかっていないのなら、どの道を選んでもどこかに行きつける」という格言があります。
 おそらく、将来に向けてのビジョンがないんでしょうな。
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2 「だれも教えてくれない仕事の思考法」
 中村伸著 日科技連出版社 2400円

 生産現場のベテランだけに、論理思考がきちんとしているばかりか、現場で実際に起きていることにも理解が深い。
 こういう目立たない本は、書店では売ってないんです。やはり、そこがネットで探す醍醐味ですね。

 現場の錯覚に、「外見が美しいものは中身も素晴らしい」というものがあります。「値段が高ければ高級で品質がよい」と勘違いしてしまうこともあります。
 でも、見かけに騙されると本質を見失うことになります。
 たとえばチャートでも、変化を強調したいと思えば目盛を大きくとればよく、差を小さく見せたければ目盛を小さくとればいいんです。この間、データに変わりはなく、グラフの書き方に間違いがあるわけではないのに、目盛を変えて数字の差が大きく見せるだけで印象がガラリと変わってくるんですね。
 もちろん差が大きく見えるほうに関心が引きずられます。

 「部分最適の追求が全体にとってはかえってマイナス」ということもあります。
 たとえば販売見込みをいい加減に判断して生産を目いっぱいにやり、在庫を大量に抱えてしまったとしたら、生産を一生懸命がんばってやったことがかえってあだになってしまいます。
 「全員が忙しく仕事をやっていれば効率・効果を上げているはずだ」というのは、とくに大きな錯覚です。
 こんな仕事をさらに良くするためのアイデア、ヒントが満載されてる本。ロジカル・シンキングを鍛えるなら、この本がベストだと思うな。
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3 「歩を金にする法」
 小学館 升田幸三著 495円

 棋士の中で異彩、異才を放った名物男。その実力は三冠王を果たしたことでも明らか。
 いまでも、ファンが多い魅力的な人ですねぇ。
 文庫だけど、在りし日の写真が何枚か載ってます。
 それを見ると、あの放髪に和服。まるで、柔術家のような風貌もありますけど、若い頃は色男で好青年そのもの。
 へぇ、こんな人なんだとわかりました。

 棋士になることを反対され、家出。
 「名人に香車を引いて勝つ」と書き置きしていきます。そして、これを数年後に実現してしまうんですね。大山名人相手にね。
 「あの駒はよく動いている」ではダメ。「あの駒はよく働いている」でなけりゃ。
 これはマネジメントにも通じる考え方ですな。
 「今日のスコアは一万年も前から決まっていたんだ、と思ってやりたまえ」
 そう考えれば、勝負の帰趨を天に任せる気持ちになれます。プレッシャーをプレジャーに転換できるかも。
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