2007年05月16日「瀬川晶司はなぜプロ棋士になれたのか」 古田靖著 河出書房新社 1575円
「日経のBizPlus」に連載中の「社長の愛した数式」が好評で1日5万人を突破するアクセスで日経がびっくり。自慢ではありません。「BizPlus」は20人の執筆者で計18万人の読者がいるんですけど、小生のコラムがダントツ人気なのです。いやいや、けっして自慢ではありませんぞ。
「社長の愛した数式」が更新されました。花王の第3回目です。毎日新聞Webサイト「中島孝志の おとなの仕事相談室」も宜しくね。
えっと、平成8年2月14日。♪この日、なんの日?
バレンタインデー?ブー!
この日はね、ある1人の棋士がスポットライトを浴びた記念すべき日なのよ。で、日本棋界にとっても歴史的な日だったのね。
だって、羽生善治が谷川浩司王将を破った瞬間、史上初の7冠となった日なんですよ。翌日からのテレビ、新聞の報道で、いきなり、将棋界が話題になったよね。
こんなじみぃ〜な業界が、「7冠」という大ニュースのおかげで一瞬、全国的に注目を浴びたわけっす。
業界が潤うには「スター」が1人いないとダメなのよ。日活の裕ちゃん、歌謡界のひばり、競馬界のディープインパクト、政界での小泉純一郎のようにね。
「スター」のいない業界は悲惨ですよ。日本の野球界、見てご覧。プロ野球より大学野球でしょ? 「ハンカチ王子」様々ですよ。早慶戦のチケットなんか初日で売り切れですよ。
「当日券を6000枚用意します」だって。まいったね。巨人戦だって空席がめだってるつうのにね。横浜スタジアムの巨人戦なんてガラガラだよ。
さて、将棋会館に報道陣が押し寄せて羽生フィーバーに湧いている頃、もう1つの部屋では悲壮感漂う青年がいたんです。
羽生と同い年の瀬川晶司のこと。彼の「奨励会退会」が決まった日でもあんのよ、この日はね。
奨励会ってのは、将棋のプロを養成するための唯一の機関。他にはないんだよ。プロ棋士になるならこのルートしかないの。プロ野球選手になりたけりゃ、日本だけじゃなくていきなりメジャーという手もあんだよ。けど、将棋指しの場合は奨励会しかダメ。
なぜならば、ここでしか「資格(プロ棋士としての)」を発行してないからよ。
この本読んではじめて知ったんだけど、「女流棋士」っているよね。あの林葉直子さんもそうだったでしょ?
で、この人たちって日本将棋連盟の正会員じゃないの。だから、議決権とか提案権とかもなんもなし。「余所者」だから完全に蚊帳の外。
対局料にしたって平均年間100万円前後。「4タイトル独占!」という清水市代女流名人でさえようやく1000万円。男性棋士とちがって最低限の基本給もなし。国民年金、健康保険も自腹。これ、ひどくない?
「女は子どもを産む機会云々」で怒ってる「女流政治家」もここにもっと注目してあげたらどうよ。
さてさて、奨励会ってのは、「26歳の誕生日までに四段にならないと退会しなければならない」という決まりになってるのね。これはね、このくらいでダメなら諦めてさっさとほかの道を選びなさい、というメッセージなのね。
ほら、棋士ってのは、昔の科挙みたいなとこあんでしょ? 物心ついた時から1日中将棋指してるんだよ。「インド旅行、ほんまか! 田中くん、でかしたでぇ」って、将棋少年だって死ぬほど将棋やってんだろ?
森下卓日本将棋連盟理事なんか、中学卒業後上京して、高校も行かずに将棋を指して奨励会四段を突破してきた人間なのよ。こんな人がザラなの。
「肩を痛めまして野球やめました」というのも辛いけど、ある意味、とことん夢見て努力して、26歳の誕生日で現実を突きつけられてもねぇ・・・。けど、どこかでプロへの道を諦めさせなければ、この26歳が30歳、40歳、50歳へとリスケされるだけだもんなぁ・・・。
たいていの奨励会の会員は26歳で退会すると、以降は趣味として将棋を楽しむんだろうね。いまさらやっても、現役バリバリのプロには太刀打ちできないわけだしさ。
ところがさ、「事件」が起きるんだよ。事件が!
風邪引いて丸2日活字から遠ざかってたのね。3日目に復活したんだけど、「仕事は月曜日からにしよう。土日は2日間でどれだけ読めるかトライしてみよう!」なんてね。で、山のように「積ん読」になってる中からどっさり引っ張り出してたわけ。その中にあったのよ、これ。
毎度のことだけど、もっと早く読んどきゃよかったね。
さてさてさて、月日は遷って、10年後の平成17年。
奨励会を退会した後、瀬川は神奈川大学の二部法学部に入学するわけね。将棋指しってのは頭いいからさ。神大ってむずかしいよね。「兄貴3人は馬鹿なんで東大へ。私は頭がいいんで将棋指しになりました」なんて、これ、いまの日本将棋連盟会長の米永邦雄の言葉ね。
その後、瀬川はNECの関係会社でSEとして勤務しつつアマチュア将棋を愉しむ生活を送ってたの。けど、これがめっぽう強いんだよ。
全日本アマチュア名人戦で優勝したのが平成11年。翌年からは「アマ特別枠」でプロ棋士とも公式戦を戦うの。で、プロとの通算成績は16勝6敗。
「ずば抜けている」といっていい成績です。とくに「銀河戦」というケーブルテレビ主催の公式戦では連勝街道まっしぐら。いまプロ最強、といわれる久保利明八段も負けてんの。結局、瀬川はプロも含めてベスト8入りの快挙。
もちろん、これがプロ、アマ問わず棋士の間で話題にならないわけがない。
「やっぱり、将棋が好きだ。プロになりたい!」
プロを負かす実力があればどんな世界でもプロチームから引きがかかります。たとえば、野球、サッカー等のプロスポーツの世界でもそうですよ。けど、日本将棋連盟の規定では、今年34歳になる瀬川がプロになれる道はないの。
だって、26歳までに奨励会で四段になれなかったんだもん。
けどさ、これ、おかしくない? プロより強いんだよ。名人とか竜王、王位、王将、棋王とか、タイトルもってる棋士より強いんだよ。
無冠の帝王? それじゃ、あまりに強すぎてだれも戦ってくれなかったカール・ゴッチじゃないか。
で、アマ強豪とプロ棋士の一部、それにマスコミ、とくに将棋記事担当の名物記者(竜王戦のスポンサーである読売新聞)たちが応援団を結成しちゃいます。
もち、これはプロ、アマ双方に激震が走ります。
プロ棋士からすれば、「なぜ、元奨励会員のプロ入りに賛成しなければならないのか? 26歳までのチャンスをものにできなかった人間を受け容れてもいいのか?」という基本的な問題が横たわってるよね。みな、「26歳の誕生日までに」って死に物狂いで戦ってるわけだしさ。
けど、もう一方では、「強い人間がなぜプロになれないの?」というこれまた基本的な問題があるわな。
棋士ってのは、26歳までに奨励会四段になっちゃえば、あとはどんなに弱くても「プロ棋士」としての権利は温存されますからね。弱いプロ棋士も少なくないの。
たとえば、新聞記事にならない対局ってものすごく多いんだよ。新聞業界全体で年間6億円は日本将棋連盟に支払ってるわけ。竜王戦(読売新聞主催)の契約金は平成17年3億5700万円。ところが、すべてが記事になってるわけじゃない。けど、契約者はその分の購読料も払ってるわけ。
棋士の人数は制限されてるから、現役棋士150人、事務職員が50人。平成8年33億円、将棋連盟には年間収入があったのね。けど、平成16年28億円。とうとう単年度赤字計上しちゃうわけさ。
私も3歳くらいから将棋してるけど、新聞で将棋欄なんて読んだこと無いもの。朝日、日経にもあんの?
さてさてさてさて、瀬川はプロになれるのかどうか。タイトルで「なぜなれたのか」ってあんじゃん? あれぇ、ネタバレしてんの? まっ、なれるわけだけど。これがプロ側の論理、アマ側の論理、そしてスポンサー筋の論理。それから、会長選挙、将棋離れという現実を前に・・・ある動きがあります。
えっ、どんな動きかって? それはね・・・
♪ちょうど時間となりました。またの出会いを愉しみに、さよなら、さよなら、さよなら♪ 300円高。
「社長の愛した数式」が更新されました。花王の第3回目です。毎日新聞Webサイト「中島孝志の おとなの仕事相談室」も宜しくね。
えっと、平成8年2月14日。♪この日、なんの日?
バレンタインデー?ブー!
この日はね、ある1人の棋士がスポットライトを浴びた記念すべき日なのよ。で、日本棋界にとっても歴史的な日だったのね。
だって、羽生善治が谷川浩司王将を破った瞬間、史上初の7冠となった日なんですよ。翌日からのテレビ、新聞の報道で、いきなり、将棋界が話題になったよね。
こんなじみぃ〜な業界が、「7冠」という大ニュースのおかげで一瞬、全国的に注目を浴びたわけっす。
業界が潤うには「スター」が1人いないとダメなのよ。日活の裕ちゃん、歌謡界のひばり、競馬界のディープインパクト、政界での小泉純一郎のようにね。
「スター」のいない業界は悲惨ですよ。日本の野球界、見てご覧。プロ野球より大学野球でしょ? 「ハンカチ王子」様々ですよ。早慶戦のチケットなんか初日で売り切れですよ。
「当日券を6000枚用意します」だって。まいったね。巨人戦だって空席がめだってるつうのにね。横浜スタジアムの巨人戦なんてガラガラだよ。
さて、将棋会館に報道陣が押し寄せて羽生フィーバーに湧いている頃、もう1つの部屋では悲壮感漂う青年がいたんです。
羽生と同い年の瀬川晶司のこと。彼の「奨励会退会」が決まった日でもあんのよ、この日はね。
奨励会ってのは、将棋のプロを養成するための唯一の機関。他にはないんだよ。プロ棋士になるならこのルートしかないの。プロ野球選手になりたけりゃ、日本だけじゃなくていきなりメジャーという手もあんだよ。けど、将棋指しの場合は奨励会しかダメ。
なぜならば、ここでしか「資格(プロ棋士としての)」を発行してないからよ。
この本読んではじめて知ったんだけど、「女流棋士」っているよね。あの林葉直子さんもそうだったでしょ?
で、この人たちって日本将棋連盟の正会員じゃないの。だから、議決権とか提案権とかもなんもなし。「余所者」だから完全に蚊帳の外。
対局料にしたって平均年間100万円前後。「4タイトル独占!」という清水市代女流名人でさえようやく1000万円。男性棋士とちがって最低限の基本給もなし。国民年金、健康保険も自腹。これ、ひどくない?
「女は子どもを産む機会云々」で怒ってる「女流政治家」もここにもっと注目してあげたらどうよ。
さてさて、奨励会ってのは、「26歳の誕生日までに四段にならないと退会しなければならない」という決まりになってるのね。これはね、このくらいでダメなら諦めてさっさとほかの道を選びなさい、というメッセージなのね。
ほら、棋士ってのは、昔の科挙みたいなとこあんでしょ? 物心ついた時から1日中将棋指してるんだよ。「インド旅行、ほんまか! 田中くん、でかしたでぇ」って、将棋少年だって死ぬほど将棋やってんだろ?
森下卓日本将棋連盟理事なんか、中学卒業後上京して、高校も行かずに将棋を指して奨励会四段を突破してきた人間なのよ。こんな人がザラなの。
「肩を痛めまして野球やめました」というのも辛いけど、ある意味、とことん夢見て努力して、26歳の誕生日で現実を突きつけられてもねぇ・・・。けど、どこかでプロへの道を諦めさせなければ、この26歳が30歳、40歳、50歳へとリスケされるだけだもんなぁ・・・。
たいていの奨励会の会員は26歳で退会すると、以降は趣味として将棋を楽しむんだろうね。いまさらやっても、現役バリバリのプロには太刀打ちできないわけだしさ。
ところがさ、「事件」が起きるんだよ。事件が!
風邪引いて丸2日活字から遠ざかってたのね。3日目に復活したんだけど、「仕事は月曜日からにしよう。土日は2日間でどれだけ読めるかトライしてみよう!」なんてね。で、山のように「積ん読」になってる中からどっさり引っ張り出してたわけ。その中にあったのよ、これ。
毎度のことだけど、もっと早く読んどきゃよかったね。
さてさてさて、月日は遷って、10年後の平成17年。
奨励会を退会した後、瀬川は神奈川大学の二部法学部に入学するわけね。将棋指しってのは頭いいからさ。神大ってむずかしいよね。「兄貴3人は馬鹿なんで東大へ。私は頭がいいんで将棋指しになりました」なんて、これ、いまの日本将棋連盟会長の米永邦雄の言葉ね。
その後、瀬川はNECの関係会社でSEとして勤務しつつアマチュア将棋を愉しむ生活を送ってたの。けど、これがめっぽう強いんだよ。
全日本アマチュア名人戦で優勝したのが平成11年。翌年からは「アマ特別枠」でプロ棋士とも公式戦を戦うの。で、プロとの通算成績は16勝6敗。
「ずば抜けている」といっていい成績です。とくに「銀河戦」というケーブルテレビ主催の公式戦では連勝街道まっしぐら。いまプロ最強、といわれる久保利明八段も負けてんの。結局、瀬川はプロも含めてベスト8入りの快挙。
もちろん、これがプロ、アマ問わず棋士の間で話題にならないわけがない。
「やっぱり、将棋が好きだ。プロになりたい!」
プロを負かす実力があればどんな世界でもプロチームから引きがかかります。たとえば、野球、サッカー等のプロスポーツの世界でもそうですよ。けど、日本将棋連盟の規定では、今年34歳になる瀬川がプロになれる道はないの。
だって、26歳までに奨励会で四段になれなかったんだもん。
けどさ、これ、おかしくない? プロより強いんだよ。名人とか竜王、王位、王将、棋王とか、タイトルもってる棋士より強いんだよ。
無冠の帝王? それじゃ、あまりに強すぎてだれも戦ってくれなかったカール・ゴッチじゃないか。
で、アマ強豪とプロ棋士の一部、それにマスコミ、とくに将棋記事担当の名物記者(竜王戦のスポンサーである読売新聞)たちが応援団を結成しちゃいます。
もち、これはプロ、アマ双方に激震が走ります。
プロ棋士からすれば、「なぜ、元奨励会員のプロ入りに賛成しなければならないのか? 26歳までのチャンスをものにできなかった人間を受け容れてもいいのか?」という基本的な問題が横たわってるよね。みな、「26歳の誕生日までに」って死に物狂いで戦ってるわけだしさ。
けど、もう一方では、「強い人間がなぜプロになれないの?」というこれまた基本的な問題があるわな。
棋士ってのは、26歳までに奨励会四段になっちゃえば、あとはどんなに弱くても「プロ棋士」としての権利は温存されますからね。弱いプロ棋士も少なくないの。
たとえば、新聞記事にならない対局ってものすごく多いんだよ。新聞業界全体で年間6億円は日本将棋連盟に支払ってるわけ。竜王戦(読売新聞主催)の契約金は平成17年3億5700万円。ところが、すべてが記事になってるわけじゃない。けど、契約者はその分の購読料も払ってるわけ。
棋士の人数は制限されてるから、現役棋士150人、事務職員が50人。平成8年33億円、将棋連盟には年間収入があったのね。けど、平成16年28億円。とうとう単年度赤字計上しちゃうわけさ。
私も3歳くらいから将棋してるけど、新聞で将棋欄なんて読んだこと無いもの。朝日、日経にもあんの?
さてさてさてさて、瀬川はプロになれるのかどうか。タイトルで「なぜなれたのか」ってあんじゃん? あれぇ、ネタバレしてんの? まっ、なれるわけだけど。これがプロ側の論理、アマ側の論理、そしてスポンサー筋の論理。それから、会長選挙、将棋離れという現実を前に・・・ある動きがあります。
えっ、どんな動きかって? それはね・・・
♪ちょうど時間となりました。またの出会いを愉しみに、さよなら、さよなら、さよなら♪ 300円高。