2003年01月06日「羽生善治 挑戦する勇気」「コンビニ・ララバイ」「デザートのカリスマ」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「羽生善治 挑戦する勇気」
 羽生善治著 朝日新聞社 1000円

 棋士の羽生さんが子供たちを対象に講演をしました。それをまとめた一冊。ですから、懇切丁寧、優しい性格が現れています。
 それにしても、人生は偶然の産物、というのがここでも確認できました。
 彼は小学1年のときに将棋に出会いますけど、親から教えてもらったわけではありません。同級生の家に行くと、将棋があった。それではさみ将棋、回り将棋などをして遊んでいた。そのうち、本将棋をすると、こてんぱんにやられる。
 でも、なぜか面白かったそうです。
 羽生さんに将棋を教えた同級生は3年の時に引っ越していったそうです。すると、その子供は羽生さんに将棋を伝えた天使だったのかもしれませんね。

  ふつうの遊びでは、少し進むと、「あっ、もうわかった」と先が見えてやめてしまうそうです。
 それがこと、将棋では無かった。どんどん好きになっていった。
 でも、町道場ではびりもびり。地域の小学生大会でもぜんぜんダメ。
 では、どうして強くなっていったのか。
 これを彼は子供に聞かれて、こう答えてましたね。
 「小学5年のときから棋譜をつけていた」
 つまり、感想戦をし、さらに自分の手と対戦者との手とを研究する連続だったんですね。この真摯な態度が七冠をもたらしたのでしょう。
 「道場ではほかにそんな子供はいなかった」そうですから・・。やっぱり、将棋をするのが楽しかったのでしょう。
 わが愚息にしても、子供の頃からしょっちゅう、野球選手の記録をノートにつけるのが好きで、それがいまだに続いてます。
 「そんなもの、データブックとして売ってるだろうが」
 そう言っても、自分で作るのが好き。作っている最中が遊びなんですね。
 「好きこそ、ものの上手なれ」ということですね、何事も。

 彼は言います。
 「将棋では一千手、二千手先までも読める。しかし、次の一手を考えている」
 しかも、論理的にどうのこうのと考えるのではなく、直観でズバッと2〜3手を選んでしまう。で、どちらがいいか、ベスト・オブ・ベストを(考えに考えて)選択する、というのです。
 この後者のプロセスになって、はじめて彼には「ロジカル・シンキング」なんですね。

 世の中の多くのビジネスマンはどうでしょうかね。
 前者の段階で、ロジカル・シンキングを駆使しては、埋もれそうなほど多くの選択肢の中にホントに埋没しているのではないでしょうか。そうでなければいいのですが、「考える材料が増えすぎて、かえって迷ったり、心配したり、怖いと思ったりしてしまうことがあるのでは?」。
 情報が多いことが将棋にとっていいことだとは限らない、という彼が指摘する理由はそこです。
 プロはやっぱり直観に秀でてますね。というよりも、直観に秀でているから、プロの域にまで達したのでしょう。ロジカル・シンキングを否定しませんが、これは自分の直観、推理を検証するために活用する道具です。
 まっ、わかる人にはわかる。わからない人には永遠にわからない。それが直観です。
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2 「コンビニ・ララバイ」
 池永陽著 集英社 1600円

 著者は「走るジイサン」「ひらひら」「水の恋」でも人気のある人ですが、わたしはこれと「水の恋」が好きですね。

 子供と奥さんを次々に亡くした主人公。いまは、コンビニのオーナーをしています。
 元々、酒屋だったんですね。会社のリストラに自ら応募して、夫婦2人で営んでいたんです。
 でも、一人ではやる気が出ませんよ。主人公も心のどこかがすっぽり抜けているように、仕事をしていたんです。
 この小説はオムニバス形式で進んでいきます。主人公はコンビニオーナーですけどね。ここに集まってくる人、たとえば、バイト、お客がそれぞれ抱える風景が面白いんです。
 奥さんが事故に遭う前から店員をしてる女性は、やはり、このコンビニのお客であるやくざ者に愛を告白されます。律儀な男で、このオーナーに「好き、と伝えてもいいだろうか」と相談するような人間なのだ。この女性、実は前の亭主がやくざ。だから、やくざは大嫌い。「その前にすることがあるだろう!」と、この自分より若いやくざに怒鳴るんですね。すると・・・。
 ホームレスのお客もいます。盗まないでちゃんと買っていく。いつも、いちばん安い「やきそば弁当」。これには理由がある・・・。まじめな女子大生と思ってたバイトが実は・・・。これ見よがしに万引きをする女子高生。進学校に通う恋人の紹介で援交もしている。恋人の唯一の憂さ晴らしがオヤジ狩り。そこで、この悟りすましたようなオーナーを狩ろうと唆す・・・。
 人間にはいろんな風景があります。人間というのは、みんな、さまざまな事情を抱えて生きていますね。
 昔、直販セールスの営業マンをしてた時のことですけど、明治屋という食品商社が得意先で、そこの教育課長と話をしてたんですね。なんの話か忘れました。おそらく、同僚のことじゃなかったかな。
 でも、彼が一言、「みんな、いろんな事情を抱えて生きてるんだなぁ。でも、仕事だけのつき合いじゃ、なかなかわからないよね」とこぼしたんですね。
 これ、わかりますか。
 身内が不治の病を煩っているとか、不登校の子供を抱えているとか、もう破産しそうだとか、みんな、それぞれ人にはいえない事情を抱えて生きているわけです。でも、外にこぼさないから、だれもわからない。でれもその人の苦悩など知らない。
 「みんな、元気でいいなぁ」と、自分だけが世界の苦悩を一人で抱えて生きていると思いこんでしまっているんです。
 でも、そんなに脳天気な人って少ないのではないでしょうか。話せば、だれもがそれなりにいろんな事情を抱え、自分で自分を励まして生きているのではないでしょうか。
 なぜこの教育課長の言葉がいまだに心に残っているか、というと、「この人、他人の心の痛みをわが事として考えられる人なんだな」と感動したからです。
 そういう人って、あなたの近くに何人いますか?
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3 「デザートのカリスマ」
 内海悟著 ビジネス社 1300円

この著者は、03年1月度「キーマンネットワーク」の特別講師です。
 パシフィックコンサルタント、ドッドウェルエンドコムパニーリミテッドなどで、営業戦略立案、宣伝販促プラニング、消費開発・分析、マーケットリサーチなどをマスターしたあ、85年にミックビジネスシステム、00年にデザート・カンパニーを創業します。
 この人の名前を聞いたのは、28歳で商社の新商品開発リーダーとして、年商40億円を超えるロングセラー商品を開発したでしょうね。これは、いまでも業界の語りぐさとなってます。

 で、このデフレ不況下、「デザート」を切り口にして、逆風をものともせず、外食、流通、サービス、メーカーをクライアント、たった2年で250社、計1000店舗とコンサル契約を結んで(まだまだ急増中)、連戦連勝の成功を導いてるんですね。

 わたしはデザート、好きではありません。でも、周囲の女性、たとえば、女子大生とか20代、30代の女性から、さらに熟女といわれる人までヒアリングすると、「あたし、デザートの内容で、店、選ぶ」という人が少なくないんですね。
 メインディッシュがいちばん大事でしょうが?
 「メインディッシュって、ほとんど、どこの店も味が変わらないもの」
 そんなものですかねぇ。

 でも、デザートは別腹というのはよく聞きます。ということは、別勘定なんですね。
 ということは、理屈抜きに心をとらえるビジネスでもあるんですな。

 で、著者もデザートを導入したことがない企業、たとえば、居酒屋、回転寿司、カラオケ店などなどから契約をドーンともらってるわけ。
 外食産業はもうアップアップです。努力の上にも努力してます。価格破壊、新メニューの提案をここ数年、短期間に何度も繰り返してます。もう、次の段階は残された盲点、サイドメニューである「デザート」がクローズアップされてるんです。
 和食の世界ではまだ浸透してませんけどね。この世界、まだまだ男性中心のメニュー構成なんですね。だから、客数の落ち込み、売上の伸び悩みで深刻なんですよ。
 いまの時代、女性をつかまえないことには商売なんて成立しませんもの。

 それにね、「はしご」がなくなりつつあるんです。
 もう一店完結型。すなわち、一店舗の滞留時間がそれだけ長くなるってことです。
 そういえば、わたしがよく使ってた「蝦夷御殿」「光林坊」なんて店は、座敷で飲んだ後、もうその場所で二次会セット。引き戸を開けると、ジャジャーンとカラオケがせり出してきますもの。
 なんだ、なんだと驚いてる間に、二次会はもう始まってるというわけ。

 女性が主役なんですね。
 いままで食ビジネスは、「美味しさ」「安さ」「早さ」を求めてきました。効率重視のマニュアル世界でもありました。この食の世界で忘れたモノ、それが「楽しさ」なんですね。

 楽しめる要素は何か?
 それがデザート。
 不思議なことに、原価率を高めに設定してもオーケーですよ。「美味しくて安い」と感じちゃいます。原価率はメインメニューの二倍でも集客アップ、採算も合います。トータルで利益率が上がる。これがデザートビジネスの「魔法のマーケティング」なんです。

 ただし、どんなデザートでもいいかというと、そうではありません。この世界、かなり深いんです。
 たとえば、どんなものでも定番がありますね。洋生菓子ではショートケーキ、シュークリーム、モンブラン、焼き菓子ではフリアン、マドレーヌ、ミルフィーユ、和菓子では饅頭、大福、どら焼き。これが御三家です。
 だから、この定番を外さない仕掛けが大事なんですね。たとえば、「いちご大福」「フルーツあんみつ」といったヒット商品がありますね。これなんか、よく考えれば、イチゴと大福、フルーツとあんみつといった、昔から人気のある食べ物をミックスしただけでしょ。
 デザートというのは斬新さが求められているように見えますが、実は安心して食べられる味、すなわち、定番を外さないことがポイントなんですね。

 この会社の提案では、菓子職人を雇う必要もありません。店側にデザートの知識も必要ありません。それでいて、各店独自の個性的なデザートを提案できるんです。しかも、納入価格100円弱(送料込み)です。それを店頭価格300〜500円で販売できるんですね。
 回転寿司屋でいちばん売れてる商品が「チーズムース」だなんて、初耳ですね。
 小さな会社が儲ける「魔法のマーケティング」のヒントをいろいろ教えてくれる本です。
 もちろん、キーマンネットワーク定例会にもご参加ください。よろしくね。
 250円高。購入はこちら