2002年10月28日「がなり説法」「戦略プロフェッショナル」「思考力と対人力」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「がなり説法」
 高橋がなり著 インフォバーン 1200円

 はじめて聞く版元です。というよりも、これってウエブ上に連載されてたものなんで、その関係でしょうな。

 ところで、この人、知ってますか?
 「マネーの虎」って、日本テレビ系でやってる番組あるでしょ。美空ひばりさんの息子さんとか、リサイクルショップの社長さんとかが現金を積み上げて、投資を求める出演者にいろいろ指南する、もちろん、出資もするって番組。
 これって、山口百恵さんが登場した「スター誕生」のベンチャー・ビジネス版といってもいいよね。
 で、著者はこれに出てるわけです。
 
 最初見たのは、まだ、この番組が深夜枠で放送してたときですね。いやに魅力的な人がいるな、って思ったのね。
 エッチビデオ・メーカーの社長で、劣等感の塊みたいな人なんだけど、正直なんですね。そして、人を見てる。この人、社員にもめちゃくちゃ厳しいだろうと思ったけど、やっぱり、その通りでした。これは本ではなく、内輪で聞いた話ですがね。
 でも、人を見てる。その真剣さに心打たれます。

 著者がテレビに出始めた理由は、社員の採用に有利だから。
 テレビで正義漢の振りをしただけで、たくさん、優秀な学生が集まってきたって。社員にしても、親がテレビを見て、「あんた、いい会社に入ったね。頑張りなさいよ」と、180度、変わっちゃったそうです。
 人間なんて、いい加減だよね。でも、評判を馬鹿にしちゃいけません。「火のないところに煙は・・・」ってのは、会社や人の評判にも当てはまるんです。 

 さて、著者はわたしと同級生です。しかも、同じ市内。たぶん、隣の小学校だと思うんだよね。
 でも、この劣等感は凄いな。
 「俺たちは地方競馬。その中で一等賞を取った。けど、これから中央競馬に出て頑張る!」
 そんなメッセージが伝わってくるもの。
 ソフト・オン・デマンドという著者の会社は、業界の常識破りばかりしてきた会社です。
 なにしろ、「地上50m空中ファック」とか「50人全裸オーディション」とかね。そして、これでものすごい赤字を出します。

 でも、めげない。
 「大振りで三振してもいいから、あくまでホームラン狙いをしたい。ボクは目先の一勝にこだわってきた結果、失敗しても再チャレンジできるだけのお金や信用を得てきた。だから、三振してもホームラン狙いができる立場になったんだ」
 そうなんです。この人、年商60億円もあげてるのね。
 でも、この人、30歳で独立して、31歳、33歳と、会社を二回、倒産させました。
 その時、IVS時代の師匠であるテリー伊藤さんとか友達、得意先、債権者が協力してくれるのね。これがあるから、何度、失敗しても、復活するんだろうね。

 倒産させといて、債権者がまた投資してくれるってのは、やっぱり、人間的な魅力がよっぽどあるんだ、と思うよ。でないと、復活なんてできないもの。
 
 「理想に向かって、いま、努力してない人には、まず、自分が負け犬であることを自覚することが重要」だって。そして、自覚したら、そこから脱却することを目指すんだよ、だってさ。
 著者自身もそうでした。「オレは負け犬じゃない」と突っ張らないで、さっさと認めてしまう。そして、抜け出る。素直でいいね。認めなきゃ、いつまでも突っ張って謙虚になれないもの。

 「日本一簡単なビジネス指南」と帯コピーにあるように、語り口調でわかりやすく喝破する、ホントに説法ですな。
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2 「戦略プロフェッショナル」
 三枝匡著 日経ビジネス文庫 648円

 これ、お買い得ですよ。5千円でも買った方がいいくらい。
 この著者、金型商社ミスミの社長に就任した人でしょ。やっぱり、スタンフォードのMBAです。

 内容は、小説仕立てのビジネス書と言っていいかな。
 鉄鋼会社の中堅ビジネスマンが医薬品メーカーに出向し、そこの主力商品をがんがん売っていく、という話です。
 その間、親会社の外国メーカーとの折衝、取引先、出向先の経営者、部下との折衝など、MBAのマネジメント、発想法について、きわめて具体的に勉強できると思うな。 戦略がいかに大事かがわかります。MBAの方は常識だと思いますので、読む必要はないかもしれません。でも、小説仕立てで書かれたマネジメント書としては傑出した出来だと思います。
 著者がコンサルタントとして関係があった会社から許しを得て、データや内容を換骨奪胎した内容ですから、読み応えはありますよ。
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3 「思考力と対人力」
 船川淳志著 日経ビジネス文庫 800円

 文庫なのに800円もします。
 でも、本はグラムいくらで買うものではありませんものね。内容ぎっしり。いい本だと思います。
 著者はMBAです。アリゾナのサンダーバード大学院の卒業生なんで、正確にはMBAではなく、IBAなんですね。インタナショナル・ビジネスですから、この学校は。国際ビジネスでは、ハーバードやコロンビアと並び称される名門です。

 最近、話題のロジカル・シンキングについても触れています。
 「シェアが落ちてます」
 「シェア奪回!」
 「部門間の協業がうまくいってない」
 「横串を通して、部門シナジーを」
 ってな具合で、問題、課題が出てくると、たんなるスローガンに置き換えられてしまう。これでは、思考停止なんですが、日本人、とくに経営者に見られる癖についても言及してますね。
 でもねぇ、こんな経営者では、「分数ができない大学生」とか「漢字が書けない学生」という以上に、情けないとしか言いようがありませんね。

 ある外資系企業で内定候補者の学生にその思考力を見るために、課題をいくつか出したそうです。
 「知ってる、知らないにかかわらず、自分の頭で考え、グループのメンバーと討議をしながら回答してみてください」と言ったにもかかわらず、ある大学院生は「データがないのでわかりません」、ある大学生は「調べればわかりますけど」と平然と答えたという。
 もちろん、調べなければ断定はできません。でも、調べなくても考えることはできますもんね。
 よく、こんな学生を内定候補にしましたよね。わたしはこんな学生たちより、その会社の目利きがどうなってるのかが疑問に感じましたよ。だって、内定候補と言えば、たいてい、役員面接までは行ってるでしょうね。
 役員のほうがアホなんです。

 日本人と外国人の特性を一発でかいま見えるのは、質問の後です。質問してる最中に、もう手を挙げてるのがアメリカ人。よく考えて、パッとあげるのがインド人、中国人、韓国人ですね。
 チラッと周囲を見たり、他人の意見を聞いてから、そっとあげるのが日本人てな、ステレオタイプがありますね。
 すぐさま、パッと日本人があげられない最大原因は、やっぱり、「正解病」に取り憑かれているからじゃないかな。わたしはそう思います。それと、著者が指摘してるように、「いったい、質問者はなにを期待しているのか?」と自問自答して、鮮やかな回答をしようという完璧主義みたいなところがあります。
 これだけは子供の時からの教育がものを言うんですね。だから、家庭でもいいし、学校でも良いですから、「手をあげてから考える」ほどの人間を作ってもいいくらいです。

 かといって、全員がアメリカ人になる必要はありません。
 アメリカの長所と短所は裏返しの関係にあります。
 短所はすぐに行動すること。そして、よく行き過ぎてまうことです。バランスというものをあまり知らない。禁酒法だって、一見、たしかに素晴らしい。でも、これって、人間を聖人君子と同一視したとしか思えないでしょ。こんな法律をムードで通しちゃうんですからね。
 長所もすぐに行動することです。おっちょこちょいなくらいです。そして、間違えたとなると、すぐに引っ込めます。禁酒法だって、すぐにヤーメタとなりましたもんね。
 どちらにしても、単純で、失敗と成功を繰り返し行っている。でも、失敗したら学習しますね。
 日本人は熟慮、そして不断行。できればやりたくない。ギリギリまで待つ。それがたいてい時間切れになって、バスに乗り遅れることになります。
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