2002年10月21日「待つ女」「恋愛レッスン」「大人になるための思想入門」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「待つ女」
 浅田次郎著 朝日新聞社 1200円

 またまた、浅田先生の作品です。といっても、これは小品がいくつかのアンソロジー。三島由紀夫論やエッセイも入った「浅田次郎読本」です。
 それにしても、大作もうまいけど、ちょっとした短編もうまいね。

 「待つ女」は、いまはアパレルの大会社の社長を務める男が、京都の学生時代に捨てた女と面影がそっくりさんを夜更けに見かけて、かつての友人を訪ねます。
 生き霊か、死霊か・・・。表情がまったくない、という友人の女が意見を求められて、語り出す女心の真実。
 携帯電話にかかってくる生き霊からの電話。車で駆けつけると、そこには・・・。
 人生に起こることは、すべて、「一炊の夢」ということを思い知らされる小品です。

 シンクロニシティというか、偶然というか、この世の中には、潜在意識がなせる仕業が少なくありません。
 浅田さんは子供の頃から小説家になろうと決めていました。それ以外の仕事がどうしても思い浮かばなかったはずです。そして高校時代、某出版社に原稿を持ち込み、かなり詳細にされていたようですね。
 その編集者は三島由紀夫の担当でもありました。

 ある日、お茶の水から水道橋まで歩いて帰ろうとどういうわけか思い、わざわざ、遠回りします。いまから考えると、どうしてその道を通ったのか、まったく理由が思いつかないそうです。
 でも、そのおかげで、後楽園ボディジムでダンベルを懸命にあげている三島を見かけます。浅田さんは窓に張りついて凝視します。その手には二百枚にもなる原稿用紙を裸のまま抱えています。
 三島はそれに気づくと、とたんに機嫌が悪い顔をし、あっちに行ってしまいます。そして、ジムの人と雑談でもしているのか、浅田さんを指さして「たまらねぇや」という顔をして笑ったそうです。どうやら、三島に自分の原稿を読んでもらおうとした文学少年だと勘違いされたみたいなんですね。

 後日、その話を担当編集者に伝えると、「そのうち、会わせてあげるよ」とのこと。でも、それはかないませんでした。昭和45年11月25日に自決しちゃったんですね  それから、二年後、浅田さんは自衛隊に入隊してしまいます。そこは、奇しくも三島が自決した市ヶ谷台。しかも、事件を起こした部屋、ソファなどを使っていたそうです。
 縁とは不思議なものです。でも、不思議だと感じる人間は、実は縁が必然であることを理解できていない朴念仁なのかもしれません。
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2 「恋愛レッスン」
 内館牧子著 集英社 400円

 女性誌に「MORE」という雑誌があります。これに二年間連載したものですね。
 で、どうなってるというと、読者からの恋愛相談に対して、内館さんが回答を寄せるというものです。
 でも、それが、この人の性格がストレートに現れていて、ホントに一所懸命に答えてるの。しかも、かなり切れ味鋭いんですね。時に厳しく、時に優しく・・・さらにさらに、これが温かいんだな。
 それがこの人の最大の魅力かな。

 彼がいない女、彼氏ができにくい女の子ってのは、「恋愛体質」でない。これなんか、たしかにそうですね。
 「えっ、すげぇ美人!」
 こういう女性に限って、彼氏いない歴5年とか、10年とかね。
 あまりにきれいなんで、男が気後れしちゃって、縁がない。こういう人ってかなり多いですね。
 内館さんは「恋愛体質」になるために、どうしたらいいかもアドバイスしてます。
 「映画を見ろ。これに尽きる」だって。面白いね。

 でも、わたしもそうだと思います。
 フランス女優の眼差し、ファッション、アメリカ女優のビビッドなセリフ、イタリア女優の体当たりの求愛、そして日本女優の潔い別れ方、極妻なんか最高だもんね。
 「こういう気持ちで人を愛したら、相手は裏切れないだろうなぁ」
 「こういう言い方をすれは、押しつけがましくないんだわね」
 いろいろ、勉強になるわけですよ。
 これが「恋愛モード」に気持ちをチェンジさせていくんです。
 「あたし、ブスだから」
 そんなことはありません。
 昔、職場に猪八戒みたいな女の子がいたけど、これが明るくて積極的で懸命に仕事をするのよ。
 「だれだ、あんな猪八戒、いれたの?」なんて上司は言ってたけど、この子、さっさと結婚退職しちゃった。今頃、いい妻、いいお母さんになってると思うよ。

 「愛すること」って、その人を不安にさせないこと。
 一所懸命な人を冒涜するって、いい女にはできない。
 そう、その通りです。この人、大人の女だな。
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3「大人になるための思想入門」
 新野哲也著 新潮社 1000円

 帯コピーに、「世界がひろく、明るくみえてくる。新しい自分に脱皮できる人生のヒント18章」とあります。さて、さて、どうですか。

 著者は「グローバル・アイ」の編集長です。といっても、わたし、この雑誌、知らないんですよね。
 タイトルと帯コピーに惹かれて買いました。
 「ひとはなぜ生きるのか?」
 いま、中学生までがこんな哲学的な問いをするらしい。だれもそんなことに答えられるわけがありませんね。
 そもそも、この問いに対する答えってあるんでしょうか。

 ところが、最近は、何事も言葉で説明できると思い込み、合理的な説明がつかないものは存在を許さない風潮です。
 「どうして、やるんですか? 説明してください」
 「ぼくたち、説明を受けてません!」
 こんな感じですね。
 でも、説明が必要なんですか? 説明しないといけないの?

 「知事は脱ダムについてまったく我々に説明しない。長野県からは民主主義が失われた」
 こう言ったのは、共産党を除く長野県議会の皆さんでしたね。で、知事の不信任案を可決してしまいました。そして、一騎打ちして負けてしまいました。
 議員職を賭した一人は、「議員になって、民意から離れていた。一県民になって、勉強し直す」と言ってました。この人は、正直者です。
 でも、言葉で説明できるものは底が浅いですね。長野県民は、言葉による説明よりもどんな動きをしているか。その姿勢、生き様を見てたんでしょうな。

  わたしはどうしたら大人になれるか、なんてわかりません。本書にはいいコピーがたくさんあるんですよ。
 「怖いものだけを相手にしなさい。怖くないものは、相手にしなくても、向こうから寄ってきます」
 「どんな立派な大人の心も少年の元気、素直、勇気という三本柱の上に構築されています」
 なんてね。でも、これを表現する中身がちょっと薄いんですね。そこが難点かな。
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