2007年08月13日「切腹」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 終戦特集として3部作をお届けしましょう。といっても、戦争映画や歴史物だけを紹介するわけではありません。

 まず1発目はこれ。「切腹」と書いて「はらきり」と読んでね。

 この映画を幕末の物語と感じる人は少ないと思う。いま、私たちが味わっている社会そのものではなかろうか。
 一握りの特権階級がいて、食いっぱぐれなく、国民にたかる社保庁レベルの役人がいて、馬鹿を見るのは圧倒的多数の下層社会に属する国民・・・。とても他人事とは思えない映画ですよ、これは。


 寛永七年十月、井伊家の江戸上屋敷に津雲半四郎(仲代達矢)という浪人が現れた。
 用向きは・・・「切腹のためにお庭を拝借致したく」。
 
 「またか・・・」
 家老の斎藤勘解由(三国連太郎)は舌打ちをするばかり。
 近頃、都に流行るものは、「切腹のために庭先を貸してくれ」と嫌がらせをして金品をせしめる浪人が増えていること。
 徳川による大名家のリストラのために、年々、浪人が溢れ返っている。糊口をしのぐために、浪人側が考え出したアイデアがこれというわけ。
 
 「生活に困窮し、これ以上生き恥をさらして生きるよりは、いっそ武士らしく切腹して果てたい。せめて、最後の死に場所に庭先をお借りしたい」
 この台詞に打たれて、取り立てた藩もあると聞いては、流行するのもわかるような気がする。

 家老は、この津雲という浪人を通す。そして、わが井伊家ではムダな所業だぞ、と暗に戒める。

 「千々岩求女(ちぢいわ・もとめ)なる浪人をご存じか? この春、切腹のために庭先を貸して欲しいとわが井伊家を訪れてな」
 「いいえ、存じませぬが・・・」

 武士の堕落と苦々しく思っていた家老は、風呂に浸かっている間に、大小の刀をチェックすると、いずれも竹光。武士にもあるまじき態度と怒り心頭。
 この浪人を成敗するために、「切腹の場をしつらえてやる」と申し伝えるわけ。
 こうなると、慌てたのは浪人のほうだ。話が違うではないか・・・「一両日待ってくれ」と急に態度を変える。
 だが、井伊家では逃さない。無理腹でも斬らせる、という態度で臨んでいるわけ。

 そして、白装束を用意し、庭先に畳を準備する。介錯人もだ。

 観念した求女(もとめ)は刀を所望するが、その竹光で果てろという。しかも、なかなか介錯しない。苦しみに苦しみ抜き、最後には舌を噛みきって死んでいった、という。

 家老の言葉を静かに聞いていた津雲半四郎が今度は語りだした。
 「実は・・・」


名優仲代達矢と三国連太郎の対決! 脚本は橋本忍さん。監督は「人間の条件」の小林正樹さん。そうか、この映画は「レ・ミゼラブル」に違いない・・・。

 正義を振りかざす。正論は正しいから、だれもが振りかざしたくなる。だが、正義や正論は正しいからこそ実はうさんくさいのだよ。
 こんなもののために死んでたまるか! 人間にとって大切なことは、小さな幸せなのよ。
 人が依って立つものはいったいなにか? なにを支えに生きているのか? 矜恃、プライド、自尊心、大義名分、錦の御旗・・・いずれも形而上のものばかり。人に生き甲斐、やり甲斐を与えるものでもあり、モチベーションには欠かせないものでもあります。
 けど、大切なものを失ってはじめて、真に大切なものはなんだったのかに気づくものですな。


いよいよ9月開講!第7期原理原則研究会メンバー募集中!

 物好きな方は左上の玉ねぎ坊やをクリックしてスケジュール、講義内容等をご確認ください。年間会員制のため募集は今回限り。中島孝志&特別講師(3人)の「ビジネス版すべらない話」!ディープ・インパクトをご堪能あれ!人生変わるかもよ!