2002年09月23日「成人病の真実」「孤独のグルメ」「夢は叶う」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「成人病の真実」
 近藤 誠著 文藝春秋 1429円

 「患者よ、がんと闘うな」の近藤先生ですね。
 「患者よ」は医学界はもちろん、なんといっても当事者である患者さん、そしてそのご家族、関係者に大きな衝撃を与えました。キーマンネットワークでも一度、近藤さんにはご登場頂いたことがあります。
 「家族にガン患者がいるんですが、手術しないほうがいいんでしょうか?」といった類の質問がたいへん多かったことを覚えています。

 本書は、病院、医師側の作為的な検査ビジネスに「メス」を入れた快著ですね。
 スペシャリストの極みともいえる医師、とくに医学部の大学教授たちによって作られたデータと論文をどう読み解くか。「まやかし」ともいうべき穴を丹念に掘り下げていく探求心は、真実を追いかける学者の姿を彷彿とさせるものです。

 で、検査によって作り出された「病気もどき」に惑わされてはいけない、ということが結論です。

 医師でもない素人の患者にとって、医師が言うことは絶対です。神の言葉にも近いものがありますよ。
 まったく自覚症状もないのに、人間ドックかなんかで検査したところ、「あなた、糖尿病ですね」なんて言われたら、みんな、信じちゃいますでしょ。がっくり来ますよね。それからずっと気分はブルーでしょうな。
 「これから食事療法と薬で治していきましょう」なんて言われても、がっくりですよ。ポリープなんて言われたら、「オレはガンになるんだ」と決めつけて精神的にも参ってしまうでしょう。
 日本には高血圧、高コレステロール、糖尿病と指摘された人が何千万人もいますね。大腸、胆嚢ポリープを発見された人もたくさんいます。延べ人数にすれば、日本総人口を超えるかもしれません。

 でも、これが作られた病気だとしたら、どうでしょうか。薬を飲んでも、飲まなくても、たいして差がないとしたら、どうですか。
 「作られた病気」という意味は、「病気」と断定する数値の変更によって、以前ならば、病気ではないゾーンにいた人が、いま、病気ゾーンに入ってしまったことを意味します。

 「ガン検診や職場検診で発見される早期ガンでさえ、治療すると寿命が延びるとするデータなどないんです。それどころか、成人病の中には無症状の時に発見され、治療によって寿命が縮む可能性すら高いことがデータに明らかになっています」

 では、なんのためにそんなことをするのか?

 それが医療もビジネスだからです。
 病院が食べていかななければならない。医師も、そしてなんといっても薬を開発する薬品メーカーが儲けなければならない。

 怖いのは「作られた病気」だけではありません。スペシャリストとしての医師の(共同体意識的な)談合さえあれば、医師、病院による医療ミスが闇から闇へ、表から表へと白昼堂々とほう葬り去られる可能性が大きいのです。
 たとえば、91年3月、糖尿病が悪化した京大生(23歳)がいました。救急車で運ばれて病院で5日後に死亡しました。遺族は治療が不適切だと訴えましたが、大阪地裁は請求を棄却しました。
 近藤さんが資料を取り寄せて調査すると、「たしかに不適切」。
 では、どうして遺族側が負けたのか。
 「専門医の鑑定に問題があったから」

 この患者の治療法については、医学書でも基本の基本としてだれもが知っているものでした。ところが、それすらなされていなかったのです。医師が施した治療はすべて医学常識に反したものでした。
 ところが、それに対して順天堂大学医学部内科の河盛隆造という教授が法廷に提出した鑑定書や証言はたんなる「でまかせ」で、被告側の無罪を裁判官に植え付ける効果しかありませんでした。

 この河盛某という教授は何ものか。
 これが商業医学雑誌の常連で、糖尿病学の「権威」だというのです。こういう学者が病院側に沿った意見を述べたら、裁判の行方は決まったも同然ですね(事実、そうなった)。
 「彼のしたことは立派な偽証です」
 そう、犯罪行為なのです。

 近藤さんは言います。
 「お子さんをお持ちならば、本書の第六章だけでも読んでほしい」
 それは「インフルエンザ脳症は薬害だった」という章です。
 詳細は本文をぜひ・・・。
 250円高。購入はこちら


2 「孤独のグルメ」
 久住昌之著 扶桑社 600円

 これ文庫版の漫画です。
 来月からこのホームページ上で「中島孝志のB級グルメ」を開設する予定です。これは食いしん坊のわたしが全国(というより全世界)で、食べ歩いたB級グルメを紹介するものです。
 実は、営業マンの時から出張先で食べ歩いてますからね。といっても、A級グルメはあまり縁がありませんが、B級は任せてください。テレビ東京なんて、わたしが行ったとこばかり、後追いで取材してます。

 で、本書ですが、主人公は井之頭五郎。店も持たず、一人で輸入雑貨を扱っている男。
 それが朝、昼、とにかく腹を空かせて、仕事先でメシ屋を探すわけ。たまたま入ったところが、これが隠れた名店・・・というか、地元の労働者や庶民に愛されてる店っていうわけです。

 紹介されてるB級グルメは次の通り。

 山谷のぶた肉いためライス、吉祥寺の回転寿司、浅草の豆かん、赤羽の鰻丼、高崎の焼きまんじゅう、大阪中津のたこ焼き、川崎セメント通りの焼き肉、江ノ島の江ノ島丼、西荻おまかせ定食、石神井公園のカレー丼とおでん、板橋大山町のハンバーグランチ(ここでは弱い者いじめの店主と大喧嘩)、神宮球場のウィンナカレー、コンビニのコンビーフ、池袋のデパート屋上のさぬきうどん、秋葉原万世橋のカツサンド、渋谷百軒店の大盛り焼きそばと餃子。

 この中で食べたことがあるのは、8カ所あります。でも、こんなもんじゃありません。

 で、これには店の名前が紹介されていません。漫画ですから、のれんとかでそれとなくわかるケースもありますが、ほとんどはわからないようになっています。紹介しちゃうと、雑誌抱えたキャピキャピ・ギャルみたいなのが来ちゃって、B級グルメの雰囲気が損なわれてしまいますもんね。
 150円高。購入はこちら


3「夢は叶う」
 向谷匡史著 主婦と生活社 1300円

 これって、『週刊女性』に連載されたものをまとめたものです。
 登場人物は女性誌だからでしょうか、芸能人ばっか。でないと売れないモンね。

 五木ひろし、谷村新司、小林幸子、舟木一夫、扇千景(この人だって、昔はきれいな女優だった)、浅野ゆう子、北島三郎、高橋英樹、阿久悠、島倉千代子、佐野史郎、ピーター、水前寺清子、森英恵(倒産前です)などなど、30人もいました。

 自己実現本として読むより、運命本と考えた方がいいですね。

 たとえば、五木ひろしさん。演歌歌手であり、最近はレコード会社まで立ち上げました。日経新聞に囲み記事が載ってたくららいです。
 この人、福井の田舎で貧乏のどん底で育ったことは有名ですよね。
 で、プロになるまで苦節ン年。芸能人って、こんな人は掃いて捨てるほどいますもの。でも、面白いのは、彼自身、「幸運児だった」と認識してるとこです。

 15歳で姉を頼って大阪に出てきます。音楽学院みたいなとこで歌のレッスンをしてると、上原げんとさんという有名な作曲家に見いだされ、プロの道に。
 ホントにいきなり自己実現しちゃうわけ。
 「これがオレの実力だ」と自惚れるんです。ところが、これが売れない。頼みの綱の上原さんは急死する。都はるみさんなどの前座歌手を務める。
 それからレコード会社を移籍します。そこでもやっぱり売れない。移籍させてレコード会社の担当者も会社をさっさと辞めてしまう。次に移籍したところでも、社長が降りちゃう。
 いつもそうなんですね。

 でもね、まだこんなのはどん底じゃありません。少しは給料貰えるんだから。でも、所属事務所が倒産するんです。
 こうなると、まったく食べられない。
 売れないとはいえ、プロですからね。いつお座敷がかかるかわかりません。だから、苦しくたって、新聞配達なんてできないんですよ。
 でもね、そのうち一円玉すら無くなる。水道の水で暮らす。テレビ局の食券を見つけ、延々そこまで歩いてかけつけ、そばを食う。

 アパートの住人にホステスさんがいて、見るに見かねて弾き語りのバイトを世話します。
 これが当たるんですね。サラリーマンの月給が5万円の時に、50万円とってたんですよ。ウハウハですわな。

 テレビを見ると、日本テレビで「全日本歌謡選手権」という番組をやってます。
 八代亜紀、中條きよし、山本譲司とか、いろんなプロ歌手を輩出した番組で、「合格」ラインを10週連続で勝ち抜かないとダメなんですね。
 登場するのはアマチュアというよりもノンプロが多いんです。レコードを何枚か出してるけど、売れないって人ですね。

 これに出ようかどうか迷うんですよ。彼自身、「わたしの運命を決めた瞬間、それは10週勝ち抜いた瞬間ではなく、この番組に出ようと決めた時です」って言ってます。

 なぜか?
 月給50万円が吹っ飛ぶからですね。
 考えてみてごらんなさい。番組に出ないで静かに暮らしていれば、月給50万円という仕事は保証されます。
 「あの人、歌、うまいね」
 「だって、プロだもの。レコードだって何枚も出してるんだもの」
 「へぇ、道理で。もう一回、レコード出せばいいのに」
 「そうよねぇ」
 こんな会話が聞こえてきます。つまり、番組に出なければ、可能性を可能性のまま、そっとしておけるわけですよ。「未完の大器」のままね。
 「オレだって、やればできるんだ。けど、チャンスがないだけだ」と、自分を慰めることもできます。
 
 でも、出て失敗したら?
 勝ち抜けばいいけれども、その確率は少ない。途中で合格できなければ、どうなる?
 「あの人、うまいけど、あの番組では通用しなかったみたい」
 「アマとしてはそこそこ上手だけど、やっぱりプロとしてダメなんだね。プロって厳しいんだね」
 こうなると、月給50万円の仕事には止まれませんよ。一流半の歌手では売り物にならないからです。

 すなわち、彼にとって、この番組に出場することはまさに「賭け」だったんです。
 「負けたら、福井に帰ろう。そう決めてました」
 
 だれにも、こんなドラマがあると思います。
 運命ってのは、やっぱり与えられるものじゃなくて、つかむもの。偶然ではなくて、必然なんですね。
 「これは偶然だ」と考えない。必然にシフトしていく。そんな勇気がある人だけに、運の女神が微笑むんでしょうな。
 オレも頑張ろうっと!
 150円高。購入はこちら