2002年05月20日「検察秘録」「ONとOFF」「どんな壁でも突破できる!」
1 「検察秘録」
村串栄一著 光文社 1500円
東京地検特捜部のドキュメント本です。
いま、検察はあちこちで注目されてますね。大阪高検検事の逮捕問題でも、口封じのための別件逮捕だとか言われてますし、反面、サッチー逮捕とか、一連の自民党代議士たちの秘書逮捕など、まっ、警察よりは頼りになる存在ではあります。
この国で、政治家などの権力者をとっつかまえるのにもっとも頼りになるのは、一に国税庁、二に検察くらいしかありませんものね。あのアル・カポネを刑務所に送ったのも、財務省の役人であるエリオット・ネスたちでしょ。
で、これは検事たちのすさまじいまでの仕事ぶり、そして権力をめぐって暗闘を繰り広げる組織の内幕など、いろんなシーンが楽しめます。
でも、いちばん感動したのは、「金丸信脱税逮捕事件」でしょうね。
これはね、まさに「プロジェクトX」ですよ。きっと放送されるんじゃないかな。それだけのドラマですよ。なんだったら、わたしがNHKのプロデューサーに話をしようかなってくらい感動しました。
1992年、金丸は東京佐川急便の渡辺某から5億円を受領していた政治資金規正法違反で、罰金たったの20万円の略式起訴で終わってしまいました。
これには国民は一億総ブーイングでしたね。
当たり前ですよ。
金丸本人の取り調べもなく、上申書の提出だけでチョンですからね。
でも、やっぱり国民の声というのはさすがにこれたけの権力者でも無視できません。自民党副総裁、竹下派会長を辞任したものの、ずっと議員を続けるつもりが、世論に押し切られて、とうとう議員辞職を表明します。
そこで、出てきたのが、東京国税局です。マルサですよ、マルサ。
彼らは92年から、この5億円について課税処分できないかをずっと追いかけてたんですね。
5億円が個人所得なら、申告がないから脱税。しかし、政治献金では税務上の問題にはならない。
91年12月、金丸の妻の遺産が56億円余り。うち、52億円近くを金丸が相続します。このうち、ワリシンの一部が不明であることを把握します。おそるべし、マルサ。
で、内定調査をするんです。
とくに、政治家銀行と異名を取る日債銀(当時)ですからね。捜査に協力するわけがない。で、取引先企業の調査と見せかけて、「横目調査(横目でホントに狙ってるデータを調査すること)」で日債銀幹部が作成した資料の中から1枚のチャートを見つけます。
ホントにたったの1枚のチャート。これがだれのものか、なんなのかはわからないたんなる数字の羅列。でも、長い間、引き出された形跡がない。つまり、個人所得だ、とピンときたわけです。
で、この情報を検察庁にもっていきます。
「うまくいけば、金丸金脈の中枢に当たる。失敗すれば、検察幹部の総退陣だ。一か八か」
しかし、やるしかないんです。検察の権威は地に墜ちてましたからね。
「あの日債銀が協力するだろうか」
これが検察の心配でした。
ところが、どんどん資料を出してくるんですよ。理由は、日債銀の顧問にあります。元国税庁長官の窪田弘さんが全面協力を指示してたんですね。
やっぱりね、組織はトップで決まります。サラリーマンは良かれ悪しかれ、上を見て仕事してますもん。せっかく正義の御旗を立てて頑張っても、上司や幹部、会社が応援しなければ、ドンキホーテですものね。
でもね、この大恩ある窪田さんを日債銀破綻時に証券取引法違反で逮捕しちゃうんですよ。粉飾決算なんて、昔のバカどもがやったことですよ。それを直近の責任者だけに押しつけるのは国策捜査以外のなにものでもありません。
マスコミにも知られないようにしらばっくれて、水面下で検察のエースを続々と投入して調査します。
「これならやれる」
そこで、金丸と秘書を別々に呼び出します。理由は、「略式処分になった5億円最終処理のための聴取」という名目です。
93年3月6日午前8時半。秘書がひょいひょいやってきました。金丸には午後1時前からキャピトル東京で向かい合います。
世間話の後、「先生、ワリシンをお持ちですね?」
この一言で、金丸はグラリと揺れたそうです。
保守合同以来、55年間続いた自民党一党支配がこの事件を境にして、崩壊します。それからの政治混迷がいいのか悪いのかは別にして、政界は大きく様変わりしていきます。
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2 「ONとOFF」
出井伸之著 新潮社 1400円
ソニーの会長兼CEOのビジネスエッセイ、ということですが、早い話が、社内向けのホームページに設けられている個人コーナー「A Point of View 」に84回掲載された文章に加筆、訂正をしたものです。
トヨタ自動車を訪問したときのこと。
「不良率はどのくらいですか?」
「当社には不良率という言葉はありません」
クレームが一切ないんですね。
在庫を持たない、見込生産しないという「カンバン方式」は有名ですが、一定の同期で連動したシステムで次工程に不良を持ち越さないことが徹底されてるんですね。すなわち、一つの工程内に製造に必要な作業とそのチェック作業が完結してるわけです。
そこで、出井さんは「文句ばかり言わずにプロ意識を持とう」ってことで、「Be Professional」をご自身のスローガンにしてるそうです。
マイクロソフト社主催のCEOサミットに参加すると、GE、GMなどの幹部が120人も参加してたそうです。
で、ジャック・ウェルチが成功例についてスピーチをしました。「スピードとストレッチが重要」とのこと。スピードは常識ですが、ストレッチとは言い換えれば、「既存の枠組みにとらわれない考え方、視点を持つ」という意味だそうです。
で、彼に質問します。
「成長した産業では、1位、2位を定義するのは簡単ですけど、伸び盛りで安定しない産業の場合は、どのようにナンバーワンを決めるのですか?」
これには明確な回答はもらえなかったと言います。当然、みんな、それがわからないから苦労してるわけですよ。
出井さんが盛田昭夫さんから叱られた話。
頻繁に変わる仕事内容に愚痴をこぼすと、「サラリーマンたる物、新しい部署に異動した最初の日でも、10年前からそこにいたような顔をして仕事をしろ。弱気な発言をすれは、下の者が迷惑する」
目の覚めるような思いをしたとか。
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3 「どんな壁でも突破できる!」
堀紘一著 三笠書房 1500円
今度、マザーズに上場するとかしないとか。もうしたのかな。元ボストン・コンサルティング・グループの堀さんがドリームインキュベータという会社を興しました。
これは「松下さんや本田さんを100人作る」と豪語して、創業した会社ですね。
東大法学部から読売新聞、そして三菱商事、ハーバードに留学してからコンサルタントになりますが、55歳のいまのいままで、「ホントに自分がなにをやりたいのか、わからなかった。いま、やっとわかった」と熱を入れてる会社なんですね。
わたしは何をやるかというテーマはどんどん変わるものだと思うんですね。
だって、「これで一生食っていく」ということは、「ほかのオプションをすべて放棄する」と言ってるのと同じでしょ。
「いまは、これが面白い。だから、これで頑張る。5年後、10年後はわからない」
これでいいと思うのです。
自分の可能性を狭めない。かといって、地に足着いた仕事をしていく。でなければ、周囲が楽しいオプションをもってきてくれないものね。
読んでると、落合信彦さんとテイストが似てることに気づきます。こんなこと言うのは、わたしだけかもしれませんが、若者向けの本です。
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