2002年05月06日「潰れない会社にするための12講座」「1度の失敗であきらめるヤツ 10度の成功でも満足しないヤツ」 「『人を好きになってはいけない』といわれて」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「潰れない会社にするための12講座」
 吉岡憲章著 中公新書 700円

 著者は日本ビクター勤務後、独立。さらに上場会社の懐に入って、お互いの企業を飛躍させる夢に挑戦。けれども、志半ばで銀行の強制回収に会い、破綻を来し、自ら創業した会社も破産させてしまいました。
 その後、わずかな可能性に果敢に挑戦し、いま、再建を果たしたという本物のコンサルタントですね。つまり、この人は起業、公開、倒産、再建、しかも下請けからメーカーまでの経営に関するあらゆる修羅場の経験があるわけですよ。

 ぶっちゃけた話ですけど、倒産というのは金がないとできないんです。
 というのも、たとえば10億円の負債があったとします。そうすると、裁判所に破産申し立てするときの予納金だけでも300万円。社長はたいてい個人保証もしてますから、個人も破産すると250万円かかります。それに弁護士費用がざっと200万円。
 つまり、トータルで最低でも750万円はかかるってわけ。しかもこれは現金、即金です。
 金が無いから破産するのに、さらに追銭がいるわけですな。

 世の中はとかく破産と夜逃げを同じように見ますが、破産ならば債務は全額免除されます。また、復活も可能です。

 わたしの知人にもいますよ。8000万円で破産し、マイカルとかローン会社、内装屋さんに迷惑かけてるのに、いま、その人、ジャガー乗り回してます。
 「ベンツなんて乗らないわ。ジャガーのほうが手入れが大変だから高級なのよ」だって。
 よく言うよ。そう言えば、ダウンタウンの松本もジャガーですな。
 で、先生と呼ばれたいがために、フラワーアレンジメントの学校を作ったんですね。いま、小金持ちの生徒たち数人に出資させてもう一校作るそうです。
 この人、詐欺師じゃないんです。この人の与太話に周囲で欲をかいた人間が群がってるんですね。で、破産すると、「金、返せ、金、返せ。騙された」となる。
 しかし、騙したんじゃないんですね。勝手に自分で成功図を描いたものの、それが与太話で成功するほどの計画性なんてそもそもなかったからなんですね。
 だから、計画を見るよりも人間を見ることが大事なんですよ。

 さて、どうして夜逃げするまで追い込まれるか。
 その理由は、銀行にあります。
 この人たち、「ベニスの商人」でもおわかりの通り、狡いんです。シビアというのではなく、ジコチューなんですね。
 だから、最終通告が出る前に、ほとんど銀行に巻き上げられてるのが現実なんですね。
 たとえば、融資をするような素振りを見せておいて、裏で猛烈に回収に回ったりします。資金封鎖したりね。
 「まだ、本部から回答が届かないんですよ。もう少し待ってください」「保証人がいれば、まだ貸せるんですけど」なんて引き延ばしにかかって、その間にすべて巻き上げる算段をしてるんです。
 本書には、こんなケースが満載ですよ。

 2000万円の現金が無くなったら、もう命取りですよ。2000万円あるうちに、破産するにもいろいろ手を打てますが、それ以下だともう厳しいでしょうな。
 倒産する時って、ある程度、前もってわかるでしょ?
 雪印食品は別にしてね。
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2 「1度の失敗であきらめるヤツ 10度の成功でも満足しないヤツ」
 落合信彦著 青春出版社 1500円

 以前、読書論の本を書いたとき、「落合信彦まで読んでるんですか?」と編集者から言われたことがあります。
 わたし、落合信彦って人、好きなんです。小説は読まないけど、若者向けに叱咤激励してるメッセージは読んでます。やる気満々の若手和尚に説経されてるような気分になります。
 今回もそんな喝を入れるような落合節がたくさん。
 
 曰く、「失敗も成功もしないような人間ばかりが増えている」
 「新庄のリスクを見習え」
 本当にそうです。同感、同感。
 「台湾人さえ騙す中国人」
 日本人は甘いね。中国がホントに狙っているのは台湾ではありません。日本ですよ。
 「仕事ができれば、楽しくなる」
 「実績もないのに、周囲から評価されようなんて考えるな」
 「だれもボクのことをわかってくれない、なんて言うな。お前のことなど、だれも知りたくないんだ。この会社にとって価値があるかどうか。それしか関心はないんだよ」
 まさに正論。

 全編、これ喝の連続。だけど、本書はそれだけでは終わりません。
 ミーシャ・マイスキー(カサド国際チェロ・コンクール優勝者)、ヴォルフガング・サヴァリッシュ(フィラデルフィア管弦楽団の音楽監督)、ワレリー・ゲルギエフ(マリインスキー劇場の芸術監督兼首席指揮者)との対談を収めてます。
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3 「『人を好きになってはいけない』といわれて」
 大沼安正著 講談社 1500円

 やっぱり、「愛情」の反対語は「憎悪」ではなく「無関心」だ、ということが再確認できた本でした。
 著者は20歳の男性です。子どもの頃から家出を繰り返し、不登校、反抗、万引き、引きこもり・・・。ついこの間まで、新宿2丁目で男性相手に身体を売って生きてきたんです。
 どうして、ここまで自分の人生をめちゃくちゃにするのか。
 それは両親が統一教会の熱心な信者だったからでしょう。
 
 統一教会とは言うまでもなく、「全国霊感商法対策弁護士連絡会」に破壊的カルト教団と指定され、87年から00年までに800億円、約2万1千件の被害者から相談が寄せられている反社会的団体ですね。
 この団体は64年に日本で宗教団体として認可されました。
 彼の両親は75年の「合同結婚式」で知り合い、「神の子」である彼を産んだわけです。
 しかし、彼にとって、これが不幸の始まりでした。

 母親の口癖は「貧乏だ、貧乏だ」。そのため、毎年、彼の七夕のお願いは決まっていました。
 「大金持ちになりたい」
 93年、彼が小4の時、突然、父親の実家のある山形に引っ越します。その理由は、統一教会からの指令だそうです。
 彼はたくさんの疑問を持っていました。次の7不思議がそうです。
 1「神の生まれ変わり」と称される文鮮明の息子が交通事故で死ぬのか。
 2「天国は涙や苦しみのない素晴らしい世界だ」というが、そんなものより現実世界をきちんと生きたい。
 3牢屋で囚人が死んでいく中、文鮮明は生き残った。「神さまが助けてくれた。囚人番号は596。ごくろんさんだった。これは神の言葉だ」と礼拝で大まじめに語っていた人がいる。「はぁ? なんだってぇ?」 でも、だれも黙って聞いているだけだった。
 4「ノストラダムスの大予言」の解説本があった。普通の本と違うのは、文鮮明が世界を救うという結末になっている点だ。これが家に20冊も積んである。この大予言のせいで引っ越したんじゃないか。世界が破滅するのに、どうして都会から離れなければならないのか。環境が変化したおかげで祖母は呆けてしまった。
 5いくらお祈りしても、勉強を頑張っても、ゲーム機を買ってもらえなかった。家にもっとお金があれば、統一教会を疑うことはなかった、といまでも思う。
 6テレビニュースで霊感商法の報道をされた時、母親は「テレビはウソをついている」「霊感商法をやってるのは、統一教会の人じゃない」と主張します。しかし、そう言えば、家に石でできた20センチくらいの五重塔や壺があった。「献金してるの?」と聞いても答えてくれなかった。きっと献金してたのだろう。だから、わが家はいつも貧乏だったのだ。
 7「人を好きになってはいけない」と言われた。
 合同結婚式の妨げになるからだという。そうかもしれません。いつ、どこで、誰と結婚するかそれはすべて神である文鮮明が決めちゃうわけですから。自分の意思で結婚相手、好きな人を決めることはできませんね。
 
 ボクはもし両親のいうことを納得できたら、熱心な信者になっていたと思う。しかし、統一教会は間違っていると思った。「信じる人は救われる」というけれども、それは騙す人が使う言葉だ。
 彼は「自分の頭」でそう判断します。で、中学生になると、親と議論するわけです。
 「統一教会をやめたら勉強する」
 「反抗期だね」
 「反抗期でも、思春期でも、ボクは間違っていることは間違っていると言うよ」

 ある夜、父親から相談を持ちかけられます。
 「殺そうと思っているけど、どうすればいいかな?」
 毎日、優しかったはずの父親が何度も殴ってきたそうです。もし、本当に殺されそうになったら、逆に殺し返してやろうと真剣に考えていたと言います。
 「このまま逃げたら、おまえ、一生、逃げることになるぞ」
 「逃げているのはお父さんのほうだよ。なんで、ボクの言ってることを聞いてくれないの? 一生、現実から逃げ続けるのはお父さんのほうだよ」

 たとえ死ねたとしても、両親が身元引受人だと統一教会流の葬式になってしまうから、絶対に死ねなかった。警察に遺志を尊重してもらえるかわからないから、身元不明の死体として国で処分してくれる方法を探していた。
 「寂しかったら、うちに来てもいいんだよ」
 神社の前でたこ焼きを売る手伝いをしてると、組長の奥さんからそう言われた。ヤクザの世界に入ったら抜け出せないことはわかっていた。
 「やっとわかった。ヤクザも弱い人たちが集まって生活をする団体だった。統一教会との違いは、犯罪をしていることを自覚しているという点だ」

 子どもは親を選べません。それが不幸の始まりです。
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