2002年04月08日「なぜあなたのチームは力を出しきれないのか」「ポジティブコーチング」「メジャーリーグ・ビジネス」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「なぜあなたのチームは力を出しきれないのか」
 パトリック・レンシオーニ著 日経BP社 1400円

 ページを開くと、「何もかも重要ならば、何もかもが重要ではないということだ」
 いきなり、こんな言葉から始まります。
 著者は、組織強化セミナーを展開する会社の社長さん。

 まったく性格も行動スタイルも異なる2人の男が、同じ業界で独立します。で、マネジメントスタイルも当然、異なります。
 片や、追いつけ、追い越せでガンガンやる。この会社はライバル社に転職する社員が尽きません。でも、その逆はないの。片や、好きな顧客としか仕事をしない。売上を増やそう、顧客を広げようとは考えない。他社に抜かれようが、かまわない。本気になれば取れても、そもそもそういう行動に出ない。

 舞台回しをするのはジャミーという男性です。
 彼は後者の会社にスカウトされたものの、社長と波長が合わずクビになります。そして、ライバル社に自分を売り込むわけですが、ライバル社の社長に、どうして会社が伸びたかを解説するうちに、どうすれば組織を強化する企業文化を作れるかについて語っていく、というスタイルです。

 「仕事は楽しいかね?」もそうだけど、最近、マネジメント書でも物語風に読ませる本が増えてますね。本書もそうです。

 成功する組織は賢明さよりも、「健全さ」をどう社風とするかに心を砕く。ところが、多くのリーダーは組織を賢明にすることに力を注ぐあまり、健全にすることを忘れられがちである。
 そうですな。
 4箇条をあげてますから、ここでご紹介しましょう。
 第1条 まとまりがある指導者チームを作り、その結束を維持する
 第2条 透明な組織を創り出す
 第3条 コミュニケーションをやり過ぎろ
 第4条 人事システムで透明な組織を強化する
 これらをきちんとやれば、組織は強くなるってわけです。リーダーシップに天賦の才は必要ありません。やるべきことを淡々とやれば立派な組織になるわけです。
 100円高。


2 「ポジティブコーチング」
 立花龍司著 講談社 1300円

 この本はお薦めですよ。
 著者はご存じ、メジャーリーグ初のコーチですね。元もと、近鉄で野茂英雄のトレーニングコーチをしてたんですが、あの「草魂」「走れ、走れ」一本やりの鈴木啓士元監督に嫌われて、結局、2人ともクビ。
 でも、そのおかげで野茂という稀代のメジャーリーガーが生まれ、現在、多くの日本人がアメリカで活躍できる時代を迎えたんですね。
 日本人がメジャーリーグに挑戦するきっかけを作ったのは、鈴木元監督ですよ。感謝状をあげないといけないくらいです。

 著者は近鉄のあと、ロッテ、メッツ、またロッテに復帰し、いまやフリーという立場です。ロッテの時も、あの管理野球の権化ともいうべき広岡ゼネラルマネジャーと対立してクビ。
 こうみてくると、アメリカ通とかなんとか言っても、結局は、古い野球人は昔流の指導法しか知らないということがよくわかりますね。

 「日本野球はサボる人間に合わせてルールを作っている。メジャーリーグはベストを尽くす人間に合わせてルールを作る」
 これは名言です。

 たしかにそうです。真夏に連投させる。水を飲ませない。勉強させず野球三昧。
 野村克也さんが野球人は専門バカになりがちだから、気をつけないといけない。いろんな勉強をいまからてもいいからしておけ、と言ってましたが、ホントにそうなんです。 
 さらに異常なくらいの上下関係を強いる。
 神奈川県に野球の名門で武相高校というのがあります。ここで硬式野球部の主将だったのがパンチですよ。で、1つ上に軟式の補欠がいました。それが出川哲郎です。いま、2人は芸能界で一緒ですが、いまだに当時の上下関係のままです。キャッチボールも満足にできない出川がパンチには異常に威張るんですね。で、パンチは徹底的に先輩を立ててます。すごいですなぁ。

 メジャーリーグの指導法を各角度から紹介してます。これは現場にいなければわからないノウハウばかりです。
 失敗は悪いことではない。野球など、ほとんど失敗で構成されています。1チームでヒット数本しか出ない試合が普通です。バッターの凡打、三振、ピツチューのフォアボールなど、失敗でしょ、これ。
 エラーにしてもそうです。失敗した時、メジャーリーグではどんな対応をするか。監督、コーチは選手にまずなんというか。
 どのような教訓を得たか。それを聞き出す。そこに大逆転のチャンスがあるんです。

 でもね、日本もメジャーリーグも真剣度は同じです。練習は自分のためにあることは、みんなわかっているはずです。負ければクビですからね。
 では、どこがいちばん違ってるかといえば、それは選手に対する指導者のアプローチ方法なんですね。つまり、選手を一人前と認識して対応しているか、半人前と見なしているかの違いです。一人前と見なせば、集合練習ばかり徹底しませんよね。
 100円高。


3 「メジャーリーグ・ビジネス」
 太田眞一著 太陽企画出版 1400円

 これはメジャーリーグ・ガイドではありません。
 いかに、メジャーリーグという「会社」が知恵を絞った企業努力をしてきているかを、具体的な話題を満載してまとめた本ですね。
 
 メジャーリーグって案外、儲かってないんです。
 勝ち組5球団とはマリナーズ(1,479万ドル)を筆頭に、以下、ブリュワーズ(900万ドル)、ヤンキース(823万ドル)、カブス(289万ドル)、ロイヤルズ(147万ドル)の5つ。
 一方、負け組はドジャース(−6,888万ドル)を筆頭に、2001年度のワールドチャンピオンに輝いたアリゾナ・ダイヤモンドバックス(−4,435万ドル)ほか25球団もあります。もちろん、淘汰の噂の絶えないエクスポズ(−1,283万ドル)とツインズ(−379万ドル)は恒常的な赤字経営であり、負け組の常連ですね。
 なぜか。
 メジャーリーグは、実はアメリカでは日本ほど熱くはありません。アメリカで一番人気はアメラグですよ。次にプロバスケ、3番目にメジャー野球が来るか、それともホッケーが来るかってなところですよね。
 だから、メジャーリーグといえども安穏としてられないんです。必死なんですね。
 マネジメント、フィナンシャル、マーケティング、PR、集客術のあれこれ、いったいどんなことやってるかがよくわかりますよ。

 たとえば、サンフランシスコ・ジャイアンツのケースを紹介しよう。
 このチームはニューヨーク・メッツから新庄剛志選手が移籍したから、今年は日本のマスコミが大挙して押し掛けるでしょうね。
 パシフィックベルにフランチャイズを移転したとき、年間34回もプロモーションをやってるんです。5月に7回、6月6回、7月4回、8月4回、9月6回という具合ですよ。

 内容は花火の日、グラウンドで自由に写真を撮れる日、愛犬を連れて場内を散歩できる日、乳がん撲滅の日、エイズ撲滅の日・・・もちろん、「オールA」の成績優秀な地元高校生や大学生の無料招待などは常にやってます。
 チケットの価格破壊の日、ファン感謝デー、有力選手のサイン会なども月6〜7回も行ってます(ほぼ5日に1回という頻度である)。こういうイベントにファンが賛同して、球場に足を運んでくれるのがアメリカのいいところですね。

 ヤンキースのような人気球団はこまめにファンサービスするより、デラックス・シートをアドバンス・フィ(前払い金)で販売する「一網打尽方式」でのセールス中心です。
 けど、地方都市をフランチャイズにしているチームにはそんなことはできません。
 そのかわり、「土日のゲームは安くします。ただし、親子連れで来てください」「レディスデーとして半額にします」「中高生同伴の観客は半額です」とあの手この手で集客アップを仕掛けるんです。

 50万人のマーケットでは、年間10〜20回は球場に足を運んでもらえなければ、マネジメントが成立しません。
 そこで割引券、回数券を発行してリピーターを1人でも多く作ろうと必死なんです。
 だから、観客へのプレゼントもユニーク。
 たとえば、選手の名前入りの名刺入れや小切手手帳などを先着3万人にプレゼントしたり、地区優勝、リーグ優勝の時には記念キャップ、ピンバッジのプレゼント。
 4万人程度は入る球場だから、3分の2の観客はこれらのプレゼントがもらえます。14歳以下の観客には野球カードナイト(チームの選手がカードになっている)、キャップナイト(チームの帽子)、ボール・アンド・クラブデー、バットナイト、ヘルメットデーには、選手が使っている道具をプレゼント(もちろん、サイン付き)。憧れのハリウッドスター、あるいはメジャーリーグ・プレーヤーとの写真が撮れるカメラデーなども年間30数回も実施しているんです。

 ファウルボールのプレゼントは日本ではオールスターとマスターリーグしかもらえませんが、メジャーリーグでは当然です。
 そればかりか、ファウルボールを手にした観客には、「ミラクルアーム」というボールをわしづかみにしたデザインのバッジが手渡されます(もちろん、ファウルボールももらえる)。また、選手が盗塁するたびに100〜200ドルが慈善団体に寄付されます。
 観客へのプレゼントの極めつけはダイヤモンドバックスですね。
 このチームは日曜日にクイズを出すんですか、「満塁ホームランをどの選手が何回に打つか」といったクイズです。

 驚くべきことは当選金額です。
 一昨年の7月11日、対アスレチックス戦で「6回裏にダイヤモンドバックスのベルが打つ」と予想した31歳の女性が見事に的中してしまった。そして、手にした金額は、なんと100万ドル。日本円に換算すると1億2,000万円!
 これはヘタな宝くじより確率が高いですよ。

 そんなにまでして、赤字球団を経営する理由はなんでしょうかね。
 野球が好きってこともありますけど、税金で控除されたり、毎年、格付けされて、それが株価と同じように売買できるんですね。何より、ステイタスが抜群だからでしょうな。
 ヤンキースのオーナーは鉄鋼会社の社長ですけど、鉄屋の親父じゃ有名にはなれませんけど、ヤンキースのオーナーなら世界的に知られますモンね。
 180円高。