2002年04月15日「上司の器」「知的冒険のすすめ」「シーマン語録」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「上司の器」
 城山三郎監修 光文社 1400円

 上司にまつわる「29のお話」です。
 著者は城山さんではありません。一般の人たちなんですね。つまり、投稿者といってもかまわないでしょう。光文社が一般から募集したんだと思いますよ。
 そして、29人のエピソードが選ばれた。で、本になった。こういうことです。

 ところで、上司と部下ってのは赤の他人でしょ。
 でも、ときには家族以上に緊密な関係でもありますよね。だって、時間的な長さで考えても、どちらが長く付き合っているかを考えてみるといいです。
 わたしがサラリーマン時代、とくに営業の第一線でバリバリやってた頃なんて、朝7時半には会社に着いて、それからあちこち遠路はるばる日帰り出張。毎日、遠足してたようなもんですよ。だって、京都から北陸、京都から名古屋、静岡、浜松、沼津なんて、往復日帰りですよ。
 戻ってくるのは、夜中の9時〜10時。で、業務処理。かなり要領がいいから、電話ですべて指示を出して済ませてますからね。戻れば、すぐに帰れるの。
 でも、帰らない。つきあい残業か?
 そんなことはない。営業マンだから、残業手当なんか無い。すべて営業手当で一括だもの。
 
 じゃ、なんのために残ってるかというと、上司や同僚、後輩を誘って呑みに行くんですよ。それまで明日の準備をしてるんだけど、11時くらいになると、「おい、そろそろ行くぞ」「○○(店の名前・たいてい駅前の屋台。まだやってるかなぁ)にいるから」と言い残す。
 すると、上司もやってくるわけよ。
 で、どうするかというと、もうどんちゃん騒ぎ。もう、お互いに自慢話のオンパレードです。
 「○○社、すごかったね。よく、あんなに売上があがったな?」
 「あれ、大変だったんだよ。みんなには言ってないけど、ものすごく頑張ったんだ。たとえばね・・・・」と延々と成功の裏話を話すわけ。それをまた、みんな聞くんです。
 「よしよし、だから成功したんだな。よし、それ、明日、オレもやってみよう」
 ねっ、情報共有化ってのはこういうことですよ。
 Eメールでコミュニケーションするより、「あれ、どうやってた成功したの?」「へぇ、そんな裏があったんだ」なんてことは、顔と顔と、膝と膝をつき合わせてないと出てきません。

 で、この本も「こんな上司と出会えて幸せだった」という話が収められています。
 たとえば、「万年課長Aさんとの出会い」なんか逸品でした。
 仕事で大穴あけちゃうの。失敗した翌日、得意先に謝罪に行って善後策を考えないといけない。
 でも、この人は出社しないの。行く勇気がないの。で、万年課長Aさんから電話。
 「明日は出てこい」
 で、辞表を書いて持ってくんですね。万年課長は受け取りません。
 「ちょっと話を聞け」
 
 彼が話したのは、こういうこと。
 「自分も大失敗したことがある。その額たるや、君の10倍以上だ。懲戒免職になるところを常務に助けられた。曲がりなりにも関係部署との合意の下で、きちんとしたルールに則って仕事をした結果だったからだ。でも、当時の社長がまだ相談役として残ってるから、永遠に出世の未知は閉ざされている」
 だから、万年課長なわけです。
 
 この万年さん。出てこなかった2日間に得意先に出向いたり、業者に出向いたりして、なんとか無理な仕事をものにしちゃうんですね。これは信頼関係以外の何ものでもありません。
 前に、その得意先が困ってたときに問題を解決してあげたことがあったんですね。だから、恩返しみたいなものでしょう。
 「どうして、これだけ優秀な人が出世しないのか?」
 組織の中の力学はまた別物です。実力がそのままストレートに反映されるのは機械やロボットの世界だけ。人間社会は別の力学で動いているんです。

 でもね、会社や肩書きが通用するのはせいぜい定年までですよ。その後は本人の魅力だけです、ものを言うのは。
 「辞めても会いたくなる人」っていますよね。逆に、「仕事でもなければ会いたくない人」ってのもいますよね。

 ごくごく普通のサラリーマン、サラリーウーマンたちが持っている大切な思い出。みんな、自分だけの「プロジェクトX」を持ってるんですよ。
 だから、わたしはサラリーマンの世界が好きなんです。
 150円高。


2 「知的冒険のすすめ」
 渡辺淳一著 光文社文庫 500円

 あの渡辺先生のご本です。軽いエッセイですから横になって読むのにピッタシです。

 でも、元気だよなぁ、この先生。ある意味で、理想的な歳の取り方というか、歳取ってからの生き方がいいと思う。建て前とか世間とか、まるっきり無視して動いてるもんね。
 「他人がどう言おうと、どう思おうと関係ないじゃん」
 そんな感じかなぁ。高僧よりも説得力あるなぁ、この人。ホント、偉いわ。

 まずは才能論から。
 「上司や親に怒られても、すぐに元気になれる明るさ。嫌なことがあっても、すぐに忘れられる切り替えの早さ。これは立派な才能です」
 ホントだね。
 いますよ、こういう人。職場に1人はいるんじゃないかなぁ。私のフィールドワークでの統計では、15人に1人くらいですね。

 「おいおい、平気かよ。課長、新入社員にあんなに怒っちゃって。明日から、あいつ出てこなくなるぞ」なんて気にしてたら、翌日、「おはようございまーーーす。今日も元気で行きましょう、みなさん!」なんて、朝からハイテンションなヤツ。
 みんな、ズルッて拍子抜けしちゃうの。
 もう、こういう人間はこれだけで一目置かれます。
 「あいつはスゲェ」って。
 メンタルタフネスって、蛙の面に×××ていう人ですよ。これが地球最後の日まで生き残るんです。
 世の中、クヨクヨする人ばかりだから、こういうタイプはある意味で、「自分とは違う」「もう尊敬しちゃう。一生、ついてきます」ってなるんです。
 ムネオさんはじめ、政治家にはこういうタイプ、多いよね。
 証人喚問だって、平気の平左。白を切り通しちゃう。打たれ強い。叩かれれば叩かれるほど、頑張れるというタイプですね。

 逆は、勝手に自滅しちゃうタイプ。ちょっとしたことでも、すぐに落ち込んじゃって、1人でクヨクヨしちゃうの。
 こういうタイプはどんなに頭が良くても、ダメです。
 「うるせぇ、どうせ地球が破滅するわけじゃねぇ。細かいことは気にすんな」
 こうでなければアカンのよ。

 だから、加藤紘一さんのように計算して頑張ったり、辞任したりする人より、「だれがなんと言おうとオレは辞めねぇぞ。辞める時ゃあ、全部、ばらすぞ、てめぇら」タイプが好きなんです。
 頑張れ、ムネオちゃん!

  いっつも周囲に気配りばかりしてる人っているでしょ? 
 「お酒、まだ入ってますか?」
 「どう、寒くない?」
 「お腹空いてない?」
 こんな風に、心配り、気配りばかりしちゃうの。
 疲れるよね、きっと。まっ、中には口先だけの人もいて、社交辞令、条件反射でこういうセリフがポンポン出てくる人もいます。
 それも才能だね。

 そういう意味で考えると、メンタルタフネスって、どこか鈍いタイプに多くない?
 これからの時代、入社試験でも見合いでも、頭の良さとかお金持ちかとかいうモノサシよりも、この鈍さに注目したらどうだろうね。
 「こいつは何があっても、メゲナイ人間です」
 これは強いよ。
 参考までにメジャーリーグで通用するのはこのタイプです。

 渡辺先生が大学病院の医局にいた頃の話だけど、脊椎腫瘍の治療法についてカンファレンスが行われたわけ。
 で、ベテラン医師からは前方経路(肺を除けて進む方法)でいくか、後方経路(背中から除けて進む方法)でいくかと討論があった。
 ついでにたまたま出席していたインターン生にも聞いてみたわけよ
 「きみ、どう思う?」って。一応、医師免許持ってるんだから、議論に加えてやろうよって親心で聞いたわけ。
 すると、その男が一言。
 「腫瘍で壊れた背骨の換わりに、竹筒のようなものを入れられませんかね?」
 一同、爆笑。たしかに背骨は竹筒みたいに見えますよ。でも、この話は無知で幼稚すぎる。だから、笑われちゃったんです。

 でも、このアイデアって臓器置換なんですね。いまでは常識ですけど、当時としては斬新なアイデアなんですよ。
 だって、その後、世界のあちこちで現実に臓器置換が進められてきたんですもの。
 物を知りすぎているってのは、メリットだけじゃなくて、こういうデメリットもあるんです。
 「それは無理だよ」
 「絶対できません」
 「あっ、それね。不可能っていう定説が学界ではあるんだよ。そんなことも知らないのか!」

 オリジナリティってのは、無知からはじまるんです。
 その後も、こういうカンファレンスがあると、インターンの間から突飛なアイデアが出てくるんです。
 太腿の骨折患者に手術の時など、どう整復してどんな金属で留めるかって、検討をしてたら、「それ、糊で留まらないんでか?」だって。
 「おまえはバカか」と一笑に付されてしまったわけですけど、これもいまや、常識です。骨折した骨を糊でつける。もう研究がどんどん進んでいます。
 ある意味で、知識と情報に溢れた専門家だけでは、革新はできません。こういうバカがいないと、ダメなんです。

 渡辺先生といえば、やっぱり「不倫」とか「H」とかいうイメージだよね(これじゃ、たんなるスケベ親父じゃないか!)。
 でもね、現役の恋愛術指南師としては、当代一流だと思うよ。だって、理論と実践の両方で活躍してるもの。1人で基礎研究と臨床とをこなしてるんだから、もう、「恋愛界のブラックジャック」って、呼んじゃおうかな。

 ところで、このシーズンとなると結婚式にお呼ばれする機会が多いんですけど、キリスト教式の結婚式で、いつも感じることがあります。
 「汝、この男を一生の夫として愛するか?」
 よく聞くでしょ。これないと、神父さんの価値がないものね。
 でも、どうかね、これ。
 よくよく考えてみると、このセリフは人間としてなかなかできないことだから、わざわざ神の前で契約するわけよ。だれでも自然にできることだったら、こんな契約する必要ないものね。
 「汝、腹が減ったら、メシ喰うか?」なんて聞くか?!
 腹が減ったらメシを喰うのは当たり前。意識しなくても、努力しなくても、だれだってするもんね。犬のポチだってする、っていうの。
 でも、人を愛すること、愛し続けることって、ホントは至難の業なんでしょうな。

 わたしだって、そうだもの。
 結婚して数年後に、飯島直子を見たときには、「あっ、失敗した! 早まった」と悔やんで3日ほど寝られなかったものね(いいなあ、TUBEの前田)。
 すると、最近、彼女、離婚したでしょ(「前田、ざまぁ見ろ!」との声あり)。
 朝の「やじうまワイド」で知ったとき、「おいおい、飯島直子、離婚したぞ。チャンス、チャンス」とニコニコしてたら、家内が「ホント、ホント。頑張ってね」とエールを送ってくれました。
 ホント、できた人間です(家内は知らないけど、宝くじよりは当たる確率が高いと思うんだ−−家内曰く、「宝くじの方が当たる」とのこと。ホントかなぁ)。

 渡辺先生がアフリカに行ったときの話。
 マサイ族から、「あのライオンは3日以内に死ぬ」って言われたんだって。理由は、子象を狙って失敗したライオンの寿命はそんなものらしいよ。

 百獣の王ライオン。格好いいね。
 どっかの映画会社(MGMだったかな)もいきなりライオンが吠えるシーンからスタートするもんね。
 でも、彼のホントの姿はたんなるホストです。だって、取り柄は精力だけなんだもの。
 サバンナの世界では、ライオンが食べたい動物はみんな、彼らより足が速いか、頭がいいから捕まえられないの。ガゼール、シマウマなんて、360度、クビが回るから、しょっちゅう警戒してるもの。
 そこで、チームでなんとかしようってわけで、ファミリー単位で狩猟をするわけですね。でも、立派なたてがみをした雄ライオンが狩りをしてるところなんか、見たことないでしょ。雄ライオンがファミリーを作るには、メスに奉仕しないとダメないんです。
 でも、メスは選択眼が厳しくて、ジャニーズ系で、なおかつ精力絶倫でないと選んでくれません。セックスアピールがないとダメなのね(ケイン・コスギみたいなタイプかな)。
 しかも、うまく籠絡したとしても精力が減退すると、「この亭主、使い物にならない」って、ほっぽり出されてしまうんです。

 あわれ、中年のライオン君はこうしてサバンナを漂流していくわけです。
 最後の最後に、彼が狙うのは子象しかありません。これはまずい、しかし、足も遅いし弱いからね。
 でも、象もファミリーで生活してるから、襲いかかる前に周囲でボディガードしてる大人の象に一撃を喰らってしまうケースが多いんです。で、結局、死んで行くんです。

 雄ライオンの人生てのは厳しいね。
 リストラされたサラリーマンみたいなイメージだな。メスへの奉仕なんて、まるで、いま流行の「コンピタンシィ」だよね、まったく。
 雄ライオンも人間も、お役に立たなくなると生きられないってことかなぁ。
 130円高。


3 「シーマン語録」
 斎藤由多加編 ダイヤモンド社 1000円

 これって、中途半端に古い本なのね。
 出版されたの半年前だもの。このくらいのスパンてのは、もっとも読みにくいね。
 でも、読んだ。理由は、いつもの通りです。積み上げた本が崩れて、下の方から出てきたのがこの本だったわけ。
 「たしか、変なCMのあのシーマンかぁ?」
 どれどれ、どんなこと書いてんだぁ、と手に取った・・・とこういうわけです。

 シーマンてのは、古代エジプト時代から伝説として語り継がれてきた生物なんだって。飼い主の言葉を学習するらしいね。
 じゃ、うちのブル(犬)と同じじゃねぇか。ブルのほうが勘がいいぞ。
 でも、天からの啓示を賢人に伝えたんだって。そうか、ブルは賢人に伝えないものな(「そもそも、その賢人てヤツがどこにいる」との声あり。うるせぇっての)。

 で、各パートごとの解説を猪瀬直樹さんが書いてます。

 以下、目についたものだけ紹介しておきましょう。

 転職を考えてるサラリーマンに対して、「ここまで日本が激変してるとさ、自分も変わらなきゃって、あせっちゃうんだよね」
 たしかにそうです。でもね、周囲が激変してるから、自分はその場に止まるっていう選択もあると思うんだよね。わたしが片手の人差し指程度を突っ込んでるマスコミって世界は、周囲の激変でも自分のスタンス−−すなわち、「時代の語り部」「時代の証人」として変えませんもの。一度、書店か本棚から岩波新書(文庫だったかな)を取り出して、ラストの頁をみてください。
 「読書子に寄す」と題して、自分の立場を明確にメッセージとして発信してますよ。このスタンスが好きだから、わたしはこの世界で生きてるってことがあります(まっ、そんな大げさなことではありません、ホントは。「たまたま潜り込んだだけじゃないか」との声あり。ホント、うるせぇんだよ)。

 「ベンチャーと零細企業の違いって、なんだと思う? 妙な山っ気があるかないかだよ」

 「やりたいことがはっきりしている人と、儲かれば何でもいいっていう人、と2種類いるじゃない。おまえ、どっち?」
 はい、わたしはその両方です。あのね、わたしはいろんな仕事してるんです。本業は圧倒的にコンサルなんですね。物書きの部分は年間120日以下と決めてるんです(これは手帳で管理してるからわかります)。
 で、仕事を引き受けるときは2つの選択肢しかありません。これ以外はやらないことにしてます(「生意気だ」ちとの声あり。ホントにうるさいんだよ、おまえ)。
 1つは「儲かる仕事」、もう1つは「勉強になる仕事」。その両方だと嬉しいんだけど。まっ、そんな夢みたいな話はなかなかないから、これまでも「めったにない儲かる仕事」と「ほとんどこればかりという勉強になる仕事」を続けてます。
 コンサルでも、その企業とか経営者が勉強になると思えば、引き受けるってな感じです。K社やM社、A社なんて、めちゃくちゃ、安いもんね(「このホームページ見てたら、値上げしろ」との声あり。同感だね、ホント、ホント)。

 ある中小企業経営者のつぶやき。
 「銀行から金借りるために、最初にやらなければならないことは、お金をもってることを見せつけることだから」

 コピーライターへの一言。
 「納品物が紙1枚だったりするわけでしょう? お金取るの、大変じゃない?」
 そんなこと言ったら、わたしなど納品する物は何もありませんよ。

 「お互いのプライバシーを尊重しはじめたら、夫婦って、終わりって感じがするなぁ」
 100円高。