2002年04月22日「失敗を生かす仕事術」「ヴイジュアル時代の発想法」「もういらない」
1 「失敗を生かす仕事術」
畑村洋太郎著 講談社現代新書 680円
狂牛病とか外務省の一連の問題、それに拉致問題とかを見ると、ほんとうに失敗が生かされない職場ってのがありますね。
でも、失敗を生かすにはどんどん失敗を自らディスクローズされる環境がなければ、こりゃ、永遠に無くなりませんわな。
「失敗したら、クビだぞ」なんて環境の中で、いったい、だれが進んで話しますか。日本人は武士ではありません。正真正銘、町人なんですからね。なら、アメリカみたいに司法取引ってのがリーズナブルなんですよ、現実的にはね。
たとえば、ある文化が刷り込まれた人がいるとしましょう。
その人に「自由な発想で考えて」とか「これまでの制約を外して、考えてよ」なんて注文しても、これは無理ってもんですよ。
この場合はね、人を変えるしかありません。
頭のいい人、準備してきた人は平気ですよ。でも、ほとんどの人にとっては「寝耳の水」なんです。
「ちょっと待って、いまから勉強する」
それでもいいんです。その人がホントに「これは大変だぞ」「変わらなきゃ」と真剣に頭の中身を入れ替えられれば、大丈夫。
失敗も同じですね。
「これは方向転換しないと大変だ」
こう目覚めて行動するようになれば、失敗は「いい失敗」へと昇華します。
けど、失敗したらクビという環境の中では、失敗しても隠そうとします。失敗を教訓とせず、2度、3度と繰り返します。これは「悪い失敗」ですね。
失敗の原因を分類すると、10種類あります。
未知、無知、不注意、手順の不遵守、誤判断、調査・検討不足、制約条件の変化、企画不良、価値観不良、組織運営不良。これで10ですね。
あるメーカーに収める商品が納期に間に合わなかった。
直接的原因は、営業マンがFAXで送った発注書類を先方の新人担当者が紛失したことにあった。営業マンが確認の電話をしたのも3日後。このタイムラグが命取りになったわけ。
つまり、新人のミスと営業マンの確認ミスが重なった結果、起きた失敗ですよ。
でも、よくよく考えてみると、こんな重要な書類のやりとりをどうしてFAX1枚でこと足れりとするか。この認識がミスを誘発した、起こるべくして起こさせたといえませんかね。
ならば、ミスが発生しないようにシステムを改革しなければ、いずれ2度、3度と起きるでしょうね。
失敗で重要なことは、「変革」をスローガンではなく、現実化しなければならないということです。「変える」と言ってれば、自然と変わるものではありません。
リストラさえすれば、経営が改善できるものでもありません。
本来の本質的な目的、ゴールは何なのか、それを見失っては、変革しても方向音痴の改革にしかならないでしょうな。
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2 「ヴイジュアル時代の発想法」
手塚 真著 集英社新書 680円
あの手塚治虫のご子息。ヴィジュアリスト、仕事は映画監督だそうです。
「この本、1週間で書くぞ」と宣言し、ちゃんとものしたんですってわたし、こういう本、好きなんです。
よく本を書くとき、「推敲」って言葉がありますよね。何度も何度も考えて、書いたっていう本ですね。
参考までに、推敲の語源てのが、唐の時代に「賈島」という科挙の落ちこぼれ詩人がいました。で、彼は有名な三体詩となる「鳥宿池中樹(鳥は池中の樹に宿り) 僧推月下門(僧は月下の門を推す)」ていう詩を作ります。
でもね、この時、「推す」がいいのか、「敲く」にするか迷いに迷っちゃう。
ロバに乗ったまま考え事をしてまして、有名な詩人で政府高官でもある韓愈という人の一行とぶつかるんです。「ゴメンちゃい」と謝るわけですけど、理由を聞いた韓愈は「そりゃ、やっぱし、敲くではねぇだか」と提案。「やっぱ、あんたもそう思うか」ってんで、敲くに決めちゃう。そっから来てる言葉ですよ。
さて、そんなことはどうでもいいんだけど、こういう推敲に推敲を重ねた本もたしかにいいと思います。
けど、反射神経だけで書いた本もいいのよ。
インタビュー集や対談集がその代表作ですよね。どこがいいって、いきなり質問されてるわけだから、ノリが良ければ、どんどん潜在意識からフレーズやキーワードが出てくるの。
これがいい。
で、この本は直感でまとめた本に近い。「近い」というのは、「複雑系」とか「ユング」などからの引用をかなりしてますから、百パーセント、個人の発想というわけではないからです。
著者はテレビ、ラジオを見たり聞いたりしません。ここ15年くらいはそうらしいです。
で、情報はどこから取るのかというと、人、本、雑誌。まっ、映画や音楽もあるでしょうな。 最近のトレンドなどは、人の話を聞いてりゃわかるんだってさ。
「情報はどうやれば手に入るか」という質問があると、すぐにインターネットだと答える人がいるけど、これはナンセンス。箱があれば、何でも入れられるけど、箱に価値はないもんね。
発想をするために効果的な方法が4つあります。それは「作り直す」「置き換える」「くっつける」「偶然を活かす」です。
発想には努力もあるでしょうけど、この偶然てのはとてつもなく大きいよね。
たとえば、ジャグル大帝レオにしたって、あの白ライオンという発想は偶然の産物なんです。
ある時、動物イラストを頼まれ、ライオンを描いてた。夜中、オレンジ色の暗いライトの下で絵の具を塗ってたら、これが薄くて白っぽい。
「失敗だ、
一瞬、そう思ったんだけど、何かが頭の中でスパークするんです。
「これ、いいね」
レオが誕生した瞬間ですね。ストーリーはそこから延々と湧き出てきます。
偶然を活かす力、偶然を呼び起こす力、偶然を連続して引っ張り出す力・・・この力が強ければ強いほど、その人は「天才」と呼ばれるわけです。
ところで、「偶然」という意味に当たる英語は3種類あるんです。
Chance、Coincidene、Synchronicityですね。
歩いてたら、町中で20年ぶりに大学時代の友人にバッタリ。これはChanceです。で、カバンがまったく同じ物だった。これはCoincidence。
喫茶店でダベって帰ったら、なんとカバンが入れ換わっていた。翌日、2人は互いに連絡を取り合い、そしてカバンを交換。それから数日後、これが縁で会社を設立することになった。そして、5年後には上場してしまった。
これがSynchronicity(シンクロニシティ)ですね。
参考までに、ユングはこのシンクロニシティに注目しました。
一見、無関係な出来事が偶然に起きて、それが引き金となって何かを発生させたり、解決したりするってわけですよ。
ユングのところに、ある女性にセラピーを受けに来ていました。でもね、この女性は合理的な思考の持ち主で強い先入観が邪魔して、彼の治療をなかなか受け容れてくれないんです。
ある日、ユングは夢判断をするため、彼女に夢の内容を話させます。それはエジプトの「スカラベ」というカブト虫が登場する夢。これは再生のシンボルと見なされるものですけど、もちろん、そんなこと、彼女は知りません。
で、その話をしてるとき、窓を叩く音がする。ユングが窓を開けると、一匹のコガネ虫が飛び込んできた。それが、彼女が夢で見たのと瓜ふたつ。ショックを受けた彼女は、以来、パカッと心を開いて彼の治療を受け容れていくんですな。
因果的にはなんら説明不能だけれども、たしかに現実を動かす。その意味において、偶然は意義をもつんですよ。
手塚治虫っていう人は機械音痴というか、機械の必要性をあまり感じなかった人みたいですね。
鉄腕アトムの原作者だから、科学の申し子みたいだと思ってたんですけどね。医師でもあるしね。でも、「科学の原理を理解すること」と「機械を扱うこと」とは違うんですね。
機械音痴、車の免許もない、8ミリカメラを撮ってたら、自分の鼻ばかり映ってた。ビデオの留守録がわからない。自動販売機にどうやって千円札が入るか理解できず、立ち往生してた・・など、枚挙に暇がありません。ワープロのCMに出てたから、メーカーが一台プレゼントしようって言ったんだけど、「ボクは絵、描いてるだけだから」と断っちゃった。
これ、もらっても、できないって知ってたんですね。
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3 「もういらない」
吉田拓郎著 祥伝社 1500円
和製ボブ・ディラン(古いね)こと、拓郎さんの本です。
どうしても、比較したくなっちゃうんだよ。いけないと思いつつも・・・。
何と?
そう、永ちゃんの本ですよ。
彼の『成りあがり』(昨年2月5日に紹介)にしても『アー・ユー・ハッピー?』」(同3月20日に紹介)にしても、強烈なメッセージがありましたよ。
「うわぁ、すげぇ自信」「でも、よく騙されるなぁ、この人」「きっちり、落とし前取るだけの意地はあるけど、心服されるだけの何かが足りないんだろうな」なんてね。
いずれにしても、自分を信じて人生を切り拓いてきた生き様。完璧さとその逆にスポッと抜けてる人間的な部分があって、妙に魅力を感じてならない男でしたね。
素材としては、永ちゃんと同等の爆発力があるはずなんだけど、あまり伝わってこなかったなぁ。
これね、取材が悪いんだと思うよ(インタビュアーには悪いけど)。拓郎も忙しいからね、あまり時間取れなかったんだろうね。けど、時間かけてもきっちり作るべきだったと思うよ。
拓郎って、大学時代に就職活動してて、河合楽器に行くことになってたらしいね。当時、広島支店長から、「プロもいいけど、試験、受けとけ」って言われてね。
だけど、辞めるわけ。プロになって突っ走るんだよね。
どうして?
その話が無いのよ。だって、インタビュアーが話題、変えちゃうんだもの。
内容は、中年から壮年へと齢を重ねた著者が「もういらないよ」というテーマでいろんなことにコメントを寄せるわけ。
でも、そんなご託、だれが読みたいかね。
やっぱり、一時代を築いたミュージシャンですよ。わたしが中学生の時に「結婚しようよ」がブレイク、それから「旅の宿」「シンシア」「襟裳岬」なんてね。どれもいいわ。「旅の宿」は「文藝」新人賞を映画化したヤツで、高橋洋子のデビュー作でしょ。高校時代、「文藝」に嵌ってたから、よく覚えてますよ。
「襟裳岬」がレコ大を取った時なんて、「フォークもこんなに認められるようになった」なんてね、あのカマヤツヒロシが渋谷の西武劇場(だったと思う)で泣いてたもんね(当時、高校一年のわたしは大晦日深夜かに恒例になった「ロックンロール大会−−第1回目」を観に行ってたのだ)。
でさ、やっぱり、多くの読者は、生き様とか野心とか、失敗談、成功談とか、人間の見方、運とか何か知らないけど強い力の存在とかね。そんなものに関心があるんじゃないかなぁ。
また、そういう作り方をしないと10万部の壁は超えられないと思うんだよね(超えてたらゴメン!)。
で、青春なんていらない、男社会はいらない(これは田中真紀子と小泉さんとのゴタゴタについて意見を言ってるわけ。そんなもの、どうでもいいんだよ)、こんな結婚いらない、こんな会社いらない、こんな親父いらない・・・どうして、こんなテーマをわざわざ拓郎が答えなきゃいけないのよ。
でも、拾い物もありました。
フジテレビ系列の番組に「LOVE LOVE あいしてる」ってのがありました。これ、KinKi Kidsとの共演番組なのね。
プロデューサーの立場からしたら、拓郎だけでは視聴率が取れない。
「半年はできるかもしれないけど、それじゃ困る」
「どしたら、視聴率とれるの?」
まだ、キンキはCDデビューもしてないの。でも、先物買いでドンと出したのよ。拓郎はキンキなんて知らないわけ。奥さん(森下愛子)はファンだったんだけど。で、おじさんは勉強しちゃうわけだ。17、8歳の精神構造をね。
で、「こんな違和感のある番組、3カ月続くかな?」って評判だったのが5年も高視聴率で生き残っていくわけ。
これはね。ベースに流れてたのが「誠実」って2つの文字だったからだと思うのよ。
拓郎はおふざけでなく、リハーサルも完璧にやって準備した「音楽番組」にしたいってこと。
キンキもこの番組でギターを勉強して覚えていくわけよ。番組中に練習し、番組で少しずつ披露していくわけ。もち、指南役は拓郎であり、アルフィの坂崎であり、陽水だったりね。で、番組中に作った歌がヒットしちゃうわけ。
100円高。購入はこちら