2002年04月29日「志村流」「田中角栄邸書生日記」「ぼくの神さま」
1 「志村流」
志村けん著 マガジンハウス 1300円
「人と同じことをしてたら、この業界では生きていけない」
まっ、そうでしょうね。「志村けんのバカ殿様」はもう15年も続いてます。放送回数は25回、ということは1年に1.7回。2回も放送されてないわけです。
これだけ長続きしたの「飽きられず、忘れられず」なんですね。
この人、コントについてはとことん「わがまま」を徹底する人で、周囲がどんなに面白いと評価しても、彼がダメだといったらダメ。妥協しないわけ。一本筋の通った職人みたいですね。
手間暇、コストも手を抜かない。ここがドリフ仕込みなんだけど、コントのシーン1つでもさらに面白くするために研究してたら、なんとビデオ3000本も買い込んでいたとか。
たいしたもんです。
やっぱり、プロなら仕込みにお金をかけなくちゃね。適当に頭の中でこね回したコピーで誤魔化しちゃいけません。
素人投稿ビデオってのが、いま、どの番組でも高い視聴率、取ってますけど、あれ、元もと、志村が考えたらしいですよ。
「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」の企画打ち合わせでのこと。
「素人からビデオ集めて、それにおもしろおかしくコメントつけたらどうだ?」
「まだ、そんなにビデオなんて持ってませんよ。ダメですよ、その企画」
でも、強引にやっちゃうの。その後、この企画をTBSがアメリカのテレビ局に売っちゃいます。そして、全米で大評判になつちゃうわけ。
いま、「さんまのカラクリテレビ」とかで外国の素人投稿ビデオを放送してますね。あれ逆輸入みたいなものなのよ。
「あの時、知的所有権をきちんとやっとけば良かったな」だって。
この人、貧乏のどん底暮らしのわりには、お金に恬淡としてるのね。
「宵越しの金は持たない」という生き方にほとんど近くて、家を買う時も面倒だからって、最初に見たのに決めちゃう。
「おまえ、一生ものなんだから、もっと真剣に探せ」と兄弟から言われても、面倒くさいのひと言。で、い、三鷹に住んでます。
これはつき合ってた彼女との手切れ金でも同じ。実は、預金通帳から印鑑まで預けちゃってたわけ。
で、別れ話の時、争うのは嫌だから、きちんと手切れ金で片をつけようと考えた。
弁護士に聞けば、「普通だったら40〜50万の話だけど、まっ、500万円も持ってったらどうだろう」
で、持ってくと、これが予想外。
「なに考えてんのよ! 3年同棲したら、内縁関係と認定されるんだよ。こんな端金、おふざけでないよ」
これで財産の半分取られちゃった。女はしたたかです。もう法律を徹底的に勉強して情報武装してたわけ。
ビジネスマンにもいろいろ使えるヒントがありますよ。
たとえば、独立の条件を彼流に語ってます。
「3つある。まず、何をしたいのかをすぐに答えられるかどうか。これだけは自信があるという特技があるかどうか。そして、他人からちょっと変わってるねとよく言われるかどうか」
この3点だってさ。
たしかに個性は才能です。ビジネスマンだって、他人と同じことして生きられないもの。
個人の才能は有事の際の「ゴールド」。世界中どこに行っても換金できるものね。優秀な人材は世界中、どこでも仕事できるもんね。
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2 「田中角栄邸書生日記」
片岡憲男著 日経BP企画 1500円
新潟から夜行で上野に到着すると、著者は母親と同行してそのまま目白まで。当時、母親は41歳。前年に大黒柱を亡くしていました。そのまま、著者は早稲田の学生兼角栄さんの書生として4年間、住み込み生活をすることになります。
1973年のことでした。
当時、彼は総理大臣。朝7時ともなると、目白邸は来客ですでにごった返していたそうです。
1日1000人ですよ、来客が。
1組が200人なんてことも少なくありません。そのお客は庭に据え付けられている椅子に座って記念撮影するんですね。角栄さん自ら庭の説明をしたり、高価で有名になった鯉の説明したりね。それはもうサービス精神旺盛。
「千客万来」という言葉がありますが、まさにそれ。この来客はもちろん、角栄さんの身辺の世話、真紀子さん夫婦の世話、事務所、本宅の掃除など、ありとあらゆる仕事が書生とお手伝いさん、合わせて10人でやりくりしてるんです。
なにしろ、目白邸は当時、3千坪ありました。それがいまや、2回の相続で大幅に狭くなってます。これは大変ですよ。
角栄さんはものすごく積極的に仕事をしてましたね。
石油ショックで日本経済はガタガタ。猛烈なインフレ。韓国の現大統領である金大中さんがホテルグランドパレスから拉致され、5日後に韓国の自宅に戻されるなど、日本の主権がまったく無視されるなど、内外ともに課題山積でした。
その中で日中国交を回復し、ソ連で首脳会談をしたのは鳩山内閣以来ですよ。この時、ブレジネフやコスイギンとの会談で日ソ間には「北方4島の未確認の領土問題が横たわっていること」を双方ともに確認します。
このとき、ファーストレディとして同行したのが、若き日の真紀子さんですね。だから、ムネオセンセの推進する2島返還論など相容れないわけです。
ところで、真紀子さんは当時もいまも性格は一緒みたいですね。
「オレたちの給料の一部は叱られ賃だ」
これは書生の言葉です。著者も最初のうちはわからなかったものの、1カ月もしないうちに身をもって体験します。
この人は指示した通りにやらないと気が済まない。
たとえば、10メートルの草むしりといったら、9メートルでも11メートルでもダメってことです。
また、自分の許可したこと以外は認めない。ものすごくプライドが高いんですね。角栄さんとアポがある人でも、取り次ぎの段取りが気にくわないと「帰ってもらいなさい」ということになる。もちろん、言い訳したり、正論を主張すると、4〜5倍になって返ってくる。
これではたまりませんなぁ。
しばらくすると、真紀子さんは目白邸を増改築して家族みんなで戻ってきます。すると、古い順にお手伝いさん、秘書が続々と辞めていくんですね。
角栄さんとはまったく反対の性格。というよりも、わがままいっぱいの性格の上に、父親にヘイコラする人ばかり間近で見てきたために、天狗の鼻がグググッと伸びてしまったんでしょうな。
ただ、いいこともあったそうです。
それは合理的な思想の持ち主なんで、書生は2週間に1日の休日を毎週、土曜日は休みにしましょうと決めます。また、書生がゼミ合宿などに参加することも奨励します。
著者曰く、「真紀子さんは火の玉だ。熱が届く半径10メートル以内に入ると、外敵から守ってくれるかもしれないが、火傷するかもしれない。50メートルほど離れて見ていれば、微風を感じて心地よい」
だから、敵にはなっても使用人にはなるな、というんです。
政治家はどれだけ仕事をしたか。これで評価されます。
角栄さんはご存じのように、金脈問題で失脚していきます。
1976年、7月27日、角栄さんは逮捕されます。容疑はいわゆる、外国為替法違反ですね。その後、受託収賄罪でも起訴されます。
ロッキード事件で元総理大臣として逮捕、刑事被告人になるなど、前代未聞ですよ。
当時、ロッキード裁判が国会中継され、当時、受験生のわたしは毎日、毎日、テレビにかじりついてましたね。わたしはいまでも、その猛烈に熱心な日本独自のエネルギー政策がアメリカの逆鱗に触れたための、きわめて冤罪に近い罠だったと思っています。
当時、学生の著者も取り調べを何回か受けます。担当検察官は商売とはいえ、百パーセント疑ってかかりますから、1日中、同じことを質問するんですね。
「明日、帰省する」という日にも再度、聞きたいことがあるからという理由で、なかば強制的に尋問する。
「角栄さんは最後までロッキードから献金があったこと自体、知らなかったのではないか」
著者はそう思っています。
著者は大学を卒業後、1年、就職浪人して日経新聞に入社。その後、証券部のデスクなどでヒット企画を連発します。
ところが、胃ガンと戦うこと5年。この1月に亡くなりました。本書はその1週間前に最後の筆を執った遺作でもあります。
130円高。購入はこちら
3 「ぼくの神さま」
ユレク・ボガエヴィッチ著 竹書房文庫 590円
以前、「価値ある情報コラム」で少し触れました。これはその単行本化ですね。
映画のストーリーにものすごく忠実に描かれています。「脚本」として扱われているくらいですもんね。
これはいい本ですよ。ぜひお読み下さい。
しかし、映画で見落としていたこと、錯覚していたこと、それはそれはたくさんありました。
そのほとんどが深読みが原因です。
もっとさらりと描いてるのに、変に意味づけてしてたりね。「ライフ・イズ・ビューテイフル」みたいに、読む方が肩に力を入れてはいけませんな。
さて、どんな内容なのか、3月25日付けのコラムから紹介しましょう。もちろん、錯覚してた部分を明らかにしてお届けします。
「舞台は1942年のポーランドの片田舎です。すでにナチスによって軍靴の足音が田舎にも聞こえてくる時代ですね。
ユダヤ人狩りが公然と行われ、危険を感じた大学教授は息子ロメックを田舎の知り合いに預けます。ロメック役は『A.I』『シックス・センス』『ペイ・フォワード』の子役といえば、ピンと来るでしょ(ハーレイ・ジョエル・オスメント君ですね)。このシティボーイに絡むのが3人の男の子と1人の女の子。うちの2人の兄弟はロメックが預けられた家の子どもですね。
この兄弟の父親も殺されます。飼っていたブタを町に売りに行き、仲間に指されたわけですよ。「ブタを飼うこと」だけで罪になり、射殺された時代です。密告、裏切りですね。父親は亡骸になって村に帰ってきます。
その日から、弟トロの様子がだんだんおかしくなってきます。「キリストごっこ」に熱中するんですね。自分の掌に釘を打ち付けようとする。雷雨の中、裸で走り回る。木に張り付けにしてくれ、と頼む。自分がキリストになって、子どもたちに洗礼を受けさせようとする。キリストになりきって、死んだ父親や仲間たちを蘇らせようとします。
ナチスのユダヤ人狩りを逃れて、人々は汽車に乗ってはこの地に飛び降ります(この部分が誤解でした。これは収容所行きの汽車でなんです。ユダヤ人がぎっしり詰められ、空気孔が1つしかない。そこから逃れられるのは女、子ども、そして小柄な男性だけなんです。その孔に新鮮な空気を求め、また逃げ場を求めて人が殺到するんです。ですから、遠くから見ると、腕だけたくさん飛び出てるんですね)。
その空気孔から「運良く」逃げ出せたユダヤ人家族を狙って金品を脅し取るロバール(遊び仲間のビラの兄)。ロメックにその秘密を知られると打ちのめし、気絶した彼を湖に捨て、一緒にいた少女マリアを犯します。
復讐に燃えたトロの兄ヴラデックは父親の形見のピストルでロバールを殺しに行きます。
ちょうど、彼は自分の父親を密告した男の子どもでした。場所は汽車のところですね。そして、山賊をしてる最中に殺します。
撃ったピストルをロメックが奪い取った時に、ちょうどナチスがやってきて、ロメックは連行されてしまいます。でも、だれもロメックがユダヤ人だとは思いませんでした。というのも、ナチスは逃げたユダヤ人狩りをしてると誤解したからですね。
朝になると、たくさんのユダヤ人が広場に集められ、汽車で連行されるところでした。
将校は同僚の大佐に面白い見せ物があると耳打ちします。ロメックに「あのときのようにやれ」と囁いて、ピストルを持たせ、ユダヤ人から指輪や靴を奪わせます。
「いい根性だ」と賞賛を浴びるロメック。
その中にユダヤ人と間違われて連行されたヴラデックがいました。
「彼は友だちだ。ユダヤ人じゃないよ」
これで助かります。
ところが・・・。汽車の向こう側から様子をうかがっていたトロが車輪の下から滑り込んで、ユダヤ人の群衆の中に入ってしまったのです。
「彼は弟だ」「ユダヤ人じゃないよ」と必死に叫びます。ナチスの軍人もトロに聞くのですが、彼は「ぼくはユダヤ人だ」と囁いて収容所行きの汽車に乗っていくのです。
ロメックのほうこそ、ユダヤ人でした。しかし、彼は咄嗟の演技で助かります。
トロはどうして、収容所行きの汽車に乗り込んだかわかりますか?
ロメックにとっての神さまとは、いったいだれだと思いますか?
トロかもしれないし、キリストかもしれないし、亡くなったであろう両親かもしれないし、あるいは平和こそが神さまなのかもしれません。
ところで、あなたには神さまがいますか?」
こんなコラムでした。
原作では、トロが汽車に乗った理由は「いま、ヴラデックとロメックがボクの仲間だと言えば、2人も汽車で連行されてしまう。ボクだけが犠牲になれば、彼らは助かる」というものでした。
わたしはそう理解しませんでした。
キリストになりたかったトロ。ほとんど、自分をキリストと思いこんでいたトロ。だから、彼は「自分は正真正銘のユダヤ人だ」「この運命を受け容れる」と、ゴルゴダの丘に向かうキリストと同じ覚悟でいたのではないか、と思ったのです。
でも、違ってたみたい。誤解したままの方が良かったかも・・・。
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