2001年11月26日「仮面をかぶった子供たち」「同僚の悪口」「ユーモア革命」
1 「仮面をかぶった子供たち」
影山任佐著 ひらく出版 1600円
著者は東工大教授。犯罪心理学専攻。
犯罪を起こす少年に共通する性格があるそうです。1自己中心性、2無情性、3爆発性、そして4強い攻撃性なんですね。
昔、「汚いものが消えれば町がきれいになる」と言って浮浪者を殺害した事件がありました。犯人は少年グループでしたね。これはこの4つの条件がすべて含まれた典型的な事件でした。
アメリカのマクドナルド博士の研究では、連続殺人とか快楽殺人を犯す人間の子供の頃の特徴があります。
動物虐待、火遊び、夜尿の常習者。この3つですね。
もし、お近くにこの3つが重なったり、しかも頻繁だとなれば、危険なサインだと認識したほうがいいかもしれませんよ。
著者は精神医学者でカウンセリングをよくします。
このカウンセリングという仕事はメンタルなものを扱うだけに、外科手術のようなわけにはいきませんい。合理的に診断したり、治療できるわけではないんです。
なんといっても、クライアントとの信頼関係を築くのに膨大な時間がかかります。どんなに能力があっても、彼らが安心してカウンセリングを受けられる気持ちになるには信頼関係は必須の条件なんですね。
いま、校内カウンセラーを置く学校が増えてます。
でも、彼らが子どもたちから話を聞き出せば、行き着くところは学校自体が抱えている問題を暴くことになりますよ。こうなると、校長も教師も隠し始めるに違いありません。つまり、学校側が期待することとは異なる方向に進んでしまうこともありえるわけです。
結局は、対処療法的に表面上の問題だけを解決してくれればいい、という調子のいい存在になってしまいかねませんね。
ここはPTAが応援団になるしかありません。
族議員を除去しようとする小泉政権を応援する国民みたいなものです。
子供に絵を描かせるHTP法というカウンセリング法があります。
HTPとは「家」「木」「人」の頭文字です。
これによると、家には家族関係、木には本人のエネルギー、人には対人関係や自分自身のイメージが投影され、また色遣いには精神状態が見て取れるんですね。
これは大人にもきわめて有効でする
大人へのカウンセリングや心理検査では「はい、いいえ」で回答できるものが多いんですが、このとき、彼らは簡単に隠すことができるんです。
「自殺を考えたことがありますか?」
「とんでもない」
ところが、絵を描いてもらうとこれが明らかに自殺の兆候が現れてるんです。詳しく探っていくと、やはり自殺願望があることが判明した。
こんなことは何回もあります。
言葉でやりとりしていたときには隠していたことも絵の中にサインとしていろいろんな形で出てきてしまう。箱庭療法も同じ。そのサインに気づかずに放っておくと、これはその人間自体をスポイルしてしまうことになります。
子供だって、カウンセリングしても最初は心を開いてくれることはありません。どこまで話していいかな、と不安だからですね。
それでも、少しずつ、少しずつサインを送って、「大丈夫だ」「味方だよ」と示すと、「親を殺してやろうかと思った」などと言い出す。
「その気持ち、わかるよ」というと、子供のほうがびっくりする。
「先生もそんなこと、思ったの?」と聞き返してくる。
「だれだって、あるさ。君だけじゃないよ」といってやると、ホッとして心の内をどんどん話すようになる。
ですから、カウンセラーが子供を説得したりすることはありません。説得とは結局のところ、押しつけだからですね。叱ったりもしません。せっかく開いた心が閉じてしまうからです。
250円高。
2 「同僚の悪口」
村松友視著 毎日新聞社 1600円
小説です。
著者は「わたし プロレスの味方です」とか「時代屋の女房」とかで知られる作家ですね。この人の作品では、「トニー谷ざんす」が良かったかな。
で、これは二人のサラリーマンが主役です。上司の悪口、同僚の悪口、女性社員の悪口・・・。とにかく、悪口がそこかしこで語られます。
たとえば、同僚の結婚式。仲人の悪口、上司の挨拶に関する悪口。前半はもう、悪口のオンパレードです。小説らしくなるのは、後半から。
でも、前半は結婚披露宴の挨拶のネタ探しにはなるかも。
「手元の辞書を開くと、愛という言葉ではじまっていました。・・・そして、最後は腕力という言葉です」なんちゃってね。
「ホントに可愛らしい新婦ですね。うちのも昔は、食べちゃいたいくらい可愛らしかったんです。でも、いまとなっては煮ても焼いても食えない。どうして、あのとき喰っちまわなかったんだろうと思う今日この頃です」なんてね。
こんな挨拶してた人いたなぁ。
さて、本題の「悪口」ですけど、わたしはこんな定義をしてます。
「やること、なすことが気にくわない強者を意識する人間がもらす本音」
どうざんしょう。
まず、気にくわない人間がいる。そして、そいつは強い。少なくとも自分と同等以上である。しかも、本音。つまり、わが家ではいつも家内に向けてついこぼしてしまうのが、悪口なわけですね。
最近、上司の悪口を聞かなくなりましたよ。悪口どころか、もはや同情の対象だもんね。
150円。
3 「ユーモア革命」
阿刀田高著 文藝春秋 720円
著者は芥川賞だったか、直木賞だったか、どちらかをもらってます(いい加減だけど)。たしか、国立国会図書館かどこかに勤務してたんじゃないかな。
で、ユーモアについて書かれた本は、どうしてどれもこれも面白くないのか、という典型のような本でした。
でも、すべてが詰まらないわけではありません。引用文はものすごく面白いの。それも引用がめちゃくちゃ多いんです。
だから、ヘタな本よりかえって読み応えがありますよ。
道にバナナが落ちている。謹厳な校長先生が踏んで転んで、滑って転ぶ。見ている者がクスクス笑う。
なぜおかしいのか。謹厳さが少し壊れたから。
いつも転んでる人なら、予想がつくからおかしくない。「えっ、あの人が」というハプニング、アクシデントだからおかしいわけ。そのギャップが笑えるわけ。しかも、「少し」というのがミソ。これが頭を打って死んじゃったというのでは笑えませんもの。
「シャレにならないよ」ってことだよね。
この文章、「ベルグソンの笑い」について書かれた岩波新書とそっくり同じ内容です。
阿刀田さんという人は、「ユーモア」というキーワードで検索して参考文献を山のように集めたんだな。だから、地の文でも引用ばかり。知らない人はこの人が書いたと思うでしょうね。
アメリカのロックフェラー一世がホテルにチェックインしたときのこと。
支配人が慌てて飛んできた。そして、スタンダードルームを予約していることを確認するや、こういうのだ。
「ご令息様はスペシャルスイートをおとりですが・・・」
「あぁ、彼には金持ちの親父がいるが、あいにく、わたしにはいないんでね」
これも有名な話です。
「ゆうべ、どこにいたの?」
「そんな昔のことは覚えてないね」
「今晩、会ってくれる?」
「そんなに先のことはわからない」
これも映画「カサブランカ」の一節。こんなのばかりが続きますが、たしかに引用文は最高に面白いんです。さすが、図書館で働いてただけのことはあるな。
250円高。