2008年02月06日「新宿コマ 座長たちの舞台裏」 渡部清著 講談社 1470円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

♪こぉろしぃたいほど 惚れてはみたぁが
 指もふれずぅにぃ 別れたぁぁさ♪
 
 「フーテンの寅さん」がフジテレビのドラマに登場したとき、こんな唄を口ずさんで歩いてた。さくら役が長山藍子さんだったなぁ。
 いい唄だなぁ。なんて唄? わかりませんでしたね。インターネットもなかったしね。

 知ってる歌詞もここまで。だから、いつもここまで口ずさんでましたよ。

 そうだ。これ、サブちゃんの歌だろう? よし、北島事務所に電話しちゃえ。そしたらわかるかも。
 てなわけで、電話口で唄ってみると、「ありがとうございます。それ、『喧嘩辰』です。北島の唄でございます」と丁寧な受け答え。あの会社はしっかりしてます。まっ、ファンを大切にするのはサブちゃんの信条だかんね。

 知ってる? 音楽の教科書にサブちゃんの唄が載ってるの。「まつり」という唄。なかにし礼さんの詩です。

 さて、サブちゃんといえば、コマ劇場でしょ。この人の公演は24日間ものロングラン。1日2回公演で48回の舞台。S席9000円×1063席、A席6000円×367席、B席3200円×358席、C席2200円×410席。
 これが全公演満席になるのがサブちゃん。氷川きよしもまだ遠く及ばない。ぶっちゃけ、通常の座長公演だと平均利益率は60%以下。だけど、サブちゃんは70%を凌駕しちゃう。いや、すごいですなぁ。

 コマでもどこでも看板歌手のことを座長といいます。宝塚の「トップスター」みたいなもの。

 で、著者はコマで36年間も勤めてた人。元もとは音響、つまり、ミキサーやってたのね。

 演歌を聴かなかった著者が度肝を抜かれて一発でファンになったのが、美空ひばりさん。
 サブちゃんを超える動員力を持ってたのはこの人だけだったらしいよ。
 舞台を降りれば気配り、心配りの人。けど、リハーサルの厳しさは大変なもの。お嬢のママがさらに厳しい。
 
 ひばりさんの厳しさというか、プロ根性というのは、著者が気を利かしてエコーを使ったとき。
 「止めてくださいね。エコーは私の声ではありません。お客様に偽物を聴いてもらいたくないの」

 いま、どんな歌手も精巧なマイクを持ってますよ。「弘法は筆を選ばず」なんてのは真っ赤なウソで、一流になればなるほど道具を選びます。

 けど、ひばりさんは絶対の自信があったから、エコーなんてちゃちな子供だましはしたくなかったわけ。

 本書には、この2人の大御所のほかに、越路吹雪さん、藤田まことさん、山口百恵さん、都はるみさん、綾小路きみまろさん・・・もうコマ出演の芸能人がズラリ登場。こんなにたくさん紹介せず、1人1人をもっと深く深くインタビューしてもらいたかったなぁ。200円高。