2001年10月01日「正確に間違う人 漠然と正しい人」「むかつくぜ!」「日中再考」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「正確に間違う人 漠然と正しい人」
 野口悠紀雄著 ダイヤモンド社 1400円

 これ、タイトルいいでしょ?
 ケインズの言葉なんですよ、実は。
 「週刊ダイヤモンド」に連載された文章(隔週)をベースに、出版間際にチェックして、ちょっとコメントをつけた分だけ得した感じ。

 わたしの場合、連載は読みません。
 エッセイなら一話完結だから読みますが、小説は読みません。これも連載中はどういうわけか、読みませんでした。あっ、いま、理由がはっきりしました。字が小さく詰め込まれていたんで、「まっ、いいや。どうせ本になるだろう」ってんで読まなかったんです。
 
 さて、本文ですが、いろんな情報が満載されてます。
 
 「政策の基本的な考えに対する憤りが多い」と著者は原稿を振り返ってそう述べてます。
 政治家、官僚のミスリードを真剣に憂えてますね。この人も元大蔵官僚なんですがね・・・。
 でも、基本的な原理原則の部分で間違えられてしまうと、国民としてはもう絶望的ですよね。
 たとえば、不良債権問題。
 ここまで放任したのは、やっぱり総理と大蔵大臣、それにシナリオライターの大蔵省ですよ。はっきり言えば、宮沢さん、橋本さん・・・この2人ですよね。それにいま、東証理事長(株式会社移行後は初代社長になる)の土田某でしょ。
 A級戦犯ですわな。
 しかも、バブル崩壊直後から景気回復の腰を折るところまで、この政治家コンビは力を発揮(?)しましたね。まさに空中で逆噴射してくれました。

 本書は前半は生活雑感、そしてビジネスエッセイですね。後半が経済エッセイかな。
 たとえば、「ねずみ捕り」に関する一考察っていうところでは、日本は法治国家ではない、と断言してます。そりゃあそうかもしれません。
 ちょっと前まで、キャリアや警察官僚の上の人を知ってれば、交通違反のもみ消しなんていくらでもできましたものね。わたしの友人の中にも、オービスに写真がはっきり映ってるのに、「これは見間違い」ということでコンピュータから消してもらった人がいます。
 「罰金は強制的な献金だ」という意見に賛成です。
 わたしもだれ1人として人間がいない見晴らしのいい広い県道でねずみ捕りにあったことがあります。かなり昔のことですから、罰金5万円の行政処分。裁判所まで行きました。で、免停3カ月。教習を受けて1カ月に短縮。
 これがいまだと罰金10万円です。
 こんな詐欺みたいなことやってたら、まっ、嫌われますわな。
 
 こういう腑に落ちないポイントを政治、経済、社会、企業経営などの中から引っこ抜いて、ご隠居が能書きを垂れる。そういう体裁になってます。
 頭の体操には最適です。
 150高。


2 「むかつくぜ!」

 室井滋著 文春文庫 476円

 文庫っていいですね。
 とくに、こういう本は文庫に限ります。さっとポケットに入れられて、読みたいときにぽっと取り出せる。電車待ち、喫茶店での待ち合わせ、歯医者の待合室・・・ってなことで、細切れ時間であっという間に読みました。

 著者は女優さんです。
 映画監督長谷川和彦さんの奥さんだったよね(たしか結婚はしてなかったはずだけど・・・)。
 この人、大学に7年間も在籍して結局は中退しちゃったわけだけど、わたしとどこかで会ってるんだよね。だって、2〜3歳しか違わないもの。
 石井めぐみさんていう女優さんいるでしょ。あの人は同学年でした。
 「おいおい、ヒナにも稀な美女がいる」ってんで、ヒナ集団のわたしたちはよく教育学部(だったと思うけど)まで見に行きましたよ。
 やっぱり輝いてたね。・・・ゆっぴぃ、かわいそうだったね。それに離婚しちゃって・・・。

 ところで、室井さんのエッセイをどう見るかなんだけど、わたしは「痴漢エッセイ」として読んでます。
 この人、ホントに痴漢に遭ってばかりなんです。
 この本にも「東海道線に乗ってるとき、東京−横浜間で痴漢に遭った!」という話が出てます。ほかの本にも毎度の如くに書いてますが、はっきり言って美人じゃないし、セクシーでもないけれども、痴漢が安心して(?)寄っていけるタイプなのかなぁ。

 でも、こういう事件、事故、ハプニング、アクシデント、トラブル・・・この世のありとあらゆる「命には関わりのない出来事」に遭遇するチャンスに恵まれた人じゃないと、エッセイはなかなか書けませんね。
 で、本書には彼女の身の回りの事件が盛り沢山。ホントにおもしろい。
 ってことは、やっぱり、「他人の不幸は蜜の味」ってか。こんなタイトルのエッセイもあったね?
 100円高。


3 「日中再考」
 小森義久著 産経新聞社 1400円

 著者はサンケイ新聞でも腕っこきの国際派記者ですね。
 サンケイ新聞というのは、「台湾に特派員をおくマスメディアには、わが国(中国)における特派員常駐を認めない」という圧力(というか嫌がらせ)に屈しなかったために、31年間も特派員を認められてなかったんです。
 で、98年にやっと解除された結果、初代の中国総局長として北京に赴任したのが著者なんです。それまで、ベトナム、アメリカ、イギリスなどての特派員経験はあるけれども、中国ははじめて。

 こういう記者は少ないらしいですね。
 たいていは、中国語もできる生粋の中国贔屓の記者がなるらしいです。
 まっ、そうかもしれません。でないと、悪口(真実)ばかり書く記者が出ちゃって、本社にクレームをつけられちゃいますものね。
 わたしはサンケイが好きなんですが、この新聞を読む理由は朝鮮半島と中国、つまり、
「引っ越せない隣人」たる日本人にとって絶対にチェックしておかないと大変なことになる情報の質とその確度がめっぽう高いからなんです。

 さて、こういう人ですから、贔屓なしに中国報道をしてくれると期待してたわけです。
 その通りでした。
 で、この本も去年10月〜今年3月にかけて新聞紙上に連載された記事をベースにして、さらに加筆したものです。

 日本では大マスコミのおかげで中国礼賛の報道ばかり流れますが、やっぱり大変な国ですよ、ここは。
 半端じゃありません。
 交通ルールの無視、店員の粗野な対応。
 「あぁ、こんなはずじゃなかった」と落ち込んでしまいます。
 でも、2000年度の中国に対する貿易赤字の額たるや、なんと2兆7千億円ですよ。
 一国を相手にものすごく巨額な数字ですよね。いくら、ユニクロがフリースを全面的に作らせているからって、いくらタオルやネギ、畳表、ナマ椎茸がセーフガードを申請するほどマーケットを乗っ取られようと、この数字は異常です。

 99年に中国詣でをしたわが国のセンセーは170人に上るそうです。つまり、衆参両院の4.4人に1人が訪中してることになります。
 で、センセー方が何を話してるかというと、ご想像の通り、人畜無害のことばかり。
 だって、「友好」の証のために行ってるんですものね。もちろん、中国船の日本海域における不審な活動とか軍事増強(もちろん先様の)、対中援助の効用に対する疑問とか、日本にとってホントに気にかかること(つまり、先様にとっては気分を害すること)など一切触れません。

 中国の政策を取り上げて、疑問、批判を正面から提起したのは自由党の小沢一郎さんだけだそうですね。やっぱり、オザワさんだな。腰がぶれないね、この人は。
 小泉さんも一見ガンコだけど、靖国参拝でおわかりの通り、さっと変えてしまいます。「君子豹変す」ってことですな。
 やっぱり、「総理の器」は小沢一郎だよ。

 日本の教科書には文句を言いますが、中国では南京大虐殺についても極東裁判で退けられた証拠にまだ固執してます。日本の戦争指導者として処刑された1000人にものぼるA・B・C級戦犯ことなどまったく考慮しません。
 もちろん、日本の教科書にはこの「南京事件」や「七三一細菌部隊」を掲載していることも、国民には一切知らせません。中国人にとって、日本人は絶対謝らない国民、反省しない民族としてインプットされてることでしょうね。
 だから、中国では日本と日本人の悪口でいっぱいだそうです。「倭猪」とは日本人の別称だそうですね。「小さいブタ」って意味ですよね、これ。
 
 これだけ極悪非道の日本から、この中国がいくら引っ張ってるかご存じですか。
 なんと過去20年間で6兆円ですよ。このうち、どれだけの額が軍事に向けられているんでしょうかね。表と裏ではまったく違う顔を見せる国ですから、かなりの額だと思いますよ。
 でね、、このお金は帰ってこないと思うんです。だって、中国の人って借りた金は返しませんものね。

 東方リースという会社があります。中国進出5年間はものすごく景気が良かったんです。どんどん売れました。
 ところが、いま、この会社ではリースの仕事をしてません。
 じゃ、何をやってるかというと、これが回収の仕事だけなんです。
 これ、わかりますか?
 お金を払ってくれないんですよ、ぜんぜん。
 未払金額がざっと720億円。ものすごい金額ですよ、これ。何度も何度も解決を求めてもラチがあかず、日中両国政府間で話し合われる政治マターになってしまいました。96年に2億ドルの特殊ローンを出して救済を試みますが、ダメでした。

 「債務不履行」という現象はどこの国でも見られます。
 でも、中国という国の場合は、国や省、市当局、さらには国立銀行が債務を履行せず、しかも裁判所が履行の命令を下しても効果無し。この点が異色なんです。
 法治国家じゃないみたいでしょ?
 そうなんですね。この国はまだ法治国家ではありません。これからも違うのではないでしょぅか。
 どこまで行っても、人脈勝負の国なんですね。
 幸いなことに(幸いかな?)、東方リースは日本政府がやっとこさ介入し、「重慶市の2億円債務不履行」に対してだけは、去年5月に「半分だけ払う」ということで和解(?)ができたそうです。
 でも、まだ日本のリース業界には700億円の未払いがあるんですね。

 いやはや大した国ですね。
 こういう国は憧れたりせず、遠くで見てるに限ります。
 350円高。