2001年09月03日「藤田田の頭の中」「ドラッカーとの対話」「あのね」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「藤田田の頭の中」

 ジーン・中園著 日本実業出版社 1400円

 業界人としてコメントすれば、こういう作り方もありかなという感じがしますね。
 藤田さん自身は大昔に本欄で紹介した通り、例の「ユダヤ商法4部作」以来、改訂版は出しても新たに書き下ろしはしない(おそらく、そんな暇はないでしょう)。そこで、近くにいた人に書かせる。
 これは妙手です。出入りの新聞記者や流通論を専門にしてる大学の先生とかジャーナリストに書かせてもしょうがないもんね。

 内容は藤田さんの著書に書かれてた情報が8割くらいあった印象を受けます。
 読者としては、 この著者、すなわちジーンさん(本名は仁さんなのね。だからジーンて英語っぽい名前にしてます)の話をガンガン、バンバンいれれば良かったのに・・・とホント残念に思います。
 だって、この人、マクドナルドが十店舗くらいしかなかったときから18年間も一緒に仕事をしてきた人なんですよ。藤田さんのエピソードにしても、創業時のドタバタ劇、喜怒哀楽、社員の様子、待遇がどんどん改善されてきた歴史、有名企業になっていくにしたがって変化する新入社員の様子とか、いろいろあると思うんだよね。
 なにしろ、そこら辺のつまらない上場企業と違って、ドラマチックな会社なんだからさ。もっともっと面白いこと、あると思うんだよね。
 タマ(素材)がいいから、ベストセラーにはなるだろうけど、ちょっともったいない感じ。

 さてさて、マクドナルドは売上高4300億円。7月に上場したことはご存じの通りです。竹中大臣が未公開株を持ってたことでも話題になりましたね。

 「文化は高いところから低いところに流れる」というのが藤田さんの持論です。
 ゴルフ(クラブ)、スイミングプール、テニスコートもそう。一部のお金持ちしか利用してなかった文化が大衆化したわけです。
 で、ハンバーガーもそうだってことらしいです。
 でも、わたしはハンバーガーもハンバーグも嫌いなんですね。生まれてから、いままでせいぜい10回くらいだと思いますよ。
 とくにマクドナルドは食べません。せいぜいモスとかロッテリアですね(参考までに吉野家は好きです。学生時代にはじめて食べたときには「世の中にこんなにうまいものがあったのか。生きてて良かったなぁ」と感涙にむせんだくらいです。わたしの食生活ってのはそんなものです)。

 でも、子どもは好きですねぇ。だれが教えたんだろうって思ってましたが、せがまれて、よくお店に行きました。
 「ねえっ、どうせ食べるならお寿司にしようよ。ソバでもいいしさ」
 「いや」
 「おもちゃ買ってあげるからさ」
 「それならいい」と買ってあげたとたん、「やっぱりマックにする」と裏切るわけです。
 「そういうのって詐欺っていうんだよ」
 「でも、マックが食べたいの。パパだって、気が変わることあるでしょ?」
 「・・・」
 子どもはホントに好きですね(わたしは食べませんけど)。

 彼は創業以来、「購買こそが企業の命運を左右する」という思想のもとに、「社長兼購買部長」という肩書きで仕事をしてたらしいですね。
 藤田さんはアメリカ本社の社外役員も務めてましたし、全米を除けば世界一の店舗数、売上高を誇る日本の経営者ですし、全世界にPOSシステムを導入させて、業務の効率化、簡素化、標準化、そして効果的なマーケティング戦略を実現させてきました。
 ですから、彼は全世界から材料を購入する権利があるんです(この点について、本書では何も書かれてませんでしたが)。世界でいちばん安い材料を買える。しかも、為替変動を上手に見通してさらに安く仕入れる。
 こういう努力のおかげで「平日半額セール」という価格破壊が成功したわけですね。

 昔はマクドナルドでも出店の失敗は少なくなかったらしいですね。
 原因のほとんどは客の動線が悪いんですね。
 たとえば駅からスーパーには人が流れても、自分の店には来ない。1時間当たりの客の入りがゼロ。仕方ないので自分でコーヒー買った、とか。
 これは辛いですね。こういうケースでは逃げ足早く撤退するしかありません。
 いまでは、こういうことはないでしょうね。

 店舗展開では、店舗前の通行量が詳細に計測されます。
 たとえば、歩道を歩く人の数、車道を走る車の数、人は男性か女性か、ビジネスマンか学生か子どもか、自家用車か営業車かトラックか。半径1キロ圏内、5キロ圏内の人口構成はどうなってるのか、所得層、家族構成、一戸建てが多いのか、マンションが多いのか。施設はどうか。幼稚園、小中高、大学、コンビニ、スーパー、デパートなどの店舗、役所、病院、公民館はどうか。
 これらの基礎データから売上予想が算出され、検討材料になっていくわけです。
 これまで全国3700もの店舗開発を手がけてきたという情報はものすごいソフトウエアになってることでしょう。
 これだけ情報があれば、似たような傾向の立地はいくらでもあります。逆にいえば、勝ち組の店舗の傾向分析を徹底的に解析し、コンピュータでそれと似た基礎数値を弾いたころにピンポイントで出店すればいいわけです。
 
 会議は5分刻み。
 たとえば、「2時15分〜2時40分まで」となってるとしましょう。すると、次の会議のメンバーはその直前にみんな部屋の前で待ってるんですよ。そして入れ替わりに会議があるというスタイルですね。
 悠長に会議なんかしないんです。

 マクドナルドの就業規則の第1条には、「日本でいちばんの高給を支払う企業を目指す」とはっきり書かれているそうですね。
 普通の会社はこんなにぶっちゃけたことはいいません。たいてい、「わが社は人類の公器である」とか、「天地自然の中に」とかいうわけのわからない文句が冒頭書かれています。
 でも、こういう会社に限っていい加減で、経営者は金儲けのことしか考えてなかったりします。でも、マクドナルドは本音でズバリ欲望を謳いながら、儲けた金で立派にものすごい社会貢献活動をしてるんですね。どこかの大会社は税金をまったく払ってないことで有名でしょ。そんなことしないんですね。
 
 藤田さんのノウハウの中には、「78対22」というものがあります。
 これは法則で、空気の構成(チッソ78%対酸素などの気体22%)がそうですね。人間の身体の構成物質も、水分が78%、タンパク質やミネラルなどが22%、正方形に内接する円の比率も78対22になってます。
 この法則をビジネスに適用すると、金持ちは22%、大衆は78%。この22%に照準を当てたビジネスを展開するか、それとも78%をターゲットにするか。この絞り込みをはっきりさせないとうまくいきません。
 130円高。


2 「ドラッカーとの対話」

 小林薫著 徳間書店 1700円

 いわずと知れた、日本人経営者のアイドルです。
 どうして、みんなドラッカー好きなのかな。
 ズバリ、第1にはわかりやすいからでしょうね。第2に、日本人のテイストに合います。そして、よく日本のマネジメントについて研究してますよ。つまり、自分の経営学をスムーズにアピールできるようにきちんマーケティングがなされてます。
 
 この人、だいの日本贔屓ですからね。
 「UCLAの講師になったんだ」と嬉しそうな顔してるから、この大経営学者がなんでそんなものことくらいで喜んでるんだろうと思っていると、一言。
 「マネジメントではないんだ。日本近世美術史の講師なんだ」
 みずからを「メイジ マン(明治男)」と名乗るだけありますな。

 彼の持論中の持論を3つだけ紹介しておきましょう。
 「Built on your own strengh」、つまり、「強みの上に自分を築け」ってことです。それと「命令とコントロールの組織から、責任を中心とする組織に移行していく」ってことですかね。
 もう一つ、「内部にあるのはコストのみ、すべての市場機会と利益のチャンスは外にある」ってものがあります。
 彼が日本人に伝えたいメッセージがあります。
 「アメリカは技術やマネジメント教育のモデルにはなるが、政治や社会構造としては日本のお手本にはならない。アメリカのほうが異質であり、例外なのである。政治制度が硬直化しているのも、天下りが多いのもヨーロッパによく似ている 日本もヨーロッパも同じクラブのメンバーなのだ」
 やっぱり、日本人に人気がある理由はこれだね。
 150円高。


3 「あのね」
 朝日新聞学芸部編 朝日新聞社 900円

 これは新聞広告で見て買おうと思いました。
 朝日新聞の連載で好評だった、「あのね」と子どもが漏らしたキラリと光る一言をまとめたものです。
 5軒の書店に行ったんだけど、売ってませんでした。朝日新聞で大きく宣伝してたのにねぇ。
 で、電車に乗って某書店の本店まで行きました。ありました。ありました。

 ホントに子どもの感性ってのは素晴らしいと思うんですよ。
 何が素晴らしいかって、まず観察力です。それから表現力。この2つは大人が逆立ちしてもかないません。
 大人の中で子どもの精神を失わずに持っている人がいたら、それは天才だと思います。たとえば、モーツァルトとかアインシュタイン、良寛もそうかも。
 わたしが幼稚園の先生や学校の先生が羨ましいと感じるのは、こういう感性豊かな人間たちの間で生きているってことです。
 でも、最近は「子どもの心を失った子ども」が増え、「大人の心を失った大人」が増えてます。変に大人子どもだったり、子ども大人だったりね。

 だから、わたしは英才教育大反対なんです。
 人間にはちょうどいい教育の時代ってのがあると思うんです。音楽はご飯を食べるようにインプットすべきだから、早期に慣れる必要があります。でも、子どもの指でピアノの鍵盤を叩くのは無理がありますよ。でも、慣れることはいい。
 しかし、同じ方法で数学や語学などを叩き込んでる人がいますが、さてさてどうですかね。よく、日本語も満足にできないうちに、子どもに英語の勉強をさせる人がいますが、これ、なに考えてるんだか。

 文法ができてない人の英語は上達しません。せいぜい海外旅行英語のレベルなんです。議論などとてもとても・・・。
 明るくつきあいのいいアメリカ人でも、発音が下手でも文法が正しい英語を話している間は一目置いてくれます。けど、ぶっきらぼうな英語だと、「こいつはあまり教育がないな」と心のなかではバカにします。
 だから、受験英語はそこそこ正しいんですよ。
 だって、一流のジャーナリストや作家の論文が読めるんですからね。そのくらいの英語力は会話からでも伺えるものです。

 さてさて、蛇足が長くなりました。
 気に入った一言を紹介します。あとで調べると、みんな4歳の子どもたちの発言でした。
1 花粉症で毎朝、マスクをして出勤する父親に、「パパ、きょうも給食当番?」
2 小2のいとこが足し算、引き算を教えてくれました。
  「5人の子どもがいて、4人帰りました。どうなりますか?」
  「迷子になる」
3 暑い日、「もう、暑くて暑くて天ぷらになっちゃうね」
4 新しい冷蔵庫が届いた。カタログと見比べて、「ご馳走が入ってへんなぁ」
5 「お母さん、鉄棒で逆立ちすると、空に落っこちそうになるんだよ」

 どうです。こんな言葉、出てこないでしょ。
 100円高。