2008年03月15日「ヒトラーの贋札」
カテゴリー中島孝志の不良映画日記」
嫌な予感がしたんですよ。1つおいて、隣はおばさん3人組なのね。さっきからぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃしゃべってるの。
以前、ここでも紹介したと思うけど、銀座の映画館で『歌謡曲だよ、人生は!』を観たとき、ひどかったもんねぇ。
台詞をいうたびに、うんうんと大きくうなずく。で、なにかトリビアを知ったりすると、へぇそうなんだぁって、声に出す。
(いちいち、返事すな! おまえら、みな、串刺しにして炭火焼きにすっぞ!)と、このかしまし娘の後ろに座ってた紳士はたぶん思っていたことでしょう。わたしはそんなことは思いませんよ、絶対に。
あ〜あ、それなのに、今回もかしまし娘が隣にいるんですよ! 換わるなら、いまがチャンス・・・と思ったら、はじまっちゃった。
(もしうんうんうなずいたり、へぇなんて声出したら、そのときにはこの傘で刺してやる!)と、たぶん後ろの紳士は思っていたはず。
いえいえ、わたしはぜんぜん思いませんけどね。
ところがです。最後まで、このかしまし娘たちはひと声も漏らしませんでしたね。さすが、アカデミー賞(外国語映画賞)でんなぁ。
「撮りたいというより、向こうから勝手に飛び込んできた映画です」
こう語るのは監督と脚本を引き受けたステファン・ルツォヴィッキー。なんと、まったくちがう2つの製作会社からベルンハルト作戦について立て続けに提案されたとのこと。
これじゃ、まるで『竜馬がゆく』を書いたときの司馬遼太郎さんだよ。
ベルンハルト作戦てのは、劣勢のナチスドイツが起死回生で打とうとした電撃作戦なのね。
といっても、ミサイルや爆弾が飛ぶわけじゃない。飛ぶのは・・・札束。しかも贋札。第2次世界大戦下、1943年から敗戦まで続いた作戦です。
贋札? そんなもん役に立つの?
たとえば、イギリスに外貨準備の4倍ものポンド紙幣が一斉に流通したらどうなる?
ハイパーインフレ必至ですよ。かつてのドイツのように、トランクいっぱいに詰めたマルク紙幣でパン1個しか買えない・・・という状態に陥ってしまいます。こうなると、国民経済は疲弊して破綻。
経済が破綻したら武器は買えない。戦争はやめろという大合唱。反政府活動に火がつく。つまり、国がバラバラになっちゃうわけ。
で、武器が買う資金がなけりゃ戦争なんてできません。戦争ちゅうのは金持ちにしかできない「政治」なのよ。
つまり、ミサイルは祖国をダイレクトに直撃するけど、贋札は一国の経済を直撃し、麻痺させ、そして戦費調達能力を破壊してしまう「核爆弾」なんですね。
戦費=資金の裏書きのない戦争などできません。だから、日露戦争の時だって、高橋是清さんはロンドンであちこちの国に日本国債を買ってもらうのに必死だったでしょ?
国債というのは、元々、戦費調達のために諸外国から資金を借りるための「証文」のことだったのね。「どっちが勝つんだべぇ?」なんて、投資家は競馬感覚で売り買いしたりしてたわけ。
さて、作戦はナチスドイツ親衛隊情報部が発案し、書類偽造課長ベルンハルト・クリューガー少佐が指揮実行しました。
この人、ズルでね、作戦が漏れるのをおそれるあまり、病気になったユダヤ人はすべて内緒で殺してた。だから、戦後の裁判でも肝心の証拠がないんで無罪。のうのうと生きてたわけ。
正義か愛か? エゴか同胞か?
もちろん、具体的に贋札づくりにあたったのはザクセン・ハウゼン強制収容所のユダヤ人たち。任務遂行のためにヒトラーは強制収容所から選りすぐりの人材を集めたわけさ。みな、印刷工、美学校などの技術者とアーティストばかり。
そのなかでもリーダーはパスポート、贋札、美術品など、贋作ならなんでもOKのサリー(カール・マルコヴィクス)という犯罪者。
エゴイストでね、自分の利益しか考えない男。
彼らの使命は「完璧な贋ポンド札」をつくること。収容所内の秘密工場で大量贋造を展開するわけ。
本来ならガス室送りになる運命。それが「特殊技能」をもってるために延命。薄い塀の向こう側では同胞がユダヤ人であるということだけで毎日、脳天を撃ち抜かれているのにさ。
贋札づくりを成功させなければ、自分たちの命はない。しかし贋札づくりが成功しちゃうと、同胞を苦しめ続けることになる。正義か命か、愛かエゴか・・・。みな葛藤します。もちろん、サリーも葛藤しますよ。
いままでエゴのみで生きてきた男がこんなところで「戦友」を見つけ、心を許すようになってくるんだな。
ポンド紙幣の偽造に成功すると、ナチスドイツはドル紙幣の贋札づくりを命令。サボタージュするブルガー(映画の原作者)のために、あと1歩のところで完成しない。
「期日までに完成できなければ5人ずつ銃殺する!」という親衛隊将校の通告の日、サリーはどうするか?
この先は映画を観てね。
参考までに、ナチスドイツはやばくなると、贋造紙幣を原版、その他機密文書とともにオーストリアのトプリッツ湖に沈めます。1959年、ドイツの写真週刊誌『シュテルン』が回収。作戦の全容が白日の下にさらされることになります。
わずか96分の映画。だけど、たっぷり満喫。こういう骨太の映画はやっぱいいなぁ。
以前、ここでも紹介したと思うけど、銀座の映画館で『歌謡曲だよ、人生は!』を観たとき、ひどかったもんねぇ。
台詞をいうたびに、うんうんと大きくうなずく。で、なにかトリビアを知ったりすると、へぇそうなんだぁって、声に出す。
(いちいち、返事すな! おまえら、みな、串刺しにして炭火焼きにすっぞ!)と、このかしまし娘の後ろに座ってた紳士はたぶん思っていたことでしょう。わたしはそんなことは思いませんよ、絶対に。
あ〜あ、それなのに、今回もかしまし娘が隣にいるんですよ! 換わるなら、いまがチャンス・・・と思ったら、はじまっちゃった。
(もしうんうんうなずいたり、へぇなんて声出したら、そのときにはこの傘で刺してやる!)と、たぶん後ろの紳士は思っていたはず。
いえいえ、わたしはぜんぜん思いませんけどね。
ところがです。最後まで、このかしまし娘たちはひと声も漏らしませんでしたね。さすが、アカデミー賞(外国語映画賞)でんなぁ。
「撮りたいというより、向こうから勝手に飛び込んできた映画です」
こう語るのは監督と脚本を引き受けたステファン・ルツォヴィッキー。なんと、まったくちがう2つの製作会社からベルンハルト作戦について立て続けに提案されたとのこと。
これじゃ、まるで『竜馬がゆく』を書いたときの司馬遼太郎さんだよ。
ベルンハルト作戦てのは、劣勢のナチスドイツが起死回生で打とうとした電撃作戦なのね。
といっても、ミサイルや爆弾が飛ぶわけじゃない。飛ぶのは・・・札束。しかも贋札。第2次世界大戦下、1943年から敗戦まで続いた作戦です。
贋札? そんなもん役に立つの?
たとえば、イギリスに外貨準備の4倍ものポンド紙幣が一斉に流通したらどうなる?
ハイパーインフレ必至ですよ。かつてのドイツのように、トランクいっぱいに詰めたマルク紙幣でパン1個しか買えない・・・という状態に陥ってしまいます。こうなると、国民経済は疲弊して破綻。
経済が破綻したら武器は買えない。戦争はやめろという大合唱。反政府活動に火がつく。つまり、国がバラバラになっちゃうわけ。
で、武器が買う資金がなけりゃ戦争なんてできません。戦争ちゅうのは金持ちにしかできない「政治」なのよ。
つまり、ミサイルは祖国をダイレクトに直撃するけど、贋札は一国の経済を直撃し、麻痺させ、そして戦費調達能力を破壊してしまう「核爆弾」なんですね。
戦費=資金の裏書きのない戦争などできません。だから、日露戦争の時だって、高橋是清さんはロンドンであちこちの国に日本国債を買ってもらうのに必死だったでしょ?
国債というのは、元々、戦費調達のために諸外国から資金を借りるための「証文」のことだったのね。「どっちが勝つんだべぇ?」なんて、投資家は競馬感覚で売り買いしたりしてたわけ。
さて、作戦はナチスドイツ親衛隊情報部が発案し、書類偽造課長ベルンハルト・クリューガー少佐が指揮実行しました。
この人、ズルでね、作戦が漏れるのをおそれるあまり、病気になったユダヤ人はすべて内緒で殺してた。だから、戦後の裁判でも肝心の証拠がないんで無罪。のうのうと生きてたわけ。
正義か愛か? エゴか同胞か?
もちろん、具体的に贋札づくりにあたったのはザクセン・ハウゼン強制収容所のユダヤ人たち。任務遂行のためにヒトラーは強制収容所から選りすぐりの人材を集めたわけさ。みな、印刷工、美学校などの技術者とアーティストばかり。
そのなかでもリーダーはパスポート、贋札、美術品など、贋作ならなんでもOKのサリー(カール・マルコヴィクス)という犯罪者。
エゴイストでね、自分の利益しか考えない男。
彼らの使命は「完璧な贋ポンド札」をつくること。収容所内の秘密工場で大量贋造を展開するわけ。
本来ならガス室送りになる運命。それが「特殊技能」をもってるために延命。薄い塀の向こう側では同胞がユダヤ人であるということだけで毎日、脳天を撃ち抜かれているのにさ。
贋札づくりを成功させなければ、自分たちの命はない。しかし贋札づくりが成功しちゃうと、同胞を苦しめ続けることになる。正義か命か、愛かエゴか・・・。みな葛藤します。もちろん、サリーも葛藤しますよ。
いままでエゴのみで生きてきた男がこんなところで「戦友」を見つけ、心を許すようになってくるんだな。
ポンド紙幣の偽造に成功すると、ナチスドイツはドル紙幣の贋札づくりを命令。サボタージュするブルガー(映画の原作者)のために、あと1歩のところで完成しない。
「期日までに完成できなければ5人ずつ銃殺する!」という親衛隊将校の通告の日、サリーはどうするか?
この先は映画を観てね。
参考までに、ナチスドイツはやばくなると、贋造紙幣を原版、その他機密文書とともにオーストリアのトプリッツ湖に沈めます。1959年、ドイツの写真週刊誌『シュテルン』が回収。作戦の全容が白日の下にさらされることになります。
わずか96分の映画。だけど、たっぷり満喫。こういう骨太の映画はやっぱいいなぁ。