2001年05月07日「突破論」「まくら」「スモールビジネス マネジメント」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」



1 「突破論」

 宮崎学著 光文社 829円

 アウトロー、狐目の男などで知られる作家ですね。この人の本はすべて読んでいます。京都のやくざの家に生まれ、学生時代は共産党の活動、建設会社を経営して地上げにいそしみ、あげくは30億円の負債を抱えて倒産。まあ、波瀾万丈の人生ですが、この人を有名にしたのは「グリコ、森永事件」の容疑者として注目されたところからですね。
 「あなた、犯人なんでしょ」といまでもジャーナリストから言われてますね。

 この人の本を読んでると、やっぱり最後の最後、人間に残るのは「気迫」なんですね。
 迫力というか、気の力というか、魂の力といったもので、一言でいうと、「捨てる勇気」なんですね。でも、誤解して欲しくないのは、やくざ者でもいちばん強いのは「自分の命なんか要らないよ」という鉄砲玉よりも、「これを守るために命を投げ出してもかまわない」という具体的なものを持ってる人だと思うんです。愛する家族のためとか、そういうものですよね。
 
 この本はスポニチに連載された人生問答をまとめたものです。複雑な問題をいとも簡単に痛快に一刀両断する。こういうことができる人が人間通なんですね。よくテレビの人生相談番組に出てくるタレントや評論家ではこうはいきません。
 「頭で考える人」と「腹で考える人」との迫力の違いですね。だから、相談者に対してぜんぜん優しくありません。でも、たんなら気休めにしかならない優しい言葉よりも、数百倍も役に立つアドバイスが満載です。修羅場を潜ってきた体験というのは、やっぱりすごいです。

 「車いすの病弱な母親を引き取りたい」という相談者には、「何もしない人間に限って、物事をたいそうに考え、周囲の理解がない、だれも何もしてくれないと責任を他人に押しつける。でも、グズグズ思い悩む前に、週に1回でも実家に行って世話をするとか、好物の1つでも送ってやるとか、できることからやればいい。母親は子どもの生活を犠牲にしてまで面倒を見てもらおうと思っているだろうか。母は悲しいものだ。そして、ありがたいものだ。夫の代わりはいても、母の代わりはいないのも確かなのだ」

 「人相が悪く、仕事がない」と、15年前に堅気になった元やくざの相談の相談にはこんな回答です。
 「いじめにあってるのは気の毒だが、あえて住みにくい世界に飛び込んだのだから、それくらいは覚悟していたはずだ。我慢しろ」
 「いま、懲役27年を筆頭にトータルすると、計100年を超える懲役経験者でなにか仕事をしていこう、と考えている。それが順調にいくようになったら、声をかけてやる。それまで待っていろ。連絡があるまで待てないような根性のないヤツは相手にしない」
 甘えを許さないのは、これは過去の生き様への利息を返しているだけのこと。厳しいようだけど、こうじゃないといけない。この人、修羅場をくぐってるだけに温かいな。
 120円高。


2 「まくら」

 柳家小三治著 講談社文庫 667円

 著者は落語界の重鎮柳家小さん師匠の弟子。小さん師匠ってのは剣道の達人で、弟子に剣道を無理強いすることで有名ですね。あと、永谷園のCMでも有名。
 「あさげ、ひろげ、ゆうげ」ってやつです(わたしは赤出汁のひるげのファンです)。
 小三治師匠は、まっ、名人という感じのしない名人です。おもしろいよね、この人。
 でもって、この本は彼の落語のなかでも本論に入る前の、いわゆる「まくら」ばかり集めた本ですね。この師匠の特徴は、まくらだけ話して舞台をおりちゃうこと。サイコーですね。

 どんなまくらがあるかというと、とんでもなく長いわけです。だって、落語をする暇がないくらいだもの。そこで、まくせのまくらだけをちょっとだけご紹介するとこんな具合になります。

 「もともと、あたしはあんまり面白いことを考えられるタチではないので、ただそこにあった実話だけを申し上げて、お茶を濁そうというごく姑息な考え方でございますからね」
 「日本人は貧乏です。豊かだ豊かだといわれてますけど、豊かだと思わされているだけで、ほんとは貧乏人です。はじめて、アメリカに行ったとき、失業してるって人に招待されたんですよ。失業してるって、どうやって食ってるったら、失業保険で食ってるんですよ。おやおや心細いうちだな、こりゃ、と思ってみたら、これが庭がありまして、プールがある。どうして、失業してるんだよっつたら、いま、おれに合う仕事がないんだ、とこう言うんです。だから失業してるんだ。合う仕事が出てきたときには、バリバリ働くと。
 日本でこう言い切れる人がいますかね。いま仕事をしてる人でも、いまこの仕事がおれに合ってるからしてるんだっていう人は、はたして十人中何人いるんでしょうかね。
 嫌な仕事も無理やりやって、終わっちゃあ酒食らって、上司や仲間の悪口言って、あーさっぱりした、なんて、ろくな仕事ができるわけがない」

 大のオーディ・ファンで、CDプレーヤーをいじくるのが大好きです。それもまくらにしてるんです。
 「CDの音を良くするためにいろいろ方法があります。たとえば、1日、冷凍庫で冷やしたあと、2日間、今度は冷蔵庫で乾燥させる。それから、プレーヤーにかける。すると、ものすごいいい音になる。ほかにも、CDのシルバーじゃない面を、物差しとカッターを巧く使って円の中心を通るように外側方向に一気に切る。だいたい4本くらい入れる。これだけでものすごく改善する。どのくらい良くなるか」
 「小三治の落語が小さんくらいになりますよ」
 うまい、座布団3枚だ、こりゃ。
 100円高。


3 「スモールビジネス マネジメント」
デブラ・クーンツ・トラベルソ著 翔泳社 1600円

 マネジメントの本です。タイトル見れば、まっわかりますか。

 土砂降りの中、家の門を開けようと鍵を差し込んだがなかなか開かない。服はびっしょり、懸命にやっても、なかなか開かない。十分くらいやってみたけどダメ。コピーした鍵だったので、古くなった鍵穴には微妙に合わなくなっていたのだ。いままでも、ちょっとしたコツが必要だったが、今度ばかりはもうごまかしが利かない。
 けど、横を見るとドアが少し開いているではないか。まったく気づかなかった。
 こんなことがよくあります。
 でも、マネジメントでもこういうことがよくありますね。
 「なーんだ、そんなことか」って。でも、そんなことがわからないから、苦労してるんですね。
 そんなこんなで、目からウロコのマネジメント本です。
 というわけで、50円高。