2001年04月30日「受験坂本ちゃん屁の河童」「腰の低い人 頭の高い人」「壁に耳あり」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「受験坂本ちゃん屁の河童」

 ケイコ先生著 日本テレビ放送網 1000円

 日本テレビ系列「進ぬ 電波少年」で大人気の企画、あの「電波少年的東大一直線」がとうとう本になったわけですね。
 このオバケ番組は前身の「進め 電波少年」で、「猿岩石」という売れない芸人コンビにヒッチハイクをさせて、ロンドンまで、なんとユーラシア大陸を横断させるという大冒険をさせたことでも有名ですよね(あいつら、どこ行ったんだぁ。ローカル局の深夜番組でしか見ないぞ。それと後を継いだちっとも面白くないドロンズはとうとう廃業したのかな)。

 ところで、プロデューサーの土屋さんというのは日テレの新人時代だったかな、めちゃくちゃな番組つくって大コケしたことがあるそうです。だれかに聞きました。だれだったかな、タレントだったか、政治家だったか、作家だったか・・・忘れましたが、でも、それでも押しの強い人だったらしいですよ。

 この番組、見たことない人に説明しておくと、坂本ちゃんというのは「アルカリ三世」という芸人コンビの片割れです。男ですが、女の人が嫌いな男です。ナヨナヨしてて、お姉ことばを使うタイプの人です。
 それまで日光江戸村でぬいぐるみの中に入ってバイトしてたんです。もともと、この企画には坂本ちゃん以外の芸人が出るはずだったのに、その人間が敵前逃亡したために、坂本ちゃんが急遽、バイト先から目隠しされて拉致されたわけです(この番組の場合、ホントの拉致だもんなぁ)。
 7月からはじめて、翌年にはもう受験。しかも、目標は東大。
 これはきついですね。わたしも受験の経験がありますが、どこを受けるにしてもやっぱり準備に1年くらいはかかりますよ。
 それで朝、昼、晩に小テスト。80点以上ならメシにありつける。それ以下の場合はおあずけ。これはなおさらきついですね。もちろん、家庭教師のケイコ先生も運命共同体、一蓮托生なんです。ケイコ先生の記録によると、平均すると1週間に2回くらいしか食事が取れなかったらしいです。4カ月経ったときに体重計に乗ると、9キロ減。受験ダイエットですな。
 「電波少年的人はどこまで断食に耐えられるのか、という感じになってきた」って書いてました。

 でもね、この坂本ちゃん。引き算すらできなかった人なんですよ。
 それがケイコ先生の指導宜しく、グングン勉強ができるようになっていきます。やっぱり、人間てのはすごいですね。
 ケイコ先生なんて、「坂本ちゃんが東大に合格できる、ということはまったく心配してなかった」って。というのも、「受験勉強はやる気、集中力、効率の良さ。この三つをクリアしさえすれば、だれでも東大に合格できる。あとは時間の問題だけだ」と言ってました。
 やる気、集中力は自分の問題。効率の良さは先輩のいいアドバイスがあれば、これで鬼に金棒。
 ケイコ先生は東大しか受けませんでした。それも模擬試験は全然ダメ。それでも東大しか受けません。それで合格。見事です。
 でもね、入ってから「自分はまぐれで合格したことを痛感した」って。絶対的な知識量の不足。「入ったら勝ち」じゃなかったんですね。それがトラウマになったのか、ケイコ先生、学生時代にずっと落ち込んでたみたい。挙げ句の果てに、就職試験はすべてアウト。それも一次の面接で全滅ですよ。これは落ち込むわなぁ。
 東大の肩書きもいまは通用しませんからね。わたしの友人にもたくさんの東大生がいましたが、「東大の中の東大」ですら成功してるのはごく一部ですよ。
 だから、わたしは息子には好き放題にさせてます。学歴はあってもなくてもいいんです。でも、教養はなくてはいけません。この教養って「大切なことを知ってるかどうか」だと思うんですね。これはたくさんの知識があるってこととは無関係です。バカの1つ覚えでホントに1つのことしか知らない人でも、その1つから仕事の基本の基本、人生の基本の基本、人間の基本の基本といった、どこでも通用する価値観を体得した人ってたくさんいるでしょ。
 ホントの教養人ってこういう人じゃないかなぁ。

 この番組はいつものように途中から見たわけ(猿岩石も途中からでした)ですが、不思議だったのは、「ケイコ先生って、どうやって選ばれたんだろう」ということ。
 視聴者参加の収録番組会場に友人といたとき、この企画があって、「この中に東大生はいませんか?」と女優の室井滋さんが訊いたところ、「あんた、手あげなよ」と友人から言われ、冗談で「ハイ」って言ったのが運のツキ。それで拉致されたわけです。おかげで、すべてのバイトがパーになりました。
 ケイコ先生はどっかのええとこのお嬢さんだと思ってたら、かなりハングリーに生きていたんです。朝6時〜9時までパン屋、そのあと、午後5時まで同じビルの地下にあるレストラン、それから午後11時まで赤門近くのステーキ屋さんでバイト・・・というわけでずっと働きづめなんですね。それがすべてパー。

 さてさて、これだけ勉強した坂本ちゃんですが、結果は東大受験に失敗します。
 というよりも、センター試験の足切りで引っかかって受験すらできませんでした。それで2人で泣くんです。
 でもね、そこがテレビのいい加減でいいところ。企画は「東大一直線」から「どこでもいいから一直線」に簡単に変更。それで、日大文理学部とか拓殖、駒沢、国士舘といった有名大学に受かるんですね。大したものですよ。だって、わずか半年前には引き算すらできなかったんですから。わずか半年ですよ。このままのペースで勉強したら、もう半年後には100%東大に受かりますね。わたしは勢いを感じました。まさに、孫子の兵法です。勢いが大事なんです。

 「坂本ちゃんからたくさんのことを教わった」って、ケイコ先生は言います。
 人間の潜在能力の素晴らしさ、やる気、プラス思考、その他いろいろ。この半年間、坂本ちゃんとつき合っているうちに、自分の中にある負け犬根性の部分とか、自信の無さを払拭して、「何としてでも生きてやる」という強い精神力が身についたみたいです。
 回り道をしてるようで、実はこれが最短距離。縁というのは不思議なものですねぇ。
 「人生スルリと抜けるより、反問しながら汗を出して歩くほうがいい。真剣になるのは大事。けど、深刻になってはダメ」なんです、いつだって。
 でもさ、当の坂本ちゃん。日大に入ることが決まったんだけど、夢が「ちゃんと卒業して立派なサラリーマンになることです!」だって。
 これはちょっと洒落がきついんじゃないかな・・・。
 100円高。


2 「腰の低い人 頭の高い人」

 梨本勝著 1300円 サンマーク出版

 あの芸能レポーターの梨本さんの本です。
 「上場企業人事部の一括採用続々!」って帯コピーにあるけど、ホントかな。この本、どうやって使うんだろ。
 
 梨本さんって、高校ダブってたんですね。当時としても、これはちょっと恥ずかしかったと思いますよ。だから、彼のダブリの同級生たちも私立に移ってそのまま進級したそうです。それを彼は同じ高校で過ごすわけ。
 卒業式のときなんか、「梨本くーん、よく頑張ったね。辛かったろうね」って女の先生が泣いたそうです。本人はなーんとも思ってなかったって。
 だから、この人はいまでも同窓会がダブルで参加できるわけ。基本的に恥をかくことが快感と思ってたそうですが、おそらく、心の切り替えスイッチがきちんとしてたんだと思います。打たれ強く、タフなように、自分で自分の気持ちをコントロールしていたのかもしれません。

 芸能人からも信頼されているようで、「不倫は文化だ」の石田純一さんからも絶大な信頼を得て、独占会見をしてくれたそうですよ。抜け目のない人間は嫌だけど、どことなく抜けてる人ってホノボノとするものね。
 ところで、この本はざっと15分くらいで読んだんだけど、以前、紹介した「なぜ仕事するの?」(松永真理さん著)の本のネタと酷似している内容が1つありました。
 これはとんでもなく横柄な大企業の秘書室長の話。
 某ビジネス誌の取材で、その雑誌の発行部数とか歴代取材対象の経営者などの情報を根掘り葉掘り聞くわけ。それで、「あんた、どの大学」と聞くと、「早稲田です」といったとたんに、「控えおろう、私学が!」とのたまうんだな、この秘書室長が。当日、取材に出かけると、その社長というのは広報室長の意見ばかり聞いて、この秘書室長のことは完全に無視。
 「ははぁ、この欲求不満のはけ口がマスコミに向けられたんだな」と気づきます。
 まぁ、こういったネタなんだけど、真理さんと梨本さんとでは年代が違うし・・・・。つらつら考えてみると、「ゴーストライターや編集プロダクションを使うと、こうなるな」と合点がいきました。違ってたらごめんなさい。その秘書室長がすべての雑誌にやってたら、そうなりますもんね。
 でも、このネタは似すぎてますな。今度、編集長に会ったら聞いてみよう。こういうとき、いろんな版元に知人がいると便利だよね。
 50円高。


3 「壁に耳あり」
永六輔著 講談社文庫 495円

 永さんがあちこちで聞いたちょっといいフレーズを山ほど押し込めた本です。わたしが共感したのは以下の通り。
 「植民地時代に日本人がいいことをした−−そんなことがいえるのは日本人じゃありません。我々です」
 「学校の保健の先生を充実させて欲しい。授業を受けて保健室に来る生徒は体調が悪いんじゃないんです。話し相手が欲しいんですから」
 「高齢者社会はいきなり来たんじゃない。来るのは決まっていたんです。それなのに準備ができていないってのはどういうことなんですかね」
 「腰痛です、という患者に対して、200の病気が思い浮かべば名医です」
 「男は父親になるのではなくて、父親を演じるのです」
 「子どもだけに限れば、日本の子どもは世界一。それも、ずばぬけた金持ちですね」
 「インフォームド・コンセント。説明と合意ねぇ。そんなことしてると、診察時間がなくなるけど、それでいいの?」
 「ベテランが手術しても、新入りが手術しても費用は同じ。欧米じゃ、ベテランは高いんだけど、これは当然じゃないかね。日本という国は経験とか腕を認めたがらないんだよね」
 「買い物のヘタな人っているじゃないですか。日本の国民は政治家を買うのがヘタなんですよ。安物買いの銭失いなんだから」
 「悪口っていうのは、そのまま、誉め言葉なんだよね。悪口をいわれないヤツはたいしたヤツじゃありませんから」
 「家の近所の山本かつら店が、最近、日本ヘアシステムって店になったら、これが当たっちゃって。たいへんな人気」
 「出る杭は打たれる。打たれないほど出すぎればいい。けど、そうなったら、今度は抜かれる」
 「日本の教育は兵隊づくりなんですよ。リーダーをつくらない教育っていうことです。兵隊ばかりいて、何ができますか」
 「年を取ったら、女はストーブだと思いなさい。当たっているうちはいいけど、触れたら火傷する」
 「話のうまい人というのは、どこを省略すればいいかを知っている人です」
 「イスラム教徒は仕事や暮らしよりも信仰です。祈るために生きているのであって、仕事を粗末にしているわけではありません」
 「早く答えを出すことが要求される。だから、子どもたちは考えることをしなくなる」
 というわけで、90円高。