2001年04月16日「ドン・キホーテのピアス」「ドン・キホーテのキッス」「ドン・キホーテのステップ」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」



1 「ドン・キホーテのピアス」

 鴻上尚史著 扶桑社 590円

 著者は第三舞台の代表であり、演出家です。
 わたしと同年齢で大学も同じ。きっと、あのとき、大隈講堂の前で大声張り上げて芝居の稽古してた人じゃないかな。というのも、わたし自身も事情があって、同時期、同場所で大声張り上げてたんです。あのときのあの人だと思うんだけどね。
 で、この人の本はすべてチェックしてます。

 著者のふるさと愛媛県に「とべ動物園」というのがあります。
 そこでは、エサを自動販売機で売ってるんです、と。普通は「エサをやらないでください」という立て札がありますよね。でも、ここにはありません。
 「動物園というのは動物と出会う場所でしょ。でも、動物は人間と出会っていないでしょ」
 これは園長さんの言葉です。
 動物園の動物はよく寝てますよね。人間にまったく無関心ですね。で、実際に関心を示すのはエサをくれる飼育係だけ。こうなりますね。
 「自動販売機のエサの摂取量も考慮に入れて食事計画を作ります。予定量を終了したら自動販売機は停止します」と園長さん。
 これはすごいですね。けど、めんどくさいですね。でも、民間企業が運営する動物園ではかなり導入されているらしいんです。
 もちろん、公共の動物園ではほとんどやってません。理由は「公務員だから」です。入場者が増えても、給料が増えるわけじゃありませんもの。それどころか、仕事が増えちゃいます。「お客の喜び、わたしの不満」というヤツですね。自動販売機のエサ管理などしたくないんですよ、彼らは。動物のエサより自分たちのエサ(待遇)のほうが気になってるんですな。
 これではダメです。
 もう、郵政民営化などと悠長なこと言ってないで、すべて民営化したらどうですかね。まぁ、警察、消防と自衛隊だけは公務員でいいかな。あとはすべて民営化。すると、教師など、顧客たるべき生徒から査定されますから、かつて査定云々、主任手当云々ですったもんだしたのが嘘みたいにすっきりします。問題教師などいなくなりますね。
 「バカな生徒に査定されたら教育がおかしくなる」って反論しそうですが、そんなことはありません。子どもの目というのはレントゲンです。すべてを見透かしてますよ。いい加減な教育委員会よりも適正に評価すると思いますよ。
 80円高。


2 「ドン・キホーテのキッス」

 鴻上尚史著 扶桑社 1400円

 またまた同じ著者です。
 「かつての映画界にはきら星のように名脇役がいた。世界中そうだった。脇役という立派なポジションがあった。いまは主役ができないから脇役に落ちる。仕方なく脇役をやっている。作り手も名脇役のギャラを抑えてきた」と言います。
 とびっきりの美男美女は主役争いをするんですね。彼らには脇役は回ってきません。自ずと戦う場所が決まってるんです。美男美女もシビアなんですね。
 若くて美男美女は毎年、星の数ほどデビューします。当たればでかいけど、倍率が高いからなかなか当たりません。美男美女村の主役候補でも、演技力のないまま、若くてきれい、というだけでやってきた人は30歳を頂点にして消えていくんだそうです。いわゆる、「時分の花」ってやつですね。これが1つの壁なんですね。

 「ぶさいく村」の名脇役はほとんどいないんですね。同様に、「若くて美男で演技力のある男性」も競争率が低いんだそうです。この理由は、ひとえに向上心が低いかららしい。 でも、演劇業界ってのは「すき間がたくさんある」らしいですよ。
 それは30代のそこそこきれいな女性で演技がきちんとできる人、だそうです。
 鴻上さんは「菅井きんさんのような女優になりたい、という人がいたら感動する」って言ってましたよ。
 50円高。


3 「ドン・キホーテのステップ」
 鴻上尚史著 扶桑社 1400円

 またまた同じ著者です。
 実は立て続けに8冊も読んでしまったのです。でも、紹介するのは毎週3冊だけ。「だから、来週も続く」ということはありません。来週は別の本を紹介します。

 「バブル景気で第三舞台は救われたんだ」
 こういう人間に、彼は違うんだと言うんです。だって、彼の劇団はバブル崩壊後も人気を維持してるんですものね。
 バブル当時、普通なら月1本しか演劇を見ない人が金が有り余ってるので、「こんな芝居も試しに見てみようか」と金を出した。救われたのはそういう演劇ですね。
 バブル崩壊後は、財布の紐がきつくなってますから、「必ず見よう」という演劇だけを選択し、「試しに見てみよう」という演劇を切り捨てました。つまり、「絶対に見る」という演劇だけが生き残ったんですね。
 これは演劇だけの話ではありません。リゾート、流通、金融機関・・・すべてに当てはまりますね。その場限りのバブルはたんなる2日酔いで済ませることができましたが、リゾートなどのハード・バブルは2日酔いから肝硬変へと悪化してますよね。

 「バブルの功罪」ということがよく言われますね。
 バブルの罪ばかり非難されますが、バブルの功もたくさんありました。
 わたしが29歳で事業部を作ることができたのも、ある意味ではバブルだったからだと思います。鴻上さんの業界でも、無名の若い監督が続々とデビューできたのは「バブルの功だ」と言います。いろんな雑誌が登場しました。イベントも、ゴルフのコンペ、賞金もそうです。
 「バブルの功」を生かせた人が勝ってますね。

 「この20年間、若ければ若いほど、セリフがモノローグになる傾向がある。モノローグはうまい」
 この意見は世界の蜷川さんも言ってます。横澤さんから聞きました。この3人とも仲がいいから、きっと誰かがそう言い出して、「そうなんだよね」と同感したんでしょうな。
 セリフには「自分自身に語りかけるセリフ」「あなたに語りかけるセリフ」「みんなに語りかけるセリフ」の3種類があります。話のうまい人は意識的に状況を裏切る。つまり、この3つのセリフ回しを意識的にちゃんぽんにできるんですね。
 「声にはいろいろあります。大きさ、抑揚、スピード、高低、リズム、間、音色・・・」と声の豊かな人は感情が豊か。顔の表情も豊か。感情をコントロールすることは難しいですが、形をコントロールするほうはそれほど難しくないでしょ。
 90円高。