2001年04月09日「大リーグ流理解学」「知的生産 考える技術 私の方法」「10年後の自分が見えるヤツ 1年後の自分も見えないヤツ」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」



1 「大リーグ流理解学」

 タック川本著 オフィス輝 1500円

 著者は大リーグはモントリオール・エクスポズのフロント幹部。むかし、この人の「大リーグ 悪の管理学」(祥伝社)を読んだことがありますが、これが痛快丸かじり。目からウロコが落ちるほど、おもしろかったんですね。
 ネットで本屋をいろいろ覗いていたら、こんな新刊を見つけたのですぐに読みました。やっぱり、目の付け所がシャープですね。

 この本の結論は「自分のことを理解することの大切さ」ではないでしょうか。
 「WHY KIDS」という言葉があります。子どもって、「あれ、ナーニ?」「どうして?」「なんで?」と、嫌になるほど訊きますよね。
 でも、疑問を持つことって大事ですね。手取り足取り教えたら、質問はありません。質問がないのは、ほんとうはわかってない証拠です。大人の知識の押しつけですから、子どもは自分の頭で考えないから疑問が湧いてきません。
 「この地球上でいちばん開発されてないところはどこか?」
 「あなたの帽子の下にある」
 こういうことです。

 メジャーリーガーは大卒でいきなり抜擢ということはないようですね。
 むかし、ヤクルトで活躍したボブ・ホーナーなど、ほんの5人くらいだそうです。ざっと、平均5年だそうです。その間、何をやってるかというと、とにかく技術力、精神力を鍛えに鍛えるんです。いままでの失敗で、「自我」が築かれてないうちにメジャーリーガーにしてしまうと、すぐにつぶれてしまうんですね。競争も激しいし、ヤジやプライベートへの干渉も半端じゃないそうです。
 
 メジャーリーグでよく知られることは、「名選手、名監督ならず」ということですね。現役時代、どんなに超スタープレーヤーでも、管理能力がなければ、ゼネラルマネジャーはもちろん、監督、コーチとしてダメ。
 ですから、「選手として一流になれなければ、監督として一流になろう」と考える人が少なくありません。
 1978年、ジム・ビーティはヤンキースの投手を解雇されました。「ヤツはわがチームでやるには根性がなさ過ぎる」と、オーナーのスタインブレナーにこき下ろされたんですね。
 「あのときのことはけっして忘れない」と彼は言ってますが、それから、どうしたか。
 いま、佐々木やイチローがいるマリナーズで現役を退いてから、すぐに大学に戻ったんです。そして、球団経営に必要な経営知識を学んでMBAを取得後、古巣のマリナーズで選手育成やアシスタントGMなどキャリアを積みます。選手経験もあるし、マネジメントもしっかり勉強。まさに鬼に金棒ですよ。そして、ついにエクスポズのGMの座を手に入れます。しかも、赤字経営が続いていたエクスポズを黒字に転換するんですね。
 ケビン・コスナーもこれを映画化すればよかったんですよ。タイトルは忘れましたが、彼がピッチャー役をした野球映画を以前、観たことがありました。こっちのほうが劇的だな。
 ところで、ジム・ビーティは漠然と「GMにでもなれたらなぁ」と考えていたわけではありません。明確な目的のもと、計画的にキャリアを積んだんですね。これって、やっぱりアメリカンドリームですよね。
 素質、運、努力・・・。
 日本ではどうでしょうか。素質、運、努力より、モノを言うのは「前歴」ではないでしょうか。あとは派閥かな。森さん、ホントは巨人の監督OKしていたんですよね。「でも、世の中には巨人ファンだけじゃなく、長嶋ファンがいる」って、諦めたわけです。これ、本人から聞いたモノ。

 ところで、メジャーリーガーは憧れですが、これを簡単に袖にする人も少なくないそうです。
 実際、著者もスカウトで何回か振られたそうです。で、いったい、どうするのかといえば、たとえば、「医者、弁護士、会計士、起業家になりたいから、野球は趣味でいいの」というんですよ。これが彼らの長年の夢があったわけです。
 これもいいですね。日本の場合、かなり若いころ(少年時代)から、レールが敷かれてますでしょ。悲しいことは、自分で敷いたレールじゃないってこと。これは野球だけじゃありません。
 「何をしたいわけじゃないが、とりあえず、いい学校を出ていい会社に潜り込んでおこう」
 こういうタイプが多いんです。

 著者は「遅咲きのタイプ」を次の4つの理由で説明しています。
1故障型
2経験不足型
3努力型
4遅効性自己発見型
 4番目のタイプは才能、課題に気づくのが遅く、遠回りしてきたという人ですね。大器晩成とはこういうタイプのほうが圧倒的に多いんです。成功する経営者もほとんどこれです。「努力、努力で、この道一筋」というのではありません。
 「いろいろやってみたんですが、気づいたらこんな仕事やってました」
 成功するのは、こういうタイプです。
 100円高。


2 「知的生産 考える技術 私の方法」

 軽部征夫著 三笠書房 1600円

 著者は東大国際・産学協同研究センター長、バイオセンサー開発分野での世界的権威、というよりも、O−157騒動のとき、「これを使えば30分でわかります」というセンサーを開発した人といったほうがわかりやすいかもしれません。
 このときも、アメリカでかつて同様の事件があったので、いつでも開発できるようにスタンバッていたそうです。
 そんな著者が書いた「知的生産の技術」に関する本です。

 驚くほど共感するところが多々ありました。メモの方法や情報収集術など、まったく同じで感動します。
 ポイントを次に記しておきましょう。
 「アイデア創出には強いモチベーションが必要。それさえあれば、9割がたは完成したも同然」。
 「脳は30分も真剣に考え続けると神経伝達物質が放出されにくくなるから、アイデアが出なくなる。会議は30分を限界にするといい」
 「会議でアイデアを出させようとするなら、ちょっといいかなという程度の前ふりでそれとなくスタートさせるといい」
 「常識に縛られていては知的生産で勝つことはできない。非常識も確立してしまえばそれが常識となる」
 「日本人は他人から言動について批判されることに慣れてない。批判のメンタルタフネスが必要」
 「専門など限定せず、情報を広く集めよう。わたしは新聞、雑誌、単行本、クレジット会社の情報誌、同窓会誌、企業広報誌までチェックしている」
 「すべて細大漏らさず書き取るメモはダメ。これでは速記。自分の記憶を信用していない証拠で、これじゃ本質はつかめません。キーワードと概念をメモする。数値を聞き逃さない。これなら、1時間半程度の講演でも3ページもあればいい」
 80円高。


3 「10年後の自分が見えるヤツ 1年後の自分も見えないヤツ」
 落合信彦著 青春出版社 1500円

 むかし、読書術の本を出したときに、落合さんの本を1冊入れたんです。すると、他社の編集者から、「落合信彦まで読んでるんですか?」と驚かれたことがあります。
 これは落合さんに失礼ですよね。わたしは彼の本はすべて読んでます。
 ついでに、すべて読んでるのは、三島由紀夫(高校時代に大ファンだった)、高橋和己(これも高校時代に大ファンだった。「邪宗門」、いいですね。ひとのみち教団だったけかな。モデルは大本教。参考までに大本教の出口眞男さんは知り合いだけど)、安部公房、司馬遼太郎、漱石・・・西村京太郎も一時期凝ったな、すぐ飽きたけど。

 落合さんのいいところは、喝を入れてくれる点ですね。だから、「ビッグトモロウ」などの若い読者に受けるんだね。わたし自身は彼の本を読んで啓発されるから、まだ若いんだと自分で思ってるわけ。彼の本を読んで何も感じなくなったら、そのときが老いたんだと、勝手にリトマス試験紙にしています。
 「まずスタートラインにつけ。観客席で見てるな」なんて、まさしく落合節だよね。
 「金貸しは詰まらない。金は悪い主人にもなるが、いい召使いにもなる」、これはユダヤの格言だけど、こんな話は彼か加瀬英明さんからしか聞けません。
 「いくら自分が嫌いでも24時間一緒に住まなきゃいけないんだから、早いところ、和解したほうがいいよ」

 最高におもしろかったのは2点あります。
 1つは「人材の評価」についてです。
 彼は国際ジャーナリストでものすごい軍事通だから、人材評価もNATOの専門家の物差しを応用します。それは、旧ソ連のミサイルを採点した基準なんですが、次の5点が評価対象になってるんです。
1survivability 生存度
2durability 耐久力
3serviceability  稼働率
4penetrability 浸透度
5accuracy 正確性
 これを「これからの人材」という観点で見るとおもしろいですよ。
 いいですか。
 1はどれだけサバイバルに勝ち抜ける技術、コアコンピタンシィを持ってるかどうか。2はメンタルタフネスですよ。ガッツがなけりゃ始まりません。
 3はどれだけ活躍できるの、使えるのっていうポイントですね。いろんなこと知ってるわりには肝心の仕事はからっきしダメってヤツいるものね。これじゃダメ。
 4は理解力のことで、1を聞けば10わかるっていう鼻から目に抜ける人間のこと。看過力っていうものですよ。そして、5は正確さ。ピンポイントで本質をつかむ頭の良さですよ。
 ねっ、こういうとわかりやすいでしょ。
 参考までに、10点満点で旧ソ連のSS20というミサイルは9.9も取ったんですが、これはアメリカとの軍事条約で廃棄されました。

 おもしろかった2つのうちのもう1点は次のことです。
 いま、新大統領ブッシュは相続税撤廃を提案しています。アメリカの相続税は30%〜55%もあるんですが、おもしろいのはこれに反対している人がたくさいることです。
 そのメンバーが半端じゃないわけ。全米を代表する資産家120名ですよ。名前を出せば、だれもが知ってる人ばかり。
 彼らの反対理由がいいですね。
 「アメリカの活力は努力主義にある」
 これですよ、これ。
 「生まれながらに金持ちではない。銀のスプーンをくわえて生まれてきた人間にアメリカの未来を任せられない」って言うんですね。ゼロから自分の力で築き上げていく。それがアメリカの潜在能力を活性化するんだ、ということです。
 バフェットも次のように言ってますよ。
 「相続税撤廃とは、2000年のオリンピック出場選手の息子は、無条件で20年後、代表になれるようにするものだ」
 子孫に美田を遺さず。子孫には教育とか価値観というポータブル・ソフトウエアを持たせることです。これがいちばん確実です。
 90円高。