2008年05月13日「長江哀歌」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 2006年、ベネチア映画祭でタイトルも知らされてないのに、いきなり金獅子賞。
 これがジャ・ジャンクー監督の「三峡好人」という映画だ。日本名は「長江哀歌」というから、ああ、あれかと思い出す人も少なくないのでは?


土地を開発する資金も技術もある。だが、やらない・・・これが見識つうんだけどね。

 物語は、16年前に別れた妻子を探しに山西省から来た男。2年間、音信不通の夫を探しに来た女。
 100万人もの住民の立ち退き。風光明媚な故郷が三峡ダムの底に沈んでいく・・・そんな現実を映画の背景にしている。

 全長6300キロにわたる三峡ダムの現場は瓦礫の山だ。長江流域の工場や住宅などから年間260億トンの生活排水で窒素、リンなどによる汚染が酷い。水質悪化は世界最悪。河イルカは絶滅の危機にある。

 三峡ダムが完成(本体。来年、全区間完成)したとき、「3年以内に四川省は大地震に見舞われる!」と内外の有識者たちは懸念した。
 にもかかわらず、中国政府は三峡ダムの地質データを一切秘密とし、ダム建設による水位の驚異的上昇が周辺環境に及ぼす影響に目をつぶってきた。
 すべては「経済発展」という大義名分のためである。なにしろ、三峡ダムの発電量は、韓国の原発20基の4割を軽くカバーしてしまうパワーだからだ。

 万里の長城にしても、三峡ダムにしても、中国はむやみやたらとでかいことが大好き。胡錦涛さんは発電技師出身だし、温家宝さんは三峡ダムの事業責任者。権力者にとっては、どんなに環境悪化が叫ばれようが、こんなに美味しい事業を延期するわけがない。

 結果、「3年以内に大地震が起きる!」という懸念は現実のものとなった。「天が落ちてくる!」と心配した杞人の憂がホントになってしまったわけだ。

 四川省の大地震は起きるべくして起きた人為的災害、いやいや政治的災害であることを忘れてはならない。まあ、中国ではこんな真実をだれも報道しないだろうけどね。日本人だけは覚えておこうね。