2008年05月23日「地獄のドバイ」 峯山政宏著 彩図社 620円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

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 ドバイって知ってまっか?
 ああ、あのバベルの塔(バージュ・ドバイ)みたいの建ててる国? そうそう。それそれ。
 うのちゃんが新婚旅行で泊まった、あの世界唯一の7つ星ホテル「バージュ・アル・アラブ」のあるとこ?
 そうそう、そうでんがな。

 ドバイってのは、アラブ首長国連邦(UAE)の1つの首長国ね。連邦だかんね。ほかに6つあんです。
 たとえば、いまサブプライムローンで転けた金融機関が駆け込み寺みたいにすがってるアブダビ投資庁のあるアブダビもお仲間。

 ドバイは石油が出ないから、金融立国、観光立国、貿易港としてやっていこうかということで、連邦内の資金を集めてるわけよ。
 で、いまやアメリカンドリームならぬドバイドリームを夢見て周辺国から出稼ぎに来るわ来るわ。
 でもね、中身はぜ〜んぜんちがうんだな、これが。

 NHKが金融沸騰シリーズの第1回でドバイを取り上げたけど、まあ、レベル的にはやっぱ成金。法治国家ではないし、ひと言でいうと怠惰。
 「UAEの若者を雇うなんてこれほど金の無駄遣いはない」
 これ、自国民の経営者の発言。生まれたときから豊かな国だった10〜20代の世代には、油(の価値)がなくなったら元の生活に戻るんだ、という危機感がないからね。

 UAEつうのは410万人しかいないの。で、アラブ人は2割だけ。パキスタン、アフガン、アフリカ等からの出稼ぎが8割。この人たちでなんとか回ってるわけ。そもそも、働くことを「恥」と考えてる国民性だかんね。
 国民の義務として「勤労」なんて憲法に謳ってる日本とは文化がぜんぜんちがうわけ。

 ところで、著者がどうしてこんなタイトルの本を書いたのか?

 この人も、やっぱドバイドリームを夢見てやってきたわけ。
 でも、ホントはそんな国じゃないよ。とんでもない国だよ。現実を教えてあげる。日給はせいぜい5ドル。人間扱いすらされない。日本のニート、フリーターのほうがよっぽどまし・・・という憤りで書いたのね。

 初日からケチがついた。手荷物引換所でバッグが出てこない。理系の大学を出て、ドバイで成功するには・・・そうだ、鮨職人だと考えて、速成鮨職人スクールで勉強。で、バッグには大切な包丁一式などがすべて入ってた・・・しかたないから、1ヶ月間、ホテルというホテルに飛び込んで直接、折衝すんだけど、やっぱ無理。
 なぜなら、オーナーがすべて仕切ってるわけだけど、6月から2ヶ月間避暑でカナダとか涼しいとこに出かけちゃってたの。

 ひょんなことから肥料会社に拾われるんだけど、ここで働いたがために、そして経営者が勝手に会社を閉鎖しちゃったために、なんの咎もないのに砂漠のど真ん中にあるアブダビ中央拘置所に送致されてしまうわけ。

 理由は・・・「スポンサーシップの解除が滞在法違反」につながったんだと。もち、言いがかりです。パスポートも3年間の労働ビザも居住許可証も持ってたんだから。

 拘置所の係員もインチキばかり。たとえば、入所にあたって持ち物を預ける時、少しでも金目のモノを持ってる囚人にはわざと間違えた引換券を渡すわけ。
 たいていの囚人はビザ無し不法入国者が多いから、持ち物を奪われても大使館には駆け込めない。弱みのつけ込んだ阿漕な連中ですよ。仕事のモラールなんて欠片もない。

 さて、地獄のアブダビ中央拘置所・・・ここは200畳ほどのスペースに300人の囚人。「座って半畳、寝て一畳」という言葉があるけど、200畳に30人じゃ寝られない。

 囚人の国籍は、パキスタン200人、アフガン30人、バングラ・ソマリア・ナイジェリア各15人、スーダン10人、エジプト7人、パレスチナ3人、中国2人・・・そして日本人1人。

 1年以上シャワーも浴びてない囚人たちだから臭いが凄まじい。だって、シャワーなんてないんだもの。トイレなんてのは3つ穴が空いてるだけ。不衛生きわまりない。
 この300人の飲料水の奪い合いがまた凄い。とにかく地獄模様。

 著者は結局、4日間で出所できた。刑務官に直訴したわけじゃない。なにしろ、いくら話しても英語じゃ通じないんだから。

 電話よ、電話。何日間に1回、2時間の電話タイムがあんの。2時間といっても300人ですよ。電話は5台だけ。しかも、テレフォンカードもない。けど、このまま拘置所にいたら永遠に出られない。そこで、電話してるパキスタン人を遮って、カードを奪って強引にかけちゃった。

 2カ所。まずは帰りのチケットを購入した旅行代理店。そこからFAXで拘置所に連絡させる。もう1つはもちろん、日本大使館。

 なぜ電話番号を覚えてたのか? iPODに登録してたのよ。どうして持ってたか? これは動物的直感で絶対に必要になる、と踏んで隠し持っていたわけ。

 それにしても、日本大使館の対応は速かった。囚人たち曰く、世界でいちばん日本大使館の動きが速い。中国大使館なんて、連絡しても半年以上梨の礫。
 「囚人を解放するように」というアブダビ中央拘置所の手続きも異常に速かった。これも相手が日本人だったから。そもそもUAEでは日本人はビザ無しでOKなの。中国人は×。香港人は○。

 とくに日本との関係を重視しているUAEの皇太子が近々、日本を訪問する予定だったのね。こんなタイミングで「無実の日本人が拘束された」とでもマスコミに知れて大騒ぎになったら拘置所長のクビが飛ぶ。
 そういう事情もあった。

 いずれにしても、本書でわかるのはドバイの嫌なところ。

 直近のニュースでも明らかな通り、建設現場の労働者数百人がドバイの大通りを封鎖。
 何ヶ月も給与を払ってくれない。飲料水も支給されない。シャワーもない。労働者以前に、なぜ人間として必要最低限のものすら与えられないのか? それは奴隷だとしか考えてないから。

 この半年間、アラブ首長国連邦。それもドバイだけで大事故が立て続けに起きてる。高層ビルの工事火災。200台も渋滞する幹線道路で大炎上。それに爆発事故・・・。
 あきらかに外国人労働者の反乱としか思えない。

 もともと、UAEは真珠でなんとか食べていた国。60年代まで学校も病院もなかったんだから。そこに「神の思し召し」で石油が出た。
 そんだけ。
 
 いまのうちに勉強し、道徳も教え、なにより勤勉に働くことを教え、正義を教え・・・ないと、元の木阿弥になっちゃう。けど無理だわな。働かなくてもたんまりお金が天から降ってくるんだもんなあ。
 まあ、成金には成金らしくたっぷり無駄遣いしてもらえばいい。「創世記」ではバベルの塔を作った人間は神の怒りを買って、結局、言語を分けられてしまうわけだけど。私ゃ、資源のない日本の国民で良かったよ。250円高。