2001年03月19日「チーズはどこに消えた?」「なぜ仕事するの?」「アー・ユー・ハッピー?」
1 「チーズはどこに消えた?」
スペンサー・ジョンソン著 扶桑社 880円
2匹のネズミ(スニッフとスカリー)と2人の小人(ホーとヘム)が登場する童話仕立てのプラス思考啓蒙の書です。著者は医学博士、心理学者。それに、「1分間マネジャー」で知られてますから、ああ、あの人かとご存じの方も多いのでは。
たっぷりあったチーズが無くなります。そこで本能の赴くままに新たなチーズ探しに出かける2匹のネズミ。チャンバラトリオの南方さんのように「なぜなんだろうな?」と考え込んで、動こうとしない2人の小人。
「あいつら頭悪いから、原因も考えないですぐに動くんだよ」
ヘムはこう言います。でも、このままここで考え込んでも飢えるばかり。そう考えたホーは新たなチーズ探しへと出かけます。そして、あちらこちらを探すうちにだんだん気づいてきます。
この気づきのプロセスが企業研修で受けてるとこなんですね。
「変化を避けたり、逃げたりすることが最大のリスクである」ということが結論とお見受けしましたが、わかったような、わからなかったような気分になるのは、「御節ごもっとも。わかっちゃいるけどできないんだよね」という気持ちがあるからでしょう。
既得権を謳歌している人たちは変化を極端に怖れますね。だから、規制緩和に大反対。でも、ホーが言うとおり、「変化とは何かを失うことではなく、何かを得ることなんだ」と思いますよ。
ヘムは古いチーズが無くなったとき、「こんなことがあっていいわけがない」と叫びます。
でも毎日、毎日食べてたんですから、少しずつ少しずつ減ってたわけですよ。
だれかが隠したわけではありません。自分たちで食べ尽くしてしまったのです。ヘムの発言は、なんか、株暴落とか日本国の格付け引き下げのときの宮沢財務大臣とオーバラップしてしまいましたよ。
「こんなことがあるわけがない」「どこかおかしい」
おかしいのは、宮沢さん、あんたの頭だよ。この人、「いわゆる頭の良さ」では日本でもトップクラスだと思います。でも、「使える頭」かどうかという点では、鮫の脳みそと定評のある森さんと五十歩百歩じゃないかな。どうだろう。
ついに新しいチーズを見つけたホーは考えます。
「もし、恐怖がなかったらどうしていただろうか?」
背水の陣という言葉がありますが、恐怖がものすごいエネルギーになったのは事実ですね。ルーズベルトだったでしょうか、「われわれが恐れるべきことは恐怖そのものではなく、恐怖に怖れてなにもできなくなることだ」と言ったことがありましたが、まさにこれですね。
わたしは福沢諭吉のことを思い出しました。なにかの本で書きましたけど、彼は江戸に来たときぶらりと横浜に寄るんですね。すると、あれほど勉強したオランダ語がまったく話されてないことに気づきます。
もう英語の世の中だったわけですね。
その事実を適塾のみんなに話します。すると、ほとんどの塾生は「あんな勉強をもう1度やらなければならないのかるのか。もう嫌だ」と絶望して勉強をやめてしまいます。福沢は覚悟してもう一度いちから勉強をやり直すんです。でも、そこはヨーロッパの同じ言語です。共通するものも多いし、あっという間に覚えてしまいます。
「あと1歩の努力」−−これは踏み出した人にしかわからないことなんですね。
35円高。
2 「なぜ仕事するの?」
松永真理著 角川文庫 500円
ご存じ、iモードの仕掛け人と言われる真理さんの本です。
これ、7年前の本なんですね。しかも、講談社から出た本です。どうして、簡単に角川にあげたんでしょうか。いま、いちばん注目されてる人なのに。範型を変え、内容を少し書き直してもらって出版すれば良かったのに。今度、講談社の出版の偉いさんに訊いときます。
女のビジネスウーマンが同性の上司、同僚を見るとき、「ああはなりたくない」という眼で見るか、「ああはなれない」という眼で見るか。いずれにしても、悪意と敵意の眼で見てるとか。おぉ、こわ。
「人生ぬくぬくプラン」と「人生わくわくプラン」の対比や、「転職のときにはじめて、日本人は(就社ではなく)就職を考える」という意見とか、なかなか面白く読めました。
たしかに、いいセンスしてます。
この人、ゼロから何かを生み出すというタイプではないようです。どちらかというと、ものすごく目利きなんだと思うんです。周囲に優秀な人たちがたくさんいて、その中から「あっ、それ、面白いね」「あっ、それも」という具合にいろいろピックアップする。それをパッチワークよろしく、みごとな絵に仕立て上げる。そんなビジネスクリエイターなんじゃないかな。
「ビジネスの演出家」ってヤツだよ、きっと。今度、本人に会ったら訊いてみようっと。
25円高。
3 「アー・ユー・ハッピー?」
矢沢栄吉著 日経BP社 1300円
永ちゃん。いいですね。しかも版元が日経BP社。二重にいいですね。
この人は生き方そのものがものすごくいいメッセージになってるんだよね。本を読んでると、「くだらないことでごちゃごちゃ悩んでるんじゃないよ。こっちはこんなに吹っ切れてんだからよ」という声が聞こえてきます。
この前、「成りあがり」を紹介したと思うけど、そのとき、ホントはこっちの本を紹介するつもりだったわけ。でも、どこ探しても見つからなかったんです。なんと、本棚の下に入ってました。
「オレももう51歳になった。50代でのはすごくいいもんだ。たんに年輪を重ねたからいいっていうんじゃない。気持ちがストレートに出せる。まわりの環境であるとか、そこで起こっているものがすごくストレートに見えるようになるんだ。バランスの取れた、この立っている位置がたまんなく愛おしい」だって。
「オレは身内にパクられた。被害総額は30億円以上。すべて借りた金だ。その借金をすべて背負うのはやつらじゃない。オレだ。愕然とした」
数年前にマスコミを賑わせたように、彼はオーストラリアのビル建設をめぐって、長年のパートナーに詐欺にあいます。銀行のレターヘッドと支店長のサインまで偽造して、ニセの報告書を毎月、東京に送ってきた。詐欺、横領、公文書偽造、私文書偽造・・・。起訴件数、なんと73件。
この事件があろうとなかろうと、銀行への返済は一度も滞ったことがありません。にもかかわらず、報道を聞いて銀行マンが慌てて飛んできた。それで、彼はマネジャーに言います。
「来月から倍返しにしてやれ」
翌月から倍の金額で返済。銀行はびっくりします。それから二年、銀行への負債額が確実に減ってきた。すると、また慌てて銀行がやってきた。
「いままでの失礼、おわび申し上げます。水に流してくれませんか。末永くお付き合いいただけませんか。運転資金が必要であればご用意いたします」
彼は考えて言った。
「ノー。今は結構です。また必要なときがきたらお願いします」
永ちゃんがお金をパクられたのはこのときが最初ではありません。それまでにも、細かいことを数えたらかなりあったと思いますよ。キャロルの売り出しに当たっても、無知をいいことに周囲の人間たちにほとんどパクられてるんですから。
九州のイベントメーカーから一通の手紙が届きます。「地方の興行師のほとんどが矢沢永吉のことを最悪だと言ってます」と。プロモートを任せている身内は、「50万で話し合いがつきました」という報告。実は、その契約は150万だったんですね。ほかにもたくさんありますがこれがまる5年間です。契約書はすべて破棄されてます。外務省と同じです。
でも、1人がたまたま残したノートが見つかった。やっぱり二重帳簿だったんですね。それできっちり落とし前をつけます。それが永ちゃんらしい。
永ちゃんて、哲学者みたいなとこがあるんだよね。それはきっといつも考えてるからだ、と思うんだ。人間が深くなるのは、自分の頭で考えているから。考え抜いてる人というのは、やっぱりいいメッセージを発します。
「臆病というのは、いつも自分にクエスチョンしてるやつだ。大丈夫かなぁ?、お前後悔してない?、気持ちいい?、なんかおかしいと感じる?、常にことことことこと、自分で自分に通信している。自分で自分を理屈でちゃんと納得させる。臆病さは人間として素直な部分だと思う。オレが臆病だというのもわかっている。世の中で大成した人ほど臆病だと思う。
臆病じゃなくて、とことん行ける人はただの無神経な人だ。無神経な人は抑揚がなくてつまんない。つまんない人は大成しない。つまんない人はわびさびがない。臆病というのは本当は奥深いものだ。だって、臆病っていうのはある種のレーダーじゃないか。勇気ってのも、臆病な人間だけのものかもしれないよ」
永ちゃんはツッパリです。どんなツッパリか。
キョードー(コンサートなどのプロモーション会社)と手を切ったら自分で制作するしかない。ところが、その年一年間、68ステージ、タダでやったも同然。持ち出しだった。ツアーが終わって、キョードー・グループの社長に食事に誘われた。
「矢沢よ、懲りただろう。制作はわが社にまかせたまえ」と言いたい顔をしていた。
「社長、本当にありがとうございます。勉強になりました」
社長はニヤニヤしている。
「矢沢さん、そうでしょうそうでしょう」
「収支は追いつかない、成り立たないことがよくわかりました」
「ふむふむ、そうでしょう」
「それでまぁ、今回やってみて改めて気持ちが燃えました。なぜもっと早くうちの会社で制作をしなかったのかと思ってます」
その瞬間、ニヤニヤしていた社長が厳しい表情に変わります。
こういうツッパリなんですね。
150円高。