2008年06月13日「霞が関埋蔵金男が明かす お国の経済」 高橋洋一著 文藝春秋 735円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 著者は大蔵省に「変人枠」で採用された異端児(だって本人がそう言ってるんだもん)。小泉・竹中改革の知恵袋として「政治任用」された、人物。
 そうそう、『さらば財務省!』(講談社)がベストセラーになってますな。

インタビューに答える形で、まあ好きなことをしゃべってますなあ。「おいおい、そこまで言っちゃっていいのかよ?」と突っ込みたくなる。

 たとえば、日銀総裁のあまりにも軽い存在。あれはサーモスタット。デフレ、インフレの目標数値を決めておいて、そこに来たら公定歩合を上げたり下げたり。つまんない仕事。そのうち、必要なくなる時代が来る。
 財務官僚は経済音痴。追及すると答えられなくなる。マスコミや政治家がころっと騙されるのは、彼ら以上に経済音痴だから。
 一般会計は赤字だけど、特別会計は潤ってる。各省庁に埋蔵金はある。しかも、小泉内閣の時に突っ込まれて20兆円も吐き出したのは当の財務省。きまりが悪くて他省庁も道連れにしたけど、ほかのは1兆円しか出なかった・・・なんてね。
 ここらへんが変人の面目躍如というものだよな。

 著者は東大理学部数学科。で、経済学部に学士入学するわけ。で、大蔵省に入るわけ。
プリンストン大学では、あのベン・バーナンキさんから指導を受けてます。

 大蔵省の本流はもちろん、東大法学部。経済学部なんてホント少ないからね。当然、彼らは法律はそこそこ詳しい。司法試験もトップ合格という人もいるからね。
 けど、経済は外野。わかんない。まして、デリバティブやサブプライムといった比較的、新しい金融恐慌、金融技術にはめちゃ疎い。

 そういえば、財務省の失政、失策を鋭く指摘してる野口悠紀雄さんも東大工学部から大蔵省だったなあ。

 埋蔵金というのは、与謝野薫さんが主催する財政改革委員会で飛び出てきた言葉なのね。
 特別会計の資産から負債を除いた「資産負債差額」ね。

 特別会計のバランスシートをチェックすればだれでもわかる。いままでわからなかったのは、そもそもバランスシートがディスクローズされてなかったから。

 経済財政諮問会議で算式を作って各省庁にやらせたら、出るわ、出るわ。莫大な隠し資産がたっぷり出てきた。

 一般会計のほうはじり貧でピーピー言ってるのに、特別会計はめちゃお金持ち。「母屋(一般会計)でおかゆをすすってるのに、離れ(特別会計)ですき焼き食べてる」と、かって塩爺が言ってた通りだった。

 一般会計は国会でもいろいろ議論されるけど、特別会計はノータッチだもんなあ。

 特別会計ちゅうのは、予算に「道路○○特別会計(国交省)」とかで各省庁が勝手に使ってる予算ね。これ、一応、財務省が「管理」することになってんだけど、中身がわかんないからこれまたノータッチ。各省庁も「財務省さんには迷惑かけませんよ」と言い張るから、それまで。つまり、財務省はいままで(これからもかな?)査定なんかしてないのよ。

 で、「財政融資資金特別会計(財務省)」という特別会計が25兆円もあるとわかった。著者が竹中さん(当時、金融担当大臣)に報告すると、「ほんとうか」「ほんとうか」と何度も聞き返したというほど驚いた。

 なぜかというと、小泉さんが赤字国債30兆円を抑えられそうになくて、国会で連日、野党の追及にあってたからですよ。首相がどんなに困ってようと、「公にしたら損だ=省益にならない」と財務省は知らんぷり。

 結局、財務省の幹部は竹中さんから追求されて、しどろもどろの回答。で、結局は吐き出させられちゃうわけ。

 財務省も外務省以上に伏魔殿なんですな。この埋蔵金について、ペーパーを小泉さんにあげなくちゃいけないんだけど、総理周辺には「秘書官」というスパイ(各省庁から送り込まれた)がいるわけですよ。最初、ペーパーであげたら、「全文削除」を命じられちゃった。
普通、せいせい1行くらいの削除なのね。それが今回は全文削除! これを命じた総理秘書官(財務省出向)はいま、財務省官房長をやってます。

 財務省のイエスマンともいうべき谷垣財務大臣が竹中さんとやり合うわけだけど、証拠があるから議論に勝てるわけがありませんわな。

 冬柴国交大臣にしても、道路公団民営化のとき、道路需要データがふるいにもかかわらず、「これが最新です」と何度も言い張って恥じかいちゃった。
 官僚というのは大臣がどんなに困ろうが、省益確保、省益維持のために懸命になるのね。国の安全保障より自分たちの安全保障をなにより優先。自分たちの利益が確保された余りを国民にもシェアしてやろうか、というスタンスなんですね。

日銀総裁の仕事は「物価の安定」にあります。福井さんが総裁の時は、内々で「デフレ脱却」と言ってたのね。けど、これ、失敗します。5年の任期中、あの人、なにもできませんでした。

 デフレの時にはなにやったらいいか?
 これ、高校生の教科書にもあります。マネーサプライを増やすことですよね。デフレって、お金が少ないことでしょ? けど、福井さんがやったのは真逆。
 だから、プリンストンでは、「日銀はバカだ」と言われ続けてたらしいですな。

 たしかに、あの人、0.5%くらいのインフレ率で0金利解除しちゃったもんなあ。これ、速水総裁もそうでした。早過ぎたわけ。デフレ、インフレというのは経済が動いてるんで上方バイアスがかかるわけ。どちらにしても、少しオーバーなんです。割り引いて考えないと実態経済には合わないんです。
 それが証拠に、海外(中央銀行)ではインフレが1%くらいじゃ動きません。3%くらいになって、はじめて金融引き締めに転じるわけ。

 けど、日銀というとこは「過度の金融引き締体質」なのよね。なにかというと、公定歩合を上げたがるわけ。
 バブル崩壊時もそうでしたよね。三重野さんは平気で利上げしてたもんなあ。で、金融緩和するときは5年くらいかけてた。遅いんだよ。

 いま、日本の株価が下がってるでしょ。NYダウと連動してるから下がってるように見えるけど、本質的にはちがうの。
 NYダウはサブプライムショックのせい。日経平均株価の下落は、ずばり言うと、マーケットにお金がないからなの。日銀総裁が金融緩和してごらん。急騰するから。このポジション、待ってもいいよなあ。260円高。