2008年07月29日「夫婦の格式」 橋田壽賀子著 集英社 735円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 橋田先生の本。あの「渡鬼」の橋田センセ。
 私、この人、大好きなのね。内舘牧子さんも大好きなんだけど。

 なにが好きかって、実に男前の女性だからなのね。

 男前って、男勝りとは違います。正論を吐き、それだけじゃなく、大局観をつかんで、それでいて、逃げ所もきちんと用意して、見ぬふりもできる。けど、力あるもの、権力を振りかざすものには断固として戦う・・・侠気ですな。

 そうそう、侠気と書いて「おとこぎ」と読ませるわけさ。

 元々、松竹の脚本部に3000人からの募集の中、選ばれた6人。女性は彼女1人。男性社員はすぐに脚本のイロハを仕込んでもらえるのに、お茶くみ、おさんどん、犬の散歩・・・こんな仕打ちに嫌気がさして1人でストライキ。
 でも、だれも味方になってくれなくて、勝手に旅に出ちゃった。山形の最上郡にも行っちゃった。それが後年、「おしん」で活きた。男前ですな。

 40歳過ぎた頃に、仕事にも人間関係にも疲れて結婚しようと思った。

 「この人しかいない!」
 
 それが「ただいま11人」ちゅうドラマのプロデューサーをしてた岩崎という男。とにかく理屈っぽくて威張ってる。それに当時のTBSのボーナスは凄かった。正直、それに憧れた。現実的? 40過ぎてるんだもん、当然。

 「玄関に靴が散らかってるぞ」
 「今日は掃除したのか!」

 「渡鬼」で角野卓造さんや前田吟さんがぐちゃぐちゃ文句ばかり言うのは、みな、ご主人がモデル。

 このご主人を立てるのに一苦労。
 「仕事の依頼があるんですが、受けてもいいでしょうか?」
 すべて、許可を受けていたんですね。しかも、印税や講演料もすべてご主人の口座に入れてた。男前ですな。

 ところで、「渡鬼」では、出演者たちにしつこいほど、きれいな言葉遣いをさせています。こんな言葉、いまの高校生は話さないよと指摘されて、「作家としての願望ですから」とそのままにしてもらってる。
 流されたくない。そんなに流行語を使いたいならほかの番組でやればいい、と。男前ですな。

 夫婦間で男女平等はあり得ない、というのが持論。

 かつて、「中ピ連」という戦闘的なフェミニストの団体かありました。ピンクのヘルメットをかぶって会社に乗り込んだりね。選挙にも出たけどボロ負け。肝心の党首が選挙に立たず、ビル解禁を叫んだものの、製薬会社との癒着が暴かれ、開票2日目に解党の憂き目にあうわけ。

 「アメリカの受け売りで女が自由になれるわけがない」「こんなものに惑わされてはいけない」と思って書いたのが「おんな太閤記」。
 「女の欲ばかり主張する世相だから、内助の功を書きたかった」と。男前ですな。

 男前の女性に共通することは「群れない」ってことかな。群れずに持論を通そうと思えば、そこには知恵とか戦略が必要だよ。とりわけ、男に協力してもらう技がいるわな。
 つうことは、「大人の女」じゃないとできない芸当なのよ。

 いたずらにフェミニストを気取ってる女性って、男が近づかないけど、こういう「大人の女」は男にも人気があります。

 「帰ってくるなり愚痴り始めるのは、精神状態はごく正常。外に出てストレスのない男なんていない。愚痴も言わなくなったら、そのときが夫婦のいちばんの危機」
 「男のくせに。言いたいことがあったら外で言ってきなさい」

 外で言えない事情を理解しないとね。愚痴も文句もすべて包み込んでしまう器量がないとな。「ああ、この人は私に甘えてるんだな」というね。だから、男前なんだろな。

 厚労省の統計によると、日本の婚姻件数は戦後そんなに大きな変化はないのよ。年間70〜100万件。ここ数年は75万件くらい。
 ところが、離婚となるとかなりちがうのね。

 昭和40年までは年間7〜8万件。平成に入ると急増。いまや、27〜28万件。つまり、10組の結婚があると4組は離婚するちゅう計算ね。
 大きく目立つのはその内容。つまり熟年離婚の激増ね。たとえば、平成18年、結婚生活20年以上、30年以上の離婚はそれぞれ38000件(昭和50年7000件)と11000件(同800件)。

 ここまで我慢したんだからもう少しじゃないの? と、女性は考えない。退職金を慰謝料に離婚する。こんな男と同じ墓には入りたくない。爺には用はない・・・というわけね。
 で、定年退職の日をゴールに、女性は情報武装してるわけ。

 「長いこと、お世話になりました。あとはよろしゅう。ほな、サイナラ!」

 人ごとちゃうねんで! 女は結婚した日から離婚を考えてるやで! 300円高。