2008年08月13日夏休みの特別読書道場!「ひとごろし」 山本周五郎著 小学館 2100円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 暑いですな、ホントに暑い。けど、朝晩、ほんの瞬間ですけど、少し過ごしやすくなってきました。この夏の盛りに秋の気配がしてきているんですね。

ら 北京は実質、戒厳令下のようですね。街中はマシンガン抱えた警察官。ちょっと歩いただけでも手荷物検査。1日10回以上というんですから、こりゃ戒厳令でしょ、やっぱし。

 なんと言っても、痛快だったのはオリンピック。北島康介選手と女子柔道、谷本歩実選手の金メダルですね。とくに、ポイント制という不快指数100%のJUDOから、すべて一本勝ちという柔道を見せてもらって、日本人は快哉を叫んだと思いますよ。

 内柴正人選手もそうですけど、金メダリストの戦い方は「柔よく剛を制す」というより「虎穴に入らずんば虎児を得ず」のような攻めて攻めて攻め抜く中で勝機を見いだすもののような気がします。


 さて、今回もなぜか山本周五郎作品から。「山本周五郎中短篇秀作選集4 結ぶ」ですね。
 これまた、映画にもテレビにもなりました。松田優作さん主演のDVDは持ってるんですけどね。植木等さんのも見てみたいですなあ。


映画は原作にまったく忠実に描かれてます。V6の岡田准一さんの次回作にどうだろ?

「わたしに縁談の話が来ないのは兄上のせいです。兄上が臆病者と言われているから来ないのです」
 家ではいつも妹からやいのやいの言われ、家中では役職はあれども実質的にお役ご免の扱い。
 虫を見ても犬を見ても恐がり、夜中に1人で厠に行けず、剣の修行などさらさらしたことがなく、とにかく、だれからも「福井藩きっての臆病者」という烙印が押されているのが双子六兵衛という若侍。

 ところが、臆病者ほど途方もない行動に出ることが少なくありません。まあ、早い話が浅薄のひと言なんですが、「ここで名誉回復を」と考えてもおかしくはない。

 いったいなにをやったかというと、だれも引き受け手のない「上意討ち」を買って出たわけです。

 なぜだれも名乗りでないのか? 相手が強すぎるからです。どのくらい強いかというと、福井藩のお抱え剣術指南役であることからも推察できよう。

 この武芸者仁藤昂軒が藩主のお側小姓を斬ってしまい、「上意討ち」となるわけです。

 六兵衛? もちろん、剣の腕はとっても弱い。「取り消します、と願い出た方がいい」と勧める妹を振り切って、真夏に、昂軒を追うわけです。

 3日目に昂軒に追いついたものの、後姿を見ただけで心臓がとまる。翌日、こともあろうに昂軒を追い越してしまい、逆に呼び止められたると、這々の体で思わず、「ひとごろし!」と叫んで逃げ出した。

 この叫び声が道を拓きます。「ひとごろし!」と叫び声をあげるだけで、旅人や商人たちは上を下への大騒ぎ。

(世の中、俺みたいな臆病者ばかりなんだな)
 
 それから、昂軒が立ち寄ろうとする飯屋や宿で、「ひとごろし! その男は福井で何人も殺してきたんだぞ!」と大声で叫ぶ。すると、だれもが彼を入れようとしない。

「ええい尋常に勝負いたせ。おぬしも武士なら武士らしく戦え」
「尋常に勝負したら負けます。私は私のやり方で戦います」

 私のやり方とは、「ひとごろし!」と叫んで孤立させること。こんなことが何日も続くうちに、さすがの昂軒もノイローゼになってしまいます。
 とうとう、「もう嫌だ。わしは腹を斬る! この首を持って国に帰れ」・・・この一言から話はとんだ方角に転がっていきます。

 強いばかりが男じゃありませんね。弱者には弱者の戦い方があります。強い人間と同じやり方をしては永遠に勝てません。
 自分は強い人間なのか、それとも弱い人間なのか・・・まず、ここをきちんと分析するというか、自己観照しておく必要がありそうですね。500円高。