2008年09月26日「政権交代」 榊原英資著 文藝春秋 1300円
小泉さん、政界引退とか。なんとまあ機を見るに敏な政治家ですこと。
神通力が無くなった? じり貧になるより潔さ優先? 引き際の美学? とんでもない。もし、こんなこと言ってるキャスターがいたら、その人、政界のど素人。
彼が辞めたのは、小沢民主党が政権につくことを見越しての判断ですよ。つまり、小沢民主党に小泉・竹中コンビがいかに日本を没落させたかを検証されて、日本国民から非難されることを怖れての敵前逃亡。
早い話が、この人もまた「放り投げ政治家」だったということです。
脱兎のごとく・・・。
今朝の新聞各紙は麻生内閣の支持率を53%(日経)、48%(朝日)と報道。「自民が民主を逆転!」だなどと脳天気なことを言ってますけど、あの福田さんだって58%あったんだよ。
それより、私ゃ小泉引退を聞いて次期衆院選は100%民主ボロ勝ちを確信しましたよ。
さてと、小泉さんのおかげで「景気が良くなった」「日本企業のバランスシートが改善した」と錯覚してる人の洗脳を解いてあげましょう。
あのね、景気が良くなったのもバランスシートが良くなったのも、小泉・竹中コンビのおかげではありません。つうか、景気の足を引っ張ったのが彼ら、といってもいいでしょう。
近接未来の景気を予測する指標になる実質民間設備投資の伸び率ですけど、80〜90年まで年平均8.4%。それが91〜02年には年平均0%に落ち込んじゃった。つまり、「失われた10年間」は企業も銀行もじっと我慢の子だったわけ。
ようやく00年になって、バブル崩壊で傷ついたバランスシートも、借金を返してなんとか改善。そこで設備投資に打って出ます。
これが景気を底上げしたんです。
だってわかるでしょ? 設備投資が景気にいちばん重要じゃないですか。流通で言えば、店舗の拡大とか商品の大量仕入れとかね。
三越・伊勢丹が店舗閉鎖を発表しましたけど、これ、設備投資と逆。納入業者は困る。売上は減る。税収も減る。「閉店ガラガラ、パッ!」がいかに経済を弱くするかわかるでしょ。
で、00年以降、日本企業、とくに経済的輸血を担う金融機関を本格的に回復させるに当たって、功を奏したのは小泉・竹中コンビの構造改革政策ではありません。
それは98年の小渕内閣、もっと具体的にいえば、宮沢喜一大蔵大臣の早期健全化法だったんですね。
早期健全化勘定25兆円、金融再生勘定・特例業務勘定60兆円。この空前公的資金枠を用意したことで、自己資本不足に陥っていた金融機関が息をついたんです。
この手の大きな経済政策は即効性があるものではなく、2〜3年かかるんです。たまたま、そのとき、総理だったのが小泉さんだったに過ぎないんです。
反対に、小泉・竹中コンビがしたことはなにか? まず、合併させる必要のないUFJ銀行を検査で締めあげて東京三菱銀行に押しつけた。
で、日経平均株価を8000円割れにしちゃったでしょ。いまならクビでっせ。けど、ワイドショー漬けの有権者は気づかなかった。
で、看板の構造改革にしてもなにができました?
道路公団の解散? あれ、解散はしたけど、高速道路株式会社と日本高速道路保有・債務返還機構になっちゃったでしょ。
07年、国土交通省は10年間、国の財源を使い切り続けてすべての高速道路を建設する、という「道路の中期計画」を発表してまっせ。ゾンビですな。
元もと、道路公団廃止の目的は、ムダな道路をもう造らない、造らせちゃいけないということじゃなかった? 結局、これから10年ずっと造り続けることになっちゃった。これ、だれのせいなんだろ?
「低利で緊急融資してほしい。でないと年を越せない」と叫ぶ中小企業の社長さんがたくさんいます。これも小泉・竹中コンビが破壊しちゃった。
元もと、低利で融資する業務ってのは中小企業金融公庫が担ってきたわけ。ところが、竹中さん、これを国民生活金融公庫と農林漁業金融公庫と国際協力銀行等と一緒に解散させて、株式会社日本政策金融公庫を新たに作ったわけ。小泉・竹中コンビが得意な「民営化」ですね。
さて中小企業金融公庫が民営化され、しかも一般貸付は廃止されちまったらどうなるか?
市中銀行から借りるしかない。だけどさ、よ〜く考えないといけないのは、民間銀行ちゅうのはリスクに応じた金利をとりまっせ。貸出にしても通常、貸倒れリスクの高い中小企業には金利も高くなります。これ、金融機関ならどこでもやってること。こうなると、いやでも金利は高くなります。いやいや、そもそも貸してくれないっしょ。
このコンビのおかげで、息の根が止まる中小企業が年末にかけてヤマほど出てくるでしょうなあ。
もっと大きく言えば、原油高・資源高の昨今、日本の資源政策はこれからどないすんねん?
小泉・竹中コンビは石油公団を廃止しちゃったけど、原油や資源の開発といった国家レベルの事業は成功するかどうかわからないほどリスクが高いもんだよね。
この手の事業を民間企業に任せていたら資金が続くわけがない。怖くて手が出せない。アラビア太郎はもういないんだよ。
資金的にバックアップするためにも石油公団は必要だったのよ。なんでもかんでも民営化すりゃいいってもんじゃないの。
いま、地方が疲弊してますけど、地方交付税交付金の削減、税源移譲が行われています。地方自治体を中央官庁による支配から解放する、というわけね。
ところが、結論から言うと税源移譲額よりも補助金削減額のほうがはるかに多かった。どのくらい多いかというと、3兆9000億円に対して6600億円。これじゃ突然死しちゃうのも当たり前だわな。
さてさて、肝心の「政権交代」ですけど、いまの自民党政治は賞味期限切れなのよ。逆に言うと、いままでよくもったと思う。
でね、ひと言で自民党政治といっても、大きく3つに分けられるの。
まず、吉田茂(麻生さんの祖父)から池田勇人、佐藤栄作までの自民党。これは「経済成長」を実現しました。「貧乏人は麦を食え」という発言ばかりが有名だけど、池田勇人の所得倍増政策なんか、1960年144000円、64年247000円、66年319000円と所得は10年足らずで倍増させちゃったもの。
64年にはオリンピック。この特需で求人倍率は1を超え失業率も激減しました。
けどね、「経済成長」くらいならちょっとまともな国ならできるのよ。日本の奇跡は全国隈無く富が分配されたこと。こんなことは世界でも類を見ません。
つまり、自民党政治の第2幕は田中角栄政治ということ。彼は都市と農村の収入格差・生活格差を発生させず、高度経済成長を実現しちゃったんだもの。
もち、トリックは簡単。農家対策です。
大きく2つあるんです。1つは農家の安定的収入確保を図ったこと。どうやって? 農産物の価格維持制度を作ったわけ。
もう1つは農業以外の収入を確保させたこと。ほら、地方へのインフラ整備ですよ。工場建設とか公共事業ね。ダムや高速道路が田舎にドカドカできたのもその一環。おかげで出稼ぎにいかなくても済んだわけでしょ。
だから、当然、農村部は自民党の大票田になるわけよ。
ところが、残念ながら、日本の高度経済成長も終焉を迎え、中国とかタイとかベトナムとかが勃興してくると、「こっちで作れば安くなるよ」ってわけで工場が海外に移転しちゃった。
高速道路のおかげで跡継ぎがどんどん都会に行って帰ってこなくなっちゃった。おかげで農村人口は激減。公共事業も激減したから、あまり自民党を応援する甘みも無くなった。
これらか複合的に組み合わさって、いま、自民党が弱体化する原因になってますな。もうね、いままでの仕組みじゃダメなのよ。にもかかわらず、ドラスティックに自己改造することを怖れて従来通りで来ちゃった。
小泉・竹中コンビが唯一できたことは「自民党をぶっこわす」ということかな。
さて、著者は与党の政調会と政府がまったく違う政策を提案する。政府と独立して党が政策を決定してるのは日本と共産国家だけ。
行政をスリムにする。いまある機構で残すのは外務省、防衛商、警察庁、国税庁、金融庁、環境省、内閣府くらい。教育、国土交通などは内閣府の機能を拡大して当たればいい。
そして、イギリス型内閣を志向する。つまり、与党の主要議員が大臣、副大臣、閣外大臣などの形で内閣に入るというわけ(たとえば、全省庁で100人前後)。こうすりゃ、与党と政府が完全に一致した政策を展開できるわな。350円高。
神通力が無くなった? じり貧になるより潔さ優先? 引き際の美学? とんでもない。もし、こんなこと言ってるキャスターがいたら、その人、政界のど素人。
彼が辞めたのは、小沢民主党が政権につくことを見越しての判断ですよ。つまり、小沢民主党に小泉・竹中コンビがいかに日本を没落させたかを検証されて、日本国民から非難されることを怖れての敵前逃亡。
早い話が、この人もまた「放り投げ政治家」だったということです。
脱兎のごとく・・・。
今朝の新聞各紙は麻生内閣の支持率を53%(日経)、48%(朝日)と報道。「自民が民主を逆転!」だなどと脳天気なことを言ってますけど、あの福田さんだって58%あったんだよ。
それより、私ゃ小泉引退を聞いて次期衆院選は100%民主ボロ勝ちを確信しましたよ。
さてと、小泉さんのおかげで「景気が良くなった」「日本企業のバランスシートが改善した」と錯覚してる人の洗脳を解いてあげましょう。
あのね、景気が良くなったのもバランスシートが良くなったのも、小泉・竹中コンビのおかげではありません。つうか、景気の足を引っ張ったのが彼ら、といってもいいでしょう。
近接未来の景気を予測する指標になる実質民間設備投資の伸び率ですけど、80〜90年まで年平均8.4%。それが91〜02年には年平均0%に落ち込んじゃった。つまり、「失われた10年間」は企業も銀行もじっと我慢の子だったわけ。
ようやく00年になって、バブル崩壊で傷ついたバランスシートも、借金を返してなんとか改善。そこで設備投資に打って出ます。
これが景気を底上げしたんです。
だってわかるでしょ? 設備投資が景気にいちばん重要じゃないですか。流通で言えば、店舗の拡大とか商品の大量仕入れとかね。
三越・伊勢丹が店舗閉鎖を発表しましたけど、これ、設備投資と逆。納入業者は困る。売上は減る。税収も減る。「閉店ガラガラ、パッ!」がいかに経済を弱くするかわかるでしょ。
で、00年以降、日本企業、とくに経済的輸血を担う金融機関を本格的に回復させるに当たって、功を奏したのは小泉・竹中コンビの構造改革政策ではありません。
それは98年の小渕内閣、もっと具体的にいえば、宮沢喜一大蔵大臣の早期健全化法だったんですね。
早期健全化勘定25兆円、金融再生勘定・特例業務勘定60兆円。この空前公的資金枠を用意したことで、自己資本不足に陥っていた金融機関が息をついたんです。
この手の大きな経済政策は即効性があるものではなく、2〜3年かかるんです。たまたま、そのとき、総理だったのが小泉さんだったに過ぎないんです。
反対に、小泉・竹中コンビがしたことはなにか? まず、合併させる必要のないUFJ銀行を検査で締めあげて東京三菱銀行に押しつけた。
で、日経平均株価を8000円割れにしちゃったでしょ。いまならクビでっせ。けど、ワイドショー漬けの有権者は気づかなかった。
で、看板の構造改革にしてもなにができました?
道路公団の解散? あれ、解散はしたけど、高速道路株式会社と日本高速道路保有・債務返還機構になっちゃったでしょ。
07年、国土交通省は10年間、国の財源を使い切り続けてすべての高速道路を建設する、という「道路の中期計画」を発表してまっせ。ゾンビですな。
元もと、道路公団廃止の目的は、ムダな道路をもう造らない、造らせちゃいけないということじゃなかった? 結局、これから10年ずっと造り続けることになっちゃった。これ、だれのせいなんだろ?
「低利で緊急融資してほしい。でないと年を越せない」と叫ぶ中小企業の社長さんがたくさんいます。これも小泉・竹中コンビが破壊しちゃった。
元もと、低利で融資する業務ってのは中小企業金融公庫が担ってきたわけ。ところが、竹中さん、これを国民生活金融公庫と農林漁業金融公庫と国際協力銀行等と一緒に解散させて、株式会社日本政策金融公庫を新たに作ったわけ。小泉・竹中コンビが得意な「民営化」ですね。
さて中小企業金融公庫が民営化され、しかも一般貸付は廃止されちまったらどうなるか?
市中銀行から借りるしかない。だけどさ、よ〜く考えないといけないのは、民間銀行ちゅうのはリスクに応じた金利をとりまっせ。貸出にしても通常、貸倒れリスクの高い中小企業には金利も高くなります。これ、金融機関ならどこでもやってること。こうなると、いやでも金利は高くなります。いやいや、そもそも貸してくれないっしょ。
このコンビのおかげで、息の根が止まる中小企業が年末にかけてヤマほど出てくるでしょうなあ。
もっと大きく言えば、原油高・資源高の昨今、日本の資源政策はこれからどないすんねん?
小泉・竹中コンビは石油公団を廃止しちゃったけど、原油や資源の開発といった国家レベルの事業は成功するかどうかわからないほどリスクが高いもんだよね。
この手の事業を民間企業に任せていたら資金が続くわけがない。怖くて手が出せない。アラビア太郎はもういないんだよ。
資金的にバックアップするためにも石油公団は必要だったのよ。なんでもかんでも民営化すりゃいいってもんじゃないの。
いま、地方が疲弊してますけど、地方交付税交付金の削減、税源移譲が行われています。地方自治体を中央官庁による支配から解放する、というわけね。
ところが、結論から言うと税源移譲額よりも補助金削減額のほうがはるかに多かった。どのくらい多いかというと、3兆9000億円に対して6600億円。これじゃ突然死しちゃうのも当たり前だわな。
さてさて、肝心の「政権交代」ですけど、いまの自民党政治は賞味期限切れなのよ。逆に言うと、いままでよくもったと思う。
でね、ひと言で自民党政治といっても、大きく3つに分けられるの。
まず、吉田茂(麻生さんの祖父)から池田勇人、佐藤栄作までの自民党。これは「経済成長」を実現しました。「貧乏人は麦を食え」という発言ばかりが有名だけど、池田勇人の所得倍増政策なんか、1960年144000円、64年247000円、66年319000円と所得は10年足らずで倍増させちゃったもの。
64年にはオリンピック。この特需で求人倍率は1を超え失業率も激減しました。
けどね、「経済成長」くらいならちょっとまともな国ならできるのよ。日本の奇跡は全国隈無く富が分配されたこと。こんなことは世界でも類を見ません。
つまり、自民党政治の第2幕は田中角栄政治ということ。彼は都市と農村の収入格差・生活格差を発生させず、高度経済成長を実現しちゃったんだもの。
もち、トリックは簡単。農家対策です。
大きく2つあるんです。1つは農家の安定的収入確保を図ったこと。どうやって? 農産物の価格維持制度を作ったわけ。
もう1つは農業以外の収入を確保させたこと。ほら、地方へのインフラ整備ですよ。工場建設とか公共事業ね。ダムや高速道路が田舎にドカドカできたのもその一環。おかげで出稼ぎにいかなくても済んだわけでしょ。
だから、当然、農村部は自民党の大票田になるわけよ。
ところが、残念ながら、日本の高度経済成長も終焉を迎え、中国とかタイとかベトナムとかが勃興してくると、「こっちで作れば安くなるよ」ってわけで工場が海外に移転しちゃった。
高速道路のおかげで跡継ぎがどんどん都会に行って帰ってこなくなっちゃった。おかげで農村人口は激減。公共事業も激減したから、あまり自民党を応援する甘みも無くなった。
これらか複合的に組み合わさって、いま、自民党が弱体化する原因になってますな。もうね、いままでの仕組みじゃダメなのよ。にもかかわらず、ドラスティックに自己改造することを怖れて従来通りで来ちゃった。
小泉・竹中コンビが唯一できたことは「自民党をぶっこわす」ということかな。
さて、著者は与党の政調会と政府がまったく違う政策を提案する。政府と独立して党が政策を決定してるのは日本と共産国家だけ。
行政をスリムにする。いまある機構で残すのは外務省、防衛商、警察庁、国税庁、金融庁、環境省、内閣府くらい。教育、国土交通などは内閣府の機能を拡大して当たればいい。
そして、イギリス型内閣を志向する。つまり、与党の主要議員が大臣、副大臣、閣外大臣などの形で内閣に入るというわけ(たとえば、全省庁で100人前後)。こうすりゃ、与党と政府が完全に一致した政策を展開できるわな。350円高。