2000年12月10日「経済を見る目はこうして磨く」「多湖輝の心理学教科書」「快話術」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 今回も三冊ご紹介することにします。

1「経済を見る目はこうして磨く」 テレビ東京ワールドビジネスサテライト編 日経ビジネス人文庫 680円
 最近、ハードカバーにろくな本ががありませんね。そう思いませんか。というわけで、いま文庫と新書に凝ってます。小さいけれども、中身抜群。トランジスタ・グラマーなんですね。
 本書はテレ東夜11時のニュース番組の常任コメンテーターである植草一秀さん、斎藤精一郎さん、竹中平蔵さん、中谷巌さんといった、まぁいま日本を代表するエコノミストをずらりインタビューした本です。中谷さんとは年末に、リクルートでやってる「中島孝志の最強のビジネスパースン養成塾」で対談することになっています。
 「経済学とは木ではなく森を見る学問だ」と。こういう一言コメントができるのが、頭のいい証拠。日本の政治家みたいに、ああだ、こうだと、長くしゃべればいいというものじゃない。はっきり言うと、馬鹿な証拠だよね。悪いけど、いま野党にいる長野出身の「瞬間総理経験者」がこの典型。この人が外国人記者クラブで講演したとき、だれもメモすら取らなかった、という。理由は、何を言いたいのかてんでわからないから、っていうんだから。筋金入りだね。意味のない話をダラダラできるってすごい。脳味噌、どうなってるんだろ。
 大蔵省には「応接録」というのがあって、「何月何日何時何分にだれと会ってどんなことを話したか」を記録に残している。電話で話した内容も残すし、作った瞬間に関連部署に回すもの。いってみれば、今流のナレッジマネジメントなんですね。
 「42歳」というのは面白い年齢で、自分の人生コースが松竹梅のどのコースなのかが自覚できる年齢だという。たしかにそうだ。わたしなんか、梅コースにも乗ってない。
 あくまでも、「経済学」をメインにしているようだけど、その実、話題が多岐に渡っています。それがいちばん良いところ。

2「多湖輝の心理学教科書」 多湖輝著 ロングセラーズ 940円
 いわずとしれた「頭の体操」のタコ先生。
 この人、ビートルズ来日のときに会場整理のコンサルをしてたらしい。すると、会場にビートルズに背を向けて観客のほうばかり眺めている男がいた。三島由紀夫である。実はタコ先生もビートルズよりも聴衆に関心があってそちらばかり見ていたという。ここが目の付けどころだね。
 本書は心理学の教科書だから、いろんな専門用語が出てくる。たとえば、「フラストレーション・トレランス」という言葉。最近、キレる人間がニュースになってるけど、それは凶暴なわけではなく、ストレスや欲求不満に対する抵抗力とか耐性が弱い、ということ。それがこのフラストレーション・トレランスなわけ。
 巨人が勝つと翌日のスポーツ新聞は売れ行きがいい。スポーツニュースの梯子をしたりすることもある。これは自分に都合のいい情報を反芻する、という心理が背景にある。これを専門的には「認知的協和」というらしい。
 「目標指向行動」というのもあって、これはゴルフだといくらでも早起きできる、っていうやつ。目標を具体的、現実的に設定すれば、人間はやる気になるってわけだね。
 いろいろビジネスや人間関係で使える心理学の専門知識が満載の書。心理学がこんなに面白いなら、学生時代にもうちょっと勉強しておけばよかった。何しろ、一般教養課程の心理学を取ったんだけれど、一度も講義に出なかったため、「さて、担当教授の顔はどれでしょう?」という試験問題に答えられなかったために、単位を落としたという苦い経験があった。周囲の友人たちもだれ一人として出席していなかったから、だれも教授の顔を知らない。「1だ」「いや、2だ」というガセネタがたくさん出て、結局、デタラメ答えたら間違っていたというわけ。
 ヤダネったらヤダネ。ホントに馬鹿だね。
3「快話術」 萩本欽一著 飛鳥新社 1365円
 欽ちゃん、好きなんだよね。まったく面白くないんだけど。人間的に好きなの。欽ちゃんが司会や芸する番組は絶対見ないけど、欽ちゃんのインタビューとか対談とか、日常風景がかいま見られる番組は必ずビデオに録ってるくらい。
 本もすべて読んでますね。運の話とか独特の味わいがあるんだよ。欽ちゃんて、人間的なレベルが高いと思うんだよね。ていうか、優しいんだよ。そこに惹かれるんだな、きっと。
 この人、元もとダン・カメラっていう銀座の大きなカメラ屋さんの五男坊なんだね。それが倒産して、子どもの頃に苦労したわけ。まぁ、そんな苦労はだれでもしてると思うけど。
 高校生の時に、バイトの掛け持ちで食べ物屋の出前をしてると、交差点でぴかぴかの新車に傷つけちゃう。降りてきたドライバーに怒鳴られる。謝っても許してくれない。弁償しろ、というわけさ。
 店はどこだ?
 言わないよ、ボク。
 言えよ、 すぐに連絡しろ。
 ボク、バイトなの。店の親父さん、いい人だから弁償してくれるかもしれない。でも、そんな大金払ったら潰れちゃう。オカミさん泣いちゃうよ。
 お前のウチは?
 ウチにお金がないからバイトしてんの。おじさん、無茶なこと言わないでよ。おじさん、ボクをおじさんの会社まで連れてってよ。その分、働かせるのがいちばんいいよ。いくらでも働くからさ。おじさんの車のあとを自転車で追いかけていくからさ。
 すると、そのおじさん、急に、「君の言ってることが正しい。ボクのほうが間違ってた」って言い出すわけ。「オレも君みたいにバイトして頑張った頃がある。いま、車を買えるだけになった。そのことを思い出した。学校、卒業したらウチの会社においで」って、それで名刺を一枚残して帰った。
 欽ちゃん、このおじさんの背中を見ながらボロボロ泣いたって。
 でも、その名刺無くしてしまうわけ。テレビに出られるようになってから、いろんな番組で話しては「連絡、乞う」と言ってたんだけど、ダメ。昭和62年にテレビを引退するときにやっと手紙が来た。「探してることは知ってたけど、名乗り出なかった。今度、引退するって聞いたんで手紙を書きました。ゆっくり休んで下さい」
 これがとんでもない大会社の社長さんだった、って。
 欽ちゃん曰く、「こういう人が社長になっちゃうんだね。ボクが間違ってた、ってカッコいいね。こんなカッコいい人が社長になるんだよ。そうじゃない人って、部長にはなれても社長にはなれないもん」
 ねっ、欽ちゃんらしいでしょ。