2008年10月09日一流のリーダー、三流のリーダー
カテゴリー中島孝志の不良オヤジ日記」
「日経のBizPlus」が更新されました。「BizPlus」は20人の執筆者で計18万人の読者。「社長の愛した数式」は1日5万人。つまりダントツ人気なんです。
で、今回は「パナソニックのDNA」について述べてます。
米国発の金融危機が世界に拡大しつつありますな。
G7が始まる前に10カ国一斉協調利下げ。株価はとうに10000ドル割れ。
こんだけ株価が下落してるちゅうのに、金も原油も商品もそんなに上がりません。もっと高騰してもいいのにねえ。こりゃ、機関投資家筋の換金売りがそうとうあるっちゅう証拠でしょうな。
さて、米下院はこの3日に、上院で修正を加えた金融安定化法案を可決しましたね。でも、NYダウは9300ドルでっせ。
にもかかわらず、9月末、金融安定化法案をいったん否決してるんですからね。で、ダウは9.11同時多発テロ時を超える「777ドル」という史上最大の下落を記録。
「ウォール街を血税で助けるのか」という議員が反対票を投じましたね。まあ、これはこれで正論なんです。トップが数十億円もの高額報酬を受け取っていた金融機関に、なぜ血税をつぎこまないといけないのか、金持ち優遇過ぎるという主張は当然のことです。
けど、金融機関に健全で十分な資本を与えて経済を安定化させないと市民生活のほうも安定しない。学生ローンが借りられない。自動車ローンも組めない。
なにより信用収縮、金融機関の貸し渋りから企業経営のための運転資金も借りられない。これが痛い。
運転資金を絶たれた(=流動性危機)企業は倒産しちゃう。従業員は解雇、リストラ。ますます物が売れなくなります。工場を畳めば地域経済は疲弊する。物が売れなくなるから叩き売りするしかない。デフレが進行しちゃう。物価も下がるけど給与も下がる。物価は安いのに所得が減るから買えない。こうなると、スタグフレーションですな。
国から、地域から、人から、元気を奪う。これがスタグフレーションの怖さですな。「ニュープア」の発生は社会不安を助長し、きな臭い事件ばかりが起きまっせ。
だから、金持ち優遇だなんだかんだと言おうと、何が何でも通さないといけない法案だったわけよ。
この間、なんともドタバタドタバタ騒ぎのワシントン&ニューヨーク。ウォール街はあこぎだったけど、ワシントンは初動捜査を誤りましたな。
その点、危機に際して泰然自若。この10月1日からパナソニックへと社名が変わった旧松下電器産業の創業者。かつて、存亡の危機に立たされた幸之助さんの立ち回りはまことにまことに見事でしたよ。
昭和39年7月9日から丸3日間かけてようやく終結した「緊急対策会議(通称、熱海会談)」。
当時69歳の幸之助さん(会長)は13時間、壇上に立って侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をしていました。
昭和39年は東京オリンピック年。新幹線も開通し、全国に高速道路とホテルも建設されるなど、オリンピック特需を享受していました。家電業界は年率30%で売上高が伸びていたほどです。
それだけに山高ければ谷深し。家電の需要も一巡し、佐藤栄作内閣の金融引き締め策もあり、39年から40年にかけていきなり不況に陥ってしまいます。山一證券の経営危機では日銀特融。山陽特殊製鋼やサンウェーブが倒産した年です。
もちろん松下も例外ではなく、売り上げはアタマ打ち、大量の流通在庫がのしかかっていたのです。
このとき幸之助さんが開いたのが、販売会社・代理店170社の経営者を熱海ニューフジヤホテルに集めての対策会議でした。「いくら頑張っても儲からない」と苦境に陥っていた経営者たちも満を持して参加したんです。
なんとか黒字を計上している会社は170社中20社ほど。あとは赤字。中には資本金500万円で1億円の手形を切っている会社までありました。
さすがの幸之助さんも愕然とした、と言います。
昭和36年に会長へと退いていた幸之助さんは営業本部長代行に返り咲き、自ら危機克服の指揮を執ります。そして4つの手を打ちます。
1地域販売制度の見直し
2事業部直販制
3新月賦販売制度の施行
4後継者の育成制度
とくに注目したいのは新月賦販売制度の施行です。
割賦販売の場合、商品はお客に先に渡しますが、売掛金はすぐには入ってきません。けど、販売会社・代理店は小売店に少しでもたくさん売って売り上げをあげたい。小売店のほうも簡単に手形を切ってしまう悪弊に陥っていたのです。
資本金500万円の規模の店が1億円もの手形を切っていた。でも、この手形が期日にちゃんと落ちるかどうかわかりません。もし落ちなければ不良債権になる。そうなったら・・・すべて松下電器が被らなければならないんです。
1社だけならまだしも、何十、何百となれば、松下の経営まで危うくなる。まるで現在の米国のサブプライム問題を見てるようですよ。
で、幸之助さんは販売会社・代理店の手形決済を止めるように知恵を絞ります。
販売会社・代理店が押し込んでいた製品をすべて回収。そして小売店が現金で支払ってくれたら販売奨励金を出そう。月賦販売の場合は債権を松下が買い取ろう、と決めます。
月賦販売の専門会社を地域別に作るために、2年分の利益300億円をどぶに捨てることを覚悟するんです。
「2年で済んだらええほうや。3年かかるかもしれん」
でも、そのくらいやらなければ、簡単に手形を切ってしまう悪弊を絶ちきることはできないと考えていたんです。
まるで、いま、アメリカが苦しんでいる「金融安定化方策」の不良資産買取制度によく似てません?
潰れるかもわからん。そこで徹底した節約を指示します。電算機は使わずそろばんに換える。毎日70本もの報告書が上がってきてたけど、「今日報告しなければ明日、会社が倒産する」というものだけに絞ったら一挙に4本に減った。
結局、この月賦販売会社のコストはわずか7億円。地銀が融通してくれたのです。節約精神が実って逆に300億円もの余裕ができた。マイナス300億円がプラス300億円になったわけです。おかげで松下は1年半後に過去最高の売上と利益を計上します。
同じ債権の買い取りでも、松下の場合は未来に生きる買い取りでした。この買取制度で販売店の資金回収能力を高めつつ、制度刷新と体質改善を進めて危機を克服したからですね。
幸之助さんの好きな言葉に、「治にいて乱を忘れず」という「易経」の言葉があります。平穏無事の中に危機が内在する、という意味です。ピンチは好景気の中にある、好景気のときにピンチの芽を摘むことの大事さを説いていますが、逆に言えば、危機の中にこそチャンスがあるんです。
松下にとって昭和39年の危機はまさに有事でした。だから、創業者みずから「営業本部長代行」に就任して陣頭指揮で乗り切ったのです。いちはやくリーダーが危機の芽に気付き、機動力と本気度をもって対策に全力をつぎ込む。松下の存亡の危機は、そうして乗り切ったのです。
未曾有の混乱のさなかであっても、ブッシュ大統領は「金融危機にある」と注意を喚起するだけで、なんとも覚悟も危機感もない、結果として迫力のないメッセージでした。
もし、彼が「財務長官代行」に就任して全国の金融機関トップを集めて陣頭指揮をとったら・・・夢芝居?
「本気だぞ!」
このくらいやって、ようやくマーケットは落ち着きを取り戻すのではないでしょうか。 また、それだけのプレゼンスがまだ米国大統領にはありますよ。
恐慌、戦争、大災害・・・いずれもリーダーの真価が問われるものです。本来は、問題が表面化するまでにその芽を摘んでしまうリーダーこそが一流。
泥縄でジタバタし、さらには「他人事」のように危機感の薄いリーダーでは、国民があまりにも可哀想ですな。オバマにしてもマケインにしても、なんとも経済に弱い。なんとも小粒な人物であることか・・・こんなのしか残ってなかったわけ?
ただ1つ確実なのは、新しい大統領の最初の仕事は「恐慌対策」になるということです。「われわれが怖れなければいけないただ1つのことは、怖れそのものである」と、かつてルーズベルトが述べた通り、政府を当てにせず、みずから腹を据え、腹をくくって、この難局に臨まねばなりませんな。
で、今回は「パナソニックのDNA」について述べてます。
米国発の金融危機が世界に拡大しつつありますな。
G7が始まる前に10カ国一斉協調利下げ。株価はとうに10000ドル割れ。
こんだけ株価が下落してるちゅうのに、金も原油も商品もそんなに上がりません。もっと高騰してもいいのにねえ。こりゃ、機関投資家筋の換金売りがそうとうあるっちゅう証拠でしょうな。
さて、米下院はこの3日に、上院で修正を加えた金融安定化法案を可決しましたね。でも、NYダウは9300ドルでっせ。
にもかかわらず、9月末、金融安定化法案をいったん否決してるんですからね。で、ダウは9.11同時多発テロ時を超える「777ドル」という史上最大の下落を記録。
「ウォール街を血税で助けるのか」という議員が反対票を投じましたね。まあ、これはこれで正論なんです。トップが数十億円もの高額報酬を受け取っていた金融機関に、なぜ血税をつぎこまないといけないのか、金持ち優遇過ぎるという主張は当然のことです。
けど、金融機関に健全で十分な資本を与えて経済を安定化させないと市民生活のほうも安定しない。学生ローンが借りられない。自動車ローンも組めない。
なにより信用収縮、金融機関の貸し渋りから企業経営のための運転資金も借りられない。これが痛い。
運転資金を絶たれた(=流動性危機)企業は倒産しちゃう。従業員は解雇、リストラ。ますます物が売れなくなります。工場を畳めば地域経済は疲弊する。物が売れなくなるから叩き売りするしかない。デフレが進行しちゃう。物価も下がるけど給与も下がる。物価は安いのに所得が減るから買えない。こうなると、スタグフレーションですな。
国から、地域から、人から、元気を奪う。これがスタグフレーションの怖さですな。「ニュープア」の発生は社会不安を助長し、きな臭い事件ばかりが起きまっせ。
だから、金持ち優遇だなんだかんだと言おうと、何が何でも通さないといけない法案だったわけよ。
この間、なんともドタバタドタバタ騒ぎのワシントン&ニューヨーク。ウォール街はあこぎだったけど、ワシントンは初動捜査を誤りましたな。
その点、危機に際して泰然自若。この10月1日からパナソニックへと社名が変わった旧松下電器産業の創業者。かつて、存亡の危機に立たされた幸之助さんの立ち回りはまことにまことに見事でしたよ。
昭和39年7月9日から丸3日間かけてようやく終結した「緊急対策会議(通称、熱海会談)」。
当時69歳の幸之助さん(会長)は13時間、壇上に立って侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をしていました。
昭和39年は東京オリンピック年。新幹線も開通し、全国に高速道路とホテルも建設されるなど、オリンピック特需を享受していました。家電業界は年率30%で売上高が伸びていたほどです。
それだけに山高ければ谷深し。家電の需要も一巡し、佐藤栄作内閣の金融引き締め策もあり、39年から40年にかけていきなり不況に陥ってしまいます。山一證券の経営危機では日銀特融。山陽特殊製鋼やサンウェーブが倒産した年です。
もちろん松下も例外ではなく、売り上げはアタマ打ち、大量の流通在庫がのしかかっていたのです。
このとき幸之助さんが開いたのが、販売会社・代理店170社の経営者を熱海ニューフジヤホテルに集めての対策会議でした。「いくら頑張っても儲からない」と苦境に陥っていた経営者たちも満を持して参加したんです。
なんとか黒字を計上している会社は170社中20社ほど。あとは赤字。中には資本金500万円で1億円の手形を切っている会社までありました。
さすがの幸之助さんも愕然とした、と言います。
昭和36年に会長へと退いていた幸之助さんは営業本部長代行に返り咲き、自ら危機克服の指揮を執ります。そして4つの手を打ちます。
1地域販売制度の見直し
2事業部直販制
3新月賦販売制度の施行
4後継者の育成制度
とくに注目したいのは新月賦販売制度の施行です。
割賦販売の場合、商品はお客に先に渡しますが、売掛金はすぐには入ってきません。けど、販売会社・代理店は小売店に少しでもたくさん売って売り上げをあげたい。小売店のほうも簡単に手形を切ってしまう悪弊に陥っていたのです。
資本金500万円の規模の店が1億円もの手形を切っていた。でも、この手形が期日にちゃんと落ちるかどうかわかりません。もし落ちなければ不良債権になる。そうなったら・・・すべて松下電器が被らなければならないんです。
1社だけならまだしも、何十、何百となれば、松下の経営まで危うくなる。まるで現在の米国のサブプライム問題を見てるようですよ。
で、幸之助さんは販売会社・代理店の手形決済を止めるように知恵を絞ります。
販売会社・代理店が押し込んでいた製品をすべて回収。そして小売店が現金で支払ってくれたら販売奨励金を出そう。月賦販売の場合は債権を松下が買い取ろう、と決めます。
月賦販売の専門会社を地域別に作るために、2年分の利益300億円をどぶに捨てることを覚悟するんです。
「2年で済んだらええほうや。3年かかるかもしれん」
でも、そのくらいやらなければ、簡単に手形を切ってしまう悪弊を絶ちきることはできないと考えていたんです。
まるで、いま、アメリカが苦しんでいる「金融安定化方策」の不良資産買取制度によく似てません?
潰れるかもわからん。そこで徹底した節約を指示します。電算機は使わずそろばんに換える。毎日70本もの報告書が上がってきてたけど、「今日報告しなければ明日、会社が倒産する」というものだけに絞ったら一挙に4本に減った。
結局、この月賦販売会社のコストはわずか7億円。地銀が融通してくれたのです。節約精神が実って逆に300億円もの余裕ができた。マイナス300億円がプラス300億円になったわけです。おかげで松下は1年半後に過去最高の売上と利益を計上します。
同じ債権の買い取りでも、松下の場合は未来に生きる買い取りでした。この買取制度で販売店の資金回収能力を高めつつ、制度刷新と体質改善を進めて危機を克服したからですね。
幸之助さんの好きな言葉に、「治にいて乱を忘れず」という「易経」の言葉があります。平穏無事の中に危機が内在する、という意味です。ピンチは好景気の中にある、好景気のときにピンチの芽を摘むことの大事さを説いていますが、逆に言えば、危機の中にこそチャンスがあるんです。
松下にとって昭和39年の危機はまさに有事でした。だから、創業者みずから「営業本部長代行」に就任して陣頭指揮で乗り切ったのです。いちはやくリーダーが危機の芽に気付き、機動力と本気度をもって対策に全力をつぎ込む。松下の存亡の危機は、そうして乗り切ったのです。
未曾有の混乱のさなかであっても、ブッシュ大統領は「金融危機にある」と注意を喚起するだけで、なんとも覚悟も危機感もない、結果として迫力のないメッセージでした。
もし、彼が「財務長官代行」に就任して全国の金融機関トップを集めて陣頭指揮をとったら・・・夢芝居?
「本気だぞ!」
このくらいやって、ようやくマーケットは落ち着きを取り戻すのではないでしょうか。 また、それだけのプレゼンスがまだ米国大統領にはありますよ。
恐慌、戦争、大災害・・・いずれもリーダーの真価が問われるものです。本来は、問題が表面化するまでにその芽を摘んでしまうリーダーこそが一流。
泥縄でジタバタし、さらには「他人事」のように危機感の薄いリーダーでは、国民があまりにも可哀想ですな。オバマにしてもマケインにしても、なんとも経済に弱い。なんとも小粒な人物であることか・・・こんなのしか残ってなかったわけ?
ただ1つ確実なのは、新しい大統領の最初の仕事は「恐慌対策」になるということです。「われわれが怖れなければいけないただ1つのことは、怖れそのものである」と、かつてルーズベルトが述べた通り、政府を当てにせず、みずから腹を据え、腹をくくって、この難局に臨まねばなりませんな。