2008年11月01日「ズバリ!先読み 日本経済」 竹中平蔵・田原総一朗著 アスコム 1890円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 この金融動乱の中にもかかわらず、30日、小生の講演会は大盛況でございました。プレスセンターに150人。毒にも薬にもならない「読書術」なんてテーマによくこの時期、こんなに集まりましたよ。
 逆に、私のほうから話を聞きたかったほど・・・。


 懐かしい顔がチラホラ。「太ったんじゃない? どうしたの?」と言われたり、「引き締まったね」と言われたり・・・「人間風船」の異名を取る私ですから、72〜85キロの幅があります。つまり、会ったタイミングによって各自の残像が違うというわけですね・・・なんか複雑な気持ちでしたね。

 講演の中でも言ったけど、宮沢喜一という人は政治家ではなく官僚でしたねえ。「(政治家ではなく)ありゃ秘書だ」と角栄さんが喝破したように、政界でもそんな評判だったんでしょう。
 博覧強記、英語の達人、金融通・・・けど、へたれ。政治家はバカでも豪腕。腕力がなくちゃ。

 1991年、バブルが崩壊します。解散したくてもじっと我慢の子で自滅した海部内閣の後を襲ったのが宮沢さん。組閣後、即、10兆円の景気対策を発表し、その2日後に「金融機関への公的資金の投入」を決めるも、霞ヶ関と財界の反対に引っ込めちゃう。で、バブル崩壊への初動対策に失敗します。もち、内閣不信任案。すんなり通って解散に打って出ますが、負けちゃって下野。

 それから日本は{失われた10年」ではなく「失った10年」へ突入するわけですね。

 7年後、小渕内閣で大蔵大臣、初代の財務大臣に就任します。で、この前、述べたとおり、同じ政策を提案。小渕さんの豪腕で今度は成立。それが金融早期健全化法でしたね。
 法律施行の効果はいきなり出てくるわけではありません。2〜3年はかかります。けど、このおかげで翌年1年間の平均株価は36%も上がります。

 「金融早期健全化法ではあまり効果はなかった。金融機関の検査を徹底し、公的資金をドンと投入したからなんとかバブル対策ができた」
 このように、竹中さんは主張していますが、立ち直りかけていた金融機関に、宮沢さんは「漢方薬」を、竹中さんは「カンフル剤」を投薬したのでしょう。事実、「金融機関も金融機関の不良債権の中身を唯一知っている金融庁も大丈夫と考えていたようだ」と竹中さんは述べてます。

 金融機関の実態は金融庁長官しか知らないんですね。バブル崩壊後に財金分離で新たに設置されたポストですけどね。
 金融再生委員会から内閣府(金融政策担当)へと名称は変わりましたが、元々は柳澤伯夫さんが長らくやってました。あの人だけが実態を詳細に知っていた。けど、動かなかった。この人は「自然治癒でいいだろう」と診断したんでしょう。
 
 問題解決でいちばん重要なことはなにか? それは問題があることを発見することですね。
 「問題? そんなものないよ」
 これでは永遠に解決なんてできません。つまり、政治家というのは「発見すること」が仕事なんですね。理論よりも感性。感じ取ること。国民目線でものを見ること。考えること。感じ取ること。痛みを共感すること。ひと言で言えば、「遠山の金さん」にならなくちゃいかんわけです。ま、水戸黄門でも暴れん坊将軍でもいいけどさ。

 さて、本書は田原さんが聞き役で竹中さんからいろんなことを引き出してます。
 編集チームが活躍してますね。田原さんの発言部分にきちんと正確な情報を織り込んでます。たんなる質問ではありません。だって、田原さん、経済のこと、こんなに詳しくないもの。まあ、普段通り、いい加減で曖昧に聞いても、竹中さんのほうで意を汲んで回答したでしょうけどね。300円高。