2008年11月07日「日本は財政危機ではない!」 高橋洋一著 講談社 1785円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 著者は『さらば財務省!』で山本七平賞を受賞した元・財務官僚。あの、財務省をはじめとした役人たちのへそくり=「埋蔵金」をすっぱ抜いた張本人ですな。

「官僚は公僕である。彼らの給料は国民の税金で賄われている。にもかかわらず、財務省の人々は税金をたくさん集めて自分たちの自由になるお金を増やすことにしか関心がない」
 そこで、
「(財務省が隠している)日本国の財務情報をなるべく詳しく公開し、公正な政策論議に資する。それとともに世界でスタンダードになっている経済理論をわかりやすく説明する」と筆を執ったわけ。
 前作・前々作を上まわる憂国の書だと思うね。

「日本は834兆円もの債務を抱えている。GDPの160%にあたる危機的な数字だ」と財務省は懸命に財政危機を訴えてます。
 けど、愚かな政治家だけでなく、これは国民をだますための真っ赤な嘘。
 まず、834兆円という数字。これは債務は債務でも「粗債務」と呼ばれるものなのよ。企業でいえば、銀行融資や銀行などへの未払い金などの負債のことです。

 たしかに、国際的に見ればこの数字は多い。これだけ見れば世界一の債務国といいう見方も成り立ちますな。でも、これでは財政は評価できないの。大切な物差しは「純債務」だからね。
 企業でいえば、預貯金などの内部留保、有価証券、不動産などの資産のことです。日本政府にも現金・預貯金、有価証券、特殊法人への貸付金、出資金、預託金などの金融資産と、国有財産、公共用財産の固定資産などがある。そして、日本ほど政府が資産を保有しているわけ。
 で、この量たるや半端じゃない。こんな国、世界にないもの。2005年末で538兆円にものぼちゃう。つまり、純債務は300兆円に過ぎないのよ。

 日本のGDPは700兆円。適切な経済政策を実施すればコントロールできない数字じゃないわな。

 けどさ、財務省ってどうしてそんなに増税が好きなの? 国を憂えてのこと?
 ンなわけない。天下りの死守。これだけよ。彼らの頭の中には節約や改善といった言葉はない。いわんや、構造改革はさらさらないの。

財務省の役人というのは、元々はお勉強ができる人たちなのだと思う。けど、その頭の良さは慣例を覚えたり過去問を解いたり、どうすれば、政治家や国民を騙せるかということばかりに使われてるみたいですな。未来の問題を解決したり、アイデアを出したり、創意工夫することに使ったらいいのに。
 いまの時代、「官僚」と聞いて連想することは悪いことばかり。水戸黄門の悪代官でっせ。これでは優秀な学生は逃げますわな。

 まともな人もいると思うよ。私の友人知人の中にもたくさんいます。でも、組織の中に入るとなかなか「自分」を主張することが難しくなる。気づくと、組織=自分になっている。それが快感となってくる。こうなると、どっぷり官僚。国民など見えなくなりますな。

 それとね、財政を好転させるには大きく分けると2つの方法があんのよ。
 つまり、節約と増収。節約なんて考えないから、財政再建というといっつも「増税」のことばかり。「消費税を10%にしなくちゃ大変なことになる」と連中は考える。

 でね、「増税=税率を上げること」というバカの1つ覚えではあかんねん。だって、増税したところで消費が激減したり、経済成長率がガクンと落っこったら、予定していた税収が確保できないやん。今年と同じだけの経済規模が来年も続くと勝手に考えたらあかんねん。

消費税を上げて経済が活発になるか? ならんで。少なくとも3年間はならんな。

 以前、フジテレビの番組で、「発泡酒の課税措置でビール業界はどうなりますか?」という質問を受けたことがあります。「決まってるでしょ。3年間は消費は戻りませんよ」と答えたけど、その通りになりましたな。つまり、消費税にしても3年くらいはショックが長引くのよ。

 そんな「増税率」よりも、経済規模=パイを大きくすることを考えたらどや? そのほうが建設やで。つまり、「増税率」ではなくて「増税額」をどうするかという視点で考えるべきなのよ。

ここで、話を日銀の無為無策に映らせてもらおうかいな。
 なぜか? 世界的な金融危機を迎える中、日本の財政収支を悪化させた原因は、日銀の無為無策にあるからよ。

この10年間、日本はデフレです。原油高騰、資源高騰ではないか? あんなのは一時的でなんの影響もなかったですな。

 いまの日銀総裁(白川方明さん)が手放しで誉めてる前任者(福井俊彦さん)など、デフレスパイラルが起きてるにもかかわらず、解決はおろか「逆噴射」の暴挙を繰り返してた人ですよ。日本の増税論議を起こさせるきっかけはこの人が作った、といっても過言ではないな。

2000年8月、「ゼロ金利政策解除」には欧米の経済学者はほぼ全員から「バカな」「プアや」「あほか」という声が上がりました。ノーベル経済学賞のプリンストン大学クルーグマン先生も「これは失敗する」と著者にメールをくれたそうです。

 在任中、ゼロ金利政策・量的緩和政策を続けたけどまったく半端だったのよ。「じゃぶじゃぶお金がある」というのは錯覚。当たり前。本書には書かれていなけど、2006年3月、30兆円もあったマネーを10兆円に絞って(「量的緩和の解除」というやつ)、実質的に金融引き締めをした超本人なのよ。
 当時のCPI(消費者物価指数)の上昇率はたったの0.5%。CPIは跳ね上がる傾向があるから実質的にはマイナスでんな。つまり、デフレから脱却していないのに量的緩和を解除しちゃった。

 結果どうなったか? 07年、08年の名目成長率は0.6%、0.3%。こりゃ悲惨でっせえ。欧米先進国と比較すると10分の1というふがいなさでっせえ。 

 「ゼロ金利を解除して銀行金利で生活してる人をなんとかしよう」なんてね。そんな声がありますな。
 けどさ、よっく考えてみて欲しいのは、資本主義社会では、経済の牽引車は企業家や起業家のようなお金を借りる人であって、金利で生活してる人たちは自分の生活を守るだけでいっぱいいっぱいで、広く国民経済に貢献するようなことはありません。
 
 日本経済をまともにするために、デフレ脱却の政策へと舵取りせなあかんねん。けど、あの人がわやにしてしまいましたな。で、いまの総裁はんも似たようなものでっせ。ケインズ流にいえば、漠然と正解する人ではなく、正確に間違える人たちなんでしょうな。

 いまの日本はサブプライム問題でも金融危機が問題でもありません。成長を阻害するいちばんりの問題は「官製不況」ということ。

 「増税」云々を議論する前にするべきことがたくさんありまっせ。
 まず「デフレの脱却」。次に「政府資産の圧縮」。そして「歳出削減」。それから「制度改革」。これでも万が一足りない場合には、いよいよ「増税」を考えなければなりません。

 国民経済が破綻しようがどうしようが関係ない連中に舵取りなんて任せたらあかん。選挙ではそこのところ、よ〜く考えて投票しまひょ。敵は「民を貪る連中」でっせ。




 朝青龍、休場ですか。引退を勧告されるでしょうな。今度の理事長、甘く見たらあかんで。