2008年11月16日「共生者」 松本弘樹著 宝島社 1000円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 最近、暴力団の「しのぎ」が厳しくなってるようですな。芸能人の覚醒剤摘発が急に活発になったのも「資金源は元から絶たなきゃダメ」という動きでしょう。

 先日、大量の覚醒剤が水際で摘発されました。違法風俗はもとより、飲食店からのみかじめ料なども、これだけ不景気になるとそもそも店が激減するからパイが小さくなる。よって、さらに厳しくなりますわな。

 けど、暴力団もの資金源はほかにもあるわけ。いわゆる、「経済やくざ」ですね。バブル以降、暴力団は地上げと株式投資を手段に広く深く大きく金儲けを展開してきたんです。

 本書は、日欧の証券会社で活躍後、ソフトバンクでイートレード証券の立ち上げに参画。投資顧問・大物仕手・裏の顔を持つ実業人との豊富な人脈。いわば表も裏もよく知る人物なわけ。
 ところで、共生者とはこの「経済やくざ」をサポートする人々のことを意味します。

 「企業を社会に有益な存在に育てるためのファイナンスがことごとく、その目的から外れ、金融アウトローの錬金術・利ざや食いに利用されている実態を広く世に知らしめておく必要がある。金融アウトローたちが日本経済の隅々まで静かに根を広げている実態はもはや危険水域に達している」
 これが執筆の動機だとか。

 仕手筋が動くのは株価が低迷しているときなのね。少なくとも3つの条件があるわけ。
 まずタネ銭を安く調達する。出来高が少ない時に株価をつり上げる。そして高値で売り抜ける。

 たいてい仕掛けられる銘柄は、かつて優良企業としてならしたものの、現在は社長が交代したりしてじり貧に陥ってる会社。企業側は資金が欲し。仕手だろうとなんだろうと、株価を上げてくれるならめっけもの。つまり出来レースなわけ。

 ITバブルの時にわけのわかんない起業家が跋扈しましたね(いまもしてるけど)。ナスダックとかマザーズとかがいろいろできて上場基準がめちゃくちゃ緩くなったことがありました。赤字でも平気で上場させましたよね、あの頃は。で、バブルができた。
 この起業家たちは権威ある経済団体からは見向きもされず、しょうがないから、自分たちで経営者クラブを作ったりしました。ま、同じレベルでいろいろ情報交換できる場が欲しかったんでしょう。

 で、この経営者クラブが自社株をお互いにつり上げる格好の場になるわけ。ま、本人は揃って否定するでしょうけど。実際、「東洋経済」から追及されてる経営者の記事が掲載されてますよ。

 この自社株つり上げの方法が仕手筋の株価暴騰を作るやり口と同じ。当たり前ですよ。証券会社の人間か、あるいはその近くにいる共生者が絡んでるからでしょうな。

 共生者たちが絡みたいのは、暴騰する銘柄をさっさと仕込んで高値で売り抜ければ儲かりますからね。あるいはさらに食い込めばその会社の経営にまで食い込めるかもしれない。実際そんな上場企業が本書でもいくつか紹介されてます。

 一部上場、二部上場の銘柄のほうが大量の個人投資家を動かすから、暴騰させたときのパイが大きく膨らみます。ジュニアはタマが少ないですからね。
 私ゃ、ジュニアのマーケットで投資しようなんて考えたことはまったくありません。売りたいときに売れないし、買いたいときに買えないもの。たとえば、売買の実態を見てご覧なさいよ。タマがないから1日10株とか20株しか売買されてませんよ。こんなんだから、少し売りが出れば暴落するし、少し買いがあれば暴騰するわけですよ。
 もち、マーケット自体が暴落したら売りが殺到して売買が成立しません。こんなレベルの企業を上場させてほしくないわな。

 金融・株式投資の裏世界の実態がわかりやすく紹介されてます。300円高。