2000年10月10日「小出監督の女性を活かす『人育て術』」「君ならできる」
実は、今週は人物論を読み続けていたんですね。吉田茂、白洲次郎、そして岸信介などの自伝、評伝などです。けれども、昨日書店に行くと、いま注目の小出監督の本がレジに並んでました。そのまま手にとって読んでしまいましたので、今回はこの二冊を先にお届けすることにします。
1「小出監督の女性を活かす『人育て術』」小出義雄著 二見書房 1575円
いまや高橋尚子選手のニュースが流れない日はないですな。柔ちゃんも長嶋巨人も吹っ飛んでしまいましたね。シドニーオリンピック女子マラソン・金メダルはそれほど価値があるんでしょう。
本書は二年前に発売された。今回はフィーバー振りを当て込んで増刷したというわけ。たぶん、ベストセラーになるでしょうね。また、この本についてはそれだけの内容が十分あると思います。
ところで、高橋さんは大学四年を迎えると小出監督(当時リクルートの監督)のもとに来るが、体よく断られてるんですね。あの有森裕子さん(アトランタで銅、バルセロナで銀)もそうでした。ということは、この人は二人も世界のトップランナーの入部を断っているんですから、ホントは選手を見る目がないんでしょうな。自身こんなふうに言ってます。
「偉いのは高橋尚子。わたしは彼女の底力を見抜けなかった」
けれども、人の縁というのはそんなことを凌駕するんですね。それがおもしろいところです。
有森さんは合宿所まで日参するなか、寮長の経験があることから将来のマネジャー候補として入部を認められました。生保に内定していた高橋選手は、「おまえは強くなりたくないのか」と恩師から一喝されて、慌てて小出監督のところに舞い戻ってきます。その情熱に打たれて、「有森のケースもあることだから」と一応キープしておいたわけです。まったくもっていい加減なものです。
ところで、マラソンランナーにとって情熱がどれだけ重要なのか。その理由として、「マラソンは素質よりも練習量がものを言う」という確信が彼にはあるんですね。小出さん自身もそうだったし、また情熱以外になんの取り柄もない「駄馬」に過ぎない有森さんが押し掛け入門からたった一年で檜舞台で注目されたことからも、情熱が素質を凌駕するという確信があるんです。だからこそ、彼の「人が簡単に人を見捨ててはいけないな」とメッセージはドンと心に響いてきます。
本書には指導者としての小出のノウハウも随所に散りばめられてます。
たとえば、「なかなか伸びない選手には指導者がへり下る」というのがあります。小出さんは選手のいいところを徹底して誉め、逆に自身の教え方の悪さを選手に素直に謝ると言います。このコミュニケーションの取り方はありがたいですな。悩んでいる選手には救われますね。
また、「教え子のためには指導者は策略家であれ」とも言います。その具体例は中身を読んで勉強してもらいたいと思います。
2「君ならできる」 小出義雄著 幻冬社 1470円
これは小出監督の最新作になるんでしょうね。プロから見ると、金メダルとはいかなくともそこそこ好成績で高橋選手がゴールすることを期待して、緊急インタビューでやっつけた仕事ですな。
最新刊の割には目新しい情報は何もありません。最初から終わりまで高橋、高橋で、正直なところ、少し胸焼けがしました。
けれども、小出監督自身の失敗。それも致命的な失敗談をこぼしていますね。これは前作にはありません。
たとえば、99年8月のセビリア世界選手権でのこと。
天皇陛下が利用されたこともある超一流レストランに高橋選手を招待。ところが高地にもかかわらず薄着でいたために見事に風邪をひかせるんですね。それで押せ押せになってしまって練習不足。挙げ句の果ては靱帯を痛めて棄権という有様。
今年3月には名古屋国際マラソンを前にして食中毒を起こします。これも合宿所の近所のファンが送別会で出した鯖にあたったんですね。なんとか、体調が戻って当日はぶっちぎりの好タイムで優勝します。
監督というの因果な商売ですね。選手をファンからも守らなくちゃいけないわけですよ。 女性をどう指導するかというポイントをいくつか紹介しています。
たとえば、同じくらい力がついてきたら一緒に練習させるべきではない。これが小出監督の持論です。彼の経験では、どちらか一方が強くなり成績が上がってくると、もう一方は必ず潰れるというんです。だから、力が拮抗してきたらできるだけ切り離す。
「できれば、合宿も一緒にさせない。強い選手ばかり集めたら、お互いにライバルだから、一人だけでやらせてください、ということになる。そして、ついにはお互いに相手の顔をみなくなる。すると、おまえら、なんで仲良くやれねぇんだ、と癇癪を落とすことになる」というんですね。そんなものかもしれません。
彼は有森のプロ宣言にも全面的に賛同してますね。海外のプロランナーはCM料などは副業で、レースで稼いでるんですね。プロゴルファーとまったく同じですね。海外にもどんどん出かけたり、招待選手として稼いでるわけです。たとえば、弟子の鈴木博美選手が97年のアテネ世界陸上で優勝したときの賞金は700万円でした。
ところが、日本で行われるマラソン大会では賞金がありません。「良かったね。頑張ったね」で終わりです。こうなると、日本選手は企業のひも付きで広告塔をするしかないわけです。しかも、微々たる給料で縛られるんですから、現代版「かごの鳥」といったら失礼かも知れませんが、そんなものですよ。有森選手のときもプロ化を宣言したところ、陸連が認めず、あらゆる妨害をしましたね。
陸連のほうは「だれのおかげで出場できるんだ」と言うかもしれませんが、こんな認識だと日本のスポーツ界、とりわけアマチュアスポーツ、とくにオリンピックはますます尻つぼみになるでしょうね。なぜならば、優秀な選手が日本から脱出するからです。「そんな馬鹿な」と笑うかも知れませんが、どうでしょうか。10年後、20年後、30年後と考えると、あながち空想話とは思えないんじゃないでしょうか。
1「小出監督の女性を活かす『人育て術』」小出義雄著 二見書房 1575円
いまや高橋尚子選手のニュースが流れない日はないですな。柔ちゃんも長嶋巨人も吹っ飛んでしまいましたね。シドニーオリンピック女子マラソン・金メダルはそれほど価値があるんでしょう。
本書は二年前に発売された。今回はフィーバー振りを当て込んで増刷したというわけ。たぶん、ベストセラーになるでしょうね。また、この本についてはそれだけの内容が十分あると思います。
ところで、高橋さんは大学四年を迎えると小出監督(当時リクルートの監督)のもとに来るが、体よく断られてるんですね。あの有森裕子さん(アトランタで銅、バルセロナで銀)もそうでした。ということは、この人は二人も世界のトップランナーの入部を断っているんですから、ホントは選手を見る目がないんでしょうな。自身こんなふうに言ってます。
「偉いのは高橋尚子。わたしは彼女の底力を見抜けなかった」
けれども、人の縁というのはそんなことを凌駕するんですね。それがおもしろいところです。
有森さんは合宿所まで日参するなか、寮長の経験があることから将来のマネジャー候補として入部を認められました。生保に内定していた高橋選手は、「おまえは強くなりたくないのか」と恩師から一喝されて、慌てて小出監督のところに舞い戻ってきます。その情熱に打たれて、「有森のケースもあることだから」と一応キープしておいたわけです。まったくもっていい加減なものです。
ところで、マラソンランナーにとって情熱がどれだけ重要なのか。その理由として、「マラソンは素質よりも練習量がものを言う」という確信が彼にはあるんですね。小出さん自身もそうだったし、また情熱以外になんの取り柄もない「駄馬」に過ぎない有森さんが押し掛け入門からたった一年で檜舞台で注目されたことからも、情熱が素質を凌駕するという確信があるんです。だからこそ、彼の「人が簡単に人を見捨ててはいけないな」とメッセージはドンと心に響いてきます。
本書には指導者としての小出のノウハウも随所に散りばめられてます。
たとえば、「なかなか伸びない選手には指導者がへり下る」というのがあります。小出さんは選手のいいところを徹底して誉め、逆に自身の教え方の悪さを選手に素直に謝ると言います。このコミュニケーションの取り方はありがたいですな。悩んでいる選手には救われますね。
また、「教え子のためには指導者は策略家であれ」とも言います。その具体例は中身を読んで勉強してもらいたいと思います。
2「君ならできる」 小出義雄著 幻冬社 1470円
これは小出監督の最新作になるんでしょうね。プロから見ると、金メダルとはいかなくともそこそこ好成績で高橋選手がゴールすることを期待して、緊急インタビューでやっつけた仕事ですな。
最新刊の割には目新しい情報は何もありません。最初から終わりまで高橋、高橋で、正直なところ、少し胸焼けがしました。
けれども、小出監督自身の失敗。それも致命的な失敗談をこぼしていますね。これは前作にはありません。
たとえば、99年8月のセビリア世界選手権でのこと。
天皇陛下が利用されたこともある超一流レストランに高橋選手を招待。ところが高地にもかかわらず薄着でいたために見事に風邪をひかせるんですね。それで押せ押せになってしまって練習不足。挙げ句の果ては靱帯を痛めて棄権という有様。
今年3月には名古屋国際マラソンを前にして食中毒を起こします。これも合宿所の近所のファンが送別会で出した鯖にあたったんですね。なんとか、体調が戻って当日はぶっちぎりの好タイムで優勝します。
監督というの因果な商売ですね。選手をファンからも守らなくちゃいけないわけですよ。 女性をどう指導するかというポイントをいくつか紹介しています。
たとえば、同じくらい力がついてきたら一緒に練習させるべきではない。これが小出監督の持論です。彼の経験では、どちらか一方が強くなり成績が上がってくると、もう一方は必ず潰れるというんです。だから、力が拮抗してきたらできるだけ切り離す。
「できれば、合宿も一緒にさせない。強い選手ばかり集めたら、お互いにライバルだから、一人だけでやらせてください、ということになる。そして、ついにはお互いに相手の顔をみなくなる。すると、おまえら、なんで仲良くやれねぇんだ、と癇癪を落とすことになる」というんですね。そんなものかもしれません。
彼は有森のプロ宣言にも全面的に賛同してますね。海外のプロランナーはCM料などは副業で、レースで稼いでるんですね。プロゴルファーとまったく同じですね。海外にもどんどん出かけたり、招待選手として稼いでるわけです。たとえば、弟子の鈴木博美選手が97年のアテネ世界陸上で優勝したときの賞金は700万円でした。
ところが、日本で行われるマラソン大会では賞金がありません。「良かったね。頑張ったね」で終わりです。こうなると、日本選手は企業のひも付きで広告塔をするしかないわけです。しかも、微々たる給料で縛られるんですから、現代版「かごの鳥」といったら失礼かも知れませんが、そんなものですよ。有森選手のときもプロ化を宣言したところ、陸連が認めず、あらゆる妨害をしましたね。
陸連のほうは「だれのおかげで出場できるんだ」と言うかもしれませんが、こんな認識だと日本のスポーツ界、とりわけアマチュアスポーツ、とくにオリンピックはますます尻つぼみになるでしょうね。なぜならば、優秀な選手が日本から脱出するからです。「そんな馬鹿な」と笑うかも知れませんが、どうでしょうか。10年後、20年後、30年後と考えると、あながち空想話とは思えないんじゃないでしょうか。