2008年12月18日「ハケンの品格」

カテゴリー中島孝志のテレビっ子バンザイ!」

 日テレ系の番組に「ハケンの品格」という番組がありましたね。07年1〜3月期放送。篠原涼子さん主演。平均視聴率20%超という好成績。
 これ、おもしろかったですね。

 派遣社員として「特Aランク」の評価を受ける主人公。26の資格を所有。
 元々、金融機関に勤務してたんだけど、合併でリストラされちゃう。親しい同僚とも離ればなれ・・・「こんなに辛いならだれとも親しくならないぞ」とトラウマになるわけ。
 で、3カ月契約で丸ノ内の食品会社にハケンとしてやってきた。
 ノルマを淡々とこなし、相手構わず言いたいことはなんでも言う。3カ月働くと更新せず。契約業務以外しない。直属上司以外の命令は聞かない。休日出勤しない。残業しない・・・。

 まあ外資系企業では当たり前のことばかりなんだけど、彼女のプロとしての能力と意識を周囲はだんだん認めるようになるわけ。

 これだけ視聴率をとったからには、なにかしら惹きつけられるなにかがあったんでしょう。

「私を雇って後悔はさせません。3カ月のお時給分はしっかり働かせていただきます」
「社員は使えないのでいりません」
「格差どうのこうのなんてどうでもいい。働かない正社員のおかげでハケンはお時給をいただけるんです」
「ハケンが信じるのは自分とお時給だけです」

 「こんなんじゃねぇよ」と感じたハケンの方も少なくないでしょう。また彼女のパフォーマンスに溜飲が下がった人も少なくないでしょう。



 ハケンの歴史は1986年の「労働者派遣法施行」からスタートします。
 つまり、バブル前。リクルート事件が表面化する前のこと。その後、2004年に「改正派遣法」が施行されます。従前は派遣業種が限定されてたけど、これによって製造業にまで拡大します。これを背景に一挙にマーケット拡大。とうとう4兆円を軽く超えちゃった。

 この間、ハケンをめぐって日本企業の労務環境は激変します。

 結論から言えば、ハケンは企業側の生産調整に柔軟に対応できる最高の仕組みなんですね。

 生産調整とは労働コスト調整を意味します。忙しいときだけ使う。時給は高いけどボーナスや社会保険等の負担は不要。解雇のトラブルがない。更新しなければいいだけだもん。景気・不景気の安全弁として重宝するツールだった。

 なぜ企業、とくにメーカーがハケンを大量に活用したか? 外国企業との競争に勝つためですね。製品の価格には労働コストも反映されます。ビッグスリーがダメになった理由の1つが高い労働コストにある通りです。
 企業、とくに自動車・電機メーカーはコスト競争に勝つためにハケンをフル活用します。派遣業界隆盛の秘密はここにあります。

 派遣法は活用する企業側と提供する派遣会社の両社に「美味しい仕組み」だったわけです。

 けど、物事、いいことばかりじゃありません。表もあれば裏もあります。
 裏とは? ハケン業者、ハケン社員の隆盛の陰にあるもの・・・それは正社員の激減です。右肩上がりで成長する派遣業界とは逆に、正社員の採用はどんどん減ります。

 出版社の現実を見れば一目瞭然。某大手の版元など、ランチ時(自社カフェテリアを所有)は女性スタッフで賑わってます。けど、ほとんどがハケンとバイト(派遣会社に登録せず新聞広告やコネで来た人)の人たち。

 どうしてわかるのか? 午後1時までにサッと消えるのはすべてハケンとバイト。正社員は昼休みが何時から何時までしかないんだ、という意識はさらさらありません。時給仕事じゃないからねえ。
 私ゃ、ここのランチが好きでよく行ってますけど、1時になると100人が1人になっちゃう。それほど消えます。

 経営幹部に事情を聞くと、「売上利益が厳しくて正社員なんて雇えませんよ」「採用したところでちゃんと仕事するかどうかわからないしね」・・・とのこと。
 たしかにねえ。採用で裏切られ続けてきた企業が大卒採用についつい腰が引けるのも無理はないわな。これは同時に受入側のマネジメント能力の無さを告白するようなものなんですけど、本音でしょうな。

 ハケンのおかげで、企業は正社員の採用を手控えても困らない。学生さんからすれば、採用枠が縮小してるから、懸命にシューカツしてもなかなか採用してもらえない。で、就職にあぶれた多くの学生をハケン業界が吸収する・・・皮肉なもんですねえ。

 優秀なハケンは正社員以上の仕事をしますよね。けど、いっこうに正社員になれない。なぜか? 正社員がいるからです。企業には労働費の枠が決まってるわけ。だから、採用したくてもよっぽど業績が良くなければ無理ですよ。
 それにもう1つ、問題があります。それは正社員の既得権益を脅かしかねない点。

 彼らは労組に守られてるからねえ。業績がいい間は表面化しなかったけど、ハケン切りの後、企業が次に目論んでいるのは正社員のクビ切りですよ。

 でもねえ、使えないヤツでも正社員というだけで守られています。それが正社員の権利ですからね。だれが守るのか? 労働組合。この組織が仲間を守るわけです。だから、正社員のクビとくに労組員のクビは最後の最後でしょ。
 でも、たいていその前に経営者が辞任するか解任されてるはず。あのトヨタですら1950年代はそうだったんだからね。

 わかりましたか? ハケンの敵は更新しない(解雇ではありませんよ、あくまでも)会社ではありません。経営者でもありません。

 考えてみたらわかるでしょ。ハケンがどうして更新されないか? 不景気だから。工場が稼働できないから。操業停止だから・・・ではありません。
 操業停止でも正社員のクビは切られませんよね。当たり前です。元々、「生産調整=労働コストの調整」はハケンという仕組みが引き受ける・・・というビジネスモデルがあるからです。これが売りで派遣会社はガンガン成長してきたんだから。

 ハケンが労組結成? ナンセンスです。というよりも方向が100%間違ってます。いくら労組を結成したところでハケンの職場は復活しません。なぜならハケンの所属は派遣された企業ではなく派遣した企業=登録企業だからです。
 
 つまり、戦う相手をそもそも間違えてるんです。ハケンが戦う相手は登録企業(派遣登録企業)です。

 安易に採用した経営者の責任は? 採用したんじゃありません。活用しただけです。
 派遣業界が隆盛を極めたのは、いつでも雇用調整ができるというメリットがあったからです。正社員と同じコスト、さらに「雇用確保」という義務と責任が要求されるなら、そもそもハケンという仕組みなんて使わなかったでしょう。

 企業はなぜバイトを雇うよりも高い時給を払ってきたか? こういった「リスク」をすべて派遣会社が引き受けるという仕組みだったからですね。

 わたしの結論。派遣法廃止。派遣会社解散。

 いままでのは現状分析と報告。ここからはわたしの意見と提案です。

 日本企業の強みは「終身雇用」と「年功序列」にあるんです。それを米国かぶれのバカが「成果主義」「実力主義」がベターだなんて吹きまくって、愚かな企業は方針を換えていった。まあ、賃金ばかり高くてパフォーマンスの低い中高年が多かった、という事情もあるでしょう。

 少子化はどんどん加速されます。この3年で団塊800万人は消えます。すなわち、日本国内の労働人口は減るんです。
 にもかかわらず、仕事・職場は減る一方。あっても不安定なハケンやバイト。しわ寄せは若い人たちに向かっています。結婚しない・結婚できない若者が増え、少子化はさらに進むでしょう。
 つまり、若い人たちに安定した職場をきちんと確保してあげないと、これからの日本の力はさらに低下するんです。

 成果主義、実力主義なんて1つもいいことないんです。この2つを標榜した米国企業はどうなってます? 倒産寸前の会社から甚大な退職金をむしり取って逃げる「火事場泥棒=CEO」ばかりじゃないですか。
 成果主義と実力主義というのはこんなガリガリ亡者を生む元凶なんです。

 仕事の褒美は仕事。仲間とわいわい愉しくやる。誉められる。叱られる。仕事とともに成長できる。会社に行くのが愉しい。定年までいい仕事といい仲間に囲まれて生きる・・・かつての日本型経営のメリットがいまほど期待される時代はないと思います。
 いまなら間に合います。心配しないで落ち着いて仕事ができる環境を早急に整えることです。

 麻生さんでもできる政策が1つあります。それは法人税率を半分にすることです。

 現在、日本の法人税率は約40%。欧米の30%増、アジアの2倍で話になりません。だから企業が海外に生産拠点を移すわ、ハケンに依存するわ・・・高コスト体質の元凶はここにもあるんです。

 税率を下げたら税収が減る? あほか。企業が元気になれば日本の景気は回復します。景気が良くなれば税収は増えます。消費税を上げなくても済むんです。消費税を上げるという意味は「これからもなんにもしません」「景気もよくならなし」「行政改革なんてしませんから」ということにほかなりません。

 利下げはもう限界です。量的緩和しても日銀が即日マネーを吸い上げては元の木阿弥。
 だからこそ法人税率に手をつけることです。もちろん財界は大賛成のはずですよ。日本株は「総買い状態」になります。麻生さん、支持率爆発させるラストチャンスだと思うんですけどねえ・・・。