2000年08月30日「新世代ビジネス、知っておきたい60ぐらいの心得」「僕にできないこと。僕にしかできないこと。」「マッカーサーとチャンバラ」
さて、今回も3冊ご紹介しておきます。
1「新世代ビジネス、知っておきたい60ぐらいの心得」 成毛 真著 文春ネスコ 1500円
著者は元マイクロソフト日本法人の社長。外資系企業の日本法人トップということは、まぁ東京支店長というところだろう。
「はじめての書き下ろし」と帯にあるが、十分そう感じる本だ。
プロでもない人が文章を書く場合、どことなくぎこちなさがある。そのかわり、体験に裏打ちされた哲学というか、生き様と本音が随所にかいま見える。だから、自然と本に力がある。読者はそれを敏感に感じ取る。良い本との出会いは真剣勝負みたいなものだ(はっきり言えば、本書はそこまでの本ではないけれども)。
実はわたしは出版社に勤務しているとき、財界リーダーの代わりに執筆したことが何回もある。本人は書く時間がない。また、その能力もない。経済団体の広報や秘書は怖くて原稿など書けない。だから、記者やわたしのような人間に頼んでくるのだ。こうなると、読みやすいけれども、あまりにもするっと呑み込んでしまって喉に引っかからない。だから読み終わっても、情報は入手できるがその人の喜怒哀楽が薄っぺらいのだ。下手でも自分で書くことだ。
内容を大づかみするとこうなる。
「いまどきの衰退産業は見方を変えれば、宝の山。ただし、宝の山になるか、屑山になるかの分岐点はいま流行のIT化がどれだけ早くできるかどうかにかかっている」
「ナスダック、東証マザーズのおかげで株式公開、上場ブームだが、上場のメリットはオーナーの株を売りやすくするということに尽きる」
本来の企業経営を考えると必ずしも得策ではないかもしれませんな。上場してまで資金を確保しなければならない企業などめったにない。いまの時代、上場すれば優秀な人材が採用できるんてことはない。技術特化型のベンチャーならさほど資金は必要ないから、周囲が上場に翻弄するなか、未上場経営のメリットに注目することもあり、だな。
「商法改正によって、現金でなくとも株式交換でM&Aができるから、今後は企業の統廃合が活発化するだろうから、逆に株価が低迷している企業では防衛のために上場を取りやめるかもしれない」
こうなると、直接金融から間接金融へと逆流するかもしれませんな。だいたい、上場のランニングコストだけでも2億円くらいかかるわけ。利益率5%の企業ならば、100億円の売上でやっとトントンになる計算になる。
この本も「へそ曲がり的見方の勧め」みたいな本だと思う。頭の体操として軽い気持ちで手にとってみたらどうだろう。
2 「僕にできないこと。僕にしかできないこと。」 春山 満著 幻冬社 1400円
幻冬社にしては珍しいビジネス本だ。
春山さんは進行性筋ジストロフィに罹り、首から下は付随。つまり、頭だけが元気だということ。それも時間の問題というシビアな人生を強いられる中、ハンデを持った人間のことは自分がいちばんよくわかるという信念で福祉、介護ビジネスを展開している。この人くらい頑張れば何でもできる、不可能はないね。
「社員にお尻を拭いてもらう」という。これは採用時に約束している。テレビにも何回も登場してるから、「あぁ、あの社長だ」と知っている人もいるだろう。
介護ビジネス花盛りのなか、あのディスコ経営者と違う意味で話題を二分している。
「頭でっかちにマネジメントの理屈を学ぶくらいなら、いきなりビジネスをやったほうがいい」という意見は、あのジム・ロジャーズとまったく同じ意見。ジムはかのジョージ・ソロスと一緒にクォンタム・ファンドを設立したパートナーで、いまはコロンビア大学で経営学を教えているが、「自分の金で商売をやってみるほうがよっぽど勉強になる」と公言している教授だ。
あの「五体不満足」の乙武洋匡さんと対談したとき、話が終わると彼が心細そうに「僕は春山さんのようなビジネスマンになれるでしょうか?」と訊いたという。それに一言。
「なれると思うよ。君は爽やかだから。いままで通り、可愛がられる男でいなさい。そうすれば、チャンスは湧いてくるから」
かつて、松下幸之助さんは「男も愛嬌やで」と言ったことがある。愛嬌には性別も年齢差もない。年上でも可愛らしい人はたくさんいる。春山さんは難病の宣告を受けた二十代に爽やかでなければ生き残れられないことを教えてもらった、という。創業者というのはこういう魂の込められた言葉をたくさん持っている。だから、面白い。
春山さんが贔屓にしている定宿はパレスホテルである、という。「なぜか居心地が良い」という。もう七、八年になるらしいけれども、最近、その理由がやっとわかったらしい。
それは客、ゲストへの接し方を徹底的に教育されているからだという。
わたしもここで打ち合わせをしたことが何回もあるけれども、ホテルマンがいるのかいないのかわからないところがある。でも、困っていると必ずどこからともなく現れるという。けっしてハンデキャプトを特別扱いせずに自然体でもある、らしい。
風の強い日でも先頭に立って、客を出迎える上品な紳士がだれだろう、と訊けば、これが総支配人だという。なるほど、リーダーの波動でホテルは動いている。
3 「マッカーサーとチャンバラ」 小川 正著 恒文社 1500円
こういう本がゲットできるのがインターネットのいいところだ。
いままで趣味で、ジャズとか映画、芸能関係の本をたくさん読んできた。これらは古本屋に売ることもなく、まだ書庫のどこかに眠っているはずだ。「砧撮影所と僕らの青春」「映画興行師」「ええ音じゃないか」といった日本映画創生期に携わった人のドキュメントから、大昔の「スタア」さんたちの写真集まで集めている。
こういう本は資料として読める。東京の西武池袋線だか新宿線だかに大泉学園という駅がある。ここは撮影所があるのだが、もともと新興キネマを経て戦後、吉本興業が貸しスタジオとして経営していたものなのだ。こういうどうでもいい情報がわんさと載っている。
ところで肝心のマッカーサー占領下、チャンバラは全面禁止だったが、これが解除されたのも裏話は「賭けゴルフ」だったというお粗末。案外、歴史というのは表面で語られる原因ではなく、こんな人間臭いものがホントの理由になっていたりする。しかし、チャンバラが全面解除されたおかげで東映(東横映画の略)はドーンと伸びていく。親会社の東急電鉄よりも景気がよくなって、とうとう東映フライヤーズというプロ野球チームを持つことになるのだから、たいしたものだ。
そう言えば、横浜ベイスターズの前身は太洋ホエールズ、その元は松竹ロビンズだった。いまやその松竹大船撮影所もなくなった。映画は五社協定などで自分で自分の首を絞めた。どんな時代も変化するほうが守るほうより強いものだ。
映画をテーマにした生きた昭和史である。好著。
1「新世代ビジネス、知っておきたい60ぐらいの心得」 成毛 真著 文春ネスコ 1500円
著者は元マイクロソフト日本法人の社長。外資系企業の日本法人トップということは、まぁ東京支店長というところだろう。
「はじめての書き下ろし」と帯にあるが、十分そう感じる本だ。
プロでもない人が文章を書く場合、どことなくぎこちなさがある。そのかわり、体験に裏打ちされた哲学というか、生き様と本音が随所にかいま見える。だから、自然と本に力がある。読者はそれを敏感に感じ取る。良い本との出会いは真剣勝負みたいなものだ(はっきり言えば、本書はそこまでの本ではないけれども)。
実はわたしは出版社に勤務しているとき、財界リーダーの代わりに執筆したことが何回もある。本人は書く時間がない。また、その能力もない。経済団体の広報や秘書は怖くて原稿など書けない。だから、記者やわたしのような人間に頼んでくるのだ。こうなると、読みやすいけれども、あまりにもするっと呑み込んでしまって喉に引っかからない。だから読み終わっても、情報は入手できるがその人の喜怒哀楽が薄っぺらいのだ。下手でも自分で書くことだ。
内容を大づかみするとこうなる。
「いまどきの衰退産業は見方を変えれば、宝の山。ただし、宝の山になるか、屑山になるかの分岐点はいま流行のIT化がどれだけ早くできるかどうかにかかっている」
「ナスダック、東証マザーズのおかげで株式公開、上場ブームだが、上場のメリットはオーナーの株を売りやすくするということに尽きる」
本来の企業経営を考えると必ずしも得策ではないかもしれませんな。上場してまで資金を確保しなければならない企業などめったにない。いまの時代、上場すれば優秀な人材が採用できるんてことはない。技術特化型のベンチャーならさほど資金は必要ないから、周囲が上場に翻弄するなか、未上場経営のメリットに注目することもあり、だな。
「商法改正によって、現金でなくとも株式交換でM&Aができるから、今後は企業の統廃合が活発化するだろうから、逆に株価が低迷している企業では防衛のために上場を取りやめるかもしれない」
こうなると、直接金融から間接金融へと逆流するかもしれませんな。だいたい、上場のランニングコストだけでも2億円くらいかかるわけ。利益率5%の企業ならば、100億円の売上でやっとトントンになる計算になる。
この本も「へそ曲がり的見方の勧め」みたいな本だと思う。頭の体操として軽い気持ちで手にとってみたらどうだろう。
2 「僕にできないこと。僕にしかできないこと。」 春山 満著 幻冬社 1400円
幻冬社にしては珍しいビジネス本だ。
春山さんは進行性筋ジストロフィに罹り、首から下は付随。つまり、頭だけが元気だということ。それも時間の問題というシビアな人生を強いられる中、ハンデを持った人間のことは自分がいちばんよくわかるという信念で福祉、介護ビジネスを展開している。この人くらい頑張れば何でもできる、不可能はないね。
「社員にお尻を拭いてもらう」という。これは採用時に約束している。テレビにも何回も登場してるから、「あぁ、あの社長だ」と知っている人もいるだろう。
介護ビジネス花盛りのなか、あのディスコ経営者と違う意味で話題を二分している。
「頭でっかちにマネジメントの理屈を学ぶくらいなら、いきなりビジネスをやったほうがいい」という意見は、あのジム・ロジャーズとまったく同じ意見。ジムはかのジョージ・ソロスと一緒にクォンタム・ファンドを設立したパートナーで、いまはコロンビア大学で経営学を教えているが、「自分の金で商売をやってみるほうがよっぽど勉強になる」と公言している教授だ。
あの「五体不満足」の乙武洋匡さんと対談したとき、話が終わると彼が心細そうに「僕は春山さんのようなビジネスマンになれるでしょうか?」と訊いたという。それに一言。
「なれると思うよ。君は爽やかだから。いままで通り、可愛がられる男でいなさい。そうすれば、チャンスは湧いてくるから」
かつて、松下幸之助さんは「男も愛嬌やで」と言ったことがある。愛嬌には性別も年齢差もない。年上でも可愛らしい人はたくさんいる。春山さんは難病の宣告を受けた二十代に爽やかでなければ生き残れられないことを教えてもらった、という。創業者というのはこういう魂の込められた言葉をたくさん持っている。だから、面白い。
春山さんが贔屓にしている定宿はパレスホテルである、という。「なぜか居心地が良い」という。もう七、八年になるらしいけれども、最近、その理由がやっとわかったらしい。
それは客、ゲストへの接し方を徹底的に教育されているからだという。
わたしもここで打ち合わせをしたことが何回もあるけれども、ホテルマンがいるのかいないのかわからないところがある。でも、困っていると必ずどこからともなく現れるという。けっしてハンデキャプトを特別扱いせずに自然体でもある、らしい。
風の強い日でも先頭に立って、客を出迎える上品な紳士がだれだろう、と訊けば、これが総支配人だという。なるほど、リーダーの波動でホテルは動いている。
3 「マッカーサーとチャンバラ」 小川 正著 恒文社 1500円
こういう本がゲットできるのがインターネットのいいところだ。
いままで趣味で、ジャズとか映画、芸能関係の本をたくさん読んできた。これらは古本屋に売ることもなく、まだ書庫のどこかに眠っているはずだ。「砧撮影所と僕らの青春」「映画興行師」「ええ音じゃないか」といった日本映画創生期に携わった人のドキュメントから、大昔の「スタア」さんたちの写真集まで集めている。
こういう本は資料として読める。東京の西武池袋線だか新宿線だかに大泉学園という駅がある。ここは撮影所があるのだが、もともと新興キネマを経て戦後、吉本興業が貸しスタジオとして経営していたものなのだ。こういうどうでもいい情報がわんさと載っている。
ところで肝心のマッカーサー占領下、チャンバラは全面禁止だったが、これが解除されたのも裏話は「賭けゴルフ」だったというお粗末。案外、歴史というのは表面で語られる原因ではなく、こんな人間臭いものがホントの理由になっていたりする。しかし、チャンバラが全面解除されたおかげで東映(東横映画の略)はドーンと伸びていく。親会社の東急電鉄よりも景気がよくなって、とうとう東映フライヤーズというプロ野球チームを持つことになるのだから、たいしたものだ。
そう言えば、横浜ベイスターズの前身は太洋ホエールズ、その元は松竹ロビンズだった。いまやその松竹大船撮影所もなくなった。映画は五社協定などで自分で自分の首を絞めた。どんな時代も変化するほうが守るほうより強いものだ。
映画をテーマにした生きた昭和史である。好著。