2000年08月10日「東京アンダーワールド」「踊る日本大使館」 「お家繁盛 町繁盛」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

さて、今回も3冊ご紹介しておきます。

1「東京アンダーワールド」 ロバート・ホワイティング著 角川書店 1900円
 読んでいるうちに、これは映画になるなと思っていたら、帯に小さく「映画化決定」と書かれていた。やっぱりな。
 この著者の本は二冊目である。「日出づる国の奴隷野球」を去年読んでいた。これは日本の週刊誌でいつも叩かれていたダン野村という野球エージェント(野茂や伊良部のメジャーリーグ実現で名を馳せた)を追いかけた力作である。前近代的なプロ野球マネジメントにスーパードライに果敢な切り込んでいく姿勢には感動の念を覚えるばかりである。
 さて今回は、戦後、東京、赤坂、銀座、六本木を中心にのし上がってきた様々な人間たちの生態を精力的な取材力で浮き彫りにしている。東京の闇を支配していた人間はだれなのか。六本木マフィアと呼ばれたニコラス・ザペッティを狂言回しに使って、話はどんどん進んでいく。「仁義なき戦い」は広島が舞台だったが、東京ではさらにダイナミックなスケールで仁義なき戦いが展開されていたことがよくわかる。
 ところで、焼け跡から一貫して、この国の政財官界は暴力団やCIAと手を携えて生き抜いてきた歴史を考えると、きれい事だけで一国の舵取りはできないだろう。清濁併せのむ力量の政治家でなければ、はじき飛ばされてしまうことを痛感する。
 アメリカ、中国を手玉に取れる愛国者はどこにいるのだろうか。


2「踊る日本大使館」 小池政行著 講談社 1600円
 「元外交官が記した日本外交、現場からのリポート」といったらいいだろうか。「はみ出し銀行マン」というシリーズ本があるが、金融を外交に置き換えればテイストはよく似てると思う。自分の不甲斐なさから欲望まで正直にさらけ出している点に好感が持てた。
 感じたポイントは二つ。
 一つは日本のキャリア外交官というのはプライドだけが異常に高く、ろくでもない人間が少なくない、ということがよくわかった。しかも、それは本人ばかりか、ご内儀まで同類項なのである。以前、外交官をしている友人から話を聞いた点と共通することが多いから、これは外交官という人種の特性なのだと思う。それは上には媚びへつらうけれども、下の人間はすべて自分の使用人と認識していることである。だから、あのテロ事件のときのペルー大使のような危機管理ゼロ、しかも傍若無人の人間になるのだろう。彼も代々外交官の一族だから、バカ殿稼業が骨の髄まで染み込んでいたのだと思う。
 二つ目は、これら外交官の決定的な能力不足をカバーしているのが皇室外交だという点である。
 天皇陛下、皇后におかれても、皇太子、妃殿下におかれても、多くの宮様におかれても、外国政府の要人と民衆の心を同じ目線で見ることができるのは、結局、このやんごとなき人々しかいないのではないかと思うのだ。それに類するエピソードがたくさん紹介されている。
 世の中には皇室を税金泥棒呼ばわりする人も少なくないが、それを言う前に外交の現場を見ると、いかに皇室が政治に貢献しているかをもっと注目すべきである。

3「お家繁盛 町繁盛」 永六輔著 KKベストセラーズ 700円

 手っ取り早く作った本である。だから、読みやすい。
 成田山といえば門前町として有名だが、全国どこも商店街は衰退の一途を辿っている。そこで永さんが地元の若旦那会に一肌脱いで、落語家を一人連れてきて、一日四回場所を換えて落語会と講演会を催すという趣向。その永さんの講演部分だけをヒックアップしたのが本書である。
 面白かったのは、平安京遷都に対する永さんの分析。たしか嵯峨天皇は大和五山が強くなったために奈良の平城京を捨てて、長岡京へと遷都を企てた。さらに桓武天皇になると、京都に遷都することになる。わたしは弟を殺した桓武天皇が怨霊が怖くなって風水上、平安京を作ったと考えていたのだが、永さんは「奈良には銅像がたくさんある。しかも、金箔が塗られている。金箔を塗るには水銀を上塗りする。そのためにカドミウム中毒が広く発生した。緑は滅び、魚は死に、田圃はだめになる。そこで奈良の都を捨てた」というのだ。
 これは面白い。以前、天川神社やダムに沈む川上村、十津川村などを旅したことがあるが、この地はたしかに水銀の産地として有名だった。丹生という地名がそこかしこにあったが、「丹」というのは丹頂鶴でおわかりのように「赤」という意味で、これは水銀のことを示している。
 この本は二十分あれば簡単に読めるが、永さんのいいところがそこはかとなく伝わってくる好著である。