2000年07月20日「とんかつ奇々怪々」「座して待つのか、日本人」「その場しのぎの英会話」「これでダメなら英語をあきらめなさい!」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

さて、今回は4冊ご紹介しておきましょう(敬称略)。
 1「とんかつ奇々怪々」 東海林さだお著 文藝春秋 1100円

 20代のサラリーマン時代、貪るように読んだのが東海林さだおさん、椎名誠さんの痛快な話、そして西村京太郎さんの推理小説だった。あまりに凝って、単行本をすべて読破してしまい、月刊の小説や週刊誌まで原稿が載っていれば必ず手にとるほどの中毒患者だった。
 しかし、一年間で完璧に飽きた。熱しやすく冷めやすいという性格によるのか。いや、そうではない。仕事が忙しくなって、悠長に読んでいられなくなったのである。幸い、読まなくても困ることはない。だから、書店に行ってもここ十五年近く手に取ったことがなかった。
それが今回は買ってしまった。もちろん、見開き2ページだけ眺めて読むべき項かどうかを瞬時に判断する。このトンカツ本も結局、半分だけ眺めた。
 実はトンカツ情報が欲しかったからである。さらに言うと、阿佐ヶ谷界隈のうまい店の紹介もあったからだ。この二点の理由で買ってしまった。
 御徒町駅近くのトンカツ店三店はホントに美味しいらしい。今度、行ってみようと思う。本家ポン太、双葉、蓬莱屋。東海林さんはホントに美味しい食べ物の表現力が卓越している。ぜひテレビ東京のグルメ番組の特別レポーターをやってもらいたい。わたしは横浜関内の勝烈庵が贔屓だが(この前行ったときにはミュージシャンの小田和正さんがいた)、ここのは特殊なトンカツ味だから、普通のトンカツを食してみたい。一緒に行きたい人はご連絡下さい(冗談です)。
 2「座して待つのか、日本人」 的場順三著 WAC 1575円
 書店でぶらり眺めていると、「この人の名前、どこかで聞いたな」と手に取った次第。そう、前回、前々回、ご紹介した佐々淳行さんの著書にところどころ出てきたのである。それで覚えていた。
 大蔵省主計局次長から内閣審議室長、内閣内政審議室長、国土庁事務次官、あとどこかの金融機関の副総裁を経て、大和総研理事長ということになっている。
 大蔵官僚にしては珍しく、武士のような一本気の人らしい(佐々さん談)。そういうストレートな人がいい。どんなに頭が良くても、ずるい人はやっぱり嫌である。
 中身はなかなか面白いが、気になった点が一カ所。これはキーマンネットワーク定例会で対談をしてもらった下村澄さんから安岡正篤さんの逸話として聞いたことだが、それと同じ話を紹介しているのだ。
 田中角栄総理の時代、国交回復問題で中国を訪問したとき、周恩来首相に色紙をもらう。それには「言、必ず信あり、行いは必ず果たす」という言葉があった。決断と実行がスローガンの田中総理を的確にあらわした表現であるが、これは『論語』の「子路第十三」に出てくる一節で、実はリーダーとして三級の資質のこと。「自分が言ったことは責任をもってやるし、行えば結果を出す」というような意味で、この文章のあとにこう続く。「??然として小人なるかな」。「??然」とは石ころのことだから、「道ばたにゴロゴロ転がっている石ころみたいな小者だよ」ということなのだ。著者はここで終わりにしているが、実はこれで終わりではない。
 『論語』の最後に第四等のリーダー論が続く。「それでは、政治をやっている人はどうか」と聞くと、「斗?(としょう)の人。なんぞ数えるに足らんや」と孔子は一言で切って捨てている。斗?とはどちらも量の単位。つまり、「ひと山いくらの人物だ」と答えているのである。
 当時、外務大臣は大平正芳氏。日本人はなかなか気づかないが、中国人は人を試すようなしたたかさを持っている。『論語』の一節もそうだし、田中総理と同行した大平外務大臣が毛沢東に会ったとき、『楚辞集籍』という本をもらったものの、これは正義を主張したあまり、国を追われて汨羅の淵に身投げして死んだ楚の屈原をモデルにした小説なのだ。屈原はご存じの通り、五月人形のモデルでもある鍾馗のことだが、一国の外相にそんな本を渡すのはたいへん失礼な話で完全になめられていたのである。

 3「その場しのぎの英会話」 阿川佐和子著 光文社 430円
 「これでダメなら英語をあきらめなさい!」 村越秋男著 集英社 1470円

 英語の本をプロデュースしなければいけなくなり、とにかく映画のシナリオから芸能人本まで50冊ほど一気にチェックした。
 なかでも、本書はほとんど英語できない状態の彼女が悪戦苦闘する姿が微笑ましく読めた。また、本人が言っている通り、元は取れそうな内容である。ほとんど常識的な内容しか書かれていないが、まぁ、初心者の方にお勧めしたい好著だと思う。
 「これでダメなら英語をあきらめなさい!」も好著。これはおかしく、愉しく読めた。
 この人は早稲田のESSの部長さんだった人。「笑っていいとも」の英語コーナーで金タモバッジをもらった人でもある(ちょっとわからないと思うけど)。つまり、英語に聞こえる日本語をネタとして応募したのである。たとえば、「家内紀州」(Can I kiss you?)といった具合だ。笑いながら勉強できる好著。まぁ、わたしがプロデュースする本はもっと使える本になると思うけど。