2009年01月28日「深夜特急 第三便 飛光よ、飛光よ」 沢木耕太郎著 1680円 新潮社

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 この前ご紹介した「旅する力」を読んでから、潜在意識のなせる業か、くそ忙しい中にもかかわらず、「ミッドナイト・エキスプレス」のDVDを観ちゃいまして、さらになにをとち狂ったのか、そうだ、「深夜特急」の中でもイスタンブールのあそこ面白かったよなと思い立つと、ガバッと起き出しまして、本棚つうか本部屋つうか、本に占拠されたあたりつうか、に潜り込み、深夜、この1冊を探すハメになっちゃいました。

 待ち人来たらず、待ってる卵はなかなか煮えない、もんですなあ。

 たしかこのあたりに。勘違いか、じゃ、ここか。「こんなに見つからないのもいらん本が多すぎるからだ」と半ばキレ気味になりまして、なんと、本を探す前に本を整理しなければならないのだと気づくのでありました。

 でもって、ようやく見つけ出す前に、いったいどんだけ整理したか?
 冊数はわからんのですけど、段ボール12箱分。古書店にすべて引き取ってもらった代金は15000円ちょい。
 このせこい店でこんだけのお金になったつうことは、たぶん1500〜2000冊くらい? 絶版以外は古書店等では買わないからね、新刊が多いんだけど、そのくらいは処分したと思うな。

 ブックオ○なんかに売るのもったいない! たしかにそう思います。二束三文だもんね。え、これ、5円? そんなアホな。そういう経験は山ほどあります。
 けど、読んでしまった本て二束三文なのよね。私、中身が欲しかったんで、「モノ」は不要なのよ。邪魔なのよね。

 もったいない? 本をなんだと思ってる? 知の財産だぞ!  あなた、3万冊の本に囲まれたことある? しかも、これ、黙ってると年に3000冊以上増殖すんのよ。部屋どころか家が傾いてしまいまっせ。

 さて、この「飛光よ、飛光」はとっくに絶版。奥付見ると92年刊行の初版本。たぶん、文庫だと5巻と6巻にあたると思う。

 すべて忘れてました。コロッと忘れてました。完璧に中身、忘れてました。いやあ、忘却力っていいですねえ。昔、読んだ本がもう1度じっくり愉しめましたよ。へえ、そんなこと書いてたんだ。知らんかったわあ。もっと早く読めばよかった。読んでるっちゅうねん! なんてノリつっこみ入れたりしてね。

 「ミッドナイト・エキスプレス」で主人公がタクシードライバせーの売人からハッシシを買ったプディング・ショップには1回しか行ってなかったんだ。で、よく通ってたのは隣の店だったのか。勘違いしてた。

 どうして美味くもないプディング・ショップに人が集まるかというと、ただでさえアジアとヨーロッパの「際」「ターミナル地点」であるイスタンブールでも、ここはバックパッカーつうかヒッピー(古いねどうも)にとっては伝説的な店でさえあるわけ。
 いずれの側のバックパッカーたちも「情報」を壁に貼り付けてるの。つまり、料理云々とかじゃなくて、この「情報」で人を集めてるわけね。

 な〜んだ。これ、ネットの掲示板? ポータルサイトじゃん?

 オーナーはこの掲示板を有料とすることで一財産つくったのね。人が集まるところビジネスありき・・・か。当然、料理の味がいいわけがないわな。

 著者のトルコ観はかなりいいのね。「ミッドナイト」の主人公とちがって終身刑も受けなかったし、なにより、会う人会う人に親切にされた。とくに旅していて料理が美味かった、という体験はものすごくいい。
 その前のイラン、アフガンが最悪だったから余計に良かったのかもしれない。超貧乏旅行者が覗く屋台の店でも美味かった。もち、安くて美味かった。
 食い物の恨みは大きいからね。これはその国を好きになるかどうかを決定するだけのモノサシですな。

 「飛光よ、飛光よ」は92年に刊行されたわけですけど、第一便・第二便は以前書いたように、元々、産経新聞に連載されたのね。で、ぜんぜん書き進まなくて、池波正太郎さんの新連載がおじゃんになりそうなんで、急ぎイランまではなんとかモノしたわけ。
 けど、その先はいずれ・・・という形でケリをつけてたわけ。
 ここまで書いたんだからあとはすぐだ、と著者も思ってたみたいだけど、これが甘かった。
 いろんなとこから座敷がかかったということもあんだけど、それ以上に、ある程度、まとめてしまうと、その続編を書くにしてもかなりのエネルギーが必要なわけよ。
 で、そのエネルギーがなかなか出てこない。ほかの仕事はガンガンやるんだけど、この仕事にはちょっと出てこない。いわゆる、「いまひとつ乗れない」ちゅう気分なのよ。

 この気持ち、よっくわかります。机に向かえばスラスラ書ける。でも、どうしても机に向かえない。向かわない。頭の中ではもうできてるの。けど書けない。乗らないの。
 どうすれば書けるか、乗れるか? ある種、「事件」がないとあかんのよ。事件が衝撃となってモチベーションに点火されるわけね。

 著者もその事件に出会ったから、ようやく6年後に書き始めるわけよ。ね。そんなもんなのよ。

 旅ってのは面白いモンですな。「ここに行こう」という意思よりも、とにかく前に進むとひょんな出会いがあって、そこに連れて行ってくれる。そんな感じ。
 著者と「同行二人」の読者も、不思議やなあ、やらせちゃうの? そんなに調子よく待ってますかいな。猿岩石とはちゃうぞ、とは感じると思うけど、この意外性こそが旅の醍醐味なんだよね。

「旅は私に二つのものを与えてくれたような気がする。ひとつは、自分はどのような状況でも生き抜いていけるのだという自信であり、もう一つは、それとは裏腹の、危険に対する鈍感さのようなものである」

 ま、コインの裏表ですな。自信が鈍感を生み、鈍感が自信を育てたんでしょうな。

 実は、本を山ほど処分する中、DVDもたくさん見つけまして、「あ、これ、もう1度観たい」ちゅうのをこれまた山ほど発見。
 ま、TBSが20〜30年前の伝説的なドラマを50周年記念で刊行しはじめましたからね。これ、どさっと買い込んじゃったから、こちらを優先したいんですけどね。「これは!」という逸品についてはチラホラご紹介したいと思います。
 ホント、いいのがあんのよ。どうして、これ、いままで紹介しなかったんだろうちゅうのがね。ま、お楽しみに。人間革命、起こしまっせ。400円高。