2009年02月17日「時代劇は死なず!」 春日太一著 集英社 756円
「木枯らし紋次郎」VS「必殺仕掛け人」と帯コピーにあんだけど、私ゃ「素浪人月影兵庫」が好きでしたな。
腕はめっぽう強いのに、なぜか猫が怖い。おからが大好物で酒の肴にないと怒り出す。ところが、おからを食べたとたん弱くなっちゃう。一方、相棒の焼津の半次は蜘蛛が怖い。で、曲がったことが大嫌い。といっても、たとえば暖簾が曲がっていたり、お品書きが曲がっていると、直さないと気が済まない、というキャラ・・・と思ってたら、これがまったくの記憶違い。
ぜ〜んぶごっちゃになってました。「素浪人月影兵庫」がヒットした後、まったく同じ出演者でもっと「悪ふざけ」をヒートアップした「素浪人花山大吉」を撮るわけ。2つのキャラがかぶさってました。
けど、この時代劇は大ヒットしたんです。テレ朝の前身のNETね。放送は1965年。えっ、チビのくせにこんなの見てたの?
元々は、剣豪小説で人気のある南條範夫さんの作品。これをかなり愉しくデフォルメしたのね。脚本は結束信二さん、プロデューサーは上月信二さん。傑作「新選組血風録」と同じスタッフです。
主演の月影兵庫は近衛十四郎さん。半次に品川隆治さん。どちらも第2東映のスターさん。近衛さんは松方弘樹さんのオヤジですな。
ついでに言うと、松方さんて俳優になる前、五木ひろしさんと一緒に歌謡学院で勉強してたのね。で、五木さんの唄、聞いてるうちに方向転換。俳優を志します。
さてと、第2東映の主役がどうしてテレビに? それは映画業界の凋落で第2東映も消滅。所属俳優は食べられなくなったから。
わずか5年前。時代劇映画は東映、大映、松竹など、年間168本が製作されてたの。それが、62年には77本。66年は15本。こりゃあかんわな。構造不況でっせ。
本書はこんな大不況期を映画各社はどうやって乗り切ってきたか、ダメになったかをまとめた1冊。映画好きの私にはたまりませんな。
いまのテレビ番組。とくにドラマとお笑いね。これ見てると、ダメになっていく映画業界と酷似してますな。ひと言で言えば、コンテンツ不足ていうヤツ。企画不足ね。具体的に言うと、人気俳優、売れっ子芸人を集めてとにかくなにかやればいい、というスタイル。
「なにを」やるかではなく「だれが」やるか。俳優のローテーションで年間製作スケジュールが決められちゃうわけ。となれば、企画は二の次三の次。結果、スターのとりっこ。企画内容のマンネリ。陳腐化。リスクをとらない。冒険しない。少しずつ地盤沈下していくわな。
結果はすぐに出てきます。お客さんが入らなくなるもん。
テレビ隆盛の一方、映画界が斜陽化する。あれだけバカにしていたテレビを無視できなくなってくるわけです。大映の永田雅一社長は最後までテレビを認めなかった。そのせいで大映は潰れます。
一方、東映の岡田茂社長は、ものすごく厳しいコスト管理で映画を作らせます。
他社と比較すると、人件費60%。製作コストは20〜50%。人件費よりフィルム代が高いから撮り直しは2回まで。利益率の高い仕事をさせた・・・けれども経営は圧迫されるばかり。
でも、こんだけきつい労働環境でも東映が踏ん張ったのは、岡田さんは社員を大切に扱っていたから。製作部長時代には、労組と一緒になって不安定な雇用環境にあったスタッフを全員正社員にしちゃう。雇用厳守の原則を貫いたからね。
元々、職場なんてそんなもんですよ。安心して働けるからいい仕事ができるんだよね。
岡田さんは、東映京都撮影所の斜陽化による人員整理を経営多角化と配置転換で乗り切ります。
1964年、路線変更に反発する時代劇スタッフたちを東映京都テレビプロダクションに出向させます。ここが作ったのが「新選組血風録」であり「月影兵庫」「花山大吉」なのね。
とくに「血風録」は原作者の司馬遼太郎さんが激賞した作品。このDVDめちゃ高いんだけど、お勧め。それまでの東映ならスターを主演に勧善懲悪。立ち回りで見せるという予定調和の退屈な作品になったと思うけど、1作1作、新選組隊員1人1人にスポットライトを浴びせて、その内面を掘り下げたドラマになってるわけ。
主演の土方歳三役に栗塚旭さん。京都の喫茶店のマスターやで。
東映京都テレビプロ設立の翌年、東映京都制作所をオープン。「水戸黄門」を作ります。ほかに「桃太郎侍」「長七郎江戸日記」とかね。
太秦に映画村を作ったのも、もち、雇用確保のためよ。
一方、倒産した大映。ここの技術力は映画界でも定評がありました。
具体的に言うと、美術の西岡善信さん。照明の中岡源権さんと美間博さん。この人たちの作品は最近もヒットしてますよ。「たそがれ清兵衛」「隠し剣鬼の爪」がそう。どちらも山田洋次監督ですな。あの映像の美しさったらありませんなあ。
大映が倒産すると、この人たちは撮影所を作ろうとはせず、人の輪=ネットワークで仕事をしようと考えるわけ。撮影所なんてハードよりもソフトが大切。技術さえあればどこでも撮れるという自信ですな。
で、やっぱり彼らはテレビ制作に進出します。撮ったのが「木枯らし紋次郎」よ。
いままでの時代劇では絶対に出てこなかったヒーロー像ね。そばで困ってる人がいても無視。殺されそうになっても助けない。
「あっしにはかかわりのねえことでござんす」
ニヒリズムの権化。私ね、このテーマ、いま当たると思うよ。
つうのも、以前、このサイトでも紹介した「ハケンの品格」あるでしょ。あの番組、大ヒットしましたよね。私、あれ見たとき、最初に感じたのは、「な〜んだ。これ、ビジネス版おんな木枯らし紋次郎じゃん?」てこと。
つまり、「木枯らし紋次郎」そのまんまじゃなくて、「木枯らし紋次郎なるもの」にヒットの糸口があるわけ。
上条恒彦さんの主題歌も大ヒットしたしね。社会現象になりました。小中学生がなにかというと楊枝くわえてしゃべったりしたのもこの影響。バカだねえ、はい、私です。
で、この大ヒット時代劇の向こうを張って出てきたのが「必殺仕掛け人」ですよ。これは松竹が手を挙げます。松竹京都映画撮影所ですね。
こう見てくると、作ろうという人がいる限り、時代劇は永久に不滅ですな。そして、たぶん、これはあらゆる仕事にもいえることかもしれませんな。350円高。
腕はめっぽう強いのに、なぜか猫が怖い。おからが大好物で酒の肴にないと怒り出す。ところが、おからを食べたとたん弱くなっちゃう。一方、相棒の焼津の半次は蜘蛛が怖い。で、曲がったことが大嫌い。といっても、たとえば暖簾が曲がっていたり、お品書きが曲がっていると、直さないと気が済まない、というキャラ・・・と思ってたら、これがまったくの記憶違い。
ぜ〜んぶごっちゃになってました。「素浪人月影兵庫」がヒットした後、まったく同じ出演者でもっと「悪ふざけ」をヒートアップした「素浪人花山大吉」を撮るわけ。2つのキャラがかぶさってました。
けど、この時代劇は大ヒットしたんです。テレ朝の前身のNETね。放送は1965年。えっ、チビのくせにこんなの見てたの?
元々は、剣豪小説で人気のある南條範夫さんの作品。これをかなり愉しくデフォルメしたのね。脚本は結束信二さん、プロデューサーは上月信二さん。傑作「新選組血風録」と同じスタッフです。
主演の月影兵庫は近衛十四郎さん。半次に品川隆治さん。どちらも第2東映のスターさん。近衛さんは松方弘樹さんのオヤジですな。
ついでに言うと、松方さんて俳優になる前、五木ひろしさんと一緒に歌謡学院で勉強してたのね。で、五木さんの唄、聞いてるうちに方向転換。俳優を志します。
さてと、第2東映の主役がどうしてテレビに? それは映画業界の凋落で第2東映も消滅。所属俳優は食べられなくなったから。
わずか5年前。時代劇映画は東映、大映、松竹など、年間168本が製作されてたの。それが、62年には77本。66年は15本。こりゃあかんわな。構造不況でっせ。
本書はこんな大不況期を映画各社はどうやって乗り切ってきたか、ダメになったかをまとめた1冊。映画好きの私にはたまりませんな。
いまのテレビ番組。とくにドラマとお笑いね。これ見てると、ダメになっていく映画業界と酷似してますな。ひと言で言えば、コンテンツ不足ていうヤツ。企画不足ね。具体的に言うと、人気俳優、売れっ子芸人を集めてとにかくなにかやればいい、というスタイル。
「なにを」やるかではなく「だれが」やるか。俳優のローテーションで年間製作スケジュールが決められちゃうわけ。となれば、企画は二の次三の次。結果、スターのとりっこ。企画内容のマンネリ。陳腐化。リスクをとらない。冒険しない。少しずつ地盤沈下していくわな。
結果はすぐに出てきます。お客さんが入らなくなるもん。
テレビ隆盛の一方、映画界が斜陽化する。あれだけバカにしていたテレビを無視できなくなってくるわけです。大映の永田雅一社長は最後までテレビを認めなかった。そのせいで大映は潰れます。
一方、東映の岡田茂社長は、ものすごく厳しいコスト管理で映画を作らせます。
他社と比較すると、人件費60%。製作コストは20〜50%。人件費よりフィルム代が高いから撮り直しは2回まで。利益率の高い仕事をさせた・・・けれども経営は圧迫されるばかり。
でも、こんだけきつい労働環境でも東映が踏ん張ったのは、岡田さんは社員を大切に扱っていたから。製作部長時代には、労組と一緒になって不安定な雇用環境にあったスタッフを全員正社員にしちゃう。雇用厳守の原則を貫いたからね。
元々、職場なんてそんなもんですよ。安心して働けるからいい仕事ができるんだよね。
岡田さんは、東映京都撮影所の斜陽化による人員整理を経営多角化と配置転換で乗り切ります。
1964年、路線変更に反発する時代劇スタッフたちを東映京都テレビプロダクションに出向させます。ここが作ったのが「新選組血風録」であり「月影兵庫」「花山大吉」なのね。
とくに「血風録」は原作者の司馬遼太郎さんが激賞した作品。このDVDめちゃ高いんだけど、お勧め。それまでの東映ならスターを主演に勧善懲悪。立ち回りで見せるという予定調和の退屈な作品になったと思うけど、1作1作、新選組隊員1人1人にスポットライトを浴びせて、その内面を掘り下げたドラマになってるわけ。
主演の土方歳三役に栗塚旭さん。京都の喫茶店のマスターやで。
東映京都テレビプロ設立の翌年、東映京都制作所をオープン。「水戸黄門」を作ります。ほかに「桃太郎侍」「長七郎江戸日記」とかね。
太秦に映画村を作ったのも、もち、雇用確保のためよ。
一方、倒産した大映。ここの技術力は映画界でも定評がありました。
具体的に言うと、美術の西岡善信さん。照明の中岡源権さんと美間博さん。この人たちの作品は最近もヒットしてますよ。「たそがれ清兵衛」「隠し剣鬼の爪」がそう。どちらも山田洋次監督ですな。あの映像の美しさったらありませんなあ。
大映が倒産すると、この人たちは撮影所を作ろうとはせず、人の輪=ネットワークで仕事をしようと考えるわけ。撮影所なんてハードよりもソフトが大切。技術さえあればどこでも撮れるという自信ですな。
で、やっぱり彼らはテレビ制作に進出します。撮ったのが「木枯らし紋次郎」よ。
いままでの時代劇では絶対に出てこなかったヒーロー像ね。そばで困ってる人がいても無視。殺されそうになっても助けない。
「あっしにはかかわりのねえことでござんす」
ニヒリズムの権化。私ね、このテーマ、いま当たると思うよ。
つうのも、以前、このサイトでも紹介した「ハケンの品格」あるでしょ。あの番組、大ヒットしましたよね。私、あれ見たとき、最初に感じたのは、「な〜んだ。これ、ビジネス版おんな木枯らし紋次郎じゃん?」てこと。
つまり、「木枯らし紋次郎」そのまんまじゃなくて、「木枯らし紋次郎なるもの」にヒットの糸口があるわけ。
上条恒彦さんの主題歌も大ヒットしたしね。社会現象になりました。小中学生がなにかというと楊枝くわえてしゃべったりしたのもこの影響。バカだねえ、はい、私です。
で、この大ヒット時代劇の向こうを張って出てきたのが「必殺仕掛け人」ですよ。これは松竹が手を挙げます。松竹京都映画撮影所ですね。
こう見てくると、作ろうという人がいる限り、時代劇は永久に不滅ですな。そして、たぶん、これはあらゆる仕事にもいえることかもしれませんな。350円高。