2009年04月07日「地団駄は島根で踏め」 わぐりたかし著 光文社 924円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 これを力作といわずして何と言おう。ま、そういう本です。
 ホントお疲れ様でした。

 著者のメルマガつうか毎月曜日に届くメールに、いつの頃からか、「語源ハンター」とか「語源の旅に出てる」とか書いてあったんだけどね。いつも遠くからいろんな土産話が届くんで、「何やってんだろ?」と気にはなってたんです。

 そうか、こういうことだったのね。ホントお疲れ様でした。

 実は私も「大言海」の大ファンで語源の隠れファンなの。
 ですんで、著者があとがきで触れてる「糸目をつけない(糸目って貨幣の単位なのよ)」等々はあちこちの本で紹介してきたんよ。ほかにも一般教養として「地団駄を踏む」「うだつがあがらない」「土壇場」「関の山」「火蓋を切る」「後の祭り」「ひとり相撲」「醍醐味(乳→酪→生酥→熟酥→醍醐とミルクが生成される様。熟酥=サルピス。カルピスの語源なのよん)」は知ってました。

 知ってましたけど、それは本を紐解いてどこかで読んだ、どこかで勉強した、ということで「知ってる」というわけ。そこに肉がついて、その他の余計な雑学(これがいちばん重要!)までついて、という広がりはありません。

 たとえば、「地団駄を踏む」。
 実は私も出雲に旅したとき、安達美術館を鑑賞したくて安来経由で2日連続で通ったのね。で、帰りに「たたら技術」で有名な和鋼博物館に寄ってるの。「地たたらを踏む」から来てるのよね。いまのいままですっかり忘れてました。本書を読んで、ああそうだったなとようやく思い出す始末だもん。

 ところが、著者はこの語源は出雲だぞとわかると、寝台特急「サンライズ出雲」に乗り込んじゃう。語源ハンティングのためならたとえ火の中水の中、あちこちに出掛けちゃう。そうです。著者は「語源界のゴルゴ13」といってもいい存在なのです。

 この民俗学的アプローチ。フィールドワークはよっぽどの「好奇心」がないとできませんな。つうか、酔うたように狂うたように熱に浮かされないとできない所業です。業といってもいいでしょう。

 なんといっても、本書の魅力は、読みながら著者と一緒にその地を旅してるという、愉快で痛快な「錯覚」に浸れることにあるのではないでしょうか。ああいい気持ち。
 知的冒険という旅? いやいや、もっと人間くさくてハプニングの多い旅そのものよ。
 そうそう、これこそ読書本来の醍醐味といってもいいですな。400円高。