2009年04月09日「浅草フランス座の時間」 井上ひさし・こまつ座編著 文春ネスコ 1785円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 またやっちゃった。同じ本買っちゃった。たぶん通勤快読でも紹介してるだろう・・・と思ったらしてないみたい。じゃ・・・。

 「昼間っからストリップなんて見やがってよ」
 エレベーターボーイのこんな呟きを井上ひさしさんは聞いてるわけ。
 もち、そのボーイとは若き日の北野武さん。暗くて、ものすごく不機嫌で、いつもぼそぼそ文句を言ってたとか。昭和47年の頃の話。

 これ、北野武さん、渥美清さんたちとの対談。フランス座はヌードがメイン。当然、所属していたヌードさん(ストリッパー)の写真もずらり。ああ垂涎(けど、全部モノクロだよん)。

 ヌードがメインの小屋で、余計な人間(芸人)が出てきて舞台を見せるわけだから、よっぽどの実力がなければできない芸当。
 たいていのお客は弁当持参でやってくる。芸人たちは弁当を広げさせないようにいろいろ創意工夫したわけ。

 座付き作家としてコントを書いてたのが、井上ひさしさんなんです。

 「浅草フランス座は喜劇の学校だった」

 けど、並の芸人が浅草フランス座に登場することはありません。
まず百万弗劇場やカジノ座のような小さい小屋に出る。あいつは面白いと評判が立ってはじめてフランス座から声がかかるわけ。
 さらにフランス座から、丸の内の日劇ミュージックホール。さらに有楽町日劇いうふうに序列があるんです。

 踊り子にも3クラスあるわけ。まず、胸も出さない踊り子。胸を出さないから支配人も給料をあまり出さない。これより少しいいのはセミヌード・もち、胸くらいは出す。その上に、身体の露出度がもっとも高いヌードさんたちがいるわけ。本書にモノクロで登場してるのはそんなお姉さんたち。

 たぶん若いんだろうけど、昔の人って年上に見えるからね。

 「金曜日の水族館のレビューたちはズロースをはいていない」と川端康成が『浅草紅団』に書いた翌日、観客で満員になったとか。
 小屋を満員にするには、やっぱりヌードさんたちに頑張ってもらわないといけないわけ。つまり、ツンパを脱いでもらうこと。
 この微妙な仕事が井上さんの役回り。それだけ踊り子さんと懇意で財布の中身もすべてつかんでいたということですな。

 でね、刑事を商売に利用しちゃうわけ。噂が立つと、風紀係の刑事が変装して入ってくるわけ。でも、そんなのとっくにお見通しでね。「待ってました」というくらい。
 現行犯でないとつかまえられないから、わざと踊り子さんにツンパを落としてもらう。すると、「はい、そのままそのまま」と啓治さんが手帳をかざして舞台に上がってくるわけ。すると、これが新聞種になるわけよ。当然、みなに告知してくれるわけだから、お客がわんさか入るという仕掛け。

 井上さんの役回り? はい、1日留置場にお世話になることです。

 けど、当の踊り子さんたちからは豪華な差し入れがある。支配人は特別手当をつけてくれる。小屋は満員御礼。めでたしめでたし、だったとか。

 「若くて、カネがなくて、無名であることか、なにかをやる条件だ」
 これ、毛沢東の言葉なんだけど、井上さんはよく使ってますな。彼の青春時代にも当てはまることだからなんでしょうな。300円高。