2004年05月24日「きっとイエスと言ってもらえる」「給与明細」「イタリア人の働き方」
1 「きっとイエスと言ってもらえる」
シェリー・ブレイディ著 草思社 1200円
分娩の時、酸素が足りなかったか、医師の鉗子の不都合か、脳に傷ができ、脳性マヒにになったウイリアム・ポーター。
著者はそのポーターのアシスタント。
ポーターはワトキンズ・プロダクツ社の訪問セールスマン。しかも、世界で指折りの。
1932年、9月9日、両親は待望の男児を授かります。
けど、乳児になってもなかなか反応しない子どもを心配して病院に。
そこではじめて、状態を告げられました。
けど、そこで両親がした判断は?
「特別な養護施設にも学校にも行かせない。その他の大勢の子どもと一緒に育てる」
すぐには反応できないけと、ゆっくりと、しかし着実にレスポンスをする。それがビル・ポーターです。
脳性マヒで、手足がちょっと不自由。しゃべるのも、そんなに流ちょうには話せない。けど、努力は人一倍。
しかも、この努力を努力とは考えていない。
だって、好きなセールスという仕事をしているんだもの。
だれだって、好きなことをしてる時は楽しくてしょうがない。
ビル・ポーターにとって、セールスがそれ。
「何度いえば、わかるの?」
「ホントにもう二度と来ないで」
500人を超す馴染み客のうち40人から、こう言われたといいます。
けど、彼は何回もカタログを持って訪問するのです。すると、たまたま、必要な商品がある。
「じゃ、これ」
最初のきっかけはバニラの瓶一本。それでも注文は注文。
ビルは元々、オレゴン州当局に、雇用不適格者と認定された人物。そうすれば、一生、生活保護で暮らせます。
けど、「ボクはそうじゃない。なんでもできる」と主張して、自分で仕事を見つめるために活動します。
もちろん、どこからも断られます。
だって、指は満足に動かないから、タイプもパソコンもできない。
けど、セールスはできるかも。
ホントはいちばん難しい仕事なんですけどね。
で、新聞の募集欄を懸命に見て、電話します。が、その段階で断られてしまいます。
ある時、いまの会社に電話すると会ってくれた。
無理でしょう。いや、得意です。
ならば、どうぞ。
ようやく雇ってくれました。
けど、この会社、フルコミッションなんですよ。だから、セールスマンを何人雇おうが、人件費がかからないから会社は損しないの。
ビルが最初にあてがわれたテリトリーは、それはそれは悲惨なところ。
こんな地域でだれか買う人がいるだろうか?
アシスタントはそう振り返ってます。
懸命に売るけど、成果が現れない。けど、そのつど、ビルはどうしたらいいかと創意工夫します。
たとえば、カタログ。
自分でもっとわかりやすいものを作ってしまう。ただし、スローだから、時間はものすごくかかってしまいます。
ある時、ある一行を発見。
「ワトキンズ社は自社の製品について、百パーセントの返金保証を致します」
このメッセージに目を付け、最大限に活用して、注文を取ります。
ビルは車に乗れません。だから、長年、歩道を一足、一足踏みしめて、ドアをノックして回る。断られても断られてもくじけない。
その秘密は、ある変な呪文にありました。
その変な呪文を唱えると、いつも元気になるのです。
「次の家では、イエスと言ってくれる。次の家では、イエスと言ってくれる・・・」
お客が「ノー」といった時、そのノーの意味を考えます。
「提案や主張を少し修正して欲しいというノーなのだ」と、ビルは言うのです。
ビルはもっとセールスしたいと、本部に掛け合います。でもなかなか認めてくれない。
「ほかのセールスマンの邪魔をするのではなく、元々のテリトリーに戻るだけです。それに自信があります」
なんと3カ月後には、「ワトキンズ1000ドル・クラブ」の一員になりました。
30年の間、彼は時計仕掛けの人形さながら、正確な毎日を送ってきました。
4時45分に起床し、朝食。新聞、ラジオの天気予報。母親にネクタイとボタンを整えてもらう。ブリーフケースを手にし、コートと帽子を身につけて玄関を出て、市街に向かう7時20分のバスに乗る。
バスを降りたら、3ブロック歩いて、10系統のバスに乗り換え、8時半には受け持ち区域であるウエストヒルズに着く。
彼のセールススタイルは、あるブロックに10軒、家があったら、そのすべてを訪ねます。中に庭や自動車がとりわけきれいな家があっても、分け隔てはしません。どの家の住人も顧客になってくれる可能性があるからです。
10軒中8軒から断られても、がっかりしない。
残りの2軒が買ってくれたからです。
3カ月後に、そのブロックにまた戻ってきたら、またまた10軒すべてを訪ねます。「この前買ってくれた家だけ訪問する」ということはしない。8軒の家の人も買ってくれると考える。
実際にたくさんの人が買ってくれました。
会社がネットワーク・ビジネスを勧めても、これを受け容れない。
「流儀にあわない」
「20/20」というABCテレビで、彼の特集が組まれました。
最初、この番組に出ることを渋ってました。
理由は簡単、「セールスができなくなる」から。視聴者はなんと2000万人もいるのにね。
このテレビ出演がきっかけで講演などの話もやってきます。けど、それも断ってしまう。
「セールスの邪魔になるから」
けど、そこでカタログを配布したら、というアシスタントのアイデアを採用。
「それはいい」
で、講演に時に話す内容としてノートを片手にアシスタントが聞きます。
「ビル、あなたの障害はすべてあげてください」
「ボクには障害なんて一つもないよ」
脳性マヒも手足の動きが緩慢なのも、これは障害ではないと、心の底から、彼は考えているのです。
「あれがない、これがない」と無いものを数えません。自分が持っている物を考えています。
「自ら招いた精神的な障害は、身体的な障害よりも乗り越えるのが難しい」とさえ、言ってます。
ビルは?といえば、彼は袖口のボタンをだれかに留めてもらい、ネクタイを結んでもらうだけ。
アシスタントのほうが、彼から気分転換の言葉や励ましを掛けられているのです。
そういえば、パラリンピックの創始者であるイギリス人医師ルードウィッヒ・グッドマン博士はこんなことを言ってます。
「It’s ability and not disability that counts.」
まっ、訳せば、失われたものを数えるな、残っているものを生かせ、とでも言うんでしょうか。
250円高。
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2 「給与明細」
テリー伊藤監修 スターツ出版 1260円
他人の給料にはさらさら関心がないけど、この人たちの仕事ぶりとその評価については知りたいね。
これ、テレビ東京の番組をそのまま本にしました。
登場するのは、パティシエ見習い、ネイルアーティスト、クラブのDJ、池袋のトップキャバクラ嬢、タレント、コロッケ屋のフランチャイザー、ホスト、出演後の人生は?
キャバクラ嬢が月収150万円。パティシエが手取り26万円。
パティシエの場合、これ、ほとんど販売員+ウエイトレスとしての収入。
パテイシエとなるためには、いったん見習い修業をしないといけないからね。こうなると、半額程度。
けど、夢があれば、楽しいでしょう。
この人がケーキ屋さんに勤めようと思ったのも、感動があったから。それまではケーキで感動することなんてなかった。
ケーキ屋さんもオーナーになると、3桁いくそうです。
3桁というと、すごいね。100円じゃなくて、100万円ということでしょ。
だから、みな、ポルシェとか乗ってるのかな。ポルシェに乗るパティシエってか。
キャバクラ嬢はまだ20歳だものね。
ごくごく自然体で客とつき合ってます。その素人ぶりがいいのかも。
昔流のママさん、チーママ、ホステスさんというのは、若い人にはちょっと重いと思うよ。
まっ、ユニークな本でした。
150円高。
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3 「イタリア人の働き方」
内田洋子著 光文社 740円
典型的な日本人スタイルなんだけど、どういうわけか、「フランス系イタリア人」と言われています。
てんで、この本。
傑作です。
なにしろ、人口5700万人の国で、法人登録が2000万社ですよ。
これ、子どもがたくさんいますから、実質的には、もう、国民全員が社長さんという国ですな。
で、本書ではイタリアを代表する有名人経営者。しかも、零細企業というか、職人というか、一風変わってるというか、まっ、そんな社長さんばかり集めました。
たとえば、イタリア1の靴磨き、ヴェネツィア1の水上タクシー運転手、本人の代わりにすべてを決めてくれるパーソナルショッパー(個人的な買い物屋さん)、イタリアの鉄打ち名人、絵画修復の魔術師、自転車作りの名人・・・そういえば、エクソシストやパパラッツィもいたな。
聞くところによれば、現ローマ法王もエクソシストの資格があるらしいですね。
イタリアでは、政府はさまざまな法規を定めて、国民個人の思惑とは関係なく機能します。
政府が問題を抱えていようが、それをイタリア人は自分たちの問題とは考えません。
自分たちの方針や利害とは関係ないこと、と思ってるんです。
実は、これ、明治までの日本人もそうでしたね。
諸外国と戦争しようが、賠償金を要求されようが、「それはお上のことで、われわれには関係ありませんから」。
こういわれて、諸外国の外交団は呆れたといいます。
ということは、当時、イタリアはこの外交団には加わっていなかったんですね。
その通り!
この個人主義は長所と短所を育てますね。
たとえば、フェラーリのように、全体を平均すると負けるのに、異様な力を湧き出す個人を輩出してす。
部分最適、全体不適?
でも、その全体っていったいなに?
国?
世界中を旅してきて考えるに、やっぱり、物作りはイタリアが抜群ですね。ミラノ、フィレンツェ・・・。鞄も靴もスーツも車もネクタイ、染色・・・。
とくに、赤の色遣いには感心します。
情熱と家族が守り通してきた伝統と継承、ごく細部にまで及ぶマニアックなこだわり、そして、なんといっても大量生産を拒絶する勇気。
エリメスのケリー、バーキンは3年待ちだからこそ価値があるんです(バーキンの水色限定品など、ドンキでも140万円でっせ?)。
「わたしたちは倉庫番のような気持ちで働いています。自分たちの倉庫からたくさんの夢を送り出したと考えます。わたしたちの生きている時代に預かっている大切なものを、後生の人たちにきちんと残していきたい」と言うのは、世界一のカシミアで有名なブルネッロ・クチネッリ。
この職人根性が、イタリアの誇りだわな。
200円高。
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