2009年06月01日「ロシアと世界金融危機」 酒井明司著 東洋書店 1680円
GMが正式に破綻しましたな。ま、マーケットも織込み済みですわな。為替は円高ドル安でしょ。
日本でもIHIとか取引先があります影響は少しはあると思いますが、彼らにしても織込み済み。みな承知の上で商売してたわけでね。請求書はオバマに回せばいいわけです。
それより、ホンダ、トヨタはチャンスじゃない。マラソンしてて、振り向いたらずっと後方で2人の選手がリタイアしてた、というわけですからね。
さてと、著者は商社マン(三菱商事)として30年間、ロシアビジネスに携わってきた人物。私、エコノミストとかアナリストで信頼してるのは2人だけ。あとは下駄のほうがよっぽど当てになります。
こういう現場をよく知り(虫の目)、なおかつ冷めた目(チャートとかで鳥瞰)で見られて、さらに多角的な情報網(人による情報)でチェックできる人ってのが、ホントに信頼できるんじゃないでしょうか。
2009年1月段階。ロシアのGDPは前年同月比8.8%減、鉱工業生産16%減。リーマン・ショックの影響をこの資源大国ももろにかぶってしまいました。
1998年。ロシア危機がありました。例のLTCMが破綻したときですね。
新興国市場全体への不安から短期資金がロシア国債と株式から一斉逃避。国債を大量保有してた金融機関の破綻が相次ぎました。上位10行のうち2〜6位までが破綻しちゃったんですからね、それは上を下への大騒ぎ。
けどね、これ、今回の金融危機に比べればたいしたことないの。
たとえば、前回吹っ飛んだ外貨準備は10カ月で150〜160億ドル(ま、これでもデフォルトしちゃったわけだけど)。2008年9月から半年間で2000億ドルが消えました。株価は、98年は15カ月間で15分の1へと暴落。今回は8カ月間で5分の1に下落。「な〜んだ、そんなもんか」ではありません。時価総額に換算すると、なんと1兆7600億ドルですからね(98年当時は565億ドル)。
為替は、98年7月16日に1ドル=23.1ルーブルと高値をつけたものの、09年2月は1ドル=36ルーブルまで下落。これ、56%もの切り下げです。
この10年間でロシア経済が拡大したのと同時に、外国からそれだけ投資されたという証左ですけどね。あと、ロシア国内のインターネット人口が100万人から3400万人へと急増してたおかげで、あっという間に引き上げられたわけでもあります。
ロシアってのは、やっぱ資源国なのよ。金融大国にはなりえません。
彼らの意識というか、パーソナリティでは金融は無理です。「100人に金貸してきちんと返ってきたのは1人だけだった」と外務省に幽閉されてる佐藤優さんも述べてます。
契約意識が「普通」とちがうわけ。普通、契約するとそれを守ろうと努力しますよ。つうか、契約を前提にものごとを進めます。
けど、ロシアは時間が経てば状況が変わるに決まってる。だから、その都度、契約を確認するという方式。「その都度」というから、絶えずコミュニケーションしたり交渉したりして確認しないといけないわけ。そうやって気心が知れてくると「信頼」に変わる。ここまでが大変なのね。
日ソ不可侵条約を平気で破るのも、状況が変わった。信頼が置けるまでコミュニケーション(交渉)してなかった。だから平気で破ってもいい。そういう論理というか気質なの。
ま、自分勝手といえば自分勝手。でも、これ、「契約」にあるから破綻しようが退職金はもらってくよ、という米国の投資銀行やファンドの連中とどこがちがう?
逆に言えば、いったん契約したと言っても、こちらの都合が悪くなればさっさと交渉して変えられる、ということでもあるわけ。著者の経験でもこちらが有利なように変えても別に怒らなかったって。そういうキャラクターなんですな。
資源国ですからね。資源が高く売れないとロシアは困る。「経済成長の3分の2は非エネルギー部門にある。ロシアはすでにエネルギーへの過度の依存から脱却しつつある」とプーチンがアピールしてるけど、ということは、3分の1はいまだに原油と天然ガスだと告白してるに等しいですな。
EUやトルコ、日本、中国との間にパイプラインを建設したいんだけど、これ、原油価格がバレル100ドルくらいで高値維持してもらわないと全然無理。
原油価格は08年7月11日にバレル147ドルに暴騰したけど、あっという間に35ドルに暴落。いまようやく60ドル前後ですけど。まだ足りないわけさ。
かつて、日本は台湾、満州、朝鮮半島、樺太の南半分などを領有してました。で、ロシアはじめ、列強と対立して太平洋戦争に突っ込んでいくわけですが、この日本の政策に対して、大正時代から警鐘を鳴らしてた政治家がいるのね。
石橋湛山ですよ。早大卒にして東洋経済新報社出身。経歴だけは私と同じなんですが(中身が全然ちがう)、彼が主張したことは、いたずらに領土を拡大したって日本の経済的利益にはつながらないよ、という点。
戦後、日本はすべてを失いますが、「これでようやく足枷が取れて経済発展を図れそうだ」と石橋湛山は喝破してます。
開発しなければならない地域を多く抱え込むと、結局、中央からの持ち出しばかりで採算が合わないのよ。下手すると(そしてこれが多い)、赤字が構造的になってしまうわけ。
こうなると大変ですよ。なんのために仕事してるかわからない。働けど働けど赤字が積もる。地方自治体が手がけた第三セクターの結果を見れば一目瞭然ですわな。
ところが、ロシアのような資源国になるとちと状況は変わってきます。1センチでも増えればそこに原油や天然ガスが湧き出るかもしれないから、なるべく土地は広く取りたい。
けど、残念ながらロシアは自分たちの技術で開発できません。彼らにできるのは資源と労働力の提供だけ。採掘技術からパイプラインの建設にしても無理。そこに日本の出番があるわけね。
日本という国は、第1次石油ショックが起きた1973年に原油輸入量2.9億キロリットルに対して、08年は2.43億キロリットルとかえって減ってるわけ。つまり、猛烈な国民運動で省エネを実現しちゃったの。
今後、日本は太陽光や風力、メタンハイドレートなどの新エネルギーを開発しつつ、既存のエネルギーを中東、ロシア、インドネシアといったマーケットの価格を見ながらやりくりするようになると思うね。
ロシアは日本と上手くやっていくしかありません。少なくとも、技術を提供してもらってる間は揉み手で対応するしかありません。北方領土返還にしても、ここ5年。つまり、米国の景気回復が本格的になるまでが交渉のチャンスかも。
日本は外交のカードとして、ロシアをもっと使うべきですな。もちろん、対北朝鮮問題にしてもそうです。300円高。
日本でもIHIとか取引先があります影響は少しはあると思いますが、彼らにしても織込み済み。みな承知の上で商売してたわけでね。請求書はオバマに回せばいいわけです。
それより、ホンダ、トヨタはチャンスじゃない。マラソンしてて、振り向いたらずっと後方で2人の選手がリタイアしてた、というわけですからね。
さてと、著者は商社マン(三菱商事)として30年間、ロシアビジネスに携わってきた人物。私、エコノミストとかアナリストで信頼してるのは2人だけ。あとは下駄のほうがよっぽど当てになります。
こういう現場をよく知り(虫の目)、なおかつ冷めた目(チャートとかで鳥瞰)で見られて、さらに多角的な情報網(人による情報)でチェックできる人ってのが、ホントに信頼できるんじゃないでしょうか。
2009年1月段階。ロシアのGDPは前年同月比8.8%減、鉱工業生産16%減。リーマン・ショックの影響をこの資源大国ももろにかぶってしまいました。
1998年。ロシア危機がありました。例のLTCMが破綻したときですね。
新興国市場全体への不安から短期資金がロシア国債と株式から一斉逃避。国債を大量保有してた金融機関の破綻が相次ぎました。上位10行のうち2〜6位までが破綻しちゃったんですからね、それは上を下への大騒ぎ。
けどね、これ、今回の金融危機に比べればたいしたことないの。
たとえば、前回吹っ飛んだ外貨準備は10カ月で150〜160億ドル(ま、これでもデフォルトしちゃったわけだけど)。2008年9月から半年間で2000億ドルが消えました。株価は、98年は15カ月間で15分の1へと暴落。今回は8カ月間で5分の1に下落。「な〜んだ、そんなもんか」ではありません。時価総額に換算すると、なんと1兆7600億ドルですからね(98年当時は565億ドル)。
為替は、98年7月16日に1ドル=23.1ルーブルと高値をつけたものの、09年2月は1ドル=36ルーブルまで下落。これ、56%もの切り下げです。
この10年間でロシア経済が拡大したのと同時に、外国からそれだけ投資されたという証左ですけどね。あと、ロシア国内のインターネット人口が100万人から3400万人へと急増してたおかげで、あっという間に引き上げられたわけでもあります。
ロシアってのは、やっぱ資源国なのよ。金融大国にはなりえません。
彼らの意識というか、パーソナリティでは金融は無理です。「100人に金貸してきちんと返ってきたのは1人だけだった」と外務省に幽閉されてる佐藤優さんも述べてます。
契約意識が「普通」とちがうわけ。普通、契約するとそれを守ろうと努力しますよ。つうか、契約を前提にものごとを進めます。
けど、ロシアは時間が経てば状況が変わるに決まってる。だから、その都度、契約を確認するという方式。「その都度」というから、絶えずコミュニケーションしたり交渉したりして確認しないといけないわけ。そうやって気心が知れてくると「信頼」に変わる。ここまでが大変なのね。
日ソ不可侵条約を平気で破るのも、状況が変わった。信頼が置けるまでコミュニケーション(交渉)してなかった。だから平気で破ってもいい。そういう論理というか気質なの。
ま、自分勝手といえば自分勝手。でも、これ、「契約」にあるから破綻しようが退職金はもらってくよ、という米国の投資銀行やファンドの連中とどこがちがう?
逆に言えば、いったん契約したと言っても、こちらの都合が悪くなればさっさと交渉して変えられる、ということでもあるわけ。著者の経験でもこちらが有利なように変えても別に怒らなかったって。そういうキャラクターなんですな。
資源国ですからね。資源が高く売れないとロシアは困る。「経済成長の3分の2は非エネルギー部門にある。ロシアはすでにエネルギーへの過度の依存から脱却しつつある」とプーチンがアピールしてるけど、ということは、3分の1はいまだに原油と天然ガスだと告白してるに等しいですな。
EUやトルコ、日本、中国との間にパイプラインを建設したいんだけど、これ、原油価格がバレル100ドルくらいで高値維持してもらわないと全然無理。
原油価格は08年7月11日にバレル147ドルに暴騰したけど、あっという間に35ドルに暴落。いまようやく60ドル前後ですけど。まだ足りないわけさ。
かつて、日本は台湾、満州、朝鮮半島、樺太の南半分などを領有してました。で、ロシアはじめ、列強と対立して太平洋戦争に突っ込んでいくわけですが、この日本の政策に対して、大正時代から警鐘を鳴らしてた政治家がいるのね。
石橋湛山ですよ。早大卒にして東洋経済新報社出身。経歴だけは私と同じなんですが(中身が全然ちがう)、彼が主張したことは、いたずらに領土を拡大したって日本の経済的利益にはつながらないよ、という点。
戦後、日本はすべてを失いますが、「これでようやく足枷が取れて経済発展を図れそうだ」と石橋湛山は喝破してます。
開発しなければならない地域を多く抱え込むと、結局、中央からの持ち出しばかりで採算が合わないのよ。下手すると(そしてこれが多い)、赤字が構造的になってしまうわけ。
こうなると大変ですよ。なんのために仕事してるかわからない。働けど働けど赤字が積もる。地方自治体が手がけた第三セクターの結果を見れば一目瞭然ですわな。
ところが、ロシアのような資源国になるとちと状況は変わってきます。1センチでも増えればそこに原油や天然ガスが湧き出るかもしれないから、なるべく土地は広く取りたい。
けど、残念ながらロシアは自分たちの技術で開発できません。彼らにできるのは資源と労働力の提供だけ。採掘技術からパイプラインの建設にしても無理。そこに日本の出番があるわけね。
日本という国は、第1次石油ショックが起きた1973年に原油輸入量2.9億キロリットルに対して、08年は2.43億キロリットルとかえって減ってるわけ。つまり、猛烈な国民運動で省エネを実現しちゃったの。
今後、日本は太陽光や風力、メタンハイドレートなどの新エネルギーを開発しつつ、既存のエネルギーを中東、ロシア、インドネシアといったマーケットの価格を見ながらやりくりするようになると思うね。
ロシアは日本と上手くやっていくしかありません。少なくとも、技術を提供してもらってる間は揉み手で対応するしかありません。北方領土返還にしても、ここ5年。つまり、米国の景気回復が本格的になるまでが交渉のチャンスかも。
日本は外交のカードとして、ロシアをもっと使うべきですな。もちろん、対北朝鮮問題にしてもそうです。300円高。