2004年03月22日「ポップコーンはいかがですか?」「伝言」「ビバ オヤジ酒場」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「ポップコーンはいかがですか?」
 山本マーク豪著 新潮社 1400円

 メルマガを発行します。
 どんなメニューにするかというと、わたしが最近会った人の中で「これは面白い!」と思った経営者の紹介、その人のビジネスの極意や裏話、それから本や映画、芝居、ミュージカル、音楽などで感動した話。とにかく、ホームページと違ってクローズド情報だけに、「ここだけの話」に特化してお届けしたいと思います。
 「内緒だよ」「あなたにしか教えない」というとびっきり高感度の情報をプレゼントしますから、お楽しみに。

「この力強さはどこから来るんだ?」と考えたら、ことはない。著者のパワーがそのまま文章に乗り移ってるんです。
 元々、英語で書き、それをスタッフが邦訳したわけですが、パワフルさを感じます。
 起業家はすべてこうありたいですなぁ・・・。

 著者はアメリカ生まれのアメリカ育ち。
 父親はアイ・ビー・エムの営業マンだったが、渡米し、大学院で学び、コンサルタントとして独立し・・・その間に著者が生まれた、ということです。

 で、この人はいったいどんなことをしたのか?
 ヴァージンシネマズジャパンをたった一人で立ち上げてから、わずか5年半。その事業の成功に道をつけ、全国10カ所でシネコン(シネマコンプレックス)を展開し、最終的には東宝に丸ごと売ったのです(2003年4月)。
 金額は百億円。もちろん、リチャード・ブランソン率いるヴァージン・グループが最大の株主ですけどね。
 「5年で100億円の会社を作った男」というのがセールスポイントです。
 いま、著者は作家や映画作りを視野に入れて新しい挑戦をしている真っ最中ですが、ここまでくるだけでも波瀾万丈の人生ということが言えますね。
 まっ、波瀾万丈だから単行本にもなるわけですよ。

 ところで、ヴァージンシネマといってピンと来ないならば、「六本木ヒルズ」のシネコンと言えば話が早いかな。このシネコンというのは、映画館を中心にレストランなどが複合的に集積されたエンタテイメントプレイスのことですね。
 わが家のそばだと、ワーナー・マイカルシネマズが2カ所ありますな。

 著者はカリフォルニアで育ち、サーフィンとパーティの日々で青春を過ごしてました。ずっとこのままここで暮らすことしか考えていなかった。だから、勉強はそっちのけ。
 ところが、ある時、いつものようにパーティで遊んでいると、「こんなことでいいのか」とふと考えてしまった。
 「人生の無駄遣いじゃないか・・・」
 すると、どうしても父の祖国である日本に行ってみたいと思う。

 カリフォルニア大学のサンタバーバラ校を低空飛行で卒業したものの、MBAも持ってない。
 なにより日本語が不自由だから、慶応の日本語クラスに入学して勉強するわけ。ものすごいガリ勉で日本語を学びます。この集中力がすごいね。これは後にドイツに行った時も同じ。
 ドイツ語をガンガン叩き込んでしまうわけ。

 さて、当時の日本はこれからバブルに突入しようという頃ですから、景気がいい。人手不足。
 いまからは想像もできない時代。といっても、十四〜五年前のことですよ。
 ご多分に漏れず、彼にも日本企業からたくさんのオファーがあるわけです。けど、それほど流ちょうではない言葉はやはりハンデになります。また、強い自己主張は日本人の学生たちからも浮いていたかもしれません。
 結局、このままバブルで日本企業に入っても、困るのは自分だと悟って、アメリカに戻ります。

 そんな彼を待っていたのは父親でした。
 90年の夏、父親の知人の縁でチェコスロバキア(分裂前)のホンダの販社で働くことになります。
 はじめての東欧。
 これが実はひどかった。めちゃくちゃな人種差別。
 人種差別というのは恐怖と無知から生まれるものですが、チェコでも同じ。頭が良くて働き者のベトナム人にどんどん仕事を取られ、それが鬱憤となって人種差別に発展していました。
 毎日、スキンヘッドの人間に喧嘩を吹っ掛けられるのですから、ほとほと嫌気がさすのもわかります。

 で、さっさとドイツに行きます。
 ここでもまた人種差別の洗礼を受けます。
 ガールフレンドの家に行くと、挨拶をする前に家族中から笑われる始末。
 「いままで合った東洋人の中ではいちばんハンサムだ!」
 相手はお世辞のつもりかもしれませんけど、最大の侮辱ですね、こりゃ。もし、欧米の人間を相手にしたら、絶対にこんなセリフは吐かないもの。

 ドイツのボンでバイトにありつくために紹介を受けて行くと、レストランのテーブルで食事中の経営者に「待て」と制せられる。
 1時間ほど待っても、まだ食事をしている。
 それまでずっとお預け。
 頭に来た彼は決心します。
 「この店以上のレストランを作ってやる」

 彼はビジネスプランを一つもって銀行に融資を依頼します。これが面白いところで、融資が下りるんですね。
 で、和食、寿司を主体の店をデュッセルドルフでオープン。これが正解。
 ボンではダメですね。デュッセルドルフなら、日本人も多いしね。和食に人気がありますから。
 けど、ここで小さな成功をつかんだとしても、それは本意ではありません。
 なぜなら、別にレストランビジネスがやりたかったわけではないからですね。自分を小馬鹿にしたレストラン経営者への反発からスタートしたまでのことでしょう。

 東欧のチェコスロバキア、ドイツではほとんどヒモ生活。失敗の連続で一文無しで知人宅に泊まり歩いたという。
 ようやくレストラン経営で小さな成功をつかんだが、それも何かしっくり来なかった。

 成功するにはどうしたらいいだろう?
 やっぱり、好きなことをやるべきではないか。これが結論だ。

 では、いったい、自分が好きなこと、何がやりたいのか?
 「ボクが好きなのは音楽と映画だ」

 よし、映画にテーマを絞り込んで考えよう。狙いが明確になると、この業界でベストはタイム・ワーナーという会社だ、と照準を当てた。

 彼らの日本でのビジネスはどうなってる?
 日本ではディズニーのキャラクターがものすごく人気があるけど、ワーナーブラザーズ・スタジオ・ストアを持ち込めないか?
 これをビジネスプランにしよう。そう決心すると、ワーナーのトップにあうべく、電話攻勢をします。
 強引かもしれませんけど、若者がチャンスをものにするには多少、強引でなければ不可能でしょう。
 そして、実際に入社することになります。ワーナー・マイカルはそれぞれの会社が半分ずつ出資したものです。

 しかし、富山県高岡に赴任したものの、著者はすぐに本社に幹部として呼び戻されることばかり夢見ていた。もちろん、そんなことはありませんでした。
 ポップコーン作りにしても、チケットのもぎりにしても、そんなに簡単な仕事ではありません。
 「あの無知と傲慢なボクをよく一週間でクビにしなかったものだ」と、振り返っているくらいです。

 しばらくすると、海老名の映画館の総支配人になります。ところが、従業員のやる気が薄いことに腹を立てて、自分が浮いてしまっていた。
 そこで従業員に自由裁量権を与えると、関係がどんどん改善されていきます。つまり、著者には人の気持ちを理解せず、従業員のハードワークに感謝するという気持ちが薄かったんですね。
 組織の中ではこういう誤解はよくあります。

 しかし、このワーナー・マイカル・シネマズを去る時が来ます。人間関係が合わないのです。
 次はやはり外資系のユナイテッド・シネマズ・インタナショナルに就職しますが、ここもあっさりと辞めてしまいます。
 やはり、問題は人間関係でしょう。

 しかし、映画への情熱はまだあります。
 なにしろ、日本は先進国の中でももっともスクリーンの少ない国なんですね。アメリカでは人口比で9000人に1つのスクリーンですが、日本では7万人に1つです。
 これは爆発的な可能性が秘められているわけです。

 「99年4月に第1号のシネコンをオープンさせて以来、日本のエスタブリッシュメントと戦い続けてきた。たとえば、銀行、開発会社、大手配給会社、役所、映画会社、投資会社・・・プロジェクトを始めようとすると次から次へと軋轢が起こる。いちばん厄介なのは、日本のビジネス界には依然として若者の成功を快く思わない風潮が根強いし、外国人に関してはなおさらだ」

こんな気持ちを抱いていました。そこで、ありとあらゆる企業に自分のシネコンに対するビジネスプランを提案し続けます。
 この間、すっからかんになり、知人友人に借金をしてなんとか生きているという状態でした。けど、夢だけは大きく持っていました。
 そして、あのヴァージン・グループへの提案のみが成功するのです。
 そこから先、またまた波瀾万丈の人生が再スタートするわけですが、「夢の実現」というエネルギーがすべてのハードルを越えさせます。
 あとは本文を読んでね。
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2 「伝言」
 永六輔著 岩波書店 700円

 永さんの本は何回目になるかなぁ。テイストが好きですね。
 伝言ってのは、いま、永さんがいちばん言いたいことを書いたものです。いろんな伝言があります。
 「アルカイダと言いますけど、それは略称。ちゃんというと、ユダヤ人と十字軍との先頭のための世界イスラム戦線。この名前が正式名だそうです」
 へぇ、へぇ、へぇ。へぇ30点。
 早い話が西側諸国への敵対関係であって、仏教国といってもいい日本を敵対視しているわけではなかったのです。けど、いまや、名指しで日本がテロするぞと攻撃対象になってますね。
 これはアメリカの戦争に巻き込まれてしまったからですね。

 「商品名は旧国名のほうが売れます・宮崎牛は日向牛、岩手煎餅は南部煎餅。石川料理より加賀料理・・・」
 たしかに。

 「介護保険の先進国であるドイツ、イギリス、オランダなどでは、かかりつけの医者がいなければいけないと法律で定められています」
 かかりつけの医者とは主治医とは違うんです。
 かかりつけの医者とは、どこか調子が悪くなったら、ここに行ったほうがいいよとアドバイスしてくれる医者のことです。
 最近、医師会や看護師会が盛んにアピールしてますよ。
 「医者にかかる10カ条」を作ってます。
 1伝えたいことはメモして準備。
 2対話のはじまりは挨拶から。
 3よりよい関係作りはあなたにも責任が。
 4自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報。
 5これからの見通しを聞きましょう。
 6その後の変化も伝える努力を。
 7大事なことはメモをとって確認。
 8納得できないときは何度でも質問を。
 9医療に問題不確実なことや限界がある。
 10治療方法を決めるのはあなたです。

 これを患者のほうから考えるとこんな風になります。
 1話をよく聞いてくれる医者。
 2わかりやすく説明する医者。
 3薬に頼らず生活上の注意をしてくれる医者。
 4必要があれば生活上の注意をしてくれる医者。
 5家族の気持ちを考えてくれる医者。
 6地域の医療福祉を熟知している医者。
 7医療の限界を知っている医者。
 8患者の悲しみやつらさも理解してくれる医者。
 9セカンドオピニオンを紹介してくれる医者。
 10本当のことを言ってくれる医者。
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3 「ビバ オヤジ酒場」
 かなつ久美著 ワニブックス 1300円

 なぎら健壱さんが監修してます。というとは、「オヤジ」のパラダイスである立ち飲み屋情報がずらり・・・。
 なぎらさんは「はみ出し記事」というより「ひと言コメント」を書いてるんですね。

 これ、情報マンガです。けど、すべてルポ。
 ルボライターは女性イラストレーター3人。
 もちろん、彼女たちにとっては初体験です。で、編集者と連れだって、都内の立ち飲みスポットをとことん呑んで回るという企画。
 店の写真、女将さん、オヤジさんのイラスト、店の風景、客筋、壁に貼られたお品書きなどもすべてイラストで描かれてるから臨場感があります。

 まっ、ディープなスポットばかりですよ。なんつったって、北千住からスタートしてるんですから、次が南千住。これ、近いからという意味もあるんだろうけど、この南千住はディープだよ。
 「大坪屋」「鴛酒場」なんて、わたしがやってるB級グルメでも取り上げたいくらいだもの。

 けど、行ったことある店、多いなぁ。
 神田の伊勢、三州屋(これは当サイトでも紹介したね)、浅草は神谷バー、大林、荻窪の立飲やき屋、鳥もと・・・もうたまりませんなぁ。
 すべて地図付だから、みなさんも行ってください。

 あと、これ、たんなるグルメマップではありません。
 あくまでもルポだから、客との会話、雰囲気の伝達、感想、印象などが綴られています。
 絵と写真と文章の三位一体ってなとこでしょうか。
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