2003年11月03日「実践!企業再生52週間プログラム」「落語の世界1 落語の愉しみ」「ルポ解雇」
1 「実践!企業再生52週間プログラム」
山田修著 ダイヤモンド社 1500円
実はこの人、産業再生機構の経営トップに就任する予定だったんですね。いままでいろんなタイプの会社を再生してきた、という実績があるからです。
で、スカウトがやってきたの。ところが、法律を見ると雁字搦めでとても経営者としての裁量が活かせる代物じゃない。
「これはできない」
やっぱり、断るしかありませんよ。で、その勢いをかって本にしちゃったのがこれ。
ただし、大企業向きというのではなく、社員数300人以下の会社用にまとめてます。
しかも、1年間でこれだけを、この順できちんとやれば、だれでも再建できるという「再生マニュアル」を標榜した点が特長ではないでしょうか。
再生プログラムとは、社内コミュニケーション、自社、競合、マーケット(市場と顧客)分析によるトレンド決定、マネジメント・チームの再編成、商品戦略とマーケティングの立て直し、組織の本格再編、仕事のプロセス管理と内部効率化、戦略確定という七つのステップ。
たとえば、社内コミュニケーションでははじめての朝礼でのメッセージから、個別面談での質問法までを具体的にアドバイスしてます。
たとえば、CSのケースで紹介されているのは、「東急ハーヴェストクラブ鬼怒川」です。
総支配人を中心に社員ともども一致協力して、未曾有のリゾート不況、デフレ不況を乗り切っている格好のケースではないか、と思う。
鬼怒川周辺でも、リゾート不況という状況はまったく変わらない。だが、いち早く、会員減少の底を打ち、再び右肩上がりへと持ち直したのは、顧客満足感を徹底的に実現するマーケティングにあったのです。
社員数は三十九名、パート、アルバイト、派遣社員を入れても六十名前後。この人数で週末、繁忙期をこなす。
「平成十二年から『ハーベヴェスト・クラブ・マインド』というCSバイブルを整備し、全社員に徹底しました。これでお客様の満足感実現に精魂込めるシステムを仕掛けたわけです」
しかし、ことはバイブルを配布したからといって簡単に実現できるほど甘くはありません。
「我々にとっては当たり前のことでも、お客様にとってはわからないこと、疑問に感じることがたくさんあるんです。それを無視したり、突っ慳貪にすれば、お客様にそっぽを向かれるのは時間の問題でしょう。もう少し親近感を抱いて頂けるようにできないものか、と常に考えていました」
総支配人は鬼怒川に赴任した時に、彼はほかの温泉旅館を片っ端から泊まってみた、という。ほとんどが団体客用の旅館だから、やることなすこと十把一絡げ。
玄関をまたげば、仲居さんがずらりと並んで「いらっしゃいませ」と挨拶するが、仕事だからやっている、いつもやっていることだからやっているという様子がありありと伺え、まったくのマンネリ。お客はめったにない経験だが、サービス側はいつものこととついつい考えてしまう。そんな態度が応対に出ないわけがありません。
当然、食事は大広間。いったい、何時間前に作ったかわからないような冷たい料理がずらりと並ぶ。食事が終われば、いつの間にか、部屋には蒲団が敷いてある。この現実を見た時に、「ハーヴェストのサービスはこれと対極にしよう」と決心したという。
どうすれば、心から笑顔が生まれてくるか。
この笑顔を徹底するために一役買ったのが「サービス・マキシマム・プログラム」です。これは顧客と社員との接客場面をビデオ撮影し、自分の接客を実際に見ながら感じとるプログラムです。
「いや、ボクはそんな能面のような挨拶はしてません」と言い張る人間でも、実際に接客場面を見せつけられれば、「あれ、ホントだ」とチェックできます。笑顔がどんな風に顧客に映っているのかも客観的に理解できます。
「こんな怖い顔して接客してたのか」
「君の笑顔は素敵なんだから、出し惜しみするなよ」
もちろん、ビデオ撮影は顧客に了解を得ていることは言うまでもありません。彼は職場ごとのミーティングを通じて、徹底的にこのプログラムを展開したのです。
理由はシンプル。「わかっていること」と「できること」とはまったく違うということです。
二番目に徹底したことが「分身の術」。
社員三十九人、パート、アルバイトを入れても六十人。その中で一つの価値観を浸透させるポイントはリンクピン(連結弁)を押さえることにあります。すなわち、チームごとにCSを徹底的に浸透させるために責任者と補佐役に、ことあるごとに「笑顔がいちばん大事だよ」と繰り返し刷り込むわけです。
酒が飲めないから、就業後に赤提灯でいっぱいやってコミュニケーションをとることはしない。しかし、就業中にちょっとした時間を見つけて話し合うことはいくらだってできます。
たとえば、フロントのマネジャーと同じフロアで部下の接客を見たとする。
「あれ、どうかな?」
「わたしはこう思います」
「いや、そうじゃないのでは? ボクはこうだと思う」と、いい加減にすませずに議論をする。サービス業に模擬試験はありません。
「あの配膳のしかたはどうかな?」
「この順序でやれば早いと思ったんですが」
「いや、まだお客様は会話を愉しんでいらっしゃる。少し早いよ」
現場のあらゆるチャンスをとらえて指導するのは、サービスする側(ホテル側)がサービスを受ける側(顧客)と同じ目線を作ってもらいたいからです。
カーテンやベッドカバー、あるいは調度品などを定期的に新装、改装することはもちろん大事。
しかし、これはあくまでもハード面のサービスです。ホテル、リゾートという人間相手のビジネスでは、ハードも大事だが、やはりソフト面の充実がものをいう。
たとえば、レストラン部門はコンサルタントなどの外部スタッフの知恵も活用しながら充実を図っています。
メニューを出されてオーダーを決める時、いちばん重要な決定要因は何でしょうか。
料理の彩り、内容も重要だが、やはり価格。料理の値段です。高いか、安いか、リーズナブルかどうか。実際、レストランの多くは料金の違いによってしか、料理を差別化できていない。
ハーヴェストクラブではまず、この点を改めます。
具体的に言えば、「この料理はこれが特色です」と、各料理にテーマ性を追求したのです。たとえば、いま、人気があるのは鬼怒川という地域の旬をたくさん取り入れた「リージョーナル・コース」だ、という。フランス料理と和食それぞれ用意されているが、これなど、「せっかく鬼怒川に来ているのだから、地のものを食べたい」という要望にストレートに応えたものです。
旅館の料理といえば、季節、地域に関係なく、刺身の盛り合わせに伊勢エビ、そして牛肉の石焼き。これが三大必須料理。だが、目の肥えた宿泊客はそんなものには興味はありません。
地に来たら地のものを食べたい。これが正直な意見でしょうな。海のない地方に来て、マグロの刺身はどうかと思うよ。
鬼怒川の特産と言えば、湯葉。だから、いまでは湯葉懐石もメニューに取り入れる。しかも、会員制ホテルだけにリピーターが多い。一年に何回も訪れる顧客も少なくない。それだけに、湯葉懐石といっても月替わりで提供できるだけの研究をしているのです。
ハーヴェストクラブでは、オープン以来、顧客とのコミュニケーションを緊密にするために「ご意見カード」というシステムがあります。
たとえば、宿泊客がホテルに対して意見、注文、あるいはクレームをカードに書いて出したとしましょう。すると、ハーヴェストでは担当者が即刻、回答し、それを責任者がチェックした後、その顧客にレスポンスを出す、というシステムです。
「あそこはレスポンスが早い」「丁寧に回答してくれた」という具合に印象が強い。
もちろん、その内容次第では、「クレームを書いたのに、なんの返事もない。いったいどうなってるのか?」と、かえって火に油を注ぐ結果となるケースも少なくありません。
顧客とのコミュニケーション作りを盛んにするために、データベースをフル活用することも忘れない。たとえば、誕生日、結婚記念日、入会記念日、もちろん、家族の誕生日も同様です。
これらをすべてデータベース化し、その都度、きめ細かく顧客にメールを出しているわけです。その数はざっと一人年間六通にものぼります。
ハーヴェストクラブでは会員権を購入してから十年後には買い取り保証制度があります。いままであまり利用しなかったメンバーや投機目的で購入した人はこの時を待って売却した、という。そのため、当時は売上が減少したものの、いまや、退会率も激減し、逆に新規入会が急増するようになったのです。
この不況下で前年対比百十パーセント増の売上というのは健闘している、と言っていいのではないでしょうか。
こんな具体的に再生するスキルが満載。
企業再生はトップを補佐する優秀なコントローラーが欠かせません。抵抗勢力とのせめぎ合いなど、生々しいエピソードも多く興味深い内容です。
250円高。購入はこちら
2 「落語の世界1 落語の愉しみ」
延広真治著 岩波書店 3000円
いきなりですけど、いま、都内には席亭(落語の定席、落語家のホームグラウンド)が四つあります。上野鈴本(落語協会のみ)、新宿末広亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場ですね。
これらに落語家は登場しますけど、だれがいちばん出てると思いますか?
年間最多出演は、なんと、柳家小せん師匠ですよ。柳家小さんの弟弟子。いま、八十歳ですよ。
年間何回出演してるかというと、547回。一年は365日ですから、一日2回出演することもあるわけよ。ほかの落語家にこのことを確認する。
「だれがいちばん出演してる?」
「小せん師匠でしょ。だって、楽屋にいつもいるもの」
楽屋が大好きというよりも、落語が大好き。しかも、人の噺を聞くのが好き。だから、毎日、楽屋に来ても飽きない。
この人、味があるし、巧い。何をゆらせてもできる。昔、テレビの落語番組では大スターでしたよ。
二位がさん喬さんの481回。これも多い。若手では喬太郎さんが出てますねぇ。この人、個人の独演会も多い売れっ子ですよ。古典良し、新作良し。もう落語会のスーパースター。
で、401回も出てる。
わたしがこの人にはまったのは、「バレンタインデー」をネタにした新作落語から。もう、それから追っかけ。なにしろ、彼が講師をしている東急カルチャースクールの「落語作家への道」という講座まで受講してますからね(これ、13人しかいないから、毎回、当たるのよ。まいったなぁ・・・)。
下手すると、ストーカーと思われてるかもしれないなぁ。
落語を学術的に、文学史的に、さらに実際的に解き明かそうという3分冊のうちの一冊。早く読みたいし、早く読んではもったいないし・・・もうたまりません。一挙に紹介せず、毎週一冊ずつ解説しましょう。
「落語の世界1」にインタビュー登場する人は、落語家の桂米朝(人間国宝)、柳家小三治、そして寅さん映画の監督山田洋次の面々。
落語というと、笑いの芸だと条件反射で思ってしまいますが、実は「人生のすべてがある」と考えたほうがいいかもしれません。
たとえば、「品川心中」というネタがあります。志ん朝さんが得意にしてましたけど(CDも出てるよ。アマゾン、チェックして)、これなんか、ドストエフスキーをはるかに超越してます。それだけ、「真実」が描かれているってわけ。
金に困って死のうと思った品川の遊女おそめ。1人で死ぬんじゃつまらないし外聞も悪い。というので、客の1人で頭がぼんやりしてる貸本屋の金さんを心中相手に選ぶわけ。
で、金さんを海に突き落とす。金さんは突き落とされる前に金を渡してるから、おそめがそもそも心中するきっかけとなった「金がない」という理由が無くなる。で、自分は飛び込むのを止めちゃう。
これって、よくありますよ。これが現実です。
「黄金餅」というネタがあります。三遊亭圓朝原作と言われてますが、どうもそうじゃないらしいね。当時、圓朝作といえば、売れたらしい。で、なんでも圓朝の作品にしちゃった。「死神」もそう。
さて、噺はこうです。
極貧の中、貯めに貯めた小金。乞食坊主が毎日毎日、町中を歩いて布施してもらった小金です。だから、気になって死ぬに死ねない。で、いよいよという時、餅に小金をくるんで飲んじゃうわけ。
この金への執念もすごいけど、それを長屋の隣に住む金山寺味噌売りの金べぇが看取ります。で、どうするか。
この死体を焼き場に運んで焼いてもらう。
「腹のとこは生でいい」と言いくるめて、あとでほじくり返して一分金、二分金を取り出す。それを資金に店を出して、けっこう繁盛した・・・というもの。
これも現実的です。
強欲と強欲。人間世界の真実を描いていると思わない?
落語というのは、扇子と手ぬぐいだけですべての世界を表現します。背景も衣装もない。
けど、男も女も時間と空間もすべてそこで表現してしまう。かといって、声色を使ったりせず、ごくごく自然に登場人物を描く。
これは見事。
ところで、あの扇子はわたしたちが普段使ってる扇子と大きさも作りも全然違いますからね。
この前、柳家喬太郎さんが見せてくれたんだけど、演技がしやすいように工夫して作られているんです。
この落語、ネタを中国の作品から頂いたもののも少なくありません。
実はおととい、横濱の三吉演芸場で歌丸さんの独演会があったんですけど、この時、弟子の1人が演じた「気の長短」というネタがあります。
これはめちろゃくちゃ短気の人間とめちゃくちゃのんきな人間との会話がネタになったものです。
「ところで、君のその着物。端切れはあるんかいなぁ」
「端切れ? こちとら江戸っ子でい。着物を作りゃ、端切れが出る。そんなもの、家を探しゃ出てくるだろうよ」
「あっ、それを聞いて安心しました。実は、あることをかなり前から見つけてね。君に言おうか言うまいか悩んでるんだけどね。君は気が短いからなぁ。怒るかもしれないし、でも言わなければ、君が怪我するかもしれないし。言うべきか、はたまた言わざるべきか」
「なんだい、そりゃ。言ってみろ」
「実はね、君の着物の裾にね。火がついてね、焦げてるんだよ」
「早く言え、バカ野郎!」
このネタ、中国の「単口相声」と言われるものなんです。漫才のことを「相声」と言います。これが1人の口だから、落語とか漫談のようなものになります。
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3 「ルポ解雇」
島本慈子著 岩波書店 700円
リストラ、配転、閉鎖など、景気が悪くなると、会社は自己防衛のために組織、人員などの大幅カットが一般的です。
けど、今までは簡単に首なんか切れなかったみたいですね。
「企業がなぜ有期雇用の契約社員を雇うかといえば、期間満了時に自由に解雇したいからでしょう。ところが現実は、たとえ有期雇用でも何回か契約を更新すると正社員と同じに見なされ、裁判になると『解雇権乱用法理』が適用されてしまう。つまり、合理的な理由がないと雇い止めにすることができない」
つまり、会社側はいつでも解雇できるように契約社員を雇っているに、それができなくなる。では、契約社員を尾当メリットがないのでは・・・と考えるのも無理はありません。
労働者側は保護されていますが、これでは会社側はあまりにも雇う側の義務と責任ばかりが多くてちょっときついかもしれません。契約社員の採用でも二の足を踏むのは当然ですね。
そこで、会社側はどうするか?
本書にはこれだもかこれだもかというくらいたくさんの事例が紹介されてますが、「でっち上げ解雇」をするんですね。
これは怖いですよ。
なぜか?
「あいつはこんな犯罪をした」と勝手に懲戒免職をする。それに対して、「そんなことしてないよ」という側は証明しなければならないわけです。
「ある」を「ある」と証明するのは簡単です。ところが、「ない」を「ない」と証明することは不可能です。これは法律の世界では「悪魔の証明」といわれているのです。
で、訴訟に訴えるしかないわけです。
しかし、悲しいかな、もしこれだけ苦労して勝ったとしても、会社というのは組織ですから、居場所を失うわけです。
サラリーマン1人殺すなんて、わけないわけですよ。
でも、不思議なことがあるんです。
たとえば、よく、旧国鉄の職員などが「不当解雇だ!」なんて訴訟闘争で頑張ってますけど、これ、運動のための運動をするつもりなら理解できるんですけど、たった一回の自分の人生をどう生きるかという観点で考えると、こんな訴訟活動で人生をふいにするなんてわたしには考えられません。
そんなくだらない会社、さっさと見切りを付けて新しい人生を歩んだ方がよっぽど楽しいと思うんですよね。
わたし自身、そうでしたから、よくわかります。
会社が悪いんじゃありません。会社の中で、あなたの仕事の仕方、態度、スタンスが気にくわないという連中がいるんです。その親玉の意をくんで子分がご機嫌取りで、あなたを貶めようとするわけです。
ならば、そんな連中、さっさとこちらから捨てて、もっと出世してやればいいじゃないですか。「サラリーマン根性の連中なんか見返してやる!」というつもりで頑張ればいいんですよ。
そのうち、そのくだらない連中のことなどすっかり忘れてしまいます。「なにくそ!」と最初は怒りに燃えてリベンジのつもりで頑張ってたのが、新しい仕事が面白くなると、エネルギー源が変わってきます。
すると、いままでのしがらみが消えて無くなります。もう忘れちゃうんですね。
わたし自身、これはよく理解できます。たとえば、以前勤めていた会社を例に取ると、はっきり言って、直接関係があった上司しか名前を覚えてません。先輩はともかく、後輩はほんの少ししか覚えてないなぁ。
以前、ある酒席で「昔、一緒に仕事してました」と言われたけど、全然、知らなかったものね、彼のこと。
わたしは未来に生きるべきだと思います。過去のことばかりにしがみついて、待遇がどうのこうのと要求しても、時間の無駄でしょう。人生は限られているんです。
「この会社の悪いところを、いま、わたしが改めさせないでだれがするんですか?」とドン・キホーテを気取るならそれもいいでしょう。
けど、そんな暇があるなら、そんな会社、そのうち倒産するからオサラバしては?
あとは好きなようにどうぞ・・・でいいのではないでしょうか。
150円高。購入はこちら