2009年11月02日「誰?」 渡辺謙著 ブックマン 1575円 

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 話題の映画 『沈まぬ太陽(山崎豊子原作)』の恩地元(実在の日本航空元社員・小倉寛太郎さんがモデル)役を演じている渡辺謙さん。『ラストサムライ』の勝元役、『SAYURI』にも出演し、松下幸之助さんを彷彿とさせる役を演じていましたね。

 けど、なんといっても、主演&クリエイティブ・プロデューサーとして参画した映画『明日の記憶』の佐伯雅行役が私には忘れられません。

 これだけの役者ですから、「本でも書いてるかな?」と軽い気持ちで検索。
 ありましたよ、本書が。「ふ〜ん、『明日の記憶』の撮影日記かな?」と読み始めたら、とんでもない!
 これは「魂の本」ですよ。「命の本」です。文字通り、命を削りながら刻み込んだ熱い、深い、温かいメッセージがそこにはありました。

 「『ラストサムライ』の時が燃え尽きたとするならば、この『明日の記憶』では総てを絞り切った感じがする」

 なぜか?

 「僕が何故この作品と向かい合うことになったのか・・・。17年前のあの時の経験。発病した年は、初めての告知、映画の降板、入院そして復帰とめまぐるしい時を刻んだ。あの時は自分が大勢の人に迷惑をかけてしまったことのほうが大きくて、悔しさを感じている隙間は無かった。ただただ申し訳ない気持ちで一杯だった。

 そして5年後の再発。再び2年の治療を終えて現場復帰し、少しだけ自分自身を振り返る余裕が出来た頃、ドキュメンタリー番組の企画で、最初に発病したカナダのカルガリーを訪れるという話が来た。『もう終わったこと・・・』とわりとさばさばした気持ちで、その企画を淡々と受けた。

 しかし、『天と地と』の撮影が行われた現場に向かい、あの当時と何の変わりもない風景を目の前にした時、突然何かが自分の心の奥を突き刺した。『悔しい・・・』。自分ではまったく思いがけなかった(あるいは封印していた)その気持ちがブァーッと溢れ出てきて止められなくなってしまったのだ。『とにかく、悔しい。何故あの時、夢を捨てなければならなかったのか』。涙が止め処なく流れ、僕はその場に立ち尽くしていた」

 陳腐な表現ですけど、読んでいて涙が止まりません・・・でした。
 辛かっただろうな。哀しかっただろうな。たくさん我慢したんだろうな。なによりなによりなにより、悔しかっただろうな。
 もちろん、渡辺謙さんご本人にしかわかりませんよ。でも、私にとって、この本と出会えたことはハッピーでした。この人の生き様に救われる思いがしました。たぶん、あれやこれやと山ほど読んでる中でも今年いちばんの収穫だったと思います・・・続きはこちらにどうぞ。